レビューメディア「ジグソー」

まるで身体の一部分のようだ。それはダイヤルの再発明

 

BRAIN MAGICからクリエイター向けに販売された左手デバイスの新製品「Orbital2 STERNA」(オービタルツー スターナ)を購入しました。

 

同社から販売されている「Orbital2」の後継機となる新型なのですが、現状は制限を持たせることで価格を低く設定した特殊モデルといえます。

 

この外箱が醸し出す雰囲気から分かる通り、Orbital2 はプロクリエイター向けの高級機デバイス。
ジョイスティックや3Dマウスっぽい外観ですが、左手デバイスに該当する入力機器です。
価格も3万5千円というデバイスにしては高価なプロ向けデバイスで、締め切りに追われたり大量のルーチン作業をするアマチュア向けではないです。

 

前から「持ってたら楽しそうだな」という理由で購入検討はしていたものの、自分が元々作業効率に不満を持たないタイプ(仕事を遊びとして捉えるタイプ)のため、見送っていました。

 

が、今回、クラウドファウンディングで後継機「STERNA」が販売されると聞き、しかも機能そのままで価格が半額以下という破格の製品のため、迷わず購入ボタンを押していました。クラファンって既に市場で販売されている製品が拡販のためにリストアップされることもあるのですが、今回のように市場調査のために投入されるケースは凄く少ないので良い買い物だったなと本当に思います。半額ばんざい。

 

 

 

パッケージの裏には機能が説明されています。
ジョイスティックの形ですが、ジョイスティックのような使い方をしません。左手キーボードが最も近い機器だと思います。

 

STERNA は、無印 Orbital2 の価格を下げたものですが、機能は一緒。違うのはその機能に制限があること。正確に伝えるのが難しいのですが、できることは一緒で、そのできることのボリュームに制限がかけられています。例えば登録できるプロファイル数が無印 Orbital2 は無制限なのに対し、STERNA は5つまで、というぐらい。

制限をかけることで価格が安くなるってなんだか珍しいですね。

 

 

 

外箱のビジュアルは剛かですが、中身は簡易包装されています。

 

 

 

簡易包装なんだけど、考えた人は頭が良いな、という印象のパッケージの仕方。
製品コンセプトや設計デザインもそうなのですが、細部そこらへんにスマートさがうかがえます。

とにかく効率よく、コスト的にも無駄がなく、スマートという言葉が相応しいのですよ。

 

  

 

これが本体。

Orbital2 を持っている人はあれっって思うのですが、無印がブラックなのに対し STERNA はホワイトです。ホワイトはアンバサダー認定特典でしか購入できない限定品らしいので、このカラーは貴重です。ブラックもかっこいいけどマットなホワイトもかっこいい。

 

 

 

底面は滑り止め加工がされています。
また本体自身はこのサイズに似合わずずっしりと重く、簡単には動かないようになっています。

 

 

 

ジョイスティック部分はとても柔らかく、指先で押すだけで簡単に倒れます。
なんなら指で軽く弾くだけでぶるんと動き元の位置に戻ります。

この入力の軽快さがそのまま業務のフットワークの軽さに繋がり、素早く効率よく作業ができるという利点になっています。

 

 

本体下部の Glow Ring と呼ばれる LED 部分のカラーは専用ソフトから RGB で変更可能です。
あんまり出来はよくなくて、RGB の値によっては光のちらつきが発生します。僕はオレンジ色にしたかったのですが、オレンジ系はやっぱりちらつきますね。

あと、ちょっと眩しいです。黒色を多く含ませれば多少まぶしくなくすことはできるのですが。
手元が光るゲームキーボードのような人は気にならないのかもしれないですが、僕は気になります。

 

この LED 部分はソフトやプロファイルごとに色を変更しておくことで、いま何が設定されているか視覚的に判別できるようになっています。

 

