レビューメディア「ジグソー」

やはり最上位版、痒いところに手が届く便利機能が多いが、「テンポ検出パネル」は(対象ファイルによっては)イマイチな点も....

自分は音楽が趣味(のひとつ)と言ってよいと思うのだが、現在は借家住まいでドラムなどの楽器の演奏が難しいので、最近は楽曲制作やその自動演奏などに興味が移ってきた。

 

ちょうどWindows11対応CPU(AMD Ryzen™ 7 5800U モバイル・プロセッサー)を積み、メモリも16GBの高性能なPC

を手に入れることができたので、内蔵SSDを512GB⇒2TB

に魔改造?して、音楽制作の専用機とすることにした。

 

PCでの音楽制作には、GarageBandのような完結型アプリから一歩踏み出して、自分の思い通りの音源やインストルメント(コントローラー)を使うには、一般的にはDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれるソフトが必要。当初は、手ごろな入力用キーボードとして入手した、パッド付25鍵MIDIキーボードコントローラーMPK mini mk3

に付属していたDAW=MPC Beatsを使っていたのだが、このMPC Beatsは「比較的単純なコード進行の繰り返し」を「いくつか組み合わせて」演奏させ、MPKに備わるパッドを使って、それにアサインさせたヴォイスサンプルやサウンド断片をリアルタイムで楽曲に載せていく....というようなHIPHOP系の楽曲にはまことに使いやすいが、イントロ⇒Aメロ⇒Bメロ⇒サビ⇒間奏⇒Aメロ⇒Bメロ⇒サビ⇒ブリッジ⇒落ちサビ⇒大サビ⇒アウトロと言ったようなJ-POP系の複雑な構成を創るのは若干苦手。

 

またMPC Beatsはハード付属品なので、Cubaseで言えば無償版のCubase LEAI相当で、トラック数や音源数などは限定されている(無償版Cubase下位のCubase LEと比べても、LEが24トラックなのにMPC Beatsは8トラックしかないし、音源もCubase LEの2つ-シンセとリズムマシン-に対してMPC Beatsは3つ-シンセと電子ピアノ、シンセベース-とこちらに優位性があるわけもない)。

 

MPC Beatsを有償版のMPCソフトウェアにヴァージョンアップすれば、トラック数や音色数の制限の方は大幅に緩和されるのだが、ビートメイカー向けというDAWとしての造りの方は変わらないし、一番問題だった「ユーザーが少ないので、詰まったときに情報がない」という点は変わらない(どころかMPC Beatsに比べて有償版のMPCソフトウェアはさらに情報が少ない....つかほぼ皆無)。

 

そこで

・J-POPやFusionのように複雑な構成にも対応可能で←大事

・YOASOBIではないが、転調や変拍子もそつなくこなし←大事

・内臓音源がある程度使えて←DAW付属の音源は限界があるので、重要度は低

・日本語の解説資料(参考書・サイト・動画など)が多い←きわめて重要

DAWということで、日本で一番シェアが大きいCubase、有償版中位のArtistを入手した。

このCubase 11 Artist、11シリーズの末期に入手したのだが、次期シリーズ(Cubase 12シリーズ)リリースがすでに告知されていた時期のため、値引き幅も大きく、さらに使い始めたとき最新のシリーズへの無償アップデート権(Grace Period)がついていた。

 

しかし、入手したのに満足したのか、MPC Beatsと大きく操作性が異なるCubaseの解説動画などを観たり、Cubaseのオンラインマニュアルを読んだりと使う準備はボチボチしていたのだが、本業の方が急に忙しくなったことも含めて「触る」時間が取れず、そうこうしているうちにさらにシリーズが刷新されて次のシリーズ(Cubase 13シリーズ)が上梓され、結局ガッツリ使い始めたのはCubase 13 Artistとなってからだった。

 

使ってみると、永きにわたりヴァージョンアップされ続けられているDAWソフトであるからか、前ヴァージョンとの互換性の維持の関係なのか、ユーザーに混乱を与えないためなのか、「歴史の長いソフトゆえの垢」のようなものがあり、コントロール類の配置が独特で少々見通しが悪い点があったり、階層が深くて慣れないと機能に到達しづらかったりする点はあるものの、付属音源も多いし(音源に関しては、別売音源にも手を出していたので「大」活躍はしていないケドw)、トラック数などの制限・制約というものがほとんどなくなったので当面これでよいかな、と考えていた。

 

それがウインドシンセコントローラーMWiCのレビュー

で演奏動画を録るときに、ちょっと使いづらいことがあって、上位のProに興味が出てきた。

 

