先日、私のレビューにいただいた累計COOL数が20,000に到達しました。これも日頃からお付き合いいただいている皆様のおかげと感謝するのみです。
さて、折角の節目ということで、以前からいつかは掲載しようと思っていたこの製品を取り上げたいと思います。私が物心ついて以来、常に傍らにあったスピーカー、SANSUI SP-50です。
恐らく私より多少上の年代の方でも、このスピーカーについて多くを知っているという方は少ないでしょう。発売は1967年7月、何と今から51年も前のことです。当時の価格は14,600円(1本)で、後に価格改定を受けて15,300円(1本)となったそうです。いずれにしてもさほど高価な製品でもありませんでした。
当時の山水電気は、アメリカのスピーカーメーカーの代表的存在である、JBLの販売代理店となっていました。JBLには当時評判の良かったL44 LANCERというスピーカーシステムがあったのですが、このL44 LANCERに搭載されていたフルレンジユニット、LE8Tを自社設計の木製エンクロージャーに搭載したSP-LE8Tという製品を発売し、これが本家L44 LANCERを超える音質と評判になり、一躍スピーカーの分野で注目を集める存在となります。
この成功で自信を得た山水電気は、続いて初の自社製本格3ウェイスピーカーとしてSP-100という製品を発売し、これも高い評価を得てヒット作となります。SP-50は、そのSP-100の成功で勢いづいた山水電気が、SP-100の弟分として投入した2ウェイスピーカーとなります。SP-100/SP-50は比較的手頃な価格帯でありながらJBL製品にも負けないパフォーマンスを発揮すると評判を呼び、本格オーディオの第一歩としてこれらを入手したユーザーも多かったようです。
我が家にいつからあったのかなど、実は詳しいことは分かっていないのですが、少なくとも私が3歳ぐらいの頃には自宅の和室にこのスピーカーとTRIO製のレシーバー、レコードプレイヤーが鎮座していたことは記憶しています。恐らく現在の自宅(私が生まれた年に入居)に移ってくる前から持っていたものではないかと思いますが…。
残念ながら私の最古の記憶の時点で、TRIO製のレシーバーが故障(派手なノイズが頻発)していて、この組み合わせがまともに鳴っていた記憶は残っていません。後にラジカセを購入して以来、このオーディオシステムはただの置物と化していました。
このスピーカーが再び使われるようになったのは、私が小学校4~5年くらいの時期だったでしょうか。もらい物やあり合わせのオーディオを組む際に、レシーバーを捨ててレコードプレイヤーとこのスピーカーを子供部屋に運び、そこから使われるようになっていったのです。つまり、ラジカセではない、オーディオシステムとして初めて使ったのがこのスピーカーということになります。
再度使い始めてからも30年以上経過しているわけですが、一度内部配線を太めのPCOCCケーブルに貼り替えた以外は、特に何も手を入れないまま現在に至ります。
当時の山水電気のスピーカーは、この木製の格子状グリルが大きな特徴となっていました。現在のオーディオ的な常識からいえば、わざわざユニットから出る音を邪魔するような構造はあり得ないでしょう。
1986年頃までの製品は、この「Sansui」ロゴを採用していました。1987年発売(1988年モデル)の製品群で「S」を図案化したCIロゴと大文字の「SANSUI」表記になったと記憶しています。
エンクロージャーは合板製で、背面はパーチクルボードという、素人の木工細工のような組み合わせです。
スピーカー端子と呼べるようなものではないのですが、この構造が幸いして割合太いケーブルでも何とか使えますし、Yラグにも対応します。プッシュピン式でなかったのは先見の明があったということなのかも知れません。
一応足下にはHarbeth HL Compactでなかなか好結果だったJ1 PROJECT製のパッドを入れてあります。
確かに低域は薄いが、新世代のスピーカで出せない音がここにある
SP-50は一応2ウェイスピーカーという体裁ではありますが、実際には20cmのフルレンジユニットに、JBLを意識したホーンツイーターを組み合わせたという構造となっています。
それぞれのユニットには、ウーハーはW-50、ツイーターはT-50とだけ型番が印刷されています。ウーハーについては私も素性を知らないのですが、ツイーターは後に多くの大手メーカーにOEM供給された、名機として名高いTechnics 5HH17そのものであることが明らかになっています。実は兄弟機だったSP-100のツイーターも全く同じものであったそうです。というよりは、このSP-100/SP-50の成功を見て各社がこぞって採用したという逸話が残っているそうです。
現在自宅システムはプリメインアンプとして、SANSUI AU-α707DRを使っていて、このSP-50もそこに接続されています。
このAU-α707DRは、パワートランジスタにNM-LAPTという音質を徹底追求したバイポーラトランジスタを採用していて、ハイスピードかつ硬質なサウンドが持ち味となっています。
シンプルな構成のスピーカーであるだけに、このアンプの持ち味をストレートに表現していて、現在のこのスピーカーの音は中域にレトロ感があるものの高域の透明感や繊細さが非常に良く出た、キレの良いものとなっています。
このスピーカーの音質はアンプ次第でかなり化けるというのはかつて経験しており、KENWOOD L-01Aとの組み合わせでは低域の力感が強いパワフルな音質、Pioneer A-90Dとの組み合わせではやや薄口ながら清涼感を感じさせる爽やかな音、という具合です。
