長らく(圧縮音源でない)デジタル音源はCD(サンプリング周波数44.1kHz、ビットレート16bit)やDAT(サンプリング周波数48kHz、ビットレート16bit)が基準となっていた。これはサンプリング周波数に関しては「人間の耳は約20kHzまでしか聞こえない」という理由による(サンプリング周波数の半分までが最大の再生周波数)。しかし最近20kHz以上の音は「単音」として聴き取ることは困難でも音の表情、ニュアンスとしては感じ取ることができるというのが分かってきた。
一方量子化ビットレートに関しては16bit=2の16乗で65536段階の音量差=96dBのダイナミックレンジであった。人間の耳は120dBのダイナミックレンジがあるためやや不足気味であるが、記憶媒体の容量の問題でそう落ち着いたようだ。
しかし機材の進歩と記憶媒体の大容量化、そしてソフト=データを伝達する手段=インターネットの高速化でサンプリング周波数はより高く、ビットレートはより細密にできるようになった。それに伴って再生側=DAPも2000年代の圧縮音源=mp3中心のモノから、CDグレードを越える音源=ハイレゾ音源を再生できるものが市場に出てきた。最近はCDと同方式のリニアPCMから、よりアナログに近い風合いと言われるデジタル方式DSD(Direct Stream Digital)と言う形式も加わり、アツイのがハイレゾプレイヤー。ここZIGSOWでもプレミアムレビュー募集されたiriver Astell&Kern AK100のあたりからハイレゾプレイヤーというものが世間で盛り上がってきて、WalkmanのZ/ZXシリーズのFLAC対応前後で完全な市民権を得て、最近ではほかにもiBassoのHDP-R10、FiiOのXシリーズ、LotooのPAWなど様々なハイレゾプレイヤーが発売されている。
ここまで機種が多くなると「ハイレゾファイルが再生できる」というだけでは訴求力に乏しく、最近の流行は高級化・高性能化と低価格化の2極。上を見ると果てしがないが、以前だと10万を割らなかったクラスのプレイヤーが実売5万程度以下となり、ハイレゾプレイヤーがマニアだけのものではなくなってきた。
そんな流れの中で面白いDAPを出しているのがCayin(凯音/カイン)。いわゆる中華DAPの一つだが、結構スペック的に凝っていていい音がするとの評判。2016年初頭現在のDAPのラインアップは2種。上級機種(売価約10万弱)のN6と同5万円台の普及機のN5。N6はTI (Texas Instruments)製の上級チップPCM1792をDACに左右独立として2つ使い濃厚な音を聴かせるDAPらしく、日本正規輸入がなかった頃から一部のマニアが直輸入して評判になっていた。N5は普及機とはいうものの、後発らしくスペックのうちいくつかは上級機N6をしのいでいる。
その主な点は、
・DACがシングルながら新世代高級DAC旭化成(AKM)のAK4490Qを採用
・2.5mmバランスアウトを装備(ピンアサインはAstell&Kernタイプ)
・内蔵メモリがない代わりに外部メモリスロットが1⇒2スロットに
というあたり。
現在自分はメインDAPとしてAstell&Kern AK120BM+(以下AK120BM+)
を使っていてそれにあまり不満点もないのだが、接触不良なのか時々SDカードを見失う現象があり予備機を持っていたかったことと、N5はAstell&Kernの現行最上位機種と同じDACを採用するのでその差などに興味があり、販売店のシークレットセールで安く出た際に掴んでみた。
■Cayin N5とAK120(一部AK120BM+)との比較
最近中国は各国の電化製品の生産拠点になっているせいか、包装・梱包についてのセンスの向上とノウハウの蓄積もあり、こういった製品のパッケージも結構洒落ている。本品はかなりシックな外装で、裏面以外は黒一色のやや毛羽立った和紙のような風合いの箱に収められ、それに「Cayin」と言う筆記体の文字とパルス波形を表すような文様が黒色の光沢で捺される。
裏は黒とオレンジで搭載機能のマークが描かれ、中国語と英語の白抜き文字で機能説明がされるという感じ。
