以前は「内職」と呼ばれる例えば封筒の宛名書きのような「随時の指示命令を必要としない請負仕事」しか成立しなかった勤務だったが、ITの発達と働き方の多様性に対する世間の許容が進んだ結果、
・複数のメンバーと協働しつつ
・変化にリアルタイムに対応し
・一つのものを創り上げる
ということも可能になった。
ITの発達...以前は離れた場所で作業するチーム構成員が連絡を取り合えるのは電話やFAX、比較的最近になってメールが加わったくらいだった。いずれもリアルタイム性やもののイメージを伝える力など一長一短で決め手はなかったが、それが現在クラウド対応のオフィススイートによって大きく変わろうとしている。
前回その片鱗を、高機能グループウエアに進化したMicrosoftのオフィススイート、Office 365の紹介イベント
で感じたが、実際に1週間使ってそこから見えた可能性をレポートしたい。「在宅勤務」。前世紀末一時期日本でも言葉が流行ったが、それを導入してあまり上手くいったという話は聞かなかった。通勤ラッシュからの解放、育児や家事との両立、プライベートの充実...夢が多く語られたが、実情としてはそんなバラ色のビジネススタイルとはならなかった。バブル崩壊と相前後して生まれた業務形態だからか、通勤費削減やオフィス賃貸料の削減といった経費節減、時給/残業管理から1案件管理のコスト管理への移行など企業側に都合が良いことがクローズアップされた形になった。
そこでおきたことは案件丸投げの無管理状態。働く側は通勤時間の削減によるプライベートとの両立どころか、いつからいつまでが仕事か判らない際限の無い労働地獄、案件報酬という名のもと行われる残業代の無支給、一人きりの業務で起こる孤独感と疎外感、納品時は試験のようなもので、ダメ出しがかえってくるのか/次の仕事はどうなるのかという不安...在宅勤務で逆に心身ともに体調を崩した人も多いという。
では経費節減できた側の会社はそれで良かったかというと、案件を振った人員のスキルに大きく左右されるできあがり、経過報告が唯一のよりどころで進捗管理が難しい、従業員がいつ連絡が取れて、いつはダメなのかが判らない...など製品品質に問題を生じたという。
今までの「在宅勤務」、バラ色のイメージが語られたこの形態がなぜ上手くいかなかったのだろうか?
それは、労働者側としては
・仕事の結果しか見てもらえず、過程の評価はない
・仕事上の相談ができない
・仕事がノルマにしか感じられず、やりがいが持てない
・24時間常に仕事に追いかけられている様な気がする
雇用者側は
・働いているかどうかわからない
・急な仕様変更などが効きづらい
・異なる得意分野を持つ人員に上手く仕事を振れない
という問題があったからに他ならない。その後技術の進歩で製品(プログラムや文書など)をインターネット経由でサーバーに置けるようになったので、進捗管理などは多少改善されたが、上記の問題のほとんどは解決されなかった。
これはなぜなのか。
会社のオフィスで働いていれば..