以前実験して強烈な印象が残っているアンプが、かつてオーディオ店の試聴室にこのスピーカーを持ち込んだ際に組み合わせた、SANSUI AU-X111 MOS VINTAGEです。当時ヒットしていたDIATONE DS-97Cというフロア型3ウェイと比較したのですが、これと比べても引けをとらない濃密な低~中域と、ほぼフルレンジならではの綺麗に広がる音場で、その場にいた全ての人の度肝を抜いたのです。どの組み合わせでも、どうしても中域にはレトロ感が出てくるのですが、これはこれで味と思えるものであり、悪印象となるほどではありません。
実はDALI OBERONシリーズなど最近の評価の高いスピーカーを改めて聴いてみると、SP-50のような素直な音場を構築することが出来ていないことに気付かされます。例えば「Children's Crusade / Sting」(アルバム「The Dream Of The Blue Turtles」収録)を聴いてみると、間奏部分の空間表現で明らかな差がつきます。音場はかなり広がる一方で、サックスソロが浮きすぎず埋もれすぎずという絶妙な線で表現できるスピーカーは意外と多くありません。当然最新の製品にも良いところは沢山あるのですが、このような外連味のない素直さは、シンプルな構造ならではなのかも知れないと感じされられます。SP-50で当たり前に出ていた音が出てこないでがっかりさせられるということも、今なお多くあります。
どのアンプで使っても共通するのは、名機5HH17ならではの耳に全く刺さらないのに繊細かつ緻密という素晴らしさです。この音が原体験となっているためか、特にツイーターの音に納得できるスピーカーが今でもさほど多くないのかも知れません。
恐らく今後も手放すことは無い満足感
決して完璧な音を出すようなスピーカーでないことは間違いありません。もう少し広い部屋に設置して、周囲の空間を広く確保できるのなら別ですが、現在は空間の狭い部屋に押し込まれていて低域の量感不足は顕著です。
もっとも、現在はほぼレコードを取り込む際のモニタースピーカーという使われ方であり、リスニング用としては別システムのHarbeth HL Compactの方が使われるようになっています。
ただ、ここでもシンプルな構成が生きていて、小音量でも大音量時とさほど変わらないバランスで音が出てくるため、音量を取れない時などはとても助かるのです。
アンプに対して素直であり、ソースに対しても素直。それがこのスピーカーの最大の特徴であり持ち味です。アンプの性能が上がった現在だからこそ、このスピーカーが本来持っていた良さが発揮されるようになってきたのかも知れません。
当然製造されて50年が経過した品ですから、当時と全く同じコンディションを保っているとは考えられませんが、たまに音量を上げて聴いてみると「まだまだ良いな」と素直に納得してしまうだけの音質は保たれています。
ある意味偶然の産物なのかも知れませんが、古いスピーカーユニットの泣き所となるエッジも、独特の粘着性のあるものが使われていて、割れてきたり硬化したりということが無いことも、長持ちする理由の一つなのでしょう。今でも中古店などできちんと音が出てくる中古品をしばしば見かけます。
唯一のスピーカーとして使うのはなかなか難しいかも知れませんが、複数のシステムを組めるのであれば私は今後も必ずこのスピーカーは使い続けると思います。子供時代から現在に至るまで、私の基準点がここにあるのです。
製造から55年以上経過も、まだまだ魅力的な音を奏でる
このレビューを書いてからもずいぶん時間が経ちましたが、SP-50は依然として元気に鳴り続けています。
最近では足下にSUNSHINE S5というマグネシウムインシュレーターを入れたことで、低域の力感や解像度がずいぶん改善して、今使っても十分良いスピーカーといえます。
他に控えているスピーカーも数セットあるのですが、このスピーカーが壊れない限り敢えて入れ替える気にはなりません。まだまだこれからも頑張ってほしいところです。
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購入金額
0円
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購入日
不明
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購入場所
不明
フェレンギさん
2018/12/11
実機を楽しんだ経験はありませんが、そのグリルは強く印象に残っております。
テクニクスの5HH17も もちろん記憶に残っております。
ウーファーのエッジの粘着性のある塗布物は 私がかつて愛用していたDIATONE DS-251Ⅱのそれと同じ系統のものだと思います
1980年前後に流行したウレタンエッジは すべからく加水分解してしまいましたが それでなくてほんとに良かった
ウレタンも西海岸なら良い状態を長く保てるんでしょうね。
良いアンプという伴侶も幸いと 長く愛してあげて欲しい 遠くから そうお祈りします
jive9821さん
2018/12/12
当時のサンスイは、この木製格子で遠目で見ても一目で分かってしまうデザインでしたね。
普通なら特に高域方向の出方をかなり阻害してしまう筈の作りなのですが、これできちんとしたバランスの音になるのですから不思議なものでした。
エッジについては恐らくご指摘の通りで、ウレタン等になる世代の前だったことが幸いしているようです。
本当はアンプがもう1グレード上であればなお良かったのですが、今の環境ではあまり滅多に音量も上げられませんし、このまま使い続けていきたいと思います。
といいつつも、スピーカーケーブルについてはちょっと面白いものが入手できましたので、近日中に交換する予定です。