ここ近年通勤が車で、カーステレオとは言え往復40~50分の楽曲のリスニングタイムが取れていたこと、賃貸物件ながら現在の住まいでは(デスクトップオーディオクラスではあるものの)、昼間はソコソコの音量で、夜もある程度スピーカーが「動く」大きさで鳴らせること、カスタムIEMも10機種造ってきてだいたい「上がり」が見えてきたこと、前任地と違いオーディオやイヤホンの専門店が手近にないこと...などなどから、オーディオ・音楽類への投資は以前にもましてソフトウェア重視になっていて、ハードウェアに関しては抑えめ(←買っていないとは言っていないw)だったのだが、2024年末に本社系拠点への転勤が決まり、10年以上ぶりに電車通勤に回帰するのが見えてきたので、ポタオデ環境もまた整えなきゃ...と思っていた時期、ちょうど業務引継ぎのため前倒しで出張扱いで本社側に勤務していたタイミングで、ここ数回参加していなかったポータブルオーディオ系のイベント、ポタフェス 2024冬 秋葉原が開催されていたので、飛び入りで参加してみた。
直前にあわてて集めた情報による最注目および試聴の目当ては、ここのところメーカーキャラクターとして商品外装への掲載とオマケポストカード添付程度でお茶を濁されてきた?TANCHJIMのAsano Tanch(浅野てんき)ちゃんをガッツリフィーチャーしたイヤホン、TANCHJIM Oxygen ASANO TANCH LIMITED EDITION
の再来、TANCHJIM Origin ASANO TANCH LIMITED EDITIONの開発状況進行調査をメーカー側のひとから聴きたかったことと、イヤホンジャックがなくなったiPhoneで電車通勤時にYouTubeを確認するのに良さそうな、発売が当時間近に迫っていた(2024年12月27日発売)TWS、TANCHJIM MINO Asano Tanch LIMITED EDITIONの試聴 兼 耳への収まり確認 兼 繋がりやすさ(切れにくさ)調査だったのだが、ちょっとオーディオ系アイテムの「実物試聴」から遠ざかっていた身としては、様々なメーカーのブースに顔を出して色々試聴させてもらい、最近のアップデートも堪能した。JVCやAudio-Technica、BOSEのような自身でも持っている大規模メーカーの新製品はもちろん、SeeaudioやSIMGOTのようにいくつか製品は持ってはいて方向性は掴んでいるが、試作品・新製品はもちろん、販売中のものですらもなかなか地方都市では試聴も叶わないような中華系ブランド等も試聴させていただいたのだが、少しこの界隈から引いていた自分としては「このイベントで初めて識った」というメーカーもあり、それらも複数試聴させていただいた。
その一つが、SENDY AUDIOの製品。この製品に出逢ったのは全くの偶然。地下に一大ブースを構えていた輸入取扱店のプレゼンターとして参加していた旧知の人物に挨拶するため、ブースを訪れたのだが、ちょうどその人が他の方の接客を始めた直後のタイミングで声をかけづらく、同じ取扱店ブースのやや空いた位置に体を移した時に、「今キャンペーンやってますが、ご試聴いかがですか?」と声をかけられたわけ。オネーサンにつられてついふらふらと寄ったブースにはヘッドホンが数種。見るとSENDY AUDIOと言う、識らないメーカー。
木製のヘッドホンスタンドにかけられた数種のヘッドホンは、たっぷりとした筐体の大きめのもので、木目の美しいハウジングとシルバーを主体としたメッシュ、ブラックのヘッドバンド部という共通項を持つヘッドホンたち。
出品されていたApollo(左)とPeacock(このほかにAivaと参考出品のAiva2があった)。
最近は、音が出せる環境ではカーステレオやデスクトップ系スピーカー、
大きな音が出せない環境もしくは外環境ではCIEMやイヤホン類で音楽を聴いていた自分としては、スピーカーより体の動きに制約があって、CIEM・イヤホン類より大きいため「構える」必要があるという、やや中途半端な位置づけともいえるヘッドホンの使用頻度は高くない。ただ、スピーカーよりダイレクトに音の「欠け」なく聴こえるのに、耳の「中」で鳴るイヤホンやIEMに比べて、至近距離とは言うものの耳の「外」で鳴るヘッドホンは「空間表現力」が優れている。そのため、特定ジャンルでは、どんな高級イヤホン/IEM類と比べても確かに優れている事を再発見していて、ヘッドホンの良さというのも実感している。一例として、VTuber吉花こころちゃんのASMRは、最近は必ずAKG K550
