予てより一度は触れてみたいと思っていた X 付きモデルとなる Ryzen™ 7 1700X。
今回は念願叶ってレビューする機会が得られたので Ryzen™ 7 1700 との比較を交え Ryzen™ 7 1700X の性能を見ていこうと思う。
※本レビュー記事中にはオーバークロックや CPU へ多大な負荷をかけるソフトウェアに関する表記が含まれるが、それぞれ自己責任の上で実行しなければならない点には注意が必要。仮に本記事が原因で何かしらの損害が発生したとしても筆者は一切の責任を負わない物とする。
Ryzen™ シリーズのスペック
実際にレビューを行う Ryzen™ 7 1700X を含む Ryzen™ シリーズのスペックは主立った所で上記に作成した画像の通りとなる。
X 付きモデルの特長としてはベースクロックが高く、更に自動オーバークロック機能である Core Performance Boost (以下 CPB) よりも上位で特定条件下にて発動する eXtended Frequency Range (以下 XFR) のクロック上昇率が高いことにある。
もっとも、XFR の発動条件は 8 コア中 6 コアが C6-State に滞在してほぼ停止した状態でなければ発動しないのでなかなかお目に掛かることが出来る動作では無いが、クロック制御が優秀な Ryzen™ シリーズだからハードウェアモニタリングソフトでは検知できない速度で XFR が発動している可能性も無きにしも非ず。
Ryzen™ 7 1700X の外観
今回レビュー対象の Ryzen™ 7 1700X はこちらの個体。2017 年 11 週に製造された物だ。
比較対象の Ryzen™ 7 1700 は 2017 年 3 週目の個体なのでそれよりは遅くの製造となる為、若干オーバークロック耐性への懸念が生まれる。
ピンは 1,331 本存在し、中心部には特に表面実装タイプのチップコンデンサなどは見受けられずスッキリした美しさを持つ。
検証環境
レビューを行うにあたり動作検証を行った PC 環境は上記画像の通り。
メモリに関しては一律オーバークロック状態にはなるが DDR4-2666 設定としている。これは AMD が Ryzen™ シリーズでオフィシャルにサポートしている最速の動作クロックであるのが理由となる。勿論それ以上のメモリクロックでも動作こそするが、それは AMD として保証範囲外という事だ。
尚、比較対象の Ryzen™ 7 1700 の環境は上記画像から CPU が変わっただけであり、その他設定まで全く以て同一となる。
オーバークロック設定検証
ここから先の比較検証に於いてはオーバークロック動作を含めてグラフ化しているので、先ずオーバークロック検証に関して記載する必要がある。
オーバークロック時には BIOS より CPB と Cool'n Quiet は OFF とするのが定石なのでその通りの設定とする。
筆者は基本的に動作クロックを定めたらおおよその CPU 電圧 (以下 Vcore) を印加し、IntelBurnTest という LINPACK 系の超高負荷を与えて安定性を探る作業を行う事としている。
IntelBurnTest のプリセットは VeryHigh としてそれを 10 周。おおよそ 20 分程度の高負荷になり、エラーやブラックアウト無く完走して取り敢えず安定と言う事にしている。大事を取るなら判明した下限電圧から 0.0125V 盛って上げるのがベター。
注意点としては冷却面や設定している Vcore 次第ではハードウェアにダメージを与える可能性もあるので自己責任の上で実行する必要がある。
既に過去、Ryzen™ 7 1700 で済ませている作業なので、Ryzen™ 7 1700X も例に漏れず同じ手順でオーバークロック耐性を探ってみた。
その結果がこちらのグラフ。
奇しくも耐性に対する懸念が現実の物になっとでも言うのだろうか。当個体は各クロックで要求される Vcore がとても高く、個人的ポリシーの Vcore 1.4000V 以下という縛りの条件下では 3.9GHz すら実現出来なかった。
更に Vcore 1.3000V 以下では BIOS 上で設定してもコールドブートしないという問題付きであった為、耐性を探るには 3.6GHz 1.3000V 設定で Windows10 を起動させた後にソフトウェア制御にて動作クロック及び Vcore の変更を行う手段を採らざるを得なかった。
尚、Ryzen™ 7 1700 の 4.0GHz にある「参考」は CINEBENCH が通っただけの参考値という意味である。