ふたを開けると最近の流行のパターンでまず製品本体とのご対面だが、後述する付属品の大きさなどもあり、箱一面が製品となっているという「Appleパターン」ではない。
内容物としては
・本体
・説明書(中国語、日本語、英語)
・クイックリファレンス
・保証書
・品質保証証明書
・液晶保護フィルム(予備/一式貼付済み)
・USB3.0ケーブル
・同軸ケーブル(3.5mm ⇒ RCA)
・シリコンケース
という感じ。
本体に関してはやや大きめで重いけれどメカメカしい感じは悪くはない。難を言えば最近のトレンドから考えると画面が小さいか。絶対的な大きさとしてはAK120BM+と同じ2.4インチで、タッチパネルでもないので小さくて困るというわけではないのだけれど、本体が大きめなので小さく感じる。少なくとも本体幅いっぱいくらいの大きさの方がよかったかもしれない。裏はカーボン仕上げとなっているが、その上に金色で書かれたブランド名や型番が表層に浮いてる感じですこし安っぽいかな。
あと底部にUSBポートとmicro SDカードスロットのカバーがあるがこれが「浮いた」感じのグレーのプラ製でまったくイケてない。そもそも楽曲転送だけでなく充電にも使うため多用するUSBポートと、大容量対応でもあり一度装着すればあまり差し替えが発生しないと思われるmicro SDカードスロットが同一のカバーというのはどうなんだろ。
まぁ全体として見ると無骨な感じはするが、ダサイというほどではなく、男性が持つのであれば○。女性が持つには大きさと言い、色と言いちょっと「重い」かな...という感じ。
付属品系は、説明書はやや直訳調だけど文法的におかしいところはなくまあ許容範囲。ただ中身が詳しくなくて設定系の内容がほとんど触れられてないのはキツイ。同軸変換ケーブルは細いが、デジタル信号と考えればこれくらいでもよいのかな。注意すべきはデータ転送・充電のためのUSB3.0ケーブルは付属するが、ACアダプターは付属しないので、PCのUSBポート等から充電するか、別途USB⇒ACアダプタが必要。
最大の問題なのはシリコンケース。こ・れ・は...「本体の保護はできます」。...つかそれ以上のものではない。色は(本体色に近づけようとしたのかも知れないが)くすんだ灰色でシックではなく地味だし、窓部分などの工作精度も悪く少したるんでいたりする。さらにサイドのボタンの分離が悪く、3つあるボタンの中央のボタンが探りづらい。シリコン製のため若干伸びるので、ディスプレイ部分のくりぬきから本体を入れて履かせるように装着する。まあ純正だけあってスクロールホイールのくりぬきはバッチリというのと、底部のUSBポートとスロットは本体側のカバーが露出するようになっていて、ケースをつけても充電やSDカードの交換がしづらくなるという事はないのが数少ない評価できるところか。
では操作性を見てみよう。
※本項の記述は購入時のファームウェア1.02βに基づく
まず言語に関しては日本語/中国語(簡体)/中国語(繁體)/英語/タイ語/ドイツ語/フランス語の7カ国語対応で、電源投入後最初に選択する仕組み(後からでも変更できる)。
操作としてはタッチパネルではないので、ホイール(コントロールダイヤル)と物理ボタンで行う。面白いのが本体前面と左サイドにボタンがあるが、画面が消えているときはサイドボタンのみ有効になることと、画面の表示内容やその表示/非表示の場合で同じボタンでも機能が違うこと。あとタッチパネルでなく物理ボタンなので長押しか否かで同じボタンでも意味あいを変える事ができるため、一つのボタンが幾通りもの働きをする。覚えるまでは戸惑うが、馴れると鞄等に入れたまま手探りで操作ができるのはタッチパネルにはない良さ。というか、DAPの操作って画面見ながらの操作より手探り操作の方が多いと思うので、その場合少なくともAK120より明らかに便利。
