今回取り上げるAMD Ryzen(TM) 7 1700(文中これ以降は「Ryzen 7 1700」と表記します)は、私にとって久しぶりのAMD製CPUということで、これまで使ったAMD製CPUについて少し述べておきたいと思います。
記憶している限りにおいて初めてのAMD製CPUといえば、Windows 95リリース前に購入していたNEC PC-9821Ap3/C8Wのアップグレード用として購入した、Am5x86-PR133(厳密にはこれを搭載したCPUアクセラレーター)です。比較的安価なCPUでありながら、当時時代遅れになりつつあったIntel 80486系CPU搭載PCを、低クロックのPentium程度の性能で動かしてくれるという画期的なアップグレードパスでした。
その後AMDはK5と呼ばれる安価なPentium互換CPUを発売していますが、私はこれを使うことがありませんでした。K5はIntelのPentium以上には性能が上がらず、安価な自作PCを組むとき以外にはあまり使い途がなかったのです。
私がAm5x86の次に使ったAMD製のCPUは、AMD K6でした。これはPC-9821系に直接装着することは出来なかったのですが、パワーユーザーやメーカーの努力により搭載方法が確立され、Pentium搭載のPC-9800系におけるアップグレードパスの代名詞的存在となりました。私自身初代K6(搭載CPUアクセラレーター)に始まり、改良モデルのK6-2、高性能モデルのK6-III、組み込み用途のものを転用したK6-2+、K6-IIIE+と、この時期に一通り使っていて、今でもまだ手元に多数残っているほどです。この時期にはBUFFALOやI-O DATAなどからもCPUアクセラレーターが発売されていましたので、記憶されている方も少なからずいらっしゃるでしょう。
その次の世代では、IntelのPentiumIIIと、AMD Athlonとの間で「GHz戦争」と呼ばれる競争が発生します。その時期のハイエンドCPUは800MHz前後のクロック周波数で動作していて、Intel、AMDのどちらがこれをより向上させて1GHz(1,000MHz)を達成させるかという争いでした。この争いは結局僅かながらAMDが先行して、勝利を収めます。
この時期も私は依然としてPC-9800系を使っていましたが、この辺りからサブマシンとしてPC/AT互換機(今のWindows機)を用意しておくようになります。最初はたまたま安く手に入ったPentiumIII 450MHzを使ったPCを使っていたのですが、後にコストパフォーマンスに優れていたAthlonを使ったPCへと組み替えることになり、PC-9800系と併用されるPCはAMD CPUという時期が続きます。
PC-9800系を諦めた後の最初のメインPCは、クロック周波数3GHzを突破していたIntel Pentium4で組みましたが、このPCを入れ替えるときにはデュアルコアで性能のバランスが良かったAthlon64 X2を使い、これを部分的に入れ替えながら最終的にPhenomII X4までAMD CPUをメインで使い続けていました。ただ、使っていたマザーボードが、後継のPhenomII X6を使えない製品であり、ここでまたもIntel製のCore i7(LGA1366)へと移行し、現時点に至るまでメインPCはこのPCのまま(もう1台次世代のLGA2011機を追加)となっています。
こうしてみると、私のPC歴ではAMD製のCPUとIntel製のCPUとが、ほぼ半々で使われてきていることになり、長らく離れていたとはいえ馴染みは深いブランドだったのです。そのAMDが久々に性能で真っ向からIntelと対抗するCPUをリリースしたということで強く興味を持っていて、この機会にレビューさせていただくことにしました。
Ryzenの概要と評価用PCの構成
まずはRyzenというCPUがどのようなものかについて、簡単に触れておきましょう。
最上位のRyzen 7ではコンシューマー、メインストリーム向けの価格帯でありながら、物理CPUコアを8個搭載したことで大きな話題を呼びましたが、実はAMDの前世代に当たるFXシリーズも上位モデルでは同じく物理8コア構成でした。もっとも、8コア16スレッドのRyzen 7に対して、FXでは8コア8スレッドでしたが…。ただ、コア数やクロック周波数は近いものの、Ryzenでは1クロック辺りの処理能力が劇的に向上して、FXとは比較にならないほどの高効率・高性能化が達成されています。
米国の標準価格で$300台(Ryzen 7 1700の価格)に8コア16スレッドの高性能CPUが投入されたという事実は、王者Intelを慌てさせるのに十分だったのでしょう。今までコンシューマー製品では頑なに最上位でも4コア8スレッドを通し続けていたIntelも、最新世代のCoffee Lake Core i7-8700Kなどではついに6コア12スレッドへと拡張されました。ハイエンド/エンスージアスト向けのIntel Core i9やAMD Ryzen Threadripperで、一昔前はサーバー向けハイエンド以外ではお目にかかれなかったようなCPUコア数が並ぶようになったことも、このRyzen 7のインパクトが発端だったように思います。