で聴いていて、「耳のそばで鳴っていながら明らかに外の定位」でリアリティが増すタオルマッサージや囁きなどを楽しんでいるなど、確かに「ヘッドホンならではの優位性」というものはあるのは実感している。そこで、ものは試しと聴いてみることにした。
SENDY AUDIOはごく最近日本に入ってきたブランドのようだ(2024年11月正規販売開始)。特徴としては
・たっぷりとしたイヤーパッドなどで生み出される優れたフィッティング
・平面駆動型による高解像度サウンド
・天然無垢材削り出しのハウジングなど、クラフトマンシップ溢れる工芸品としての美しさ
という三本柱を持った、2016年に中国広東省東莞(ドンガン)で設立された新興メーカーらしい。
このときは、SENDY AUDIOとしての第1弾のオープン型ヘッドホンAivaと、その後開発されたフラッグシップ機Peacock、そのPeacockの路線でその技術を使って開発されたエントリー機Apolloを試聴した(その時点ではすでに生産完了となっていた初号機Aivaの後継機=Aiva2も参考出品されていたが、熱心に試聴している方がいて、それは時間的に試聴が叶わず)。
価格順で下からApollo ⇒ Aiva ⇒ Peacockの順序に聴いたのだが、最初のApolloですでに、良い意味で裏切られた。まずフィッティングだが、たっぷりとしたふかふかのイヤーパッドがしっかりと耳介を柔らかく包み、重めであるボディをしっかりと支える。平面駆動型の開放型ヘッドホン!(←あの大型イヤーパッド&大型ハウジングで耳をすっぽり覆う装着法なのに)と聞いて、「高音域は美しそうだが、下はどうかな?」と思いながら試聴したが、中音域以上は平面駆動型と聞いて想像する方向性の繊細さと表現力を持ちつつ、音域は結構下まで伸びていた。絶対量としては多くなく、スピードも速くないウォーム系のサウンドだが、その時持っていたビート感が強い楽曲を聴いても破綻するほどではない。そして中域以上の美しさ!とくに女声ヴォーカルが美しく、前に出てくるのが良かった。続いて聴いたAivaはSENDY AUDIOの初号機で、楕円型のハウジングを持つヘッドホン。その楕円が傾いているので、うまく耳全体を入れるには自分とっては少しヘッドバンドを前目に傾ける必要があった。どうやらこのAivaはすでに生産終了しているらしく、日本には在庫を20台限定で供給。すでに完売状態のようだ。このAivaはちょっとApolloとは傾向が違って、いわゆる平面駆動型らしい中高域が美しいタイプ。ただ、その対比として下の帯域は若干弱い感じで、嵌まる音楽とそうでないジャンルの差が大きかった。最後にフラッグシップのPeacockだが、音色傾向はApolloと似ていて、緩めではあるが下がたっぷりある感じの方向性。ただしDAP直挿しのチョイ聴きでもわかるほど、すべてが(特に中~低音が)Apolloの1ランク..いや2ランクはグレードが高い(ま、価格は4倍だが)。つか、開発順序はAiva ⇒ Peacock ⇒ Apolloの順らしく、Peacockからが新しいコンセプトのモデルで、フラッグシップとして持てる限りの力を注ぎ込み、そこで確立された技術を使って廉価版として造ったのがApolloという事らしい。だから音質的にPeacock > Apolloなのは当然で、聴き比べると確かに2周りほどおよばない部分があるのは当然なのだが、ここは物量を注ぎ込んで開発したPeacockのわずか1/4の価格で、「比較対象になり得る」Apolloをエントリー機として用意したと捉えるべきだろう。そういう意味ではさらにApolloの後の開発となるAiva2が、Apollo路線だったのか、Aiva路線の方の延長なのかは聴き比べてみたかった。
3機種の試聴が終わって、約束通り?SNSに写真と短評を投稿して会場を後にしたのだが、その翌日、思いもかけない報せが。どうやらSENDY AUDIOポタフェスハッシュタグキャンペーンに当選し、Apolloをいただけることになったみたい。
ここのところ、こういうキャンペーン当選には縁遠かったが、年の最後に大物来た!