楽曲の転送に関しては、本体メモリがないため全てmicro SDに仕込むわけだが、普通にフォルダを作ってそのなかに楽曲ファイルを入れておけばよい。本体自体にハブ機能があって、PCに本体を接続するとmicro SDカードがその配下に見えるので、そこに直接PCから書き込んで(移動やコピー)もよいし、対応フォーマット(FAT16、FAT32、NTFS、EXFAT)でフォーマットしたmicro SDカードにPC側で書き込んでから挿入してもよい。そういう意味では特殊なフォーマットや階層構造が必要な一部機種と比較すると規格的にはオープン。なおUSBの規格としては3.0でほとんどのDAPがまだ2.0にとどまる現状では大容量のハイレゾファイルの転送に有利。
ホーム画面としては5つの機能に分かれていて、それは「カテゴリー」「ライブラリー」「再生中」「楽曲設定」「システム設定」。
「カテゴリー」というのは名前ではピンと来ないけれど、フォルダ単位ではない区切りで曲を閲覧・再生することができるもの。「お気に入り」「最近再生した曲」「アルバム」「アーティスト」「ジャンル」「曲」に分かれるが、登録の時きちんとしていないと「アーティスト」などは表記の揺れで別人になってしまうので注意。「ジャンル」は何もしなくても結構イイ線行くのだが、「Blues」にアニソンが入ったりもするのでこれらをきちんと使おうとすると最初のデータ作成時にどれほど気を使えるかで使い勝手が決まる。最後の「曲」は単にタイトル名順に並べた全ファイル閲覧なので、曲数多くなってくるとあまり使わないかも。このDAPには(ファームウェア2.0以前)プレイリストがないので、それの代用としてはこれを使うしかないのが「お気に入り」。ただ「お気に入り」への追加方法が分かりづらいのはともかく(メニュー画面からしか行えない)、曲の並び順がタイトル名固定になってしまうので、純粋ないわゆるプレイリストとしては使えない。しかしフォルダやアルバム、アーティストをまたぐことができる「抜粋」はこれのみなので使うことは多い。
ただこの「カテゴリー」には大きな問題がある。「アルバム」と「アーティスト」の項で日本語の大多数が文字化けし「?」表示になってしまうので、実際にはあまり使えないのだ。英語表示は問題ないので、洋楽ばかり聴いている人なら使えると思うが。
「ライブラリー」はフォルダ階層が見えるモード。「SDカード1」「SDカード2」と分かれていてそこからたどっていくPCライクな曲選択法。こちらは日本語ファイル/フォルダ名でも文字化けしないので、通常はこちらの方が使いやすい。このモードで問題なのは、このモードに切り替えたときに一番上に「ライブラリーを更新」の項があること。SDカードの内容を入れ替えたときなどは必要な操作なのだが、「一番押しやすい」..つまり「押し間違える」位置にある、というのはどうなんだろ。ライブラリーの更新速度はAK120に比べると爆速といっていいほど速いので、すごく待たされることはないのだけれど、それでも押し間違えたときの「やっちまった感」は大きい。ファーム更新でなんとかできる部分だと思われるので、位置の変更か、確認工程(「更新しますか?⇒Y/N」など)を入れるなど是非改善してもらいたい部分だ(ファームウェア3.0で改良とのこと)。
「再生中」は現在再生している曲の表示。N5はその曲に「どこからアプローチしたか」を覚えていて、再生中に早送りなどをしたときの「次の曲」は、フォルダからたどった場合はその同一フォルダの次の曲を、「お気に入り」から行った場合は「お気に入り」登録の次の曲という感じになる。しかしこれは電源を切る前までで、一度電源オフすると直前に再生していた曲がここに表示されるものの、どこからその曲に至ったかという情報は失われ、「次の曲」は同一フォルダの次の曲になる。またこうなると「戻る」ボタンではそのフォルダにも戻れず、一度メニュー画面まで戻されてしまうのは不便。
「楽曲設定」は再生関係の設定。再生モード(リピートのモード)やイコライザーのオンオフ、ギャプレス再生の対応、電源再投入時に前の停止位置からはじめるかどうかと言うあたりの曲の再生にまつわる設定が詰まっている。ここで中華DAPを感じるのは一部の設定の項目や内容が直訳すぎたり、フォント的にどういう設定内容なのかが分からないものがあること。「デジタルフィルター」という項目があるのだが、そこで選べるのが「急降下」「短遅延・シャープ」「遅い降」「短遅延・スロー」「スーパー遅い降」の5つというワケのわからなさ(いずれも原文ママ)。英語表示させてみると“SHARP”とか“SLOW”とかがあるので、なんとなくフィルターのスロープを表しているんだと思うけれど、“Short delay Sharp”なんかは何に対して「delay」しているのかが不明...と理解できない項目もある。一方「開始時音量」を設定できるのは便利で、電源投入時にすぐに前回の続きから再生するように設定しているときに繋ぐ再生機器(能率の違うヘッドホンやイヤホン等)の差によっていきなり大音量が流れる危険性というのがないので重宝している。