ここでRyzen 7 1700の実物を確認してみましょう。
印象としては、かつてのSocket AM2のCPUが一回り大きくなったようなイメージでしょうか。ここ数年はIntel製CPUのLGAばかり見ていましたので、このようにピンが生えているCPUを触るのも久しぶりとなってしまいました。折らないように、さすがに神経を使います…。
Ryzen 7 1700のリテールパッケージには、専用のCPUクーラー「Wraith Spire」も付属しています。
リテールクーラーとしてはまずまず能力は高そうです。ちなみにこのWraith SpireにはLEDが仕込まれていて、通電すると赤く光るのですが、私が今回用意したケースは側面がクリアパネルではありませんので、光っていても見えない訳で…。
ASUS PRIME X370-A上のSocket AM4に装着したところです。この後CPUクーラーを装着してしまうと、グリスが付着して表面が見えにくくなりますので、その前に1枚撮影しておきましょう。
Ryzen 7 1700の仕様についても簡単に振り返っておきますと、14nmプロセスで製造され基本クロック周波数3.0GHz、ブースト最大周波数3.4GHz、8コア16スレッド、L2キャッシュ4MB、L3キャッシュ16MBというものです。詳細はこちらのAMD公式製品情報でご覧いただけます。
さて、Ryzen 7で一般ユーザーにも身近となった8コア16スレッドのCPU環境ですが、実は私は結構以前から使っていました。Intelのサーバー/ワークステーション向けとなるXeonシリーズでは、かなり以前から物理8コア以上のCPUが用意されていて、私もハイエンド/エンスージアストPC向けだったLGA2011に対応する、Xeon E5-2670を入手して、PC用のマザーボードで使っているのです。
Xeon E5-2670は、PCと同一プラットフォームで使えるCPUとしては初めて8コア以上の製品が提供された、SandyBridge-E(SandyBridge-EP)世代のCPUでした。8コア16スレッドで、32nmプロセスで製造され、クロック周波数は2.6GHz(ブースト時3.3GHz)、スマートキャッシュ20MBというものです。詳細スペックはこちらのIntel公式製品情報からご覧ください。
クロック周波数でいえば、丁度Ryzen 7 1700と比較して基本クロック、ブーストクロック共に400MHz低いということになります。それでも当時の標準価格では$1500超えとなっていて、とても買えるものではありませんでした。私も中古で大量に出回り、価格が大きく下がった頃に購入しています。
発売時期は5年以上の開きがあるものの標準価格も5倍近くの差があったという、旧世代のエンタープライズ向けCPUであるXeon E5-2670と、コンシューマー向けでメインストリーム帯のCPUであるRyzen 7 1700とを同じ8コア16スレッドCPU同士で対決させてみようというのが、今回のレビューにおけるメインテーマとなります。
今回のレビューで利用した、各CPUを組み込んだPCの環境を表にまとめておきます。なお、性能評価に直接関係のないパーツについては表から除外しています。
※各使用パーツのレビューは以下のものとなります。
Ryzen 7 1700については、組み立てる前に使った部品等を並べて撮影しておきました。
但し、仮組み時に撮影しているため、ビデオカードは性能測定時に利用したGeForce GTX 970ではなくGeForce GTX 460が写っています。ケースとマザーボードは今回のために新規購入したもので、残りはストック用のパーツをかき集めたものです。
8コアらしい結果で、意外と僅差となる場面も
今回のテーマはAdobe Creative Cloud コンプリートパッケージで提供されているアプリケーションのうち、自分が普段使うものの中からそこそこ重い処理の速度を比較するというものです。
その前に、まずは一般的な性能指標となるベンチマークテストも少し試しておきましょう。
・MAXON CINEBENCH R15
CPUの単体性能、それも特に複数の同時並行処理能力を試す上でよく利用されている、CINEBENCH R15の結果をまずはご覧いただきましょう。
既に発表から6年以上が経過しているXeon E5-2670ですが、さすがに8コア16スレッドというのは伊達では無く、CPU Benchで1044cbと、まだまだ4コアのCPUよりははっきりと上の値を叩き出しています。
