学生時代にバンド活動をしていた自分は、実家では防音室があり、元々一番熱心にやったドラムを余暇に演奏したりしていたのだが、
単身赴任になり、一気に環境と機材が乏しくなったことにより、音楽系の趣味は「聴く専」(インプット専門)となり、音楽演奏のような「アウトプット」の方は出来なくなった。
しかしその後(以前から少々やってはいたのだが)、別の「アウトプット」として、作曲と作った曲の(自動を含む)演奏の方に興味が出てきた。
バンドをやっていたころは、シンセサイザーやギターで曲を創っていたのだが、それを「形」にするには、シンセサイザーのシーケンサー機能にリズムマシンを同期させて、それに「せーの」で手弾き一発録りでメロディなどを重ねるのがせいぜい。重ね録りは、2台のレコーダーを用意して、アナログ的に音を移し合うしかなかったので、音質も劣化するし、ピッチも狂うのでなかなか現実的ではない。さりとてアマチュアが手が届く重ね録りをすることができる機材は、まだ「カセットMTR」の時代で、4トラックしかなく、それですらもかなり高価なものだった(たしか初任給2か月分くらいとかだったかと...)。それが最近では、作曲作業や創った曲の自動演奏は、PC上で完結する事が出来るようになっていたのに気がついたのだ。
ちょうど、専用に出来そうなPC
が手に入ったので、パッド付きの鍵盤コントローラー
を入手して、曲を作り始めた(再開した)。
なおPC上で音楽を創り、それを自動演奏させようと思った場合、一般的にはDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれる、PC上で音や声をデジタル形式で録音したり、演奏データをMIDIと呼ばれるデータ形式で保存したりして、それらを編集・ミックスできるソフトウェアが必要。
購入したAKAIのキーボードにはMPC Beatsと呼ばれるDAWが付属していて、PCのレビューで示した通り、一応一通りの作曲・演奏作業は出来る。
ただ、元々パッド(叩いて演奏するインターフェース)を装備しているキーボードに付属しているMPC Beats、どちらかと言えば単純な繰り返しフレーズに、パッドにアサインした音やフレーズを載せていく、HIPHOP等のリアルタイムビートメイクに力点を置いているような造りで、(Aメロ⇒Bメロ⇒サビ)×2⇒Cメロ⇒落ちサビ⇒ラスサビというような形が多いJ-POP系にはやや使いづらいDAW(出来ないわけではないが、J-POP形式の楽曲を創るのに便利な機能がない/一方/リアルタイムループ系の楽曲を盛り上げるためのMPC Beatsの機能が有効活用できない)。
そこで、J-POPのような複雑な構成を持つ楽曲を創るのに最適なDAWを入手することにした。
それが、日本では圧倒的にシェアが高いDAWソフト、「Cubase」。
「Cubase」は、ドイツのSteinbergが開発したDAWソフト。同社はVSTとASIOという楽器音やその変化・変性をPC上で行うのに必要なインターフェース規格を提唱したメーカーでもあり、DAWソフト(CubaseやNuendo)を21世紀初頭から扱う古参メーカーでもある。世界シェア的には、打ち込みだけではなくライヴパフォーマンスでも使いやすいAbleton Liveや、ループ系の楽曲の製作に強いFL Studio、業界では根強い人気のMac専用で高いシェアを誇るLogic Proなどが存在感が高いが、複雑な曲への対応力が高くて、各社のオーディオインターフェースにも廉価版が同梱されることが多く、さらに今ではSteinbergがYAMAHAの子会社であるため、同社のキーボードなどにもバンドルされることが多いCubaseが、日本ではシェアが高い。
自分の使い方&やっている音楽ジャンル的に、ちょっとMPC Beatsが使いづらいな~と感じる場面がいくつかあったのと、キーボード付属の無料DAW、MPC Beatsの音源では物足りなくなってきたこともあり、その日本標準のDAWソフトを手に入れることにした。
ところで、この手のDTM系ソフトを手に入れる場合、「タイミング」が極めて重要。
だいたいどのソフトも、年に何度か定期セールをやっていて、それに製品刷新のタイミングを絡めて購入すると、異常に安価に入手できるのだ。
定期セールとしては、ほとんどのメーカーで11月末のBlack Fridayの割引が一番大きい。それに年末年始、サマーホリデー、新学期セールあたりが続く。これに加えてメーカーの周年記念セールや、メーカーや取り扱いサイトの記念日などで値引きがある。さらに、超短期の突発セールでは9割引き以上、というクルった割引がされることもある。