前述したように、ApolloはSENDY AUDIOのヘッドホンのエントリーグレード。生産終了した初号機Aivaの2割安、フラッグシップのPeacockの1/4の価格だが、開発は3機種で一番新しく、Peacockのエッセンスを廉価に再現したものと言えるようだ。特に音色コンセプトが同方向という話だったPeacockとApolloを比較すると、振動板の口径変更(Peacock:88mm⇒Apollo:68mm)以外に、音に関係が薄いあたりの素材のグレードを削ったり、交換可能なケーブルのグレード(芯数)を下げたりしてコストパフォーマンスを追求したように見えるが、付属品やインピーダンスを見るとそもそも想定対象顧客が違う感じ。
Peacockに比べApolloは、軽くてインピーダンスが低く、ポータブル向け
どちらも4.4mmバランスプラグが標準だが、付属品の変換ケーブルがApolloは4.4mm to 3.5mm変換プラグなのに対して、Peacockは4.4mm to 6.35mm変換プラグと4.4mm to XLR 4pin変換プラグの2種が付属する。また両者のインピーダンスはApolloが16ΩでPeacockは50Ω。つまりApolloは再生側にポータブル環境を想定し、Peacockはフルサイズコンポ、もしくは、業務用機器を想定しているイメージ。
ただ、それでApolloが安っぽいか...と言うと、そんなことは全くなく、ゼブラウッド⇒ローズウッドと木材は変更されているが、同じく無垢材からの削り出しで、濃いめの色調も相まって充分高級感はあるし、ヘッドバンド部は可動部しか革で覆われていないが、ハウジング外側にApollo(太陽神)にちなんだのか、太陽のような放射状の黒い金属の飾りがあるので、金属剥き出しのヘッドバンド固定部と合わせてデザイン的に調和している。
開けると高品位なケースと対面(一部情報で黒の型押しケースとなっているが、現在は茶色)
小袋の中には着脱式の4.4mmバランスプラグのケーブルと3.5mmへの変換プラグが
ハウジング外側にはApollo=太陽神にちなんだのか、太陽を想起させる造作が
付属品は上記の通り、4.4mm to 3.5mm変換プラグ、その変換プラグと標準の2m着脱式ケーブル4.4mmバランスプラグを収める麻布アクセサリーバッグ、そして革貼りのしっかりとしたオリジナルキャリングケースで十分という感じ。
ヘッドホン側端子は汎用性のある2.5mmプラグなので、リケーブルも可能
重さは本体+標準ケーブル(4.4mmバランス)で実測4.29g
添付の4.4mm⇒3.5mm変換プラグを付けると442gと結構な重さ
ほぼ同じ大きさのAKG K550はケーブル長が長く(3m)不利なのに370g(3.5mmプラグ時)
ついでにApolloとK550の大きさ比較。Apolloのハウジングが少し厚いがほぼ同じ大きさ
では、この大型開放型の平面駆動型ヘッドホン、どんな音がするのだろうか。
この音質評価だが、80時間ほどエイジングを行った後、いつもの楽曲で評価したが、今回それぞれ2パターンの評価を行っている(エイジングが平素より若干短いのは、このヘッドホン、開放型なのでかなり盛大に音漏れし、エイジング作業に時間帯を選ぶから)。
DAPはいつもの通り、Shanling M3X Limited Edition。
コンパクトな割には、ゲインをHighにすると結構なドライヴ力があり、このヘッドホンに出逢ったポタフェス 2024冬 秋葉原のSENDY AUDIOのブースでも、インピーダンス16Ωの本機(Apollo)はもちろん、32ΩのAivaのみならず、50ΩのPeacockでもなんとか駆動する力があった(ソースによるが←後述)。
ヘッドホンとしては珍しく?SENDY AUDIOの製品は3機種すべて、「添付ケーブルは4.4mmバランスプラグ仕様」がデフォルトなので、M3Xの4.4mmバランス接続で評価を中心にしたが(DAPの設定は、ゲインはHigh、DACモードはDual)、元音のコンプレスが弱いため楽曲の平均レベルの小さなEaglesの「Hotel California」をポタフェス会場で聴いた時、十分な音量が取れなかったので、駆動パワーを底上げするために、M3XのUSBアウトからポータブルアンプCHORD Mojo