 プロファイルは標準装備のプリセットの他に、企業のポータルサイトからダウンロードできるようになっています。

 

https://brainmagicportal.com/views/ja/downloads/profiles/win/

 

いろんなクリエイターの名前がある中、パクり騒動で有名になった人物の名前があるところは個人的に嫌な気分になったのですが、各クリエイターのプロファイルを見ながら「こんな操作をよく使うからこの位置に設定しているのかな」とか独自カスタマイズを眺めて回るのもまた楽しいですね。

 

更新: 2022/09/11
デザイン性と機能美

作業スピードは間違いなく一段階あがる

デザイナーとしての感性でいうと、製品デザインは感覚的には「自転車」に近いのかな、と。
自転車に乗り方マニュアルは無く、操作方法も覚える必要がありません。

ハンドルがあればそれを握り、身体を倒す。
サドルとペダルがあれば、跨って足を乗せ漕ぐことがなんとなく分かる。


そして習得するのは人間の感覚的な身体の使い方のほう。
感覚の延長・身体の一部としての入力機器であり、インターフェースです。

 

今までいろんなデバイスを使ってみましたが、これほど単純な仕組みで感覚的に操作できるものは他になかったような気がします。ジョイスティックの形をしていて、2次元移動に使用する入力機器じゃないところが他には無いアイデアですね。

 

使用してみると、手の平に収まり握りこめるコンパクトな機器をちゃちゃっと操作するだけで次々作業が進むのは革命的な便利さです。

更新: 2022/09/11
メンテナンス性

ディフェンスに定評のある企業

ジョイスティック部分は一見、壊れそうな構造をしているし可動部分もピーキーさを持った柔軟な作りなのですが、メーカーいわく耐久性を重視した設計というのはプロユースにとってはかなりポイントが高いです。便利でも壊れやすいものはパフォーマンスが悪く、起源や品質が求められる業務に向かないので、タフな製品というのはそれだけで利便性が高いです。長く使えることで愛着がわき慣れてくるというのもメリットですね。

 

悪いところなのですが、ジョイスティックという形状だから仕方が無いのですが、上部が開いている部分に埃が入りやすく掃除しにくいです。構造上仕方ないのですが、使わない時は蓋をしておくなど工夫は必要です。

更新: 2022/09/11
コストパフォーマンス

タフな機器で繊細な操作

耐久性を重視した設計になっており一番コストがかかっている部分なのだそうです。つまり、価格が高いのはこの「耐久性」のせいだといえます。

 

多少高価でも国内生産で品質にこだわっているのであれば高級志向組にはコスパは悪くないともいえます。

更新: 2022/09/11
魔法レベル

魔法のようにスティックを振り、回転させる。禁断の操作経験

Orbital2 はその見た目からジョイスティックのような入力装置と思われがちですが、基本的には左右回転のダイヤル入力機器というのがベースです。

そう、まずはこれ、ジョイスティックじゃないのです。

 

 

使う時はこのように握りこみ、かつダイヤルを操作しないといけないので指先でスティックをつまむように持つような形になります。持ち方は「ダイヤル」です。

軸を倒して機能を選択し、ダイヤルで数値を決定するイメージです。スティックを倒すと機能一覧のメニューが開くので方向で選び、スティック自体がダイヤルになっているので回してアナログ操作するだけ。


手首に負担がかからず指先で操作しているだけなので、腱鞘炎防止にもなるみたいです。

  

 

デジタルクリエイターの業務の入力を補助する機械というのは、従来はボタン数の多さが決め手のように考えられがちでした。マウスも、左手キーボードもそんなかんじ。使う機能が多いぶん、ショートカットできる物理ボタンに数があれば作業効率を上げられるという考え方です。

 

クリエイター向けソフトウェアの UI に関しても似たような考え方で、メニューパネルにショートカットとキーボードから数字を入力するスタイル、それが最速だと検討されていました。

 