ベンチマークテストによる比較検証
それでは実際にベンチマークソフトウェアを用いた比較検証によりデータをグラフ化した物を見ることで Ryzen™ 7 1700X の性能を観察して行こうと思う。
ベンチマークを行う環境としては Windows10 をクリーンインストールした状態からチップセットと GPU のドライバのみをインストール。WindowsUpdate を経た上で対象のベンチマークソフトウェアのみを実行、データを採取しているので外的要因でスコアが左右されずベストな結果が得られるような環境作りとした。
■ CINEBENCH R15
Ryzen™ シリーズより非常にもてはやされる様になったグラフィクスのレンダリング速度を以てスコアを出すタイプのベンチマークソフトウェアになる。
算出されるスコアにブレが少なく、1~2 度の試行でも安定した結果が得られるので楽で良い。
8 コア 16 スレッドをフルに使用した CPU Multi と 1 コア 1 スレッドのみでレンダリングを行う CPU Single の結果を以下に掲載する。
・ CPU Multi
定格動作となるスコアでは流石の Ryzen™ 7 1700X と言わんばかりにスコアが非常に高く、3.6GHz へのオーバークロックは殆ど意味が無いかなと感じるレベルになっている。
3.6GHz のスコアは Ryzen™ 7 1700X の方が若干下回る雰囲気ではあるが、3.7GHz 移行は誤差の範囲内に収まっているので、クロックを合わせれば同一の性能であると言える。アーキテクチャが同じなので当然の結果だ。
上記 CPU Multi のグラフより Ryzen™ 7 1700X のスコアを 100 として視覚化すると Ryzen™ 7 1700 との差が見えてくる。
やはりというか定格動作の差が大きく、オーバークロック動作時には誤差レベルでしかなく同一だ。
・ CPU Single
CPU Multi はクロックが伸びるにつれてスコアも伸びたが、CPU Single にそれは当てはまらない個人的には面白い結果が得られた。
定格動作でこそ Ryzen™ 7 1700X の方がスコアがグッと上で Ryzen™ 7 1700 を引き離しているが、3.6GHz にオーバークロックをするとスコアが落ちてほぼ横並びになった。
これはどういう事かと言うと、オーバークロック機能により CPB と XFR が無効化されることで定格動作時よりもシングルスレッド時の動作クロックが下がってしまったことに起因する。
先に示したとおりに Ryzen™ 7 1700X はブースト時で 3.8GHz、XFR で 3.9GHz になるが、オーバークロック設定した 3.6GHz というクロックはこれらを下回るので当然としてパフォーマンスも落ちるという事である。
また、Ryzen™ 7 1700X をオーバークロックするのであれば最低 3.7GHz、出来れば 3.8GHz 以上としなければあまり意味が無いかもしれないと分かった。
■ 3DMark
3DMark は主にグラフィクス性能の指標として用いられる場合が主であるがその実、テスト項目の Physics や CPU Test は CPU 性能に左右される項目であるし、CPU 性能によっては GPU の性能を引き出す為に間接的に Graphics スコアにも関わる事になる。よって CPU の評価としても非常に使えるベンチマークソフトウェアなのである。
この 3DMark のテストのうち未だ根強く使われている DirectX 9.0 相当の API レベルで描写される Ice Storm と、現在主流な DirectX 11 をフルに使う Fire Strike。これから多用されるであろう DirectX 12 が用いられる Time Spy の合計 3 つをチョイスしてみた。
・ 3DMark 実行結果
・ 3DMark の結果を考察
全体的に Ryzen™ 7 1700 と Ryzen™ 7 1700X の比較をすると、オーバークロック動作時のスコアはほぼ同等の伸びとなるので唯一異なる挙動を示す定格動作時のスコアに注視すべきとなってくる。
Ryzen™ 7 1700X の定格動作スコアと 3.6GHz 動作のスコアは伸びも微々たる物であるから敢えてシステムの安定性等のリスクを冒してまでオーバークロックを行う必要もないだろうと考えられる。やはりここでもオーバークロックを行うのであれば最低 3.7GHz~ とした方がリスクを負うメリットも見えてくるだろう。
■ ベンチマーク結果まとめ