「システム設定」は言語やテーマの選択、電源関係の設定やmicro SDカードのフォーマットができるセクション。ここでワケが分からないのが「文件夹操作」の項。ONとOFFがあるのだが、サッパリ内容が分からない...英語表示させても“Folder operation”....ワカランw
あと画面の大きさにを考慮に入れても題名やアーティストのフォントが小さく、さらにバックのアルバムアートがどんな色であろうとも縁取りなしの白抜きフォントで表示されるので、白っぽいジャケットのアルバムだとほぼ題名が読み取れないのはマイナスポイント。
ただこのあたりは設定放っておいても大勢に影響ないのでそのまま使っている。今後のファームアップでの改善やHPでの解説によるフォローを望みたい。
肝心の音質はどうだろう。比較対象はAK120にバランス出力を追加改造したAK120BM+。イヤホン側は例によってUnique Melody Merlin
にバランスケーブル(ALO audio Tinsel Earphone Cable - Custom - 2.5mm ALO-4266)を付け、アンバランスでの評価では3.5mmステレオ-2.5mm4極バランス(BTL)変換アダプタ
をかませて接続、という方法。この方法ではCIEMとケーブル本体を換える必要がないため出口側環境は完全に揃えられるが、アンバランス接続の時には変換アダプタ分の接点が増えるので、ややアンバランス側に不利な状況。しかし、同一素材のアンバランスイヤホンケーブルを用意してCIEMに付け替えるよりは短時間に交換でき、人間(cybercat)の聴覚による「比較」という観点では記憶が新しいうちに比較できる利点の方が大きいと判断した。
まず一般的だと思われるアンバランス接続。まず気づくのは音量が稼げること。AK120BM+だと最大の「75」のうち「60」位まで上げる必要がある音量に、N5は「100」のうちの「40」で到達する(数字はともに表示される音量表示)。もともとやや大きめで重めのDAPなので、さらにポタアン必須というほどしか音量が稼げないなら携帯性を著しく損なうが、音量的な問題でポタアンが必要なケースというのはほぼないと思われるほどのドライヴ力。そして全体的に低重心の柔らかめの音がする。
バランス接続では低域が少し硬くなるが、芯も出てソースによってはむしろベースが「出る」。そして音場が広がるのが特徴。ただホワイトノイズが乗り目になるのでダイナミックレンジ的には広がった感じはしないのがザンネン。またここでも出力的には余裕があり、出力インピーダンスはおよそ0.01ΩのAK120BM+では「55.5/75」であるのに対してN5は「40/100」という感じ。そしてN5ではアンバランスvsバランスで音量差がないのが特徴。なおN5ではバランス/アンバランス出力は排他になるので、AK120BM+のようにバランス/アンバランスの出力を使って二人で聴くということはできない。
具体的な楽曲としては、AK120BM+のレビューで評価した楽曲で改めて比較してみた(N5バランス、N5アンバランス、AK120BM+バランス、AK120BM+アンバランス)。
PCM24bit/96kHzのハイレゾ音源、吉田賢一ピアノトリオ