やはり最新アーキテクチャは違いますね。Ryzen 7 1700では1406cbと、これまでのメインストリームクラスCPUでは考えられなかったような値が記録されています。また、OpenGLの値についても、同じビデオカード(GeForce GTX 970)とは思えないほどの大きな差が付いています。
・Cyberlink MediaEspresso 7.5
MediaEspressoはベンチマークテストという訳ではなく、割合シンプルな動画変換ソフトウェアなのですが、Intel Quick Sync VideoやNVIDIAのCUDAなど各社のハードウェアへの最適化が進み、高速変換を可能とすることで知られている製品です。
実は私がライセンスを持っているのはMedia Espresso 6.7なのですが、今回はRyzenが新しいアーキテクチャのCPUであり、最適化度合いの違いが生じる可能性がありましたので、どちらにも体験版のMediaEspresso 7.5(最新バージョン)を導入して比較しました。なお、現実的な使い方ということで、どちらのCPUでもGeForce GTX 970のCUDAを利用する設定となっています。約54分のMPEG2-TSファイルををH.264に変換してみます。
何と全くの同タイムでした。今までの例ではコア数の違うCPUや、クロック周波数の差があるCPUで比較したときには、CUDAを有効にしていてもその差がはっきりと表れることが多かったのですが、今回は同じ8コア16スレッドで、CUDAで処理を補っていたためどちらも余力を残した状態だったのでしょう。何度かやり直してみたのですが、差が付いても1~2秒程度だったということで、Media Espresso 7.5を使う限りはどちらのCPUでも同等の処理時間となると考えて良さそうです。実再生時間の約1/9の時間で終わっている訳ですから、どちらのCPUも素晴らしい速さといえるでしょう。
・Futuremark 3DMark (Fire Strike)
今度はゲーム使用時の性能の指標となる、3DMarkを実行してみましょう。比較的負荷が重いゲームにおける快適性の指標となる、Fire Strikeを使います。より新しいDirectX 12に対応するTime Spyというテストもあるのですが、Xeon E5-2670を搭載しているPCのOSがWindows7であり、DirectX 12に対応しておらずTime Spyは実行できなかったのです。なお、どちらもテストを行った1月6日時点での最新バージョンとなります。
総合スコアは10,077(Xeon)と10,457(Ryzen)という僅差なのですが、内訳にご注目ください。グラフィックスコアが殆ど同じために総合スコアでの差が表れにくいのですが、CPUの性能が影響しやすい物理スコアでは13,177(Xeon)と16,857(Ryzen)という差であり、無視しがたい水準となっています。フレームレートで表せば41.83fpsと53.52fpsですから、目で見ていても差が見て取れるだけ違いとなる筈です。
・SQUARE ENIX FinalFantasy XIV 紅蓮のリベレーター ベンチマーク
国産の市販ゲームベースのベンチマークテストということで、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV:紅蓮のリベレーター」ベンチマークも試してみましょう。このテストもグラフィック能力が中心となりますが、CPUによってはビデオカードの能力を十分に引き出せない場合もありますので、一応試しておきます。
なお、設定条件はウィンドウモード 1920×1080 DirectX 11 最高品質としています。
スコアの差はそれほど大きなものではないのですが、Ryzen 7 1700では桁が一つ上がる10,000超えとなりますので、大きな差が付いてしまったように見えます。それでも、ここまでのテストにおいてバラツキこそあるものの、Ryzen 7 1700が全体的にXeon E5-2670を上回っていることはわかります。
もっとも、テスト中の体感速度からすればもう少しRyzen 7 1700の値が伸びるのではないかと思っていただけに、Xeon E5-2670の意外な健闘も光ります。
Adobe Creative Cloudは快適至極
既にPCで重いゲームを殆どプレイしなくなった私にとって、PCを使っていて重さを感じる処理といえばAdobe Creative Cloudに代表されるような、マルチメディアコンテンツを扱うアプリケーションを利用する場合です。そこで今回のテーマとして掲げたのが、PhotoshopやPremiere Proなど、私が使う頻度がそれなりにあるアプリケーションで、実際に各メディアファイルに対して操作を行い、その所要時間を測定するというものでした。
ここからは各アプリケーションで実行する処理をご紹介した後で、双方の所要時間をまとめたグラフを掲載するという形で記述していきます。なお、この項のグラフに記載されている数字の単位はすべて秒となります。
・Adobe Lightroom Classic CC
