今回KS-Remastaさんからお借りした製品の最後を飾るのは、現代的な素材を使った製品としては最上位となる、Stage9鏡面加工を施したPC-Triple C単線のトップモデル、KS-Stage903EVO.II-VKです。
前回取り上げたKS-Stage623EVO.II-VK(66,000円)以上に徹底して鏡面加工の精度を高めた製品であり、それ以外の差は無いわけですが、価格は一気に上がり220,000円となります。
随分前になりますが、OFC単線のStage9鏡面加工モデルであるKS-Stage901EVO.I-VKは貸していただいて聴いたことがありますが、オーディオ的な性能の高さと聴感上の凄みが見事に両立した素晴らしいものでした。
これまでの傾向上、PC-Triple C単線の独特の明るさや硬さは鏡面加工を施してもある程度以上のレベルで残っていましたが、OFC単線で別次元の性能を見せてくれたStage9モデルであるだけに、どのような傾向を示してくれるのか興味津々でした。
取り付けの難易度はこれまでと変わりません。20万円オーバーに気後れしなければ問題なく取り付けられるはずです。価格を意識するとどうしても緊張しますので、心を無にすればそれほど苦労はしません。
audio-technicaのカートリッジは基本的にヘッドシェルに対して左右だけが入れ替わるピン配置ですので、あまり慣れていない方は左右の+(白と赤)だけ先に取り付けた方が失敗は少ないと思います。DENON DL-103系やGoldring製MCカートリッジのように上下左右全てが入れ替わる配置だとそうも行きませんが…。ちなみにZYX製カートリッジであればストレート結線なので最も取り付けは楽になります。
当然ですが、私の技術レベルなので安全を期してこのように取り付けを行っていますが、KS-Remastaを主催する柄沢さんのような名人クラスであれば、最初からヘッドシェル側を取り付けた状態でもあっという間に組み上げてしまいます。
やはり明るい音だが、繊細にしてダイナミック
AT-OC9ML/IIとの組み合わせで以下の4曲を聴きました。
・10 Miles / Champlin Williams Friestedt (アルバム「CWF 2」収録)
・Fields Of Gold / Eva Cassidy (アルバム「The Best Of Eva Cassidy」収録)
・First Time / David Paich (アルバム「Forgotten Toys」収録)
・Shostakovich: 3 Duets for 2 Violins and Piano, Op. 97D: I. Prelude / David Garrett feat.Itzhak Perlman (アルバム「ICONIC」収録)
まずは「10 Miles」から。
前回のKS-Stage623EVO.II-VKの時点で基本性能の底上げ具合には目を見張るものがありましたが、そこから3倍以上上がる価格の貫禄を見せてくれました。音場は更に上下左右に拡がっていきますし、それだけの広さがあっても密度の濃さも十分保たれています。KS-Stage623EVO.II-VKと比べてもジョセフ・ウイリアムズの口の大きさは更に小さくまとまり、他の楽器の音も含めとにかく音像が鮮明です。間接音やエコーも豊かですし、その微細な音が消えるその瞬間まできちんと描写されていることが理解できます。
続いて「Fields Of Gold」です。
この曲では最初の一音で気付くのは、聴感上のS/N比が大きく上がっているということです。アナログ盤で聴いているわけですし、SL-1200Gもずば抜けて「静か」なターンテーブルではありませんから、ある程度のノイズの中から曲が始まってくるわけです。
ところがKS-Stage903EVO.II-VKで聴くと、何故かそのノイズが気にならずきちんと静寂の中から曲が始まるというイメージに変化するのです。シェルリード線にノイズを抑制する機能があるわけではなく、あらゆる雑味が減った結果としてノイズが耳に付かなくなるということなのでしょう。
そしてエヴァ・キャシディの声もやはり少し明るいとは思うのですが、KS-Stage623EVO.II-VKでも残っていた硬さはほぼ気にならなくなります。この曲でも口の大きさがこれまでで最も小さく、もう一歩の生々しさが出てくるようになります。間奏のギターも弦の直接音だけであればさほど変わりませんが、胴鳴りや残響音の豊かさが出てくるため、トータルの印象では圧倒的に生の雰囲気が増してきます。
次は「First Time」です。
この曲でもやはり聴感上のS/N比が大きく向上し、KS-Stage623EVO.II-VK比では少しだけ落ち着いたトーンで表現されます。デイヴィッド・ペイチのヴォーカルに太さが出てきて彼本来の声のイメージに近づきました。
低域方向はもう一歩の深さが出てきて、これまで聴いたPC-Triple C単線製品では全てちょっと明るめかつ軽めに感じられていたこの曲の雰囲気が、ようやく本来のイメージに寄ってきました。コーラスの女声ヴォーカルも主張をするほどでもないのですが、存在感を持ちます。それでもやはりOFC単線のStageシリーズと比較してしまうと、まだ少し全体的に音色が明るめに感じられる部分はありますが、それが弱点とならず個性の範疇に収まる程度になるのは大きな進歩です。
そして最後に「ショスタコーヴィチ 3つの二重奏曲 作品97dから 第1番:前奏曲」です。
これまでの3曲では基本的には総じてポジティブな印象だったのですが、どうしてもこの曲だけはストラディヴァリウスにしてはやはり音色が硬い気がします。KS-Stage323EVO.IIではイツァーク・パールマンがデイヴィッド・ギャレットの前にしゃしゃり出て演奏している感じで、KS-Stage623EVO.II-VKではほぼ対等に弾き合っている印象でした。このKS-Stage903EVO.II-VKではKS-Stage623EVO.II-VKと同様にほぼ対等な感じではあるのですが、曲の進行に応じて2人が交互に前に出てきて演奏したような印象へと変化します。個人的にはこの曲の印象であればKS-Stage623EVO.II-VKのようにどちらかが前に出ることなく対等に演奏している感じが正しい気がするのですが、これは実際の所どうなのかは判りません。
胴鳴りや間接音は十分に出ているだけに、弦の直接音が少し乾いたような明るい音に感じられるという、僅かな違和感だけが残念なところです。とはいえ、さほど高価でも無いaudio-technica AT-OC9ML/IIというカートリッジがここまでの緻密な音を出せるということには素直に驚かされます。
Stage6やStage9は20~30万からそれ以上のカートリッジとの組み合わせを想定されているらしいのですが、個人的には実際に買えるかどうかは別にして、5万円クラスのAT-OC9ML/IIと組み合わせる意義も十分に感じられると思っています。というのも試聴が終わった後も返却するまでの間ということでKS-Stage903EVO.II-VKをAT-OC9ML/IIから外さずに使っているのですが、何を聴いても「AT-OC9ML/IIってこんなに良いカートリッジだったか?」と思ってしまうのです。
録音の良いレコードもあれば、そうでもないレコードも聴いているわけですが、例えば「Smile For You / 辛島美登里」を聴いても、今までとは何か曲の空気感が変わって聞こえてしまうのです。
普通に聴いていればStage6の時点でこれ以上が想像出来ない領域なのですが、Stage9にするとやはり別次元としか言い様がありません。特に声の生々しさと聴感上の圧倒的なS/N比の良さは他では決して聴けないものです。
KS-Stage623EVO.II-VKを聴いた時点では「Stage9でもそこまで極端には良くならないだろう」としか思っていなかったのですが、その予想は完全に外れていました。Stage9は他では決して到達できない高みにあるということでしょう。
-
購入金額
220,000円
-
購入日
2025年08月22日
-
購入場所
KS-Remasta






ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。