レビューメディア「ジグソー」

「憧れ…」で、とどめるべきだったのか?

私のプロフィールにあるように、好きな物の一つが「スケルトン」…幼少期からです。

 

「怪獣の解剖図」「地中のアリの巣」「キカイダー」「プラモデルのカットモデル」「真空管」…

 

たぶん「仕組み、ギミック、からくり?」が好きなんだと思います、ですので「万年時計(田中久重)」の特集をTVで見たときは「すげ~!」と思ったものです、緻密な物と云うか集積物と云うか…

 

…なので、「地図」「暗号」「人体」「設計図」「盆栽/箱庭」も好き…そう考えて突き詰めると

私の源にあるのは 小宇宙 …になるのかな?

 

そして、それらを製作する為のテクニックやそれを支えるTOOL達…

 

 

モチモノ「鉄腕アトム/音の世界」CDジャケットより掲載

 

まぁ、私の好みはどうでも良いのですが…でももう少しお付き合い下さい「構造画」をただ

鑑賞するのでなく、著者である「猪本義弘」と云う人物と、その時代背景など(デジタルと

アナログ)のバックボーンも含めて知って観るのとではまた違った見方が生まれると思うからです。

 

そんな私が高校生の頃、出会ったのが「AUTOMOBILE ILLUSTRATION(自動車を描く)」です。

そして衝撃を受けたのが、その中に描かれていた数々の「自動車の構造画」!!!

描いたのは「猪本義弘」さん天才です。

私の目標(道)はその時に決めました…工業系の専門学校に行き、トラクター(ヤンマー)

のパーツリストを制作する会社に就職、そこでは支給された平面図から立体図を起こしていく

のです、ここで立体図の基礎を学びました。

 

当時は平面図(三面図)すら手書き、そのうちCADで描かれた図面がチラホラと…

先輩達は「CADの図面は読みにくい」と言ってたのを思い出します(ドラフターって分かります?)

 

どちらにせよ図面は「紙(アナログ)」です、でっかい図面とにらめっこし、何十枚もの角度の違う

楕円定規(テンプレート)と格闘しながら0.3mmのシャーペンで下図を描いてゆくのです。

これは、当時の私が描いた下書きです(参考まで…)。

 

次に、「ロットリング」と云うペンで強弱(陰影)を付けながらトレースしていきます。

いわゆる「線画」ですね、ものによってはエアブラシで着色したりします。

 

ちなみに、線画の「線」の定義とは角度の違う面と面との境目(折り目)、その両方の面(2面)

が見えている時は「細線」、片面しか見えない時はアウトラインになるので「太線」、これに材質

の質感(映り込み)や陰影が加わると「単純な線」だけでなく「点」での描写も…

 

そうなってくると、もう定義などありません、各アーティストの感性いわゆる「画」となってゆく

のです、コスト重視で「スクリーントーン」を使うことも…※↓猪本氏は全て手描きですが!

当時、国産のマイコンはありましたがクリエーターとは無縁…

 

Mac?=存在してません!オール手書きです、ちなみにその数年後、私が最初に仕事で触ったMacは

今はなきフロッグデザインの「IIci」、価格は100万超え!(まぁ、バブルだったので…)

 

今では信じられないが「インターネット」「ケータイ」「メール」はまだ無い!

モニターも12inのブラウン管で256色、記憶ではメモリーは1MB(GBでは無いよ!)/1万円!!

1990年頃のお話です。

 

ここらの頃から、イラストレーター達はデジタルにシフトするか、アナログで行くのかを迷ったと

思います、それは今まで世に存在しなかった道具「Photoshop」と「Illustrator」が出たからです!

 

デジタルに移行するのであれば、それまで培ってきた職人技をある意味封印することになる。

ペン・筆・ピースを「マウス」に持ち替えるので…

 

またデジタルでフィニッシュすると云うことはイコール「原画」は存在しない、だから原画展なんか

したくても出来ないね、もうそんな時代でもないかな?