Lightroomは主にコンテンツ管理及びRAW現像アプリケーションとして知られていると思いますが、2018バージョンからはローカルPC向けの従来のLightroomはLightroom Classicと改称され、Lightroom自体はクラウド向けアプリケーションへと変わってしまいました。今回はこれまでのLightroomに相当する、Lightroom Classicを用いたテストを実行します。
Lightroom Classicでは、一眼レフカメラ、Canon EOS 7Dで撮影したRAWファイル(計11枚)に対して、明るさ等の補正を掛け、レンズ補正もかけた上で連続現像を実行した際の所要時間を計測しています。
加えた処理の設定内容については、以下のスクリーンショットをご覧ください。
Ryzen 7 1700で16.0秒、Xeon E5-2670で23.5秒という結果となりました。
先ほどのベンチマークテストとは異なり、いきなり明確な差が生じています。確かにここ最近は普及価格帯のPCであってもRAWの現像が極端に遅いなどということはなくなりましたが、Ryzen7ではまるでごく普通にファイルコピーしているような感覚で次々に現像が終わっていくのです。Xeon E5-2670でも、普段使っているCore i7-970のPCよりは結構速かったのですが…。
・Adobe Photoshop CC 2018
今度は写真加工用ソフトウェアとしてはデファクトスタンダードともいえる、Photoshopです。Photoshopについても、ごく普通の補正程度で重さを感じることはありませんので、ちょっと時間がかかる処理として、フィルターで3Dバンプマップを作成する際の時間を計測してみました。
こちらもRyzen 7 1700が明確に上回ってきています。実はこの処理に関しては、Ryzen 7 1700とXeon E5-2670の差よりも、Xeon E5-2670とCore i7-970の差の方が小さく、Ryzen 7 1700の速さが突出していたことが伺えます。
・Adobe Audition CC 2018
続いてはオーディオ編集・加工ソフトウェアである、Auditionです。以前Windows XPの時代には、波形編集にはSteinberg WaveLab Lite(オーディオインターフェース添付品)を使っていたのですが、このソフトはWindows 7以降でファイルダイアログを呼び出せない(エラーでアプリケーションが強制終了してしまう)という弱点があったため、Windows 7以降ではAuditionの方を使っています。もっとも、操作はWaveLab Liteの方に馴染みがあるため、たまにこれを使うためにWindows XP環境を起動することもあります…。
今回はLPレコード「Chicago 19 / Chicago」の片面をまるごと24bit/88.2KHzのWAVで録音したファイルに対して、まずは加工しやすいように-3dBをピークとするようノーマライズ処理を行い、その後さらにダイナミクス処理を施し、聴感上の音量をデジタルソースに近づける加工を行います。
具体的な数字でいうと、Ryzen 7 1700が3.5秒、Xeon E5-2670が5.2秒となります。そもそも23分近いファイルの処理ですから5.2秒でも十分に高速なのですが、Ryzen 7 1700はそれをさらに上回ってきました。普段は曲単位での取込となる場合も少なくはありませんので、1曲5分程度のファイルであれば一瞬で終わってしまうでしょう。
続いてダイナミクス調整です。これで若干コンプレッサーのような効果を付加して、DAP等での再生に馴染むように加工します。グラフの曲線で、何dBの入力を何dBの出力とするのかを設定しています。
こちらはノーマライズよりは複雑な処理ですから、所要時間はどちらも増加しますが、速さの傾向自体はほぼ同じとなりました。具体的にはRyzen 7 1700が8.0秒、Xeon E5-2670が13.4秒です。ちなみにCore i7-970のPCにはこの処理で20秒を超えますので、Xeon E5-2670でもそれなりには速いのですが、Ryzen 7 1700の前には完全に旧世代のCPUとなっているといわざるを得ないでしょう。これほどの差が付くとは、さすがに予想できませんでした。
・Adobe Premiere Pro CC 2018
それでは最後に、今回テストするソフトウェアの中では最も重い処理が多い、Premiere Proです。今回はCanon EOS 7Dの動画撮影テストのために撮影した約30秒の動画(総ビットレート46986Kbps)に、プリセットフィルターによる色調整などを加え、Blu-ray画質のH264ファイルとして書き出す処理を行います。