※仕事の過程が見られるので
・雇用者側としては進捗管理がしやすい
(場合によってはフォローに入ったり、人員の追加アサインも可能)
・労働者側は自分の切迫度(あるいはゆとり)をアピールしやすい
・実業務時間が把握してもらえるので、健康管理も可能
(サービス残業や持ち帰り仕事に関しては別の問題のため、ここでは論点から除く)
※すぐそこに上司・同僚がいるので
・雇用者側としては仕様変更などをリアルタイムに伝えられる
・得意分野の異なる複数の人員に部分的に仕事を配分し、合成することも容易
・労働者側は仕事上の相談がしやすく、一時完成⇒ダメ出しより手戻りが少ない
というようなメリットがあるからだ。
以前の「内職」よりは進化したというものの、会社サーバーにインターネットで接続して仕事を行い、進捗報告や指示は電話かせいぜいメール、というのではコミュニケーションが取りづらく、「封筒の宛名書き」と大差ないレベルでしか「在宅勤務」を実現できなかったのだ。今回、Microsoftのクラウド対応最新オフィススイート「Office 365 Midsize Business」をレビューするにあたって、いわゆる一般の「Microsoft Office 2013」
となにが違うのだろうというのが当初ピンとこなかった。
【Office 365とOffice 2013の比較】Officeは通常のインストール版である「2013」もクラウド対応になっており、デフォルトの保存先はOneDrive(旧SkyDrive)だし、ボリューム ライセンス上位版の「Office Professional Plus 2013」ではアプリーケーションも大差ない。
そこで、先日行われたOffice 365紹介イベント
を視聴したわけだが..そこでいくつか「在宅勤務」に関する話があった。その際、「Lync」というアプリケーションによる在席・退席(プレゼンス)表示やTV会議機能、Excel Onlineによる同時編集に可能性を感じた。
-これら機能を使えば、「あたかも同僚や上司とともに働いているような環境下で」在宅勤務ができないだろうか-ここで「Lync」というとらえどころの無いアプリケーションを紹介したい。
「Lync」とは
・インスタントメッセンジャーであり
・画面共有サービスであり
・TV会議機能を有しており
・ファイル転送サービスもある
「プレゼンス」表示アプリである。
非常に多機能なコミュニケーションツールだが、Office 365が提供するクラウド上の「会社」では、これが「あなた」であり、「上司」、「同僚」だ。ここで自分の登録したメンバーの動向がわかる。現在応答可能なのか、それとも休暇中なのか、それを見ながら応答可能なメンバーを捕まえてチャットやビデオ通話を実施する。複数対応可能なメンバーがいればTV会議でも良い。画面共有やホワイトボードの使用も可能なので、自分の詰まっているところ、悩んでいるところを上司に相談したり、同僚とディスカッション(インスタントメッセージによるチャットも(あるいは音声・チャットの混合も)可)できる。完成したモノを提出してダメ出しを喰らうより遙かに手戻りが少ない。雇用者側も仕事の指示に「朝礼Lync」でも行えば、在宅勤務者に不足しがちな会社の情報なども一度に伝達できる。また仕事の指示内容変更や優先順位変更も双方向で確認しながら、あるいは資料やホワイトボードを示しながら納得性を持ちつつ展開できる。
そう、在宅勤務で一番大切なのはONとOFFのけじめだ。在宅勤務というと家事の片手間に細切れに仕事をダラダラして、〆切にのみ間に合わせる..というイメージを持つ人もあるかと思うが、そういう働き方では、一見楽なようで自分とっても会社にとってもよくない。けじめのない仕事は家事との両立どころか、たいがいは仕事がプライベートを侵食する。最近多い携帯電話での業務指示などは先方の/当方の状況も判らない状態で時間を問わずかかってくるため、かける方もかけられた方もストレスが大きいが、Lyncによるプレゼンス管理はとてもスマート。その人が「ON」なのか「OFF」なのかが一目瞭然。Office 365のサイトで、共有設定をしていればメンバーのスケジュールも判るので、プレゼンス管理と合わせて見れば「一時的に退席中なのか」「今日は業務終了なのか」「休暇中なのか」などが解り、「次にいつ連絡がつくのか」が判明する。これによって雇用者側としても安心して仕事を任せられるし、労働者側も上司、同僚のフォローを得ながら/しながら働くことにより、会社全体の仕事の効率も上がるし、自分の働きも評価される。ひとは社会性の動物なので、この「協働できる」と言うことが、一方通行の伝達・指令ではなく、双方向コミュニケーションであるというところが重要だ。
この「Lync」、ソフトをインストールしていなくても、ブラウザ経由でも使えるし、iPhoneなどスマートフォン用のアプリもある、さらにWindows RT機であるSurface用のものもあり