 

このオバケソフト「Photoshop」や「Illustrator」に無限の可能性を感じたのです、その為には

高価で不機嫌な宝石「Mac」を使うしか無かった…

一時期、傾いたAPPLEを支えたのは、そんなクリエイター達だと私は勝手に思っている。

 

「マウス」の出現も大きかった、キーボードだけでは直感的な表現は無理だっただろう。

右手はマウス、左手はキーボードでショートカットを駆使しながら作品を描いていく…

ブラインドタッチならぬ、ブラインドショートカットだ。

 

しかしながら、猪本氏クラスの緻密な構造画になると話は別、簡単にはデジタルにジャンプ出来ない

ようだ、猪本氏と肩を並べる作家として私が思いつくのは、寿福 隆志氏、大内 誠氏です、今回調べ

て分かったのですが、大内さんは、下絵からすでにデジタルに移行しているようです(移行時期は不明)。

↑の画は「NSX(HONDAイズムの結晶)」の下絵です。

これは、89年にCAR GRAPHIC 主催で猪本義弘氏を教師に迎えた講習会でご本人から

直接、頂いた原寸のコピーです(サインももらいましたよ!)ついでに東京見物も!

 

正直、私はまだまだデジタル化は無理だと思っていたので驚いている、同氏のギャラリーには最高の

作品が幾つも載っていますが、その作品全てがデジタルだとしたらまだ信じがたい…

 

私はと云うと、仕事でMacを使いはしていましたが、ライフワークとしてはアナログで構造画を

描こうと四苦八苦していました、そしてなんとか下絵を自分なりに完成させ、それを知り合いの

イラストレーターに見せたところ、「これはおかしいで!オイルパンはこんな配置にならない」

とか…

 

そうなんです、画力がいくらあっても、自動車のメカニカルな知識が無ければ直ぐにメッキは

剥がれるのです、メーカーからの依頼で描けるのであれば、必要な情報を得られるのでまだ良い

のですが無名な者にそんな都合の良い仕事が舞い込むはずもない、誰もが最初は趣味からスタート

しているのだ、スーパーカーの構造図が描きたいからと云って、そのクルマを購入し分解……

笑い話にもならない。まぁ、ワークスマシンなんてお金をいくら積んでも資料さえ得られないが。

プラモデルメーカーのTAMIYAはそれに近い事をやって寸法を測ると云うが…

 

でも、裏付けされた知識や経験があれば、数少ないウワサやエンジンのちょっとした形状だけで

内部までもある程度、推測出来るそうだ、猪本氏は、古いクルマから最新のワークスマシンの

エンジン内部まで現した構造画を何枚も描いているが、解らないところは「想像」と言っている。

 

著書抜粋

知人のドクター(X線の権威)に「君の目はレントゲン線では及ばない金属まで見通す…」と

言われたと云う。

 

また、こんな話もある、「ポルシェのワークスマシンの構造画がたまたま、ポルシェ本社にも

届けられたのだが、その誤りの部分をただす声は1年経っても、いっこうに聞こえてこない!

それどころかチームオーナーがF1レースで来日された折に、この画が気に入り、コピーを持ち

帰ったとか…」

 

テクニックも足元には及ば無いし、クルマに対する知識も無い…考えたら分かりそうな事ですが…

 

そんな事もあって、段々と構造画についてのモチベーションは無くなっていき情報さえも得よう

とはしなくなってしまった。

 

書籍名:AUTOMOBILE ILLUSTRATION(自動車を描く)

書籍寸法:303×220×20 155P

編著:猪本義弘

発行所:二玄社

書籍コード?:3053-41030-5702(下4桁"5702"はニ玄社の取次コード)

発行日:1971年9月25日(半世紀前!)

定価:3000円(現在のレートで約~9000円)

 

実は、当時この本をもう一冊手に入れたくて色々と古本屋を廻ったのですが見つけることは

出来ませんでした、たまたま知り合いのイラストレーターの本棚にあったのを頼み込んで

譲っていただきましたが…今調べたらメルカリで¥1,555(送料込み)で売ってました。

良い?世の中になったものです。

 

著者紹介:

猪本義弘(いのもと よしひろ)

1932年熊本県生まれ、現マツダに入社、その後日産自動車(制作部)を経て

1956年フリーのイラストレーターとなる。

 

当時(~1970頃)の日本の自動車は欧米に比べれば後発国、HONDAでさえ初の自動車

は1963年発売の軽トラ(いきなりDOHC)の「T360」、1972年で「CVCC」の開発に成功!