に繋いで、Apolloの方は添付の「4.4mm to 3.5mm変換プラグ」を使って3.5mmアンバランス接続化した「ポタアンあり」環境でも評価した。
まず、いつもの基準曲、高品位ハイレゾ録音(24bit/96kHz/FLAC)のピアノトリオ構成のジャズ、吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”
から、「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。この曲、なぜ基準曲にしているかというと、かつて質の高い音源を厳選提供していたハイレゾ音楽配信サービスの「クリプトン HQM STORE」扱いの音源でもあり、録音の質が高いのはモチロンのこと、トリオの音数の少なさで、一音一音がクリアで音色・音質変化が捕らえやすいことがまず一番。そして帯域バランスを観るのにも最適。トップシンバルで刻まれるフォービートとハイハットクローズのバックビート、原則リムショットで演奏されるスネアなど金属系の広がりがある音が多くて、さらにドラムスの定位がジャズ系ではたまにある「センターにないタイプ」と言うことで、金物系が主張しすぎてもバランスが崩れ、地味すぎてもビート感が出ないと、帯域・音色・バランスなどの平均点の高さを要求すること(ちなみにドラムスは右chから中央やや右の定位、ベースがセンターで、ピアノが左端から中央の変則定位←金物が五月蠅いと右に引っ張られ、沈むと右への広がりがなくなる)。さらに途中のベースソロではベースの深い音と、弦が指板を叩く鋭い音、バックのスネアドラムのブラシ奏法のスネアの響きが、障子紙のような安っぽい音にならないかと言う点もチェックできるから。
DAP直の4.4mmバランス接続は、非常にバランスが良い。音色的には中域~中高域に特徴を感じる平面駆動っぽい音だが、右に位置するドラムスも広がりは充分感じ取れるのに、一切刺さらず、落ち着いた音色。リムショットもリム鳴りより胴鳴りが強く感じられて刺さらない感じ。ベースに関しては「強く」はないが、ジャズトリオのウッドベースとしては充分。ソロになっても不足感はない。一方、DAP⇒Mojoの3.5mmアンバランス接続は、ちょっと腰高になる。広がりは圧倒的で、特にトップシンバルはマイクの位置を端側に変えた?というくらいピング音とシズル音では後者の比率が増すのだが、ベースソロ以外の部分で少しベースが目立たなくなる。一方、ベースソロの部分はきちんと音量取れていて、鋭さを増したブラシとともにより楽しめる感じ。総合的にはバランスの良い4.4mmバランスの直刺しか(ちなみにこの「3.5mmアンバランス接続が腰高」というのは、DAP直で3.5mmアンバランス接続するとさらに強調されるので、Mojoの悪さではなく、バランス接続だと低い音まで出る、と言うことだと思う)。
次にコレも高音質音源、USBメモリでの販売だった宇多田ヒカルのハイレゾ音源、“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(PCM⇒FLAC変換、24bit/96kHz)
から代表曲「First Love」。コピーコントロールCD優勢だった時代に、アーティスト側の意向で音が劣化するコピーコントロールCDの発売を許さなかったヒカルの楽曲の音質は、当時から傑出していたが、これは2014年に、それまでもヒカル楽曲のマスタリングを手がけていた名マスタリングエンジニアTed Jensenが、オリジナルの1/2inchアナログマスターテープからリマスターした“2014 Remastered”と呼ばれるもの。録音当時15歳のヒカルの感情が乗った震える声と、それを取り囲む編曲者河野圭のピアノ、名手秋山浩徳のアコースティックギター、後藤勇一郎ストリングスの生ストリングスの広がりとリアリティ、そして1st Chorusから音場中心部に割り込んでくるゆったりとした打ち込みリズムの、特にベース音の質量感と音像の大きさによって、受ける印象が結構異なってくる楽曲。
