所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。技術の向上。一般的には良い意味に捕らえられますが、技術発展の踊り場で苦し紛れに編み出された文化やジャンルにとっては、その存在価値を問われる場合もあります。「ボカロジャズ」という、VOCALOIDという人ならざるものに、人間臭いジャズヴォーカルを歌わせるという、2010年あたりに流行ったジャンルの終末期の作品をご紹介します。
コンピアルバム“the VOCAJAZZ”。2010年あたりにニコ動を中心に活動していたジャズテイストを持つ楽曲を創作するPたちが、曲を持ち寄りリリースしたコンピレーションアルバム(とりまとめのPは喜兵衛らしい)。
“the VOCAJAZZ Vol.1”、
“the VOCAJAZZ Vol.2”
と半年少々でアルバムをリリースしたが、続く本作“the VOCAJAZZ Vol.3”は1年少々空き、2013年4月のTHE VOC@LOiD M@STER 24で頒布された。
「ワンルーム・オール・ザット・ジャズ」は、前作“the VOCAJAZZ Vol.2”のオープニングナンバー、初音ミク Append(Dark)が歌ったDATEKENの曲。ただ「VOCAJAZZ」と言いながら、VOCALOIDは使われておらず、ベーシストいちを中心としたピアノジャズトリオBaguettes Ensembleのプレイとなっている。当時のメンツは、ベースいち、ピアノdaji、ドラマーはふたりいて、maxとmitchieのどちらかだが、タイミングから言えばmaxかな(クレジットはない)。ソロ廻しもあるハイスピードな4ビートジャズで、いちのランニングベースが心地良い。
oz_hiroの「Biggity Buddy Be Down」は、猫村いろはのまるでスキャットのような早口ヴォーカルが、7本の管(ダビングありでプレイは5人)+ピアノ+ベース&ドラムスのゴージャスな演奏に乗るゴキゲンなナンバー。滑舌が明瞭でないボカロに、早口で英詞を歌わせることによって、英語でなくフランス語のような発音になっているのが面白いな。えびせんの高速ピアノソロが心地良い。バックビートのハイハットクローズが気持ちよいドラムスは、よくGYARIと組んでいるデブマスク。
このアルバムには、新規Pとして、Man_boo、∀ku2、tarezoが加わっているが、そのtarezoの「Vertigo」が面白い。こっちはホントに全編スキャット。アコーディオンのような音とのユニゾンでミクの声が薄く入る。バック?はピアノとベース、ブラシ音のドラムスだけで軽い演奏で粋。「ボカロ」を前面に出しておらず、「ボカロなくても成立」するかもしれない曲。
シリーズ全体を通すと、この“the VOCAJAZZ Vol.3”が一番「ジャズっぽい」のだが、それが「ボカロジャズ」っぽいか、というとまた別で、この作品が一番「ボカロ臭くない」。「ボカロ臭くない」のはある意味、技術やツールが向上したと言うことなのだが、なら「ボカロでなくてよくね?」ともなるので難しいところ。
ボカロである意味を持たせながら、人間臭いフォーマットであるジャズに適合させるというのは難しかったのか、それとも日本の動画文化のニコ動⇒つべへの傾倒が影響したのか、「ニコ動ボカロジャズ界隈」のフィールド近辺で活動するPたちのコンピアルバム、“the VOCAJAZZ”シリーズは、この“Vol.3”で終了(このあとライヴアルバムが1枚出るけど)。
「ジャズ」側の完成度が上がったので、逆に「ボカロ」の存在意義が...
VOCALOIDの機能と、Pたちの技術が向上したために、逆に「ボカロジャズの存在価値」が問われた作品です。
【収録曲】
1. 深紅の薔薇にくちづけを / Chiquewa feat. 巡音ルカ
2. ワンルーム・オール・ザット・ジャズ / DATEKEN / Play:Baguettes Ensemble
3. コンセント / 喜兵衛 feat. 猫村いろは
4. きみへのうた / Man_boo feat. 猫村いろは
5. 落陽 / ∀ku2 feat. 初音ミク
6. Biggity Buddy Be Down / oz_hiro feat. 猫村いろは
7. Vertigo / tarezo feat. 初音ミク
8. 帰っておいで / たけ feat. 歌愛ユキ
9. My Sword / GYARI(ココアシガレットP) feat. 鏡音リン
10. 永劫回帰 / なきゃむりゃ feat. 猫村いろは
「the VOCAJAZZ vol.3 デモ」
「ボカロジャズ」と言うことでは若干疑問が残るが
VOCALOIDレスの曲(元はボカロジャズのカバーだが)、スキャットのように「ボカロじゃなくても」と思わせるもの、構成的にソロが長く、歌=VOCALOIDのパートが少ないものもチラホラあり、バランス的に「ボカロ<ジャズ」となっている。
曲全体としての完成度は高いが。
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購入金額
1,080円
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購入日
2021年08月22日
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購入場所
メルカリ
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