製品のライフサイクル的には、新発売・ヴァージョンアップ時に、普及を狙って大きく値引くほか、逆にモデル末期には買い控えを防ぐためか値引き幅が拡大していき、ヴァージョンアップ直前には「今購入すると、新ヴァージョンへの無償ヴァージョンアップ特典付き:Grace Period(グレースピリオド)」という場合もあり、そういうタイミングだと、かなり美味しい。
ちょうど、Black FridayとGrace Periodが重なって、「30%引きで現行版を購入すれば、次ヴァージョンリリース時に新版に無償リプレースできる(=つまり次版が3割引購入とほぼ同義)」というタイミングがあったので購入したのが、Cubase 11。グレードは有償版の中では中位のArtist。
(実はグレード別に箱の色が違うのだが)上からではArtistであることがわからないパッケージ
Cubaseには、有償版3グレードと無償版(バンドル版)2グレードがある。各社のオーディオインターフェースなどに付属しているのが無償版で、一般的にはCubase LEと呼ばれる。ほぼ同機能ながら、トラック数などが倍に増強されているものが親会社のYAMAHA製品にはバンドルされていて、それはCubase AIと呼ばれている。有償版は下からElements⇒Artist⇒Proで、Elementsは無償版と比較すると音色数などは爆増するものの、トラック数等は1.5~2倍程度の増強でまだまだ制限が多い。
それがArtistからは、MIDIトラック数やオーディオトラック数が無制限になり、サウンド数もElementsの2倍以上と大きく増える。ProはArtistよりは増えるものの、最大入出力数とグループチャンネル数以外は、Elements⇒Artistの差よりArtist⇒Proの差が小さく、VariAudioというピッチ補正機能や、テンポを途中でシームレスに変えられるテンポトラックなどは(11世代以降は)Artistから実装なので、Artistが一番オトク??いくつか「Proならでは」という機能もあったが、音色数などはElements⇒Artistは2.5倍以上の増加なのに、Artist⇒Proでは1割強しか増えず、Artistのオトクさが際立っていたので、それを手配(定価はElementsが1.5万円弱、Artistが3.5万円強、Proが6万超であり、Artist⇒Proの上昇幅が額としても比率としても大きいが、機能のアップはElements⇒Artistの方が大きい)。
ただ、Cubaseは歴史あるDAWで、さらに高機能であるだけに、非常に複雑で覚えることも多く、実生活が忙しくなってきたのもあって、なかなかMPC Beatsから移行できなかった。
それでもヴァージョンアップ直前の「11」を手配したのは、黒金+モデル末期で安価だったということに加えて、「12」からは廃止されると言われていたあるものを入手したかったから。
それがCubaseの認証キー=USB-eLicenser(Steinberg Key)。それはUSB-eLicenserが、NuendoやWaveLabと言った他のSteinberg製品だけではなく、Vienna Symphonic Libraryなどの他社製品でも一部使われていたので、キープしておきたかったという理由で(結局USB-eLicenserからの移行が進んだことから、認証サーバーが2025年に停止されることになったため、この手配は無駄骨に終わりそうだが)。
箱にはライセンスカード(上部が赤い紙)とUSB-eLicenserが
このUSB-eLicenserが他社でも認証に使われているというので確保した
Cubase Artist 11を使うときには必ず挿す必要があるUSB-eLicenser
そういったこともあったので、実はCubase Artist 11を本格的に使い始めたのは、購入からまる2年経った2023年末からだった。
ただ、「寝かせた」ことで面白いことが起きた。
元々購入したのは、Cubase 11モデル末期で、次のCubase 12がリリースされたら無償ヴァージョンアップ可能なGrace Period(グレースピリオド)対応と呼ばれる製品だった。それが「寝かせた」ことで、その間にさらに次の「13」シリーズがリリースされてしまい、Grace Periodでヴァージョンアップしたら、一足飛びに「Cubase Artist 13」になってしまったワケw