の「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。録音がヴィヴィッドで音数少なめの演奏だが、これが意外なほど音のバランスが変わる。アンバランスのN5はシンバルレガートが目立ち腰高だが、金物の表現力は結構高い。低めもわりに充実している音質で、どうしても尖りがちになる小編成のハイレゾ音源としては耳に優しい。これをバランス接続させるとシンバルの刺激がさらに退いてハイハットのフットクローズのリアリティが増す。リムショットは少し沈む。ベースには芯が出、上下の広さから左右の広さに音場が変わる。AK120BM+の場合はどちらの接続でもクリアな感じの描きだしだが、バランスだとライドのシズル感が出、ブラシが大きく聞こえる。ベースは沈む感じになるが途中のベースソロでは結構でてくる。シンバルやリムショットはキツめ。アンバランスにするとリムショットはキツさは増すがリアル感は下がる感じでイマイチ。ベースにも芯がなくなった。この曲ではAK120BM+のバランス接続が「好み」かも。バランス同志で比べると広がりAK120BM+>N5、ベースの芯AK120BM+>N5、フットクローズドハイハットの「踏んだ」感AK120BM+<N5、ブラシのリアリティAK120BM+>N5、ベースのふくよかさAK120BM+<N5。AK120BM+の方が鮮やか、N5はまろやか。
ついで同じくPCM24bit/96kHzフォーマットのアニソンフュージョンアレンジ「GUGUガンモ ガンモ・ドキ」。
小型スピーカーやアンバランスで聴いた時には「良さ」が分からなかったくらいの?ハデで刺激的な音造りで、主役の櫻井哲夫のスラップベースの存在感薄いなーと感じた曲だが、バランスのN5ではピアノとベースがイイ!上に広い感じがしないのでエリアは広くはないがグッとボトムを支える低域、基音に近いところが量感をましてイイ感じのグルーヴ。鮮度が高い感じ。同じN5でもアンバランスにすると高いところの伸びが落ちて左右の広がりがなくなり狭い。相変わらずベースの芯はあるけれど。AK120BM+のバランスだと上が広がる。サックスの「像」が大きく、スネアにかけられた残響がふぁっと広がる。シンバルの左右の広がりも大きい。ただベースはかなり硬くベキベキ。櫻井のプレイスタイルではいやな音ではないけれど。アンバランスにするとさらにスラップが刺激的になり、ひとによっては刺さると思われる。シンバルは音は高域側にシフトするが広がりはない。バランス同士だとベースの存在感AK120BM+<N5、スラップのアタックAK120BM+>N5、サックスの鮮度K120BM+>N5、押し出し感AK120BM+<N5。N5はグッとくる熱さ、AK120BM+はCOOLでデジタル。
DSDとしてはDSF 2.8MHz/1bitのSuara「夢想歌」を「アニソンオーディオ vol.2」
から。N5はDSDのネイティヴで。アンバランスだと近くで鳴る声とピアノで悪くはないが、DSDネイティヴってこんなもん?と言う感じ。これをバランス化すると部屋がグッと広がる。全く違うピアノの左手音域の深さ、ヴァイオリンは大きくはないが存在感がある。部屋の広さを感じるヴォーカル。AK120BM+はDSDはPCM変換なのでそれで評価。もともとの音質傾向的に高音が冴えるAK120BM+ではアンバランス接続でもヴァイオリンの「立ち」はいい。でも耳触り?はかなり冷たい。バランス化すると真っ芯に声が定位するのとヴァイオリンの響きはいい。ピアノの左手領域はアンバランスに比べるとあるが、N5には全然かなわない。ヴォーカルの「通り」はAK120BM+>N5、部屋全体の響きAK120BM+<N5、ピアノのダイナミクスAK120BM+<N5、ヴァイオリンの存在感AK120BM+<N5。音数の少なめの録音で、ややホワイトノイズが乗るがライヴ感がイイ感じのアナログ感を醸し出すN5に対してAK120BM+はヴォーカルの定位に優れる。ただこれはDSDネイティヴでないことによるディスアドバンテージが影響か?なおDSDの際は両者の音量差は縮まりN5も「45/100」まで上げないと同じ音量にならない。
最後にCD音質(16bit/44.1kHz)のオーケストラ生演奏アレンジ“第二次艦隊 フィルハーモニー交響楽団”
