以前から、アラウンドイヤーのヘッドフォンの試聴にも耐えられる程度の駆動能力を持ったDAPは無いかと思い、色々と試聴に行ったり入手したりしていました。
今主に使っているのは上記4台なのですが、例えば手持ちのFOSTEX T50RP mk3nやAKG K702、SENNHEISER HD650をきちんと鳴らせるものがこの中にあるかといわれれば難しいところです。
そこで少し発想を変えてみようと思い検討したのが、本来はヘッドフォンアンプでありながらSDプレイヤー機能を持つという、ONKYO DAC-HA300やTEAC HA-P90SDでした。
この両者は兄弟モデルであり、基本的な設計は共通なのですが、搭載OPAMPなど一部の仕様に差があります。DAC-HA300はJRC製MUSES8920、HA-P90SDはTI(Burr-Brown)製OPA1602をそれぞれ搭載しているようです。ちなみにD/AコンバーターはBurr-Brown PCM1795で共通だそうです。
元々この両機種は7万円前後という価格帯で発売されましたが、色々と難があることも影響したのか、DAC-HA300の現時点でのONKYO Direct直販価格は39,800円と随分手頃な辺りに落ち着くようになりました。
元々ポータブル型のヘッドフォンアンプとしてはRATOC REX-KEB02AKを所有していて、これの駆動能力もDAPと比べればやはり優位であったことも考慮して、この兄弟モデルのどちらか、それも価格が大幅に下がったDAC-HA300の方を本命に考えていた訳です。
本当はもう少し後になって購入するつもりだったのですが、中古だとかなり手頃なところまで下がったということもあり、ついつい買ってしまいました。
液晶表示などがあるため一見印象は異なりますが、実は先代というか下位というか微妙な存在の、DAC-HA200を踏襲したデザインであることがわかりますね。
気むずかしいヘッドフォンも軽々鳴らす駆動力
まずは他の一切の要素を捨ててSDプレイヤーとしての音質だけを評価してみましょう。
組み合わせるヘッドフォンは、前述のFOSTEX T50RP mk3n、AKG K702、SENNHEISER HD650の他にSONY MDR-1ADAC(通常のステレオケーブル接続)、audio-technica ATH-IM02等も加えました。
ソースはいつも通りの以下のものなどを使いました。
まずこれまで使ってきたDAPとの決定的な違いは、T50RP mk3nやHD650をはじめとする、これまでDAPで本領を発揮させることが全く出来なかったヘッドフォンが、非常に高い水準で鳴ってくれるということです。低能率のヘッドフォン向けにゲイン切り替えが用意されているのですが、Lのままでそれらのヘッドフォンが充分に鳴ってくれます。
特にTOTOなどのドラムの力感やキレは、これまでのDAPが最も苦手としていた部分だったのですが、DAC-HA300ではそれが充分に楽しめるところまで出ています。またDavid Garrettのヴァイオリンの音色も充分に魅力が伝わってきます。
強いていえば電子音が強い楽曲などでは、少し電子音の出方に鈍さを感じる部分があるのですが、これは恐らくMUSES8920のキャラクターではないかという気がします。音色の点で細かい不満はあっても、能力的な不足は感じられません。
さらにLUXMAN DA-100などのヘッドフォン出力と比べても細かい音の再現力は群を抜いています。LPから取り込んだ音源では、今まで気にならなかった微細なスクラッチノイズが気になるようになってしまったほどです。
ポータブルという点を抜きにしても、実売価格で判断すれば高い水準の実力を持つヘッドフォンアンプと評して良いでしょう。
プレイヤーとして評価してはいけない水準
音質的には予想以上の実力を発揮したDAC-HA300ですが、SDプレイヤーとしての操作性や実用性はとにかくひどいものです。
まずこれが最大の弱点なのですが、電源投入から64GBのmicroSDXCが再生可能となるまでに、実測値で4分35秒要しました。しかもその間に満充電だったはずのバッテリーが数%減ってしまうのです。SDプレイヤーとして使うことを前提にこの製品を買っていれば、思わず欠陥モデルと言ってしまうでしょうね。
(追記:16GBのmicroSDHCに5GB分程度WAVを中心に入れて読み込ませたところ、1分かからずに再生可能となりましたので、ファイル数やフォーマット形式にも大きく影響されそうです)
また、私のようにIDタグがつかないWAVファイルを多く使っている場合、目的の曲を探し出すだけでも一苦労です。タグがあればアーティスト名やアルバム名で絞り込めるのですが、タグが無いファイルは全曲表示にして探すしか無く、しかもこれが「アルファベット」→「日本語かな」→「日本語漢字」→「数字」という曲名またはファイル名でのみ並んで表示され、目的の文字付近にジャンプすることも出来ないため、たとえば「01 Now.wav」というファイル(シカゴの公式で販売されたHD Studio Master版の楽曲ファイル)を再生するためにかなり長い間ファイルを順送りし続けるしか無いのです。
ランダム再生などには一応対応しているのですが、再生範囲の設定もかなり不親切で、プレイリストやお気に入りを除けば、
・全てのファイル
・アーティスト
・アルバム
だけが設定出来るというもので、メモリーカード内でフォルダー分けなどをしていても全く利用出来ないのです。せめてフォルダーというメニューを一つ作ってくれていれば全く違ったのですが…。
あくまでこの製品はヘッドフォンアンプであり、そのアンプのソースの一つとしてmicroSDメモリーカードがあるというスタンスで作られている以上、このような不便さも理解出来なくはないのですが、もう一歩の工夫が無かったことで製品としての評価や人気を大きく落としてしまったことは間違いないでしょう。
なお、バッテリーの持続時間については、microSDXCメモリーカードからの読み出しでT50RP mk3nをごく普通のリスニング音量で再生していて、1時間で12%程減ったというところで、公称の持続時間よりは少し長そうな印象があります。
音質のための犠牲を許容出来れば
まず、この製品の本来の姿であるヘッドフォンアンプとしての実力は、実売価格で判断すればかなりの水準と言って良いでしょう。
3万円程度の据え置きアンプでもこれよりもヘッドフォンを鳴らせないアンプもあるほどですし、これがポータブルであることで、高水準の音質を気軽に連れ出せるという大きなメリットが得られます。
バッテリーも公称値からすると結構厳しいかと思っていたのですが、実際に使ってみると思ったよりは長時間動きそうですし、いわゆる「ポタアン」としては高い完成度を持った製品といえそうです。少なくとも私にとって良いイメージが無かったONKYOの製品で、これだけの満足感が得られるとは思っていませんでした。まあ、ハードウェアの設計はTEACが担当している訳ですが…。
一方でSDメモリーカード対応のオーディオプレイヤーとしてみた場合には、とにかく最悪の使い勝手です。シリコンオーディオ黎明期から色々使ってきましたが、ここまで使い勝手の悪い製品はありませんでしたからね。
操作性はソフトの造り込み次第でどうとでもなる部分ですので、もう少し何とかして欲しいところです。あまり売れなかったらしいので、このままアップデート無しで終わる可能性が高そうですが…。
この製品の価値は高い水準の音質と、気軽に連れ出すことが出来る携帯性を両立しているという点につきます。その条件さえ満たしていれば、使い勝手など二の次で良いという割り切りが出来る方にはお薦め出来る製品です。
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購入金額
23,760円
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購入日
2016年08月13日
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購入場所
ソフマップ
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