所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。打ち込み系ジャズ。本来、テーマやコード進行だけ決めて、アドリブやインプロヴィゼーションで曲を展開していく系統の音楽であるジャズには、あらかじめ決められたプログラミング、打ち込みは合いません。しかし、ジャズテイストアレンジ楽曲のベーシックトラックを打ち込みで制作し、ソロ楽器などを演奏で重ねるという手法で作られる作品もあります。そういった打ち込みジャズ系楽曲に「VOCALOIDを使う」という「縛り」で編まれたコンピレーションアルバムをご紹介します。
“the VOCAJAZZ”。これは、2010年代前半、ボカロブームに沸くニコニコ動画界隈を中心に活動していたアーティストやプレイヤー、P(プロデューサー)が手がけたジャズ系楽曲が収められたコンピレーションアルバム。そのうち“the VOCAJAZZ Vol.1”は、2011年6月のTHE VOC@LOiD M@STER 16で頒布された。
当時のボカロ事情は、ブームの第1世代とも言えるVOCALOID2エンジン採用の「初代」初音ミクをはじめとした、クリプトン・フューチャー・メディアの3VOCALOID(ミク、リン・レン、ルカ)が中心で、これに「対抗馬」として同じVOCALOID2エンジンのMegpoid(GUMI)や猫村いろはが加わる感じの勢力図。まだ圧倒的にクリプトン系のボカロを使うクリエイターが多い中、この作品では半年ほど前に発売されたばかりの猫村いろはを使っているPが複数いるのが、新しい物好きのボカロPの特性?
この“the VOCAJAZZ”シリーズは、「VOCALOIDを使ったジャズテイスト楽曲」という縛りはあるが、あくまで「ジャズテイスト」があれば、正統派?のビッグバンドジャズ調楽曲であっても、ポップス調楽曲のジャズ風アレンジでもよいということで、結構間口が広い。
スタートは、ハッピーなビッグバンドジャズアレンジの「Blue Bird」。書いたのは当初動画サイトへの投稿は行わず、ボカロ系CDでの楽曲提供が中心だったので、楽曲制作数のわりには識られていなかったChiquewa(チクワ)⇒後に、ニコニコ動画で発表を始める。楽しげなビッグバンドのバックに、巡音ルカの深めの大人っぽい声が乗り、ジャズっぽさ満載。ドラムはChiquewa作品のドラムと言えば!のぱんだっちが担当で、上手くジャジィなテイストを出している。
スローでメロウな4ビート系の「MellowMellow」は、ブラスのバックと、弱音器をつけたペットのオブリがリアルな、打ち込みジャズで、oz_hiro(南のP)の曲。リアル楽器をプレイしている明確なクレジットはないが、間奏のテナーサックスは、管もこなすoz_hiro本人によるものと思われる。ピアノ+ドラム+ベースのトリオ構成に乗せて歌う、ミクの声をなぞるようにペットが寄り添い、ブラス隊が色をつける感じの小粋な曲。2nd verseでの、♪シャバディヴァ♪言ってるミクのスキャットが可愛いな。
この作品には、「いかにもジャズ」と言うような曲から、先鋭的な変拍子フュージョンも収められている。その最右翼は変拍子大好きギタリスト=なきゃむりゃの「マトリックス・シンドローム」。ロック調にバックビートが強く入るのと、なきゃむら本人のヘヴィなギターソロに、元PRISMの渡邉建ばりの変拍子ベースを奏でるいちのプレイ、電子音然としたシンセのリードで完全にロック系フュージョン。猫村いろはの声も力強い!
隠しトラックとして、クレジットなしの13曲目に収められているのは、ボカロ曲のジャズアレンジを得意とするユニット、Baguettes Ensembleによる「voCa jam blues」。Baguettes Ensembleは、ベーシストのいち、ピアニストのdaji、ドラマーのmitchieからなるユニットだが、サックスや複数のギターが聴こえるので、参加者みんなでセッション状態。各ソロ廻しの切れ目には、ミクの声で♪なきゃむりゃくーん♪などと、奏者紹介があるので、ライヴ感満載。酒場のようなノイズをバックに、ミクが♪シャバダビア/ボカジャズコンピだよ/リスナーの皆さん楽しめました?♪などと歌う小品。
元々は、cybercatのコレクター気質が爆発して、GYARI関連楽曲コンプの一環として入手したもの。収められている曲にはプログレチックなものもけっこうあり、自分の趣向と合ったのと、「GYARIのジャズ風ボカロ曲」で想像する延長線を大きく超えて広がりがあり、結構楽しめた作品。
最近は、「身内感」が希薄になり、動画サイトでこういった同人コンピアルバムが出ることが少なくなったけれど、歌の上手いVTuberなんかが集まって、このような主題決めたアルバム作ってくれたら楽しいのになー、と感じた作品でした。
【収録曲】
1. Blue Bird / Chiquewa feat. 巡音ルカ
2. MellowMellow / oz_hiro(南のP) feat. 初音ミク
3. 1925 / 冨田悠斗(T-POCKET) feat. 巡音ルカ
4. 蒼き淑女のバラード / オレジナルP & なきゃむりゃ feat. 初音ミク
5. 夜明け / 喜兵衛 feat. 猫村いろは
6. フェイクファー・レディ / ベッコー(夏空P) feat. 猫村いろは
7. 幻灯蒼夜 / oz_hiro(南のP) feat. VY2
8. マトリックス・シンドローム / なきゃむりゃ feat. 猫村いろは
9. Rainbow Connection / オレジナルP feat. 巡音ルカ
10. ローレライの衣 / ベッコー(夏空P) feat. GUMI
11. 月光ステージ / GYARI(ココアシガレットP) / Play:Baguettes Ensemble feat. 鏡音リン
12. 星巡りのワルツ / GYARI(ココアシガレットP) feat. 鏡音リン
13. voCa jam blues / Baguettes Ensemble feat. 初音ミク
「マトリックス・シンドローム」
VOCALOID2の不器用さが「味」
最新のVOCALOID5や、別系統のヴォーカルシンセサイザーSynthesizer V、AI音声合成のCeVIO AIに比べると、あきらかに「合成音」なのだが、それを「ジャズ」という生っぽいフォーマットに押し込むように調教している向こうに、Pたちの人間性・感性が見える。
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購入金額
1,112円
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購入日
2021年08月21日
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購入場所
駿河屋
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