プラットフォームを選ばず使える。ただ、チャットやプレゼンス管理はどのプラットフォームでも用意されるが、Windows RTのLyncでは画面共有はできるがホワイトボードは使えないなどの制限があるので、要注意だ。最初「Office 365」を単なる年額・月額版オフィススイートと捉えていたときには、個人向けの売り切りタイプ「Office 2013シリーズ」に含まれないこのアプリへの注目度は低かったが、実は「Office 365(および大企業向けのボリュームライセンス版Office Professional Plus 2013)」の仕事能率化のキモのアプリはこの「Lync」ではないかと思うほどだ。ただ、この「Lync」の在席管理がマニュアル操作、というのがやや煩わしく感じた。席に戻ってきたのにその変更を忘れたりするのだ。このあたりは(在籍⇒離席への変更時は仕方ないかもしれないが)在籍への変更時はOfficeの操作をした時点で、Lyncの状態変更を訊くダイアログが出たりするともっと利便性が上がると感じた。また複数のデバイスで開いていると最新のものに自動更新されるわけではないので、常に使っているデスクPCでは在席にしたのに、サブPCでは離席中のままだったりと、どの状態が他メンバーに伝わっているかが分かりづらいのも改善が必要だ。さらにスケジュールとの連動で休み表示などができると利便性が上がると感じた。
また、(今回のレビュー対象が)「Office 365 『Midsize Business』」と300名迄の企業対象のソリューションだったからかもしれないが、Lync会議では20名を超えるあたりで切断が多くなり、やや会議進行が妨げられた。Office 365にはこのほかにもより小規模企業(~25名)対象のOffice 365 Small Business Premiumや、さらに大規模企業(人数無制限)対応のOffice 365 Enterprise E3/E4があるが、特に後者では20人以上のTV会議は充分想定できるので気になるところだ。一方、今までのインストール版Officeとこの「Office 365」の異なる点として、他にも「Exchange Online」や「SharePoint Online」といった業務支援サービスがある。前者は「Exchange」の名が示すようにメールサーバー機能だが、後者が「Office 365」のもう一つのキモだ。この「SharePoint Online」はファイル共有や社内ポータルサイトの構築、外部向けWebサイトの作成などができるサービスだ。
おもしろいのはここにアップロードしたドキュメント(スプレッドシートやプレゼンテーションなども含む)の同時編集が可能なことだ。紹介番組
内で行われたようにExcelの一つのシートに50人以上が一斉に書き込むというという様なシチュエーションは現実的ではないが、例えば地方ごとに分かれた営業部が同一のファイルに書き込んで、最後に会社全体の売上を算出するという様なケースの場合、今までのサーバー上のファイルへのアクセスでは排他になるのが常で、前の人の作業が終わるのを待つ、あるいは各営業部から送られたファイルを最後に本部の人員が切り貼りする、という作業が必要だった。これが同時に触れるため、効率が大幅にアップする(今までのように排他制御と世代管理をする事も可能)。
また、社内ポータルサイトの構築はチームごとに異なるポータルサイトを持てば、そこでドキュメント管理だけではなく、ガントチャートによる進捗管理やイベント(会議や納期含む)の告知、OneNoteによるアイデアメモなどもできるので同じ場所で働いているかのような環境が持てる。今回「在宅勤務」チーム用の作業スペースとして「巣ごもりワーカーズ」をたて、そこで情報共有ができる仕組みも作ってみた。そこに置いたのがPowerPointの資料。今回レビュー期間中に帰省することが判っていたので、現在の住居を「会社」、実家を「在宅勤務者cybercatの家」として会社から示された資料素案を実家でデザインする、という試みだ。幸いなことに今回同時にレビューしたZIGSOWメンバー(在宅勤務担当に限らない)の協力も得られ、文字のベタ打ちで素っ気なく、裏は「こんな絵が欲しい」とのイメージを伝えただけの「素案」が、同時編集で試行錯誤しながらチラシとして仕上がった。※今回は指示命令する人員を特に決めずに始めたのと、コントローラーというかコーディネーター不在であったため、落書きになってしまっているが、LyncでチャットしながらのPowerPointへの書き込み・加工はまさに「協働作業」だった。 【編集の様子】複数のページで同時に編集が進んでいるのが見て取れる。
©ビデオ画像提供:愛生さん
ただこの「SharePoint Online」によるサイト構築はやや判りづらい。最初にcybercatが作ったサイトは「いわゆるルート」の位置に自分たちのチームサイトを構築してしまい、他者が別サイトを構築できなくなってしまった。おものだちであり、今回のレビュー仲間でもあるtomoさんやふじしろ♪さんの協力があって事なきを得たが...。まぁ今回はレビューにあたって参加者全員に管理者権限が付与されていたので、cybercatのようにIT専門外の人員でも「触れて」しまったのだが、そもそも造りそのものがやや判りづらいうえ、ヘルプなどが充実しておらず敷居が高いと感じた。今回、Microsoftの企業向けOffice、「Office 365 Midsize Business」をレビューする機会を得た。