それが、「テンポ検出パネル」という機能。

 

これはトラック上に配置されたオーディオファイルやMIDIファイルからテンポを検出し、Cubaseに反映する機能。

 

CubaseのようなDAWソフトのシーケンス機能部分や、オーディオ録音部分のクオンタイズ(拍と発音のタイミングのズレを補正する機能)などは、あるテンポで流れる曲に関して、小節を何等分かにして「拍」を決める。

 

それまで、遅い曲も速い曲も創ったこともあるが、一定のテンポ(BPM)だったのだが、レビューで取り上げた曲で使わせていただいた伴奏(ユウ piano(旧名:瑜雨)さんの「【ピアノ伴奏】日照雨 / ユアネス【off vocal】」)は、導入の部分としっかりと曲に入ってからのテンポが違う(加速する)。

 

幸いなことにCubase 13 Artistには下位のElementsと違って、「テンポトラック」という機能があり、そこで調整することでrit.(リタルダンド:だんだん遅く)やaccel.(アッチェレランド:だんだん速く)が表現できる。

 

ただ、今回BPMが明示されていなかったので、オーディオファイルで取り込んだ上記ファイルを演奏させながら、小刻みにテンポトラックでスピードを調整してテンポを探り当てるという作業が必要だった。具体的には、取り込んだ曲のオーディオファイルを流しながら、同時に四分音符のカウントを再生し、BPMを0.01単位で動かしながらジャストタイミングになる位置を探る...という作業だったのだが、これは想像以上に神経と時間を使う作業だった。

 

結局この曲は、最初の8小節の導入部が緩やかにBPM=89.450、続くイントロ8小節がBPM=103.540に急加速、その後のいわゆる「歌」に入ってからは少しアクセルを緩めBPM=103.000という、3段階のスピードが一曲の中で使われていた。

のテンポトラック。このように曲の最初は8小節ずつスピードが変わる。
Cubase 13 Artistのテンポトラック。この曲は、最初は8小節ずつスピードが変わる。

 

今まで、自分で創った曲(伴奏)に合わせてキーボードやMWiCを重ねて演奏してみたことはあったものの、それらの曲はすべて「定速」だったので、特に不便は感じなかったのだが、このようにすでにある他者の演奏に載せてマニュアル演奏したプレイを残すのは、テンポが途中で変化する場合、かなり難しいなと。

 

そこでオーディオトラックからのテンポ検出機能があるCubase Proに興味が出たわけ。

価格
最初に購入したCubase 11 Artistとしばらく使った13 Artist、上位のCubase 13 Proの比較

制限は出力系がArtistより大幅強化されているが
制限は出力系がArtistより大幅強化されているが他は大きな差はない

一方機能に関してはPro⇔Artist間でソコソコ差がある
一方機能に関してはProArtist間でソコソコ差がある

 

ただ、Cubase Proは最高位だけあって高額で、普通に購入すれば約7万円、現在持っているCubase 13 Artistからのアップグレードでも29,700円(ともに直販価格)と結構する。

 

Cubase 13 ArtistCubase 13 Proとの差異で気になっているのはこの「テンポ検出パネル」機能だけで、最大入出力数やサウンド数、オーディオ書き出し機能の高機能化、上位版スコアエディター、EQなどのエフェクター強化などの他の機能強化・追加には強い興味がなく(音源やエフェクターは別に入手しているものがあるのでそちらを使えばよいため)、「テンポ検出1機能に3万か~」と二の足を踏んでいた(29,700円というと、元ライセンスのCubase 11 Artistの購入価(24,640円)すら超える価格)。

 

それが、先日(2024年8月29日〜9月25日)開催された「Steinberg 40周年記念セール(Celebrate Creativity)」でSteinbergソフト各種が過去最大値引きの半額となった。外装破損品の現物販売など特殊な例を除けばCubaseが半額になるのは非常にまれで、情報によれば2019年以来5年ぶり。

 

Cubaseは今まで1年~1年半でのヴァージョンアップサイクルなので、Cubase 13も2023年11月という発売日から考えれば、9月の時点では製品ライフサイクルのタイミングとしては最低でも半分は過ぎていて、次の「Cubase 14シリーズ(仮称)」は2024年11月~2025年5月くらいのリリースのハズ(直前の12⇒13が1年半空いたので、2024年度末くらいが可能性が高いと踏んでいる)。

 