DAP直の4.4mmバランス接続は、ヒカルの声のディティールが感じられ、ヴォーカルもしっかりと中央に定位し、ヴォーカル曲という感じ。ベース音は他のヘッドホンやイヤホン類で受ける印象ほど支配的ではなく、ウォームめでややルーズ。このルーズさが打ち込み臭を薄めている。ギターやピアノ、ストリングスは所々ハッとさせるリアリティを魅せるが、あくまで「バック」という感じ。音場はヒカルのヴォーカルの後ろから緩く広がる感じで、広さはあまり感じない。Mojo経由の3.5mmアンバランス接続は、余力のなせる技か、「Never Let Me Go」でも感じた音質傾向の問題か、高音域の抜けが良く、空間が広い。その結果、ストリングスの横の広がりが上手く表現され、ヒカルとバックの位置関係がもう少し前後が近い感じに。ベースはいずれにせよ、他の視聴環境より軽めだが、元々この曲ベースの音圧を突っ込んであるので、曲としてちゃんと成り立つほどには充分鳴っている。ヒカルが正面間近で歌っていてニュアンスが感じ取れるが、バックは奥行き方向に広がる4.4mmバランスの直刺しか、ヒカルが少し下がってステージ上でバックバンドと横一線で歌っている印象のDAP⇒Mojoの3.5mmアンバランス接続かという感じだが、ラストの盛り上がりのドラムスのタム回しの残響やシンバル連打時の広さが感じられるMojo経由の3.5mmアンバランス接続の方が、情景が浮かぶかも。
ここからは、CDソースからExact Audio CopyでFLAC化した音源が続く。同じ女声バラードながら「First Love」とは結構違う評価になることが多い「空」は、あやちゃんこと女性声優洲崎綾のメモリアルフォトブック“Campus”から。
この“Campus”、あやちゃんの出世ラジオ番組?、2013年からはじまって2025年1月9日現在あと数回で600回を迎えようという長寿番組「洲崎西」を手がける制作会社シーサイド・コミュニケーションズが企画発行したもので、あまり一般流通していないもの。その「数が出ない」本の付属CDにあやちゃんが主演したアニメ映画“たまこラブストーリー”のテーマ=「プリンシプル」作曲者で、アイドルグループさくら学院の「目指せ!スーパーレディー」や、アニメ“SHOW BY ROCK!!”のメインバンドのひとつTrichronikaへの楽曲提供、最近ではTVアニメ“まちカドまぞく 2丁目”のOP/EDテーマ等を手がける藤本功一を招聘したのは、かなり力を入れましたねという感じ。ただ、録音品質という目線(耳線?)で聴くと、「First Love」に比べると、どうしてもチープで狭い音像で、あやちゃんの声もやや薄く、ともすれば分離が悪くなるので、曲調的・音色的には「First Love」に近い構成ながら、両方の曲が美味しく聴ける環境は多くないという感じの楽曲。
4.4mmバランス接続(DAP直挿し)は、ヴォーカル領域が素晴らしく、ともすればバックが盛り上がるサビの部分では埋もれがちのあやちゃんのヴォーカルを前に出し、ニュアンスがよく感じ取れる。また右chの生ギターのアルペジオのリアルさが良い。この曲、ベースがもう少し「立って」いれば良いな...と感じる場面が多いのだが、このヘッドホンのバランスだとゆるめの音で存在感を稼いでいて、これはこれであり?一方、3.5mmアンバランス接続(Mojo経由)は、やはり下は少し削られる感じだが、これが良い方向に転がる。ベースラインが若干削られ、バスドラのアタックの領域が目立つようになり、それにルーズな感じでベースの音程がつく...という感じで、バランスは違うのだが、破綻していない。Mojoの駆動力とローノイズで、左右の広さが広く爽やか。これは珍しく、「First Love」と同じ評価で、左右の広がりが大きくあやちゃんのヴォーカルが中央で埋もれないMojo経由の3.5mmアンバランス接続が良い感じ。なお、これはMojoの力が大きく、DAP直で3.5mmアンバランス接続すると、下が削られてベースよりもバスドラのアタックが優勢になるのは同じだが、左右の広さは狭く、上がゴチャッとなって、直挿しなら4.4mmバランス接続の方が圧倒的に優れている。