CINEBENCH と 3DMark の結果だけで全てを語れる物では無いが、大体のパフォーマンスは見えてくると思っている。
そして今回、その結果を見る限りでは Ryzen™ 7 1700X は定格使用こそ輝く物があると感じた。
オーバークロックという物はどうしても個体差による動作上限の問題が付きまとってしまうので、より高クロックで且つ低電圧で動作するのであればオーバークロック動作。本レビューの個体のように高クロックに出来ず、Vcore も高い値を要する場合には無理せず定格動作で使った方がベストなトータルパフォーマンスをたたき出す事が出来る。
消費電力と動作温度を見る
Ryzen™ シリーズはワットパフォーマンスも優れているので消費電力も動作クロック毎にまとめた。
できるだけ CPU 単体が消費した電力を見たかったので、オーバークロック耐性を検証したときに用いた IntelBurnTest を今回も使用した。これなら CPU が消費しうる最大の消費電力を見ることが出来るからだ。
IntelBurnTest の動作設定はプリセット VeryHigh として演算回数は 3 回を指定。消費電力としては 1 回の演算で最大値を見ることが出来、CPU 温度は 2 回目で最大値に張り付く。念のためという事でそこからもう 1 回増やした合計 3 回の演算をさせると言う事が今回の動作設定とした理由である。
その結果をまとめた物が次のグラフ。温度計測に関しては全て室温 24℃ で同一ではあるが Ryzen™ 7 1700X の計測をした日は極寒であった為、PC のある場所の温度に誤差はあるかも知れない。
Ryzen™ 7 1700X は定格動作でも Vcore が 1.2375V を基点として各 P-State 毎に Vcore が変動するので消費電力と温度が高め。これは Ryzen™ 7 1700 と比較した場合、TDP 65W に対して 95W となるのだから当然という訳になる。
流石に 3.8GHz 動作ともなると消費電力がもの凄く高くなる。CPU 自体の個体差による要求電圧に違いがある事もまたこの結果に繋がっている。もっと Vcore を低く出来る固体であれば 3.8GHz でも 220W 前後か若しくはそれ以下で使えるだろうと思う。
ワットパフォーマンスを計測する
折角 CPU が消費しうる消費電力を調べ出したので、そのデータを元に CINEBENCH スコアを対象にして 1W あたりの CINEBENCH スコアを算出。グラフ化をしてみた。
1W あたりの CINEBENCH スコアなのでグラフは長い方がよりワットパフォーマンスが高いという事になる。
Ryzen™ 7 1700 はオーバークロックにてクロックを上昇させるほどワットパフォーマンスは低下していくのみとなるが、Ryzen™ 7 1700X は 3.6GHz にピークを持ちそれ以降は低下していく形となった。
これは 3.6GHz にして Vcore を詰めた方が定格動作時よりもグッと動作電圧が低いためだ。
全体的に見る限り、ワットパフォーマンスに関しては TDP65W の Ryzen™ 7 1700 には敵わない。Ryzen™ 7 1700X でワットパフォーマンスを求めたい場合、逆に動作クロックを落として行く方向とした方が断然良いだろう。筆者はダウンクロックをする主義ではないので、未検証と言う事でそこはご了承を。
このデータをどう見るかとなると個々で様々な解釈も出来るが、筆者個人としては 8 を切りたくないので Ryzen™ 7 1700X をオーバークロックするなら 3.6GHz となってしまう。しかしそれでは逆にシングルスレッド性能を殺してしまうので却下。最終的には定格動作以外の選択肢がないと言う結論に導くデータとして使うことが出来た。
おわりに
Ryzen™ 7 1700X は定格動作でこそ結集された技術全てを活かし、その性能を実感する事が出来る CPU であると感じた。Ryzen™ 7 1700 は定格だとワットパフォーマンスこそ輝くが、贅沢な話しトータル的なパフォーマンスとしてはもう少し欲しいなと欲が出てきてしまうので OC 前提的な使い方になってしまう。
定格動作であればシステムの安定性に関してもそうだし製品保証という観点でも安心して使用する事が出来るので、これから Ryzen™ を使いたくてパフォーマンスも欲しいよと考える方がいれば是非 X 付きモデルを勧めてみたいと思う。
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