ただ、「Cubase 13シリーズ」は今後数年間は安泰の(ハズの)Windows 11対応で、DAWとして致命的に問題な部分はなく、最近のアップデート内容を見ていると「大変革」というほどの変化に乏しいため、毎回必ずアップデートしなければならないわけでもないので「14」を待つ積極的な理由はなく、14,850円で最上級グレードにアップグレードできるならこの機を逃す手はないと思い手配したのが、Cubase Pro 13 Upgrade from Cubase Artist 13Cubaseは単品は楽器店などでも販売されるが、既存ユーザー向けのアップデート、アップグレードはSteinbergのホームページ経由のみなので、ダウンロード納品。

 

なお、Cubaseはライセンス管理の問題で、一般的な「ダウンロードしてきた(あるいはサイトにある)実行ファイル(もしくはBATファイル)を実行して、ダイアログで機能や旧版の扱いを選択するなどして更新する」という簡単な更新方法ではないので注意が必要。

 

ダウンロードで使うソフトと、認証で使うソフトがそもそもで、後者はSteinbergのライセンス管理用のソフト、「eLicenser Control Center」か「Steinberg Activation Manager」を経由する必要がある。前者の「eLicenser Control Center」はCubaseでは11まで採用されていた、外部のUSBメモリに製品キーが仕込まれているeLicenserベースの製品で使用する。一方、Cubase 12シリーズ以降のSteinberg Licensingベースの製品は「Steinberg Activation Manager」を使う。

 

自分のCubaseは、元ライセンスがCubase 11 Artist、厳密にいえばCubase 11 Artist(Grace Period)。これをそのGrace Period(無償アップデート権)を使ってCubase 13 Artistに上げている(なぜ12を一つ飛ばしているのか(飛ばせているのか)は、Cubase 11 Artistのレビュー参照)。

 

で、

Cubase 11 Artistは、eLicenserベースの製品

Cubase 13 Artistは、Steinberg Licensingベースの製品

 

どちらからアップグレードするのかなー...と少し疑問だったが、結果から言えばSteinberg Licensingベースの製品として、「Steinberg Activation Manager」を使って認証が通った。

 

アップグレード方法は、

・Steinbergのホームページ経由でCubase 13 Proのアップグレード版を購入する

・その時には、ユーザー登録してあるSteinberg IDで使っているアドレスを入力する

・購入時に入力したメールアドレスにダウンロードアクセスコードが届く

・ダウンロード用ソフト「Steinberg Download Assistant」にアクセスコードを入力

・アップグレード対象の製品名が表示されるので「OK」をクリック

・認証用ソフト「Steinberg Activation Manager」を起動し、移動

Steinberg IDでログインして、対象商品のライセンスの横のボタンで「アクティベート」

・「Steinberg Download Assistant」に戻り、対象製品のボタンから必要プロクラムをダウンロード

 ※本体プログラムは必須だが、音源などは不要ならダウンロードする必要はない

と言うもの。

 

要するに、Steinbergの製品をインストールして使うためには、ダウンロード用ソフト「Steinberg Download Assistant」と認証用ソフト「Steinberg Activation Manager」を行ったり来たりして作業しなければならないという...。さらにWebサイトでの購入時にSteinberg IDで使っているのと同じメアドを入れないと紐づけできないという...(間違って別アドレスで購入した場合は、メーカーに問い合わせれば回避は出来るらしい←別件だが、11のライセンス関連で本国Steinbergに問い合わせたが、回答レスポンスは良い)。このあたりは不正使用防止のためとはいえ、かなり作業手順と規則がガチガチでめんどくさい。

Cubase 13 Proへアップグレードした
Cubase 13 Proへアップグレードした

 

フォントやアイコンが少々洗練されているが、13と11は大差ない起動画面
フォントやアイコンが少々洗練されているが、13と11は大差ない起動画面(13 Artistとは同じ)

 

一方操作画面は多少洗練されて使い勝手は向上している(13 Artistも同じ)
一方操作画面は多少機能が見やすくなって、11より使い勝手は向上している(13 Artistも同じ)

 

アップグレードしたCubase 13 Proはパッと見Cubase 13 Artistと変わらないので、使い勝手的には同じ。ま、Cubase 13 Artistの主要機能で特に不満はなかったので、「テンポ検出パネル」さえ使えればよいわけ。

 

実際に使ってみた。

 

オーディオトラックを作成し、オーディオファイル(前述した「途中でテンポが段付きで変わるピアノ伴奏」)を読み込んで、その後そのトラックを選択した状態で、プロジェクト>テンポの検出...

テンポ
「テンポの検出」は「テンポトラック」と同じくプロジェクトにある

 

そこで「テンポ検出パネル」で「分析」ボタンを押すと...