おなじくあやちゃんが歌うが、4つ打ちのバスドラ、鞭のようにしなる音で16ビートを刻む打ち込みのハイハット、左右に駆け回るシーケンスパターン、何度も打たれる激しいオケヒット、ハードなディストーションギター...とラウドなダンスチューンに、女子大生アイドル新田美波を爽やかな色気を含んだ声で表現したあやちゃんの声が割り込むアイドルマスターシンデレラガールズの「ヴィーナスシンドローム」。
この曲、音数多く派手な音色のバックにヴォーカルが負けないか否か、そして強めのビートがきちんと描かれるかがポイント。なお、これは後に、「Overtone Reconstruction Technology(ORT)」という技術で、CDレベルのマスターを96kHz/24bitにアップサンプリングした音源もリリースされているが、試聴したのは今まで通りCD⇒FLAC化したものの方(ORTより音が荒くて出口側の差が聴き取りやすい)。
4.4mmバランス接続(DAP直挿し)は、あやちゃんのヴォーカルが中心で良く聴こえ、バスドラのビートも強い。ただ、その鋭さはさほどになく、柔らかい感じ。ビート感は弱まるが、下がすごく厚い原曲のイメージは崩れておらず、サビ前で左右に入るリバースシンバルのような音も鮮やか。Mojo経由の3.5mmアンバランス接続も、違った良さがある。こちらは4つ打ちのバスドラより、8分音符で刻むシンベが優勢で、ビートはやや硬い。例によって左右の広さと、ローノイズで、中央のあやちゃんの声が良く聴こえ、左右に飛び回るシーケンスパターンも幅が広い。ただ、この曲はちょっと下が足りないのが致命的かな~リズムがオフったブリッジ部分などはゾクゾクするほど良いのだが。
リズムのキレが重要なジャパニーズフュージョンは、老舗バンドT-SQUAREの「RADIO STAR」を、オリジナルではなくて、セルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”ヴァージョンで。
元曲は、彼らの最大ヒット曲「TRUTH」をリリースした時代の黄金メンバーで、ピアノは名手、故和泉宏隆が弾いていたが、このセルフカバー版の河野啓三のピアノソロも神懸かって良い。また、当時ベース不在だった彼らに、ゲストベーシストとしてラッパーでもあるJINOこと日野賢二を迎えて録音されていて、途中のベースソロは、スラップのプルの鋭さが光る前半パート、スキャット風にラップを入れてベースは低音弦のプッシュ中心でリズムを形成する後半で欲しい音域が違って、再生環境に広帯域と瞬発力を要求する。
DAP直挿しの4.4mmバランス接続は、音色は緩めながら、下は一応あって、JINOのベースソロも破綻しない。元々鋭いリズムコンシャスな楽曲だが、スラップのプルの音域や、バスドラのアタックの音域は高い周波数もあるからか、リズムは鋭いまま。ベースソロ後半はやや腰高になるが、スキャットの方がメインと考えるとそれはそれであり。河野のピアノソロもクリアでリリカル。Mojo経由の3.5mmアンバランス接続はピアノソロの美しさや、ベースソロのバックで鳴るシンセの広がりなどはむしろ良いが、ちょっと下がなさ過ぎる感じ。特に低音弦のプッシュ中心になるベースソロ後半は、軽すぎる。これはバランス接続圧勝か。
もはやロックの古典、Eaglesの「Hotel California」は24K蒸着CDの同名アルバム
が元ソース。この元となったCD、かなり「古い」ミックスで、近年のリミッターかけてピークを均し、音量の平均レベルを上げて迫力を出す...という方向では「ない」ダイナミクスレンジ重視の古いタイプのミックスなので、音量を取るためにはかなりヴォリュームを突っ込まなければならない(本体再生時)。他の楽曲とレベルを合わせようとすると、M3XのゲインをHighにしてあっても90/100以上までヴォリュームを上げないとキツい。ただ、その分CDのダイナミックレンジを広く使った演奏が聴ける。この曲は、古典的なピラミッド音像だが、故Randy Meisnerのベースが、小節前半はダイナミックに動き、後半は休むという印象的な刻みを、比較的高音域を使って演奏しているので、割に腰高でも成立しそう。そして、横一線に並んだ多重録音のギター達がどうきこえるか...
