全く予定していなかったのですが、先日掲載したHiBy R6 Pro ALからメインDAPを入れ替えてしまいました。
R6 Pro ALは先日のレビュー内でも書いた通り、現時点でもとても気に入っています。しかし、実売価格がほぼ2倍のCayin N6iiと比較してしまうとどうしても分が悪かったのです。
個人的に、今予算無制限でDAPを買うならCayinの最上位モデル、N8を選ぶと思います。それだけ音質面では好印象な製品です。しかし、このN6iiはそこまで好印象を持った製品ではありませんでした。
では、何故N6iiを買ったのかという話になりますが…。
元々随分前になりますが、このような品を買ってありました。
Cayin N6ii専用オーディオマザーボード、T01です。これの新品が異様に安かったので、何かの役に立つかも知れないと思い、取り敢えず買ってあったのです。
そして先日、秋葉原のeイヤホンに立ち寄った際にたまたま見つけてしまったわけです。Cayin N6ii/E02(マザーボード欠品)という訳あり品を。訳あり品ということで、一応店頭在庫のマザーボードと組み合わせてじっくりと試聴させていただいたのですが、コンディションも良好でしたし音にも魅力を感じました。
以前Cayinの試聴イベントで聴いた際には、組み合わされていたマザーボードはA01というものでした。これはD/AコンバーターとしてAKM AK4497EQを搭載しているという、スペック的には高水準な製品です。しかし、出てくる音は押出しばかり強くてCayinらしい音楽性があまり感じられなかったのです。
しかし、試聴時に使ったのは私が長らく保管していたものと同じT01でした。N6ii+T01の音は、N8程ではないものの、Cayinらしい濃厚さと質感はそこそこ感じられて、これなら価格なりの水準は十分にクリアしていると感じられたのです。
箱に構成が書かれたシールが貼付されていますので、このN6iiが本来E02のセットであったことが判ります。なお、E02はESS ES9038Q2Mを2基搭載して、4.4mmバランス出力のみに対応するという少々尖った仕様のマザーボードです。
標準搭載のマザーボードこそ欠品だったものの、それ以外の欠品はハイレゾロゴシールだけで、本体のコンディションも同時に出ていた他の中古品よりも良好でした。
まあ、この状態で持っていてもマザーボードが無い以上、一切動作はしないわけですが。だからこそコンディションが良好でも訳あり扱いとなってしまうのです。
マザーボードを入れ替えることで全く違ったプレイヤーに
Cayin N6iiの最大の特徴といえるのが、オーディオマザーボードを交換することでD/A変換部よりも下流の、音質に直結する部分を全く別のものに替えてしまうことが出来るということです。現在用意されているオーディオマザーボードは以下のものがあります。
・A01:AKM AK4497EQ搭載。3.5mm/4.4mmヘッドフォン出力装備
・T01:BurrBrown PCM1792A×2搭載。3.5mm/4.4mmヘッドフォン出力装備
・E01:ESS ES9038PRO搭載。3.5mmシングルエンドヘッドフォン出力装備
・E02:ESS ES9038Q2M×2搭載。4.4mmバランスヘッドフォン出力装備
・A02:AKM AK4497EQ×2搭載。ヘッドフォン出力無しのライン出力専用
・R01:24bitディスクリートラダー型DAC。3.5mm/4.4mmヘッドフォン出力装備
R01は最後発で、このシリーズの最後を飾ると明言されていますので、今後ラインナップが増えることは無いと思われます。
N6ii以前にはFiiOやiBassoといったメーカーから、出力段のアナログアンプを交換できる設計のDAPは発売されていましたが、N6iiでは本体はデジタルトランスポーターに徹するという思い切った構造を採用したことが画期的でした。なお、現在はAstell&Kern A&futura SE180という製品がN6iiと同様のマザーボード交換型DAPとして発売されています。
N6ii本体自体は、SoCにQualcomm Snapdragon 425、RAM 4GB、4.2インチ1,280×768液晶、Bluetooth 4.2(LDACサポート)、Android 8.1など、基本スペックは意外と直前までメイン機として使っていたHiBy R6 Pro ALに近いことが判ります。そもそもN6iiのソフトウェアはHiByによって作られていて、再生アプリのCayin Musicは使ってみるとHiBy Musicと同じもの(仮名表記の怪しさまで)であることが一目瞭然です。
今回は標準添付のマザーボードE02が欠品で、手持ちのT01を組み合わせた状態で使っていますので、実質的にはN6ii/T01(出荷時にT01組み込み済みとなっているN6ii)を評価することとイコールとなります。
早速手持ちのT01を組み込みます。
T01の場合、左から4.4mm5極バランス出力(ヘッドフォン出力/ライン出力兼用)、3.5mmシングルエンドヘッドフォン出力、3.5mmシングルエンドライン出力という順で端子が並びます。
他にA01、E01、R01は一応試聴したことはありますが、出てくる音や機能面などを総合的に判断して、T01のコストパフォーマンスが良好と思っています。バランス出力が不要であればE01も好印象でした。
機能面ではAndroidベースのDAPとして標準的な水準だと思いますが、私は基本的に有線接続のイヤフォン・ヘッドフォンを接続して、microSDメモリーカードから楽曲を読み込んで再生するだけですので、それに関係の無い機能についての詳細は割愛します。
Cayinらしく濃密で質感に優れる
それでは音質評価に移ります。
今回は今までのDAPと比較して価格帯が上がりますので、メイン級のイヤフォンである64AUDIO U4、Unique Melody MAVERICKに加え、ヘッドフォンのSENNHEISER HD650でも試聴することにします。HD650は300Ωと抵抗値が大きく、ポータブル機器で鳴らしにくいことに定評があるヘッドフォンです。