から「飛龍の反撃」(ファイル形式はFLAC変換)。N5のバランス接続は一つ一つの楽器が「立つ」というより塊感がある勇壮さ。弦の低い方の響きは少し重い。ティンパニの低音は粒立ちがはっきりしているというよりそのレンジを「埋めている」感。N5はアンバランス化しても意外にまとまっている。特に秀でていもいないが欠点もない。ティンパニの音は相変わらず地を這いイイ感じだが、あまり差が感じられないのはこの手のソースだともはやCIEM側の下の方が限界なのかも知れない。AK120BM+はバランスだと「通る」。低い方は量的にはやや少ないが描写は迫真。弦の下の方がいい。ボウイングのさざ波のようなうねりが描き出せている。ティンパニも皮の音がやや勝るが雷鳴のような震えが出ている。アンバランス化すると腰高になる。弦よりラッパが目立つ。スネアのロールのつぶだちがよく盛り上がる。バランス同士だと、低い方の量AK120BM+<N5、質はAK120BM+>N5。刺激的な高域が残るので迫力に関してはAK120BM+>N5だが、躍動感はAK120BM+<N5。指揮者が聴くかのごとく細部を探求的に聴きたければAK120BM+、ほぐさず塊で全体を味わいたければN5。
全体としては低域のN5か高域のAK120BM+か、もしくは塊感のあるN5か分解能に優れるAK120BM+という比較。別の切り口だと熱くて緩いN5かCOOLで鋭いAK120BM+、または音楽を楽しむN5か音楽を探求するAK120BM+かという言い方になるか。二つのDAPは方向性が結構違うのでどちらが上下というより好みの問題の方が大きいかもしれない(曲との相性もある)。そしてバランスとアンバランスはやはりバランスの方が良い。ただN5に関してはAK120BM+とは違ってその差がやや小さいのは、バランス出力にかけるコストの問題なのか、フロアノイズの問題なのか....でも「改造」ではなく標準でバランス出力に対応するだけあって、プラグを抜くと再生停止したりするあたりはさすが。ただバランスとアンバランスに両方プラグを突っ込むと出てくる表示が「しか接続デバイス」とワケワカメ。このあたりはファームアップで対応改善を期待したい。
あと気になったのが発熱。結構熱くなる。ま、こういう電気モノは使っていると暖かくなるのは普通で、本機は特に結構大きな音量が出るのでその増幅で発熱するのも分かる。でも連続使用すると低温やけどしそうなほど熱くなったことが二度。状況的には両方とも2時間を越える連続再生で、くだんのシリコンケースをつけており、さらに比較的巻き戻し/早送りなどの操作をしたためディスプレイが点灯している時間が長かった。ただ再現性がなく、ほぼ同じ状況にあと3回ほど持ち込んだが、「暖かいというより熱い領域」という程度にしかならず、これは使い捨てカイロの直当てか??というほど熱くなった事象の再現はできなかった(ボディがアルミなので熱伝導率が良いのか、他機種に比べるとやっぱり熱いのは熱いけどね)。
最近では内外のブランドから多数のDAPが登場している。上は50万クラスから下は1万以下まで。ただ各社がこぞって製品を投入しているのは10万前後のDAP。このあたりまでなると高価なDACを使ったり、特殊な回路を組み込んでみたり、拡張性を求めたりと各社の主張が見られて面白い。ただホイホイそのクラスのDAPを複数買うことが叶う人は多くないと思われる。
実際に多いと考えられる、スマホの音楽機能の「上」を欲する層にアピールするのは本品くらいの価格のDAPではなかろうか。ただこのあたり意外に選択肢は多くなく、2016年初頭現在ではめぼしいものはAstell&Kern AK JRにFiiO X5、iBasso Audio DX90j程度(もう少し上を見るとLotoo PAW 5000やパイオニアのXDP-100Rあたりが入ってくる)。いずれも評価が高い機種だが、このN5はそれらに決して劣ってはいない。機能的にもいくつかのポイントでは上回っているし、音質的には暖かめで低音に押し出しがあり、一世代前の機種とはいえ10万クラスのDAPと「優劣」ではなく「好み」で論ずることができるレベルというのは素晴らしい。
このDAPの特徴としては
○メリット・長所
・数多くのフォーマットに対応しており、この価格でDSDネイティヴは貴重
・バランス接続対応
・暖かい低め充実の音質
・物理ボタンの反応が良く、集約された操作系は覚えると超便利
・10万クラスのDAPとも戦える音質