当初は単なる年額/月額制ライセンスのオフィススイートかと思っていたが、
○「Lync」による在席管理と、チャット・ホワイトボード・画面共有を用いた、密なコミュニケーションの実現
○「SharePoint Online」によるドキュメント管理とチームサイト上での共同作業で得られる、グループワーキング
という今までの「内職的在宅勤務」を超えた働き方を提案してくれるソリューションだと判った。
ただ、
●「Lync」のプレゼンス管理が忘れがちになるのに対してフォローがないこと
●「Lync」を複数デバイスで開きっぱなしの場合、異なる結果が示されること
●「Lync」会議が人数が増えると安定性が損なわれてきたという事象がみられたこと
●「SharePoint Online」のサイト構築などはある程度の専門知識が必要で敷居が高いこと
などはこのサービスを盤石にするために早期の改善を望みたい。
今回レビューした「Office 365」を利用すれば、雇用者側は通勤費用や事務所経費を削減しながら、在宅各構成員の得意分野を活かしたチームワーキングユニットを構成でき、労働者側も通勤時間の削減による時間の有効活用をなしえながら、あたかも同僚と会社で協働し上司に指示を仰ぐ状態を築き得る。これなら会社側も在宅勤務者を使うと刻々と変わる状況に対応することができず後手後手になるというリスクを受ける事も無く、労働者側も孤独と不安にさいなまれながらノルマに追い立てられる在宅勤務から開放される可能性がある。そんな「夢」がこの「Office 365」には感じられた。
末筆とはなりましたが、今回このような機会を与えてくださった 日本マイクロソフト株式会社様 、zigsow事務局様に御礼申し上げます。また投げっぱなしの案件に対する協働作業や困ったときのヘルプ、チャットやTV会議による励まし合いなどで無事レビューアップに漕ぎつかせてくれたレビューメンバー(CLWさん、manya嫁さん、mokaさん、nicknameさん、tomoさん、かるびさん、きっちょーさん、つきさん、とっぷりんさん、ふじしろ♪さん、ふっけんさん、愛生さん、稲蔵さん、自由さん-Office 365「連絡先」掲載順-)、さらにレビューアップまでの応援など常に支えとなってくれたおものだちの皆様はじめジグソニアンのみなさまに感謝いたします。
ありがとうございました。
【製品概要】
Office 365 ProPlus(Word、Excel、PowerPoint、Access、OneNote、Outlook、Publisher、InfoPath、Lync):アプリケーション(1名あたり5台のデバイスにインストール可能)
Office Web Apps:ブラウザでOffice ドキュメントを閲覧、簡易編集可能
Lync Online:在籍確認、インスタント メッセージ、音声通話、ビデオ会議
Exchange Online:メール、予定表、アドレス帳、タスク
SharePoint Online:文書管理機能、ファイル共有、投票機能
OneDrive for Business:オンライン ストレージ (1ユーザー 25GB)
CLWさん
2014/04/29
cybercatさん
2014/04/29
愛生さん
2014/04/30
てっきり、PowerPointは皆で遊んでるんだと思い、好き勝手にしてしまった(笑)
3ページ目を作った犯人は、私です(汗)
nicknameさん
2014/04/30
あれですね。SOHOなんて誰が考えたんだか、結局夢物語で終わった感がありますが、このOffice365はSOHO復活の足掛かりになるといいなぁとか、思ってます。
cybercatさん
2014/04/30
またビデオの提供も凄く助かりました。
やっぱりスクショでは伝わりきらないところもありますから。
>てっきり、PowerPointは皆で遊んでるんだと思い、好き勝手にしてしまった(笑)
「在宅勤務チーム」にしか連絡してませんでしたからね。
でもあの「場」を利用したのは私の方なので..
>3ページ目を作った犯人は、私です(汗)
おまえかーーーーーーーーーー!!wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
cybercatさん
2014/04/30
>このOffice365はSOHO復活の足掛かりになるといいなぁとか、思ってます。
業種、分野によってはその可能性を秘めたプラットフォームだと思いますね。
ふじしろ♪さん
2014/04/30
cybercatさん
2014/04/30
>深夜作業のカオス感がよく表れていて面白いレビューでした(笑)
カオスなAA貼っときますw
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