94/100までヴォリュームを突っ込んだDAP直挿しの4.4mmバランス接続は、しっかりとRandyのベースラインが中心に来て、その上にDon Henleyのあまり抜けない声質のヴォーカルが乗るが、バックに埋もれずにきちんと追える。多重録音されたギターはアコースティックギターのストロークが割に目立つ。アウトロのDon Felder⇒Joe Walshのギターソロ部分も、主役のギターが「立つ」感じ。一方Mojo経由の3.5mmアンバランス接続は、やはり腰高でベースラインが「硬い」のでちょっと現代的?左右は非常に広く、ハイハットやティンバレス、ギロといった端に配置されたパーカッション類がとても目立つ。ギターソロの間も、長音でリフを弾いているバックのエレキギターの音も良く聞こえるが、少しソロが相対的に目立たなくなり、主従のメリハリがついていないか?ここは、丸味があって緩い感じのベースラインが良く聴こえる4.4mmバランス接続かな。
オーケストラ系楽曲としては、Bruno Walterがニューヨーク・フィルハーモニックを指揮したマーラーの交響曲第2番ハ短調などは、オーディオチェックに適した良録音の不朽の名盤として名高いが、ここに書くならもっと現代的で「通り」が良い楽曲が良いだろうと、キーボーディスト紅維流星とその弟子いんどなめこ主催の交響アクティブNEETsによるゲーム“艦これ”のオーケストラアレンジ盤“艦隊フィルハーモニー交響楽団”
から初期BGM「鉄底海峡の死闘」を。この曲は、勇ましい曲なので、ティンパニの下の充実感と、弦の低音部の下支え、中間部で和笛のように鳴り響くピッコロの音などの分離が重要。
4.4mmバランス接続(DAP直挿し)は、ティンパニのアタックや、弦の下も充実していて勇壮感は強い。ただ塊感は強いが広がり感は少なく、密集して演奏している感じ。3.5mmアンバランス接続(Mojo経由)は、アンプ部の余裕か、たしかに下は4.4mmバランス接続に譲るものの、ティンパニのドゥゥン!というアタックなどは鋭く破壊力はあるし、左右に広い音場は、弦のピチカート奏法などの時、「面」で攻めてくる感じで悪くない。部屋の広さが広がるMojo経由の壮大さが曲に合うか。
最後は配信楽曲に多いmp3形式、でもビットレートは269kbpsでソコソコ高音質な楽曲例としては、最近YOASOBIの不動のサポートベーシストとして、そして新進ロックバンドAoooのベーシストとして活躍するやまもとひかるちゃんの2021年リリースの2nd配信シングル「NOISE」。
最近は歌の比重も大きくなってきたが、当時はヴォーカリスト<<ベーシストの比重。後の曲よりもベースプレイに比重が偏っているこの曲、やや低域がゆるめで「盛り」も少ないApolloとの相性はどうか。
DAP直挿しの4.4mmバランス接続は、低音域ゆるめで少なめのApolloがいい感じのベースのいなし方。もともとずっとワウギターがかきならされているノイジィな楽曲で、フィーチャリングされたひかるちゃんのベースプレイもベキベキで、相対的にヴォーカルがやや奥に引っ込んでいたのが、帯域的にベースが引っ込んだのと、バランスならではのヴォーカル中央がっちり定位でメロが良く追える。Mojo経由の3.5mmアンバランス接続は、中域がさらに左右に割れて、左chのワウギター、中央のヴォーカル、右chのピアノと分離がクリアでメロはさらに明確なのだが、いかんせんベースが薄い。バランス的には中域以上に偏っていて、せっかくのひかるちゃん渾身のベースプレイが...