・USB3.0対応による素早い転送
●デメリット・短所
・AK120BM+と比較すると音の解像度は低い感じ
・ディスプレイの小ささとフォント色
・日本語表示の一部がヘンで文字化けもある⇒改良途中
・一部のメニューの位置の問題⇒ファームアップで改良
・(人によっては)タッチパネル非対応
・プレイリストが作成できない⇒ファームアップで改良
・メニューの内容を網羅していない説明書
・付属ケースのチープさ
・発熱問題
といったところか。ただデメリットのいくつかはソフト的な対処やHPでの解説などで十分対応可能なので、今後のファームウェアの熟成とホームページなどでのフォローを期待したい。
コストパフォーマンス的には明らかに優れているプレイヤーで、タッチパネルでないという点は物理ボタンの反応の良さと長押し/短押しをうまく使った集約化であまり苦にならない...というかむしろ鞄の中などで手探りで操作する場合には逆にかなり使い勝手がよいDAP。実は現在通勤車の純正カーステでも愛用している。古いカーステなので無線接続機能やUSB端子がなく、3.5mmのAUX端子に繋いでいるのだが、助手席など脇に置いたN5を見ないで手探りで操作しても一発で思った通りの動きをするのでかなり快適。使用時間的には現在はAK120BM+よりむしろ長いかもしれない。
今後のソフトウェア的熟成を楽しみにしたいDAPである。
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2020/10/14 2020年6月 USBポートの接触不良で充電・データ転送不可に。
代理店コペックジャパン経由で修理依頼
⇒USBポート交換、バッテリー交換、再生/停止ボタン調整
修理には約3か月を要したが、2015年9月発売のまる5年経過機器でも修理可能だった
※ちなみにAstell&Kern系はすでに2016年発売の第3世代もバッテリー交換不可
【仕様】
DAC: 旭化成エレクトロニクス(AKM)製 AK4490EQ
MCU: デュアルコア 600Mhz Ingenic Xburst JZ4760
ボリューム: TI 製 PGA2311
USB DAC: 最大 24bit/192kHz
ヘッドホン出力: 200mW+200mW @ 32Ω(バランス接続時:300mW+300mW @ 32Ω)
再生周波数帯: 20Hz-20kHz (± 0.2dB), 5Hz-50kHz (± 1dB)
THD + N: 0.006% 以下
S/N 比: 108dB 以下 (A-weighted)
アウトプットインピーダンス : 0.26Ω
イコライザー: 10バンド
ポート: 2.5mmバランスアウト、3.5mm ヘッドホンアウト、 3.5mm ラインアウト、 3.5mm S/PDIF 同軸アウト、USB3.0
ディスプレイ: 2.4inch TFT 400×360 IPS 液晶
バッテリー容量: 4200mAh リチウムポリマー
連続再生時間: 約 ~9 時間
本体サイズ: 111 x 64 x 16.4mm
本体重量: 195g
カラー:チタニウムグレー
内蔵メモリー: なし
micro SDカードスロット: 2スロット(最大 128GB×2)
対応フォーマット: DSD64/DSD128(DSF,DFF,SACD-ISO), WAV/FLAC/ALAC(24Bit 192kHz)/APE(24Bit 192kHz・Fast/Normal), WMA(24Bit 96kHz),AAC,OGG,MP3など
付属品: USB3.0ケーブル、 同軸ケーブル(3.5mm to RCA)、液晶保護フィルム、 ユーザーマニュアル
正規輸入元株式会社コペックジャパンCayin N5商品紹介ページ