このテストでは今までで最もはっきりとした差が表れました。具体的な数字でいえばRyzen 7 1700は33.1秒で終わっているのに対して、Xeon E5-2670では1分0秒6という結果となり、Ryzen 7 1700が2倍近い速さを見せつける格好となりました。最高レンダリング品質で出力していながら等速に近い速度が出るというのは、今まで私が使ってきたPCでは考えられない次元の性能なのです。
ベンチマークテストだけであれば、正直言ってXeon E5-2670が予想以上に健闘したという印象で終わっていました。しかし、Adobe Creative Cloudの各ソフトウェアでは、いくら5倍近く高価なCPUであっても、旧世代品は最新の高性能CPUには全く及ばないという結果が出てしまいました。
今までPremiere Proなどは自分のPCでは書き出しに時間がかかりすぎて、使おうと思ってもつい面倒になってしまうことも多かったのですが、Ryzen 7 1700の性能があれば今までよりも積極的に使うことが出来るようになりそうです。
リテールクーラーで十分冷却できる
かつてはIntelのメインストリームクラスのCPUであれば、最上位の製品でもリテールクーラーが添付されていましたが、これらは最上位製品の動作周波数でも、取り敢えずはCPUを壊さない程度に冷却できるというものでした。定格の周波数や電圧で使っている限りは良いのですが、その辺りをいじるつもりがある場合には、出来ればもう少し強力なクーラーを用意した方が良いという程度の能力と解釈して良いでしょう。
今回のAMD Ryzen 7シリーズは、TDP 95WとなるRyzen 7の上位モデル(1800X、1700X)にはクーラーが添付されず、8コアモデルとしてはTDP 65WとなるRyzen 7 1700だけに、純正クーラーのWraith Spireが添付されます。
実はこのプレミアムレビューが決定する前に、一応Socket AM4対応のCPUクーラーは購入してあったのですが、折角なので組み立ての際には添付のWraith Spireの方を使うことにしました。
一方で、比較テストの相手だったXeon E5-2670は、標準添付のクーラーは用意されておらず、Intel自身が発売したものを含む、別売品のクーラーが必要となります。
元々このPCではXeon E5-2670の前にCore i7-3930Kを使っていて、その際にはIntel純正で比較的安価なクーラーRTS2011ACを使っていました。しかし、高負荷時のCPU温度が80度を超えてしまうようなこともあり、さすがに能力不足気味でしたので、Owltech 極 OWL-CCSH08というクーラーへと買い換えていました。
Xeon E5-2670に移行した後も、このクーラーはそのまま使い続けていますので、純正品よりは数段上の冷却能力が期待できます。それを踏まえた上で、両CPUの上掲のテストがすべて終わった後のCPU温度をご覧ください。
Xeon E5-2670は、Core i7-3930Kよりもコア数が増えていながら、実はTDPは20Wほど低いのです。結果的に今回のテスト中は、CPU温度が60度を超えることはなく、OWL-CCSH08の性能も相まってエンタープライズ向けなどというほどの発熱には見えません。
しかし、さらなる驚きがあったのはこちらの結果です。何とあらゆるテストを行い、それなりに負荷をかけた(何度となくLoadが100%近辺に張り付くようなコアもあったほど)にも関わらず、ロギング中最高の温度でも45度に過ぎません。しかもこれで標準添付品のクーラーを使った結果なのです。高性能な社外品のクーラーを使えば、さらにもう少し下げることも出来るのではないでしょうか。この扱いやすさは大きな魅力といえるでしょう。
扱いやすく高性能。上位モデルよりもお薦め度は上
率直に言って、ゲーム中心のユーザーであれば、必ずしもコア数の多さがゲームの快適性に繋がる訳ではありませんので、他の選択肢もあるだろうと思います。
しかし、今回のテストではAdobe Creative Cloudの各ソフトウェアのように、マルチメディア処理が必要な分野で予想以上の高性能ぶりを発揮してくれました。以前はIntel以外のCPUはこの分野が不得意というパターンが多かったのですが…。
かつて$1500以上であったXeon E5-2670であっても、さすがに5年間の差は埋めがたいものがあったのでしょう。私自身はXeon E5-2670でまだまだ十分だと思っていたのですが、実際にRyzen 7 1700にこれほどはっきりとした差を付けられてしまうようになると、さすがに考えを改めざるを得ないようです。
そして一通りテストを終えた後で衝撃的だったのが、CPU温度が一回も50度を超えていなかったということです。性能だけでも十分に魅力はあったのですが、この発熱の少なさであれば、それほど冷却に神経を使わなくても十分に実用に堪えてくれるでしょう。リテールクーラーの出来の良さも手伝い、高性能ながら気軽に自作できてしまうだけの使い勝手の良さは大いに魅力を増してくれます。これはRyzen 7シリーズでは、Ryzen 7 1700だけがTDP 65Wと熱設計に余裕があることも関係しているのでしょう。その意味ではTDP 95Wとなる上位の1800X/1700Xよりも、より手軽さがあるといえるかも知れません。