今回、幸運にもSENDY AUDIOのエントリー機ながら、ハイエンド機のエッセンスを詰め込んだ最新型の開放型ヘッドホンApolloを手にすることが出来た。出逢ったイベント会場でも複数の曲を試して見たが、改めて聴き込んで、使ってみると
◎センターにしっかり定位し、音像が鮮やかな中域
◎(上流に駆動力があれば)広く見通しが良い高域
◎繊細な表現力を持つ中高域
◎耳介をしっかりと覆うモチモチなフィッティング
◎しっかりとしたハードケース
◎美しい仕上げのハウジング
○必要十分なウォーム系の低域
○標準が4.4mmバランス接続という潔さ
○同一ケーブルを使った4.4mmバランス⇒3.5mmアンバランス変換ケーブルを添付
と言うアピールポイントが多いヘッドホンだった。一方
■低域はジャンルによっては量とスピード感に欠ける
■特に3.5mmバランス接続は上流にパワーを必要とする
■開放型故、音漏れは盛大で、十分な音量を得る場合、深夜や公共交通機関内では使えない
■かなりの重量級のため、頭に合わない場合首に来る
という要注意・ウイークポイントもあった。
ただ使いどころを間違えなければ、開放型らしい広い音場と耳外に抜ける高域の広がりが気持ち良いウォーム系のヘッドホンだった。さらに、美しい仕上げは所有する歓びも得られる。
自身の環境では4.4mmバランス接続できるポタアンを持たないため、今回3.5mmアンバランス接続で妥協したが、上流にパワーを入れた形のバランス接続でも是非聴いてみたいと感じられた製品でした。今後永く使って行きたいと考えています。
そのためには(現時点ではHPに案内はないが)、イヤーパッドやヘッドバンドといった消耗品に関して別売でメンテナンス用パーツとして販売されることも期待したい。音としては十分魅力的なので、このブランドが定着できるか否かはそのあたりの影響も受けそうに感じます。
ヘッドバンド部はそれでもゴートレザーなので劣化は遅いと思われるが...
イヤーパッドは本革のPeacockとは異なり、プロテインレザーなので、加水分解が心配
イヤーパッド自体がごっそり取れる機構なので、替えパッドの供給が待たれる
【Apollo仕様】
構造:オープン型
型式:プラナーマグネティック(平面磁界)型ヘッドホン
ドライバー:プラナーマグネティックドライバー
ダイアフラム:68mm超薄型複合膜振動板
インピーダンス:16Ω
再生周波数帯域:20 – 40,000 Hz
感度:95dB
重量:約395g(ケーブル含まず)
ケーブル:約2m 6N OCC 4芯リッツ線
ヘッドホンジャック:2.5mm×2
プラグ:4.4mmバランス
付属品:2m着脱式ケーブル4.4mmバランスプラグ、4.4mm to 3.5mm変換プラグ
麻布アクセサリーバッグ、オリジナルキャリングケース
保証期間:1年
生産国:中国
繊細な表現力があるが、上流の駆動力次第
広さも広く、平面駆動型らしい表現力はあるが、DAP単体だとそこまで伸びない(マスクされる)。ポタアン噛ますと、広大な広さで見通しが良くなる。
表現力と近さが印象的
女声ヴォーカルが特に良く、ギターやサックスといった中音域に基音がある楽器もディテールが詳しく描写される。接続方法により若干近さは異なるが、ともに主旋律が浮かび上がり、明確に目前に提示される。
(特にバランス接続だと)必要十分は出ている
低音が強いとか、キレが良い、スピード感あるとか言う感じはなく、ウォームでやや反応は遅いが、バランス接続だと「不足感」はない。一方アンバランス接続だと、ポタアン噛ましてもちょっと軽い感じになる。
上流に駆動力を持たせると、左右に広くしっかりとフォーカスが合った感じになる
インピーダンスは16Ωと充分駆動しやすい値だが、68mm径もの振動板を駆動するのには上流がしっかりしている方が良い。mojoを通した3.5mmアンバランス接続と、DAP直の3.5mmアンバランス接続とを比較すると、聴感上同音量で比較しても、mojo通した方が明らかに力強い。ただ音色傾向は、バランス接続の方が自分としては好みの場合が多かった。今回4.4mmバランス出力を持つポタアンが手近になかったので試せてないが、ぜひ4.4mmバランス接続が出来るアンプを通して駆動してみたいと思った。
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購入金額
0円
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購入日
2024年12月16日
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購入場所
SENDY AUDIOポタフェスハッシュタグキャンペーン
jive9821さん
12時間前
アユートS氏にはAivaは今買わないと、と猛烈に背中を押されましたが、先立つものがなく今の所眺めているだけです…。
cybercatさん
12時間前
>普段HD650使いなので傾向が明確に遠いAivaが欲しい
複数持っているとそうなりますよね。
今回、キャンペーンなので機種は選べず、オールマイティで使い勝手の良いApolloとなりましたが、「開放の平面駆動型」ならではの音色・音場で、合わないジャンルはあるものの、嵌る曲はとことん嵌るAivaもお金出して買うなら魅力的でした。
そういう意味では、参考出品のAiva2が時間的に聴けなかったのが残念です。