所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アルバムという作品ができあがるとき、良い曲・良い演奏(歌唱含む)・時代のニーズがマッチする場合ばかりではありません。どれかが欠けても世へのアピールは低くなってしまいます。そんなタイミングが重要な世界で、良い楽曲、一番張りのある声が出る年齢、他者提供曲や先行CFでの注目...それらが合わさって、高いレベルに仕上がった作品をご紹介します。
中西圭三。シンガーソングライター...というか、実際には「主に自作の“曲”を歌うシンガー」で、作詞は今まで数えるほどしかしておらず、売野雅勇・秋元康・松井五郎・森雪之丞・川村真澄・佐藤ありすといった売れっ子作詞家と組んで、彼らの詞に曲をあてて歌っているアーティスト。作曲に関しては活動初期は友人である小西貴雄との共作が多かったが、後に自分一人で書き上げるようになる。一方、楽曲提供は、彼を一躍有名にしたZOOを始め、ブラックビスケッツ、少年隊、郷ひろみ、安室奈美恵、ゴスペラーズ、さらに「おかあさんといっしょ」の曲やアイマス楽曲など 数も多く、ジャンルも広い。彼の音楽に対するスタンスは、歌手≓作曲家>>>作詞家といった所だろうか。
本作“Yell”はそんな中西の2ndアルバム。
ちようど、ZOOに提供した「Choo Choo TRAIN」が大ヒットした翌年、そして自身が歌ったCFタイアップ曲「Woman」がヒットしたという一番上り調子だった頃の作品。
時代背景と自身のファンクポップ路線から、打ち込みのダンサブルな曲が多いが、そんな中でも中西の声の良さが光る。
「ダイヤモンド・レイン」は、シンベの強いリズムに、キレの良いギターのカッティング(by 角田順)が乗り、ストリングスがゴージャスに彩る曲で、ポップメロウな久保田利伸というか、若干スロウな「Choo Choo TRAIN」というかという曲調の曲。こういった明るく伸びのあるヴォーカルが求められる曲では、ホントに中西の声はいいな。
中西にとって最大のヒット曲「Woman」。サビ先の曲だが、そのCFでよく耳にしたフレーズに比べると意外なほど静かに導入される。打ち込みパターン臭が強いリズムパターンと、「シンベ」というのが明らかな硬いリズムだが、包み込むようなコーラスと、中西の上手い歌であまり硬質には感じられない。比較的長いアコギのソロは名手笛吹利明(うすいとしあき)。実はこの曲、CFタイアップが決まって、歌詞が合わないと言うことで、作詞の売野が全面書き直ししたものだったらしい。
ソウルフル&ファンキィなのが、ミディアムテンポの「片想いのバースデー」。ポルタメントがかかったシンベ+オルガン系音色を彩るのに、生ブラス隊が入っているのがすごくゴージャス。ブラスロック系のホーン・スペクトラム(新田一郎のスペクトラムの前身)⇒プログレ系フュージョンバンドPRISMと異色の経歴を持つキーボーディスト+サキソフォニスト中村哲がアレンジしているのが効いてるのかな(中村はキーボードとサックスで演奏にも参加)。こういったミディアムテンポの曲だと、中西の伸びのある声が光る。
ライターとして最も勢いがあった時期の作品であり、どの曲もレベルが高く、「捨て曲」がない感じ。また、この作品を録音したときの中西は20代後半で、一番声に張りがある時期。
楽曲も粒ぞろいで、歌唱もすばらしく、とてもアベレージが高い作品です。
【収録曲】
1. 恋はハート・オブ・ファイアー
2. ダイヤモンド・レイン
3. Woman
4. 君が瞳にしみる
5. 一番君がしたかった事
6. 片想いのバースデー
7. Mystery Night
8. 永遠のすれちがい
9. Love Song
10. 君は君の誇り
「Woman」
曲の完成度と声のトーンの好調さが両立している
惜しむらくは、時代が打ち込み全盛だったので、今なら楽曲のアレンジは生バンドでやられるような曲も打ち込み。まあ、その機械の「無表情さ」が、中西の伸びる声や抑揚の付け方の上手さを引き立たせている点もあるが。
-
購入金額
3,000円
-
購入日
1992年頃
-
購入場所
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。