Grace Period対応版なのでCubase Artist 11相当グレードの最新DAWが入手できる
たしかに製品の裏には「ご購入時の最新バージョンがインストールできます」とは書いてはあるが、購入時の「次の」ヴァージョンではなく、言葉通り「その時点最新の」ヴァージョンへの更新なのだな、と。
「11」⇒「12」は、大変更であったUSB-eLicenser廃止の他は、取り込んだオーディオファイルからのコード(和音)検出が可能になったことと、フェルトピアノの新音源の追加あたりがめぼしい変更点で、使い勝手的にはあまり変更が加わらなかった。
それが「12」⇒「13」では、GUIや範囲選択ツール、タブや表示方法に大きく手が加えられ、音色表示位置も大きく変わって視認性が良くなっていることと、MIDI 2.0への対応深化という感じで、機能的大変更は少ないものの、かなり使いやすさ向上に振った改良が加えられている。さらに1万6千円以上で別売もされるほどのリキが入ったフルオーケストラ新音源Iconica Sketchが付属するのも評価ポイント。あと「12」から定価が上がったので、結局13を約4割引き(38%引き)で購入できた勘定になった。
真ん中の「12」を飛ばして、11⇒13の直接ヴァージョンアップとなった。
多少プラグイン数などは増えているが、グレード(Artist)が変わらないので制限数には大差ない
音源系は徐々に追加されている。13ではシンセがHALion Sonic SE 3から無印7になったのも大きい
実際に「Cubase Artist 11」として使った時間は短時間で、すぐに「Cubase Artist 13」にしてしまったので、自分のCubaseに対して実感している使い勝手としては「13」中心となるが、逆に範囲選択ツールなどは今のでやっと「普通の」使い勝手なので、「改良されて、これかよ」という感じで、以前のままだと厳しかったかな....
同じくCubase Artist 11の最初に立ち上がる画面だが、解りづらい...
一から創るときはemptyファイルでスタート!....って、地味w
テンプレートトラックのひとつを開いてみたが、13を経験した後見ると使いづらいな
たしかにループ系でない曲を作るのは、MPC Beatsよりはるかに使いやすいので、洋楽のようにVerseとChorusだけの単純構造ではなく、起承転結がある楽曲を創るには適しているかも。
ただ、機能のある位置が難解で、例えば「つないだMIDIキーボード/コントローラーからDAWを通して音が出ない」という事象を解決するのに、複数の機能のタブを開けて、設定や接続を確認しなければならないのはちょっとイマイチ。
利点としては、フリーではあるものの、AKAIのハード機能を使うことに特化していて、さらにビートメイカー向けなのが明確な造りであり、日本ではあまりユーザーが多くないMPC Beatsに比べて、Cubaseは日本でのユーザーが多いため、日本語での解説ページや解説動画が充実しているのは救い。
そういう意味では、国内シェアが高いDAWというのはそれだけで価値があるかな。
日本語の解説が多いのは助かるが....
Cubaseの開発元のSteinbergが今ではYAMAHAの子会社でもあり、他地区と比べて日本では特異的にシェアが高いため(日本では約4割を占めるトップシェア。一方、世界シェアでは3~4位程度)、Webや動画サイト等で日本語解説が転がっている事が多いのでトラブルシューティングが早い。
ただし、歴史もあってイロイロ機能追加していったせいかもわからないが、造りとしてさほど「わかりやすい」構造ではない。単に「音を出す」だけでも複数の関連パラメータがあり、それがそれぞれ別の機能のタブに分かれているので、トラブル時に問題がどこにあるのか一目ではわからず、チェックが大変。
初見で、(レコーダー用途であれ、ライヴパフォーマンス用途であれ)なんの知識も入れずに使えるひとはたぶん皆無。
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購入金額
24,640円
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購入日
2021年11月28日
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購入場所
イシバシ楽器(Yahoo!ショッピング)
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