検出
この「分析」を押すと....ドキドキ

 

テンポが検出されるのだが.....

.....このような情感を込めたスロー目の曲は苦手っぽいw

 

4/4拍子の曲を例とすると、1小節の四分の一が4分音符の長さで、その半分ジャストが8分音符、さらにそのきっちり半分が16分音符で、すべての音が(例えば)この16分音符刻みに完全に合致しているというような、打ち込みの曲ならば、かなり正確に検出できるのだが、小節の終わりをタメ気味に弾き、逆に小節頭は強くやや速度増しで弾いて「うねり」を作ってグルーヴとエモーショナルさを出しているような曲は、そもそも一定にリズムが流れていないので、検出されたテンポもフラフラと上下しているし、ドラムやパーカッションなどの「リズム刻み」のない楽曲は、「どこが頭か」を検出するのが難しいのか、特に長音の後の弱起のフレーズなどで頭を誤判定する場合がある。さらにこの曲の場合、奏者のユウさんが一番盛り上がったところは7連符や11連符といった「割り切れない」装飾フレーズを、これでもかと?押し込んでいるので、そもそも定速譜面化するのが難しい。

 

結果、検出結果は結構ガタガタにw

検出結果はなめらかではなく、拍ごとにBPMが変わるような感じで検出された
検出結果はなめらかではなく、拍ごとにBPMが変わるような感じで検出された

 

また、「分析」の後に検出のブレを平均化して定速に直す「テンポをなめらかにする」という機能もあるのだが、それだと全体の平均となってしまって、今回のような「テンポ段付き変化」の曲はどの部分のテンポとも合わなくなってしまう。

 

これを避けるためには、曲のファイルをテンポの変わり目で3分割して、それぞれで「テンポ検出」する必要が??←めんどくさいし、1曲にまとめるときにはどのみち(Artistでも実装されている)「テンポトラック」での調整が必要

 

一方、テンポの変わり目などはしっかりと自動判別しており、リアルタイムBPMは画面下部に表示されるので、テンポの「あたり」をつけるにはとても便利。

スピードが変わったところはきちんと検出している
スピードが変わったところはきちんと検出している

 

ま、この機能単体に3万円出そうとは思わないけど..

 

それでも、ビートの強い一定速の曲だと問題なく使えるし、こういった「ゆらぎ」がある曲でも、BPM探り出しの最初の絞り込みは「分析」ボタン一発で数秒で終わるため非常に有用なので、1万5千円であれば、他の機能強化を含めて「アリ」かな。

 

そういう意味では、5年に一度の特別セールで、Cubaseの最上位グレードにできたと思えば、後悔はしていないんだけれども(普段69,300円のCubase 13 Proを、Cubase 11 Artistの購入とそこからのアップグレードの都合39,490円で購入できた計算)。

更新: 2024/10/04
多機能度

機能的には「ありすぎる」ので、理解するのに時間がかかる

これだけ複雑なので、機能やメニューの整理/わかりやすさよりも、旧版との互換性を重視するんだろうなぁ...(1年~1年半間隔のヴァージョンアップで知識・操作性「追加」ならユーザーついてきても、「覚え直し」だと厳しいほど多機能)。

 

逆に新規ユーザーには難解なままなんだけれど。

更新: 2024/10/04
満足度

期待していた「テンポ検出パネル」が期待値ほどではなかったので...

テンポの検出力そのものはかなり高いが、情感を込めて弾くピアノソロ演奏のように「揺らぎ」があるものの検出は、検出された結果が「細かすぎて」そのままでは使えない。

 

また、そのゆらぎを平均化して「テンポをなめらかにする」機能はあるが、曲の中で「段付き」状態でスピードが変わる曲は、全部の平均になってしまうので、使えない。

 

「段付き」曲は、テンポ変化の部分でオーディオファイルを分割して、それぞれに「テンポ検出」したあと「テンポをなめらかにする」を適用すればよいかもしれないが、それはそれでかなり手間。

 

あと、途中で3連符多用の部分や、音符の刻みが突然半分や倍になった場合(8分音符主体のフレーズが続いていたのに、急に4分音符ばかり、あるいは16分音符ばかりになった場合)小節の切れ目を誤認識して4/4拍子の曲なのに3/4拍子が挿入されたり、小節が倍の長さや半分の長さになったりする。

 

結局「テンポ検出パネル」で検出したBPMを参考に、手作業でテンポトラックを造るのが一番効率的。

  • 購入金額

    14,850円

  • 購入日

    2024年09月17日

  • 購入場所

    Steinberg Web

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