なお、それぞれケーブル(WAGNUS. Petit NEUTRON Lily、BriseAudio STR7std)の都合で、イヤフォン2機種は2.5mm4極バランスケーブルにBriseAudio STR7-CONV(相当品)を組み合わせて4.4mm5極バランスに変換、HD650はBriseAudio STD001HP 3.5mm3極を組み合わせてシングルエンド接続という形で聴いています。
まず64AUDIO U4との組み合わせでは、N6iiの低域のごく一部にある強調感が目立ってしまいます。しかし、そこに目をつぶればヴォーカルの質感や音場表現など、多くの部分でこれまで高く評価してきたHiBy R6 Pro ALを超えていることが判ります。変換ケーブルを同じSTR7-CONV(相当品)の3.5mm3極仕様に交換してシングルエンドで接続すると、解像度がやや落ちる代わりに特定帯域の強調感も減るため、トータルバランスではバランス接続時よりも良好でした。解像度が落ちるといっても、この状態で最初から聴いていれば十分満足できる程度の解像度は確保されています。
「Love in the World / Champlin Williams Friestedt」を聴くと、音場の密度の濃さがR6 Pro ALをはっきりと上回りますし、ビル・チャンプリンやマイケル・マクドナルドの声に生々しさが感じられるようになります。
「One Last Kiss / 宇多田ヒカル」でも、R6 Pro ALや他のDAPと比較して明らかに優位に立つのは声の質感でした。正直に言ってしまうと、N6iiを初めて聴いたときにはA01が組み合わされていた(というよりはN6ii発売時にはこれしか無かった)ためか、押出しの強さばかりが目立って音場表現や質感には感心出来なかったので、T01でこの点に満足できたのはある意味意外でした。
次にUnique Melody MAVERICKと組み合わせると、MAVERICKらしい見通しがよく広い音場が楽しめる一方で、バランス接続ではややドンシャリ傾向が強く感じられます。これもやはりシングルエンド接続に切り替えるとドンシャリ傾向は弱まり、総合的には良好なバランスとなります。Cayinの最上位DAPであるN8では、バランス接続でも妙な強調感は感じられませんでしたので、この辺りにグレードの差が表れているということでしょうか。
なお、JH Audio製のイヤフォンは全体的にバランス接続でも好相性で、私が長らく高評価しているMichelleに加え、Billie JeanやDianaなどでも、これまでよりも良好な音が楽しめるようになりました。
そして今までDAPでその実力を十分に引き出せたことが無いSENNHEISER HD650との組み合わせですが、これまで使ってきたDAPと比較すれば間違いなく質の高い音が出てきます。さすがに普段使っているCHORD HugoやFOSTEX HP-A8の水準に並ぶところまではいきませんが、4~5万円クラスのポータブルヘッドフォンアンプと競える程度の駆動力は発揮しているのでは無いでしょうか。具体的にはアタックの鋭さや低域の重量感などでHugo辺りの高価な製品とは大きな差が付きますが、アナログ盤から起こしたソースのメリットを表現できる程度にはHD650を鳴らせているということです。
これまではシングルエンド接続であればAcoustic Research AR-M2の独壇場だったのですが、ようやくその水準に匹敵しつつ、バランス接続も出来るDAPが手に入ったといえます。
10万円台前半(直販価格で約13万円)のDAPとしては十分に納得いく実力は示していますが、2倍以上の価格差がある最上位のN8にはやはり及ばない辺り、Cayinのグレード差の付け方の巧みさを垣間見ることが出来ます。
単体で十分にコストパフォーマンス良好だが、マザーボード交換で変化をつけられる強みが魅力
まず、今まで自分で所有して使ってきたDAPとの比較でいえば、出てくる音は最も優れていると断言してしまって良いでしょう。購入時にR6 Pro ALと比較試聴を繰り返した結果で選んだわけで、そうで無ければ中古で5万円台のDAPを計画せずに買うことはあり得ません。
ただ、何度か述べていますが私はN6iiより先に最上位のN8の音を聴いてしまっていたために、どうしてもN6iiではN8を超えるところまではいかないということも実感しています。N6iiはあくまで中間機種ということなのでしょう。
最上位のN8はまもなく後継モデルのN8iiがリリースされる予定(今年末~来年に発売予定)であり、初代のN8と比べてどのような方向に向かうのかが気になるところです。N8iiの動向によってN6iiの存在価値もまた変わってくるかも知れませんので。
現状でN6ii/A01やN6ii/T01は新品実売価格で10万円少々という価格帯になりますが、その価格帯の他社製品と比較すれば現時点でも十分な競争力は保っていますし、まだまだお買い得な製品であるといえます。
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購入金額
53,800円
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購入日
2021年10月16日
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購入場所
eイヤホン
harmankardonさん
2021/11/19
全然違いますか?
jive9821さん
2021/11/19
さすがにN5iiとは全くの別物ですね。
以前N5iiのレビューで書いた通り、私はN5iiの音にはあまり納得できていないの
ですが、N6iiは10万円台という価格に見合った満足感はあります。
発売時に組み合わされたマザーボードがA01だったことで少し印象が悪かった
のですが、T01やE01を組み合わせることで随分評価は良くなりました。R01も
質的には十分高いと思いますが、私が使うイヤフォンとの相性が少々良くない
ため、他の2倍近い価格もあってそこまで高評価は出来ませんでした。