マツダは世界初の「量産型ロータリーエンジン」を1967年に「コスモスポーツ」に搭載・発表!

 

世界的に見ても、個性のある自動車は、たいていこの時代前後が多いのではないでしょうか?

著者である猪本氏はリアルタイムでそれらの自動車の生き様を肌で感じれらと思います。

 

 1945年に敗戦した日本です、その後10年間くらいは、欧米にとって日本の製品は

「安かろう悪かろう」だったと思います、がいろんな意味で「Made in Japan」の夜明け

ではないでしょうか?不思議の国「日本」のマジックの始まりです。

 

 そんな時代です、クルマの絵なんてパンフレットの説明に使われどそれは「図」であって

「画」では無かったと思います、説明こそが目的であって、外観を示すアウトラインの細部

なんか必要とされません!残念ながらこの時点では私の云う「スケルトン」では無いですね。

 

今回のレビューにあたり久々に猪本義弘氏について検索をかけたのですが、ヒットするのは書籍関連

ばかりで、現在の活動やらの近況はなかなか得られませんでした。

 

考えられる限りのキーワードを試すも結果は変わらず、私が思っていた程世間では有名では無かった

のが分かったと云うのが分かったにすぎない、ウィキペディアにすら無かったのは凹みました。

 

分かった事もありました…

 

寿福 隆志 1945年~2010年1月20日永眠…

 

この時点で調べるのを諦めるべきだったのかもしれない…

 

~猪本 義弘 2010年3月22日永眠~

 

 そして、もう一人の天才「Syd Mead(シド・ミード)」2019年12月30日 没…さようなら。

 


 

最後に私事で恐縮ですが、当時の私が影響を受けた(お世話になった)その他のクリエイター

さん達。

 

■溝川秀男:イラストレーター

(TAMIYAのボックスアートを手掛けたリアルイラストの達人、だがその高度な技術を未練なく

あっさりと捨て去り、デジタル「Shade3D」にシフトした!才能・集中力・努力・センスの塊り、

また人一倍親切な方…)

→消息不明

■久納ヒロシ:カメラマン/Photoshopの達人

(「Photoshopは理想なカメラだ!」と…知識、アイデア、ユーモアに溢れる人、私の師匠の一人)

→読売新聞で毎週「不思議アート」連載中。

■加地茂裕:イラストレーター

(猪本義弘氏の「Wikipedia」を作るのならこの人以外考えられ無い。人と人との繋がりを大切に

する義理堅い人、収集家でメモ魔?)

→消息不明

■駄馬寛(通称ダバカン):3Dアーティスト(芸能人?)

(「STRATA3D」の先駆者、上京も誰よりも早かった! カン→ヒロシ?)

→現在も各メディアで活躍中

■ M,タケナカ:トップセールスマン?

(あらゆる「物」の輝きを見付け出す"目"を持った天才、また、お笑いのセンスも凄い!私の同級生)

→現在、音信不通(今も岸部に住んでるのかな?「Zigsow」やってたりして…)。

  • 購入金額

    0円

  • 購入日

    1983年頃

  • 購入場所

    はるか昔の古本屋

16人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • mickeyさん

    2020/01/10

    スケルトンには自分も惹かれます(^^)。
    構造や仕組みが見えるとワクワクします。
    技術もないので模型収集や作成が趣味
    となっています。
  • MAGNETさん

    2020/01/10

    mickeyさん、私も同じです!
    でも、何故惹かれるのかって今まで考えることはありませんでしたが、今回レビューする上で改めて考えてそのことを、自問自答してみました、好きなキーワードを次々と並べて共通点を探したのです、漠然とはですが私が出した現時点での答えは『小宇宙』に行き着きました。他にも違う共通点の分野も出てきているのでまた時間があるときに自分についてのレビューをいつかはしてみたいと思ったりしたのでした。
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