Ryzenの登場により長らくIntelの独走状態だった自作CPU市場に、ようやく流れを変えてくれる製品が現れたと感じました。発売直後よりは価格も下がり、Ryzen 7 1700であれば3万円台前半で購入できるわけで、使い勝手の良さとメインストリームクラスに収まる価格という点で、上位モデルを凌ぐ魅力にあふれているといえるでしょう。
強いていえば、1コア辺りの処理能力はIntelの最新製品であるCoffee Lake Core i7-8700Kよりは落ちるという話がありますので、2コア多く、価格もより安いという点をユーザーがどう解釈するかによって、その評価は大きく変わってきそうな気がします。私としては、今3万円台のCPUでどれを他人に薦めるかといわれれば、間違いなくRyzen 7 1700を最有力として推します。
おまけ:過去のAMD CPUたち
ここで、はじめに紹介したAMDの過去製品の一部を集めてみました。
生憎AMD K5とは全く縁がなく手元には一つもないのですが、以下の製品が写っています。
・Am5x86-PR133 (を搭載したI-O DATA PK-A586/98)
・K6-2+ 500MHz (を搭載したBUFFALO HK6-MD500P-NV4)
・Athlon 900MHz (SlotA Thunderbird)
・Athlon MP 1600+ (SocketA Palomino)
・Athlon XP 1700+ (SocketA Thoroughbred)
・Opteron 144 (Socket939 San Diego)
・PhenomII X4 905e (SocketAM3 Deneb)
K6-2やK6-IIIはまだ2桁は持っているはずなのですが、古いPCに挿さったままであったり、倉庫の奥深くで眠っていたりしてここには用意できませんでした。また、Socket 940やSocket AM2のCPUなども同様です。特にAthlon 64 FX-51などや他のOpteron等はここに加えたいところでしたが、今は自宅にないので用意できていません。
ちなみに動態保存されている中で最古のAMD製CPUは、EPSON PC-286VGに搭載されているAm80286 16MHzでしょうか。これはPC自体はまだ手の届く場所にあるのですが、CPUを取り出すのは手間がかかりますので…。
このよう見ていると、私のPC歴の大半は実はAMDとIntelの併用状態であったことがわかります。ここでメインで使っていたPCのCPUの変遷をご紹介します。
<NEC PC-9800および互換機時代>
EPSON PC-486Note AS
・Intel 486SX 25MHz
NEC PC-9821Ap3/C8W
・Intel DX4 100MHz
・AMD Am5x86-PR133
NEC PC-9821Xt13/C12
・Intel Pentium 133MHz
・AMD K6-2 266MHz
・AMD K6-III 400MHz
NEC PC-9821Rv20/N20
・Intel PentiumIII 850MHz (566MHz駆動)
・Intel PentiumIII-S 1.26GHz (633MHz駆動)
<Windows機以降>
初代機
・Intel Pentium4 3GHz
・Intel Pentium4 Extreme Edition 3.4GHz
2代目
・AMD Athlon 64 X2 5200+
・AMD Athlon 64 X2 6400+
・AMD Phenom X4 9850 BlackEdition
3代目(2代目の故障で中身入れ替え)
・AMD Athlon 64 X2 6400+
・AMD PhenomII X4 965 BlackEdition
4代目(現用)
・Intel Core i7-950
・Intel Core i7-970
5代目(現用と併用)
・Intel Core i7-3930K
・Intel Xeon E5-2670
メイン機以外では適当に組んで適当に使っていたPCが数多くあり、殆どの時期でIntel製とAMD製の両者が使われていました。ただ、率直に言ってここ数年のFXシリーズやAPUの出来は納得いくものではなく、TV接続用のPCがPhenomII X4搭載機からCore i7-4770K搭載機に移行した後は、AMD CPUを搭載して常用されるPCはなくなっていました。
今回のテストで予想以上の結果を残してくれたRyzen 7 1700は、使わなければ勿体ないと思えるCPUであり、恐らくどこかのPCの入れ替えで常用されることになると思います。AMDが久々にIntelを震撼させたRyzenの登場により、CPU市場の競争が活発化してくれることを願ってやみません。