しかし現場レベルでは専用コンソールでの入力が最速という答えになります。入力インターフェースに相応しいアナログなダイヤル式入力方法が、人間には感覚的でダイレクトに操作しやすく効率が良いのです。ボリュームは一番左に回せばゼロ、一番右いっぱいにダイヤルを回せば 100 というのが分かりやすいのです。また、動画編集では編集点をサーチするのに右に回せば右に動き左に回せば左に動くというのもマウスよりやりやすい。遠い編集点まで移動したい時は一気に動かしジャンプし、近場の数秒のあたりを細かく正確に移動したい時にはゆっくりとダイヤルを少しづつ動かすのがやりやすいというのが分かります。

 

これはデジタルなボタンにはできないアナログだけのインターフェースですね。

 

 

 

使い方ですが、ジョイスティック部分を倒すとマウスカーソルがあった位置にメニューが表示され、倒した方向から中央に戻す位置で機能が決まります。
あとはその機能を左右回転のダイヤル入力かスティックの押し込みによるボタン入力で操作するだけ。

 

手元を一回も確認することなく、画面を見つめたまま感覚的に操作できるので、競合製品の物理ボタンがたくさんあるだけの機械より全然使いやすいです。これだけの機能があると全部のボタンの位置を憶えるのは至難の技ですが、表示メニューを見ながら操作できるので感覚的にいけます。

 

 

 

入力はスティック部分だけでなく、土台となっているところも「Flat Ring」というボタンになっています。ここも8方向に対応する8ボタンが設定できます。

 

クリエイター向けの代表ソフトといえば Adobe 系ですが、例として Photoshop の既存プロファイルの中身をのぞくと上記のような設定になっています。

 

この Flat Ring は押しにくく、ちょっと本体が動いて角度が変わってしまうとノールックでの入力は難しいので正直あんまり使わないです。一応、点字プレートのような突起が表面にあるので指で触りながら感触でノールックで押すということはできるようになっています。

 

Orbital2 はスティックの倒した角度・左右ダイヤル回転・押し込み・土台部分のボタン入力と、およそON/OFFなだけの物理ボタンではない、新しい操作方法で異次元の可能性を生み出しています。
操作方法を憶える必要もなく、感覚的に操作できるというのも面白い。

 

なにより簡単な機構で今までにない操作感と作業効率を生み出しているというのが楽しいですね。

 

このデバイスを使用して変わるのは操作感であり、既存の入力機器への俯瞰の視点です。

メーカーでは「未来のデバイス」という呼び方で販促されているようですが、とくに新しい技術でもなく、単純に既存の使い方をしない機器の裏面の使い方でメリットを生み出していることに悪魔的な「当たり前を壊す」概念のものを感じます。

「手の中に小さなダイヤルが追加されるだけで」こんなにも業務効率が変わるのか、時短になるのか、という生活スタイルの変化にまず驚かされます。

手の中ですべてが完結し、思うがままに動かせる感覚はデジタルの魔法使いにでもなったかのような錯覚さえ抱かせます。禁断の悪魔の力を手にした人ってこんな感じなんですかね?

 

ダイヤルなんていうアナログな機器が、こんなにもインターフェースとして相性が良くコンパクトに繊細な動作ができるなんて「ダイヤルの再発明」とでもいうべき文化の崩壊と再構築です。

 

 

インターフェースとして機械と人間の間に入り、人間の身体の延長として自由自在に操作できる感覚は、PCという空間に奇跡を起こす魔法のようで、Orbital2 は魔法のように効率を生み出せるデバイスです。今までマウスを動かしキーボードを打つというデジタル操作が、指を動かすだけで簡単に起こせる奇跡は、魔法のようだと比喩するしかありません。

 

ひょっとしたらこのデバイスが将来当たり前になり、マウスのように普及することになっても、それが魔法であることに誰も気づかないのかもしれない。魔法は既に生活の一部になっているのだから。

  • 購入金額

    14,190円

  • 購入日

    2022年05月26日

  • 購入場所

    GREENFUNDING

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