【朗報】このメーカーはファームアップには熱心なようで、上記レビューは初期の1.02βでのものだが、2015年10月に2.0が、同12月に3.0がリリースされたようだ。2.0では電源管理の強化やDSDゲインの設定などの追加のほかに韓国語対応、デジタルフィルターの設定の日本語の改善などが行われ、3.0ではプレイリスト機能の追加にロシア語対応、さらにライブラリーメニューの表記を「SDカード1」⇒「SDカード2」⇒「ライブラリーを更新」とするなどかなり細かい点も改良を入れてきたようだ。2.0が出た時にネット情報ではサイドボタンの反応性が悪くなったとか、初日に落としたファームと数日後に確認したファームでビミョーにファイル名が違った気がするという報告もあった(つまりリリース後もバグフィックスが続いているという解釈)ので様子見をしていたが、もう少ししたら3.0にしてみてもよいな。
ややウォームだが、しっかりと芯がある音。
高音を伸ばしてる~というわかりやすい高音質ではないが、きちんと、しっかり出ている。
独特なロータリースイッチと画面消灯時と点灯時で役割が違うボタンへの慣れ
慣れればいろんな事が手元を見ないで出来るが、画面が点いているかどうかでひとつのボタンでも役割が違うので、覚えるまでは大変。
いや、だから、ゲイン設定以外、いる?
私はいらない。
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購入金額
48,000円
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購入日
2015年09月29日
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購入場所
e☆イヤホン Web本店
退会したユーザーさん
2016/01/07
cybercatさん
2016/01/07
つか、あんま情報がないアイテムだと燃えるんですよね~(ぉぃぉぃ
今回正月もあったので追記していくうちにこんなヴォリュームに。
楽しんでいただけたら幸いです。
退会したユーザーさん
2016/01/07
思わせるようなレビューで流石です。
気になるものを信頼できるレビューで読めるのは
とても嬉しいし刺激になりますね!!( ^ω^ )
cybercatさん
2016/01/07
そういう意味ではNanaMinoさんのレビューもとても刺激になっています。
どんどん発信していきましょう!
ちょもさん
2016/01/07
機材のジャンルは異なるのですが、Cayin製の真空管アンプを2台使っていて感じたのは、Cayinって中華オーディオ機器メーカーの中でも、しっかりしたものづくりをしているメーカーという点。
真空管アンプ、価格もそれなりにしますが作りは良いです。
このプレーヤーもかなり良さそうな感じですね。
強いていえばデザインかなぁ…どうもCayinってデザインの当たり外れが大きいというか、ブレ幅が大きいというか。
cybercatさん
2016/01/07
さすがに10万超のDAPと比べるとフロアノイズの問題とか解像度の面で劣りますが、このクラスでは頭一つ抜けてると思います。
>Cayinってデザインの当たり外れが大きいというか、ブレ幅が大きいというか。
それなw
同社のDAPには上級機N6と本機がありますが、N6(輸入元HP)のグニャグニャとしたボタンのデザインと丸いディスプレイ枠(表示部そのものは四角)、傾いたようなメニュー画面といった、近未来的というかデザインコンシャスというかエイリアンというかのような外見に対して、N5の軍用トランシーバーのような質実剛健さ。
同一メーカーの同じ時期に併売される同ジャンルの製品とはとてもオモエナイ....w
ちょもさん
2016/01/07
N5と方向性違いすぎるのが気になります。
たぶん、デザイン全体統括のブランドマネージャーとかいなくて、好き勝手に作ってるような感じなんだろうなー。
これもCayinなのですが、結構良いデザインしていると思います。
N5、どうせならオリーブドラブとかゴム皮膜とかにすれば、もっとそれっぽくなるのに…
cybercatさん
2016/01/07
というかチューブアンプは(ニンジンみたいにLED光らせるようなデーハーなのも一部あるがw)
それはそうとこのN6、侮れないのがCOWONのPLENUE 1なども搭載するTI(Burr-Brown) PCM1792Aを同価格かやや下のクラスながらツインで搭載する等結構音質系にステ全振り。音も結構濃密なようで、N5とは方向性が違う良さがあるみたいです。