有限会社バイオスケールの電子事業のブランドである「Bispa」から、直販限定で不定期的に販売されているイヤフォンリケーブルです。元々Bispaのケーブルは比較的手頃な価格のものが多かったのですが、近年は高価な部材を用いたそこそこ高めの製品も手がけるようになっているようです。
普段リケーブルをされている方は、ケーブルを選ぶ際にどの部分を見て検討されるでしょうか。
ピュアオーディオ用のインターコネクトケーブルとは異なり、多くの場合は適合する形状のものの中から
・導体の素材
・導体の芯数
・価格
などを見た上で、条件に合致するものを試聴するなどして決定するように思います。
しかし、私の場合これらを全く気にしない訳ではありませんが、オーディオ用ではないごく普通の銅の導電率を100(%)とした場合、銀であれば105.7%、オーディオ用導体として最も高性能と言われるPC-TripleC/EXもほぼ同じ、その他オーディオ用の銅素材は102~103%程度のようで、それほど極端な差はありませんので、そこまで重要視はしていません。
本来オーディオケーブルの性能を大きくスポイルしているのは、端子部分なのです。一般的にプラグの素材として使われるリン青銅は約25%、真鍮は配合比次第ですが26~43%程度とのことで、導体の伝導率の僅かな差と同列で語れるものではありません。
では、何故そこまで性能が落ちる素材でプラグが作られるのでしょうか。それは簡単に言えば、導電率が優秀な素材は耐久性に難があるからです。ケーブルの導体で銅が用いられるわけですが、その導体には必ず空気を遮断する被膜が存在しています。被膜がなければ簡単に酸化して性能は極端に落ちますし、緑青を吹いてしまえば毒性すら生じます。銅以上の導電性能を誇る銀もやはり酸化しやすい素材で端子に使えるような耐久性ではありません。また、銀や銅は柔軟性があるため、端子のように力がかかる場所で使うと変形しやすいという弱点もあります。
比較的高価なオーディオ用の端子は、銅の配合比が高い真鍮などで作った上に、ロジウムや金など酸化に強く比較的導電性能が高い金属をメッキでかけています。とはいえ、それでも金の導電率は約75.8%、ロジウムは約38.8%程度です。しかも金メッキは極めて剥がれやすいため下地としてニッケルを使っていることが多く、ニッケルの導電率は約24.2%程度ですからどのみち性能は知れています。
ここまでの内容を踏まえれば、結局は導体の性能などケーブルの品質に対してはそれほど高い比率を占めるものではなく、最後は実際に音を聴く以外で良し悪しを語ることは出来ないとなるわけです。
さて、何故ここまで長い前置きをしたのかといえば、このプラグに対する常識を打ち破るような製品が近年では製品化されてきているためです。
トープラ販売が2017年に発表したのが、電極部に純銅削り出しを使用し、真鍮プラグと同等の強度を確保したというCINQBES(サンクベス)です。通常の銅よりは酸化も抑えられているらしいですが、それでも酸化については定期的にプラグを磨くことで対応する形です。CINQBESの4.4mmプラグはパーツ販売価格で5千円を超えるというとても高価な部材ですが、そのCINQBESと、イヤフォン側コネクターにも純銅ピンを採用したというリケーブルが、今回紹介する【閃-Sen-】です。
一応他のBispa製リケーブルと同様にパッケージに入っていますが、店頭販売はなくごく稀にBispaの通販サイトに掲載されるタイミング以外での入手は困難という、かなりレアな製品です。
他社のケーブルでもCINQBESは採用するべき
パッケージの中身を確認していきましょう。
中にはケーブル本体の他に、メンテナンス方法を書いた簡易マニュアルと、端子を磨くための金属磨きクロスが同梱されています。
導体は6NのUPOCC(8本編み)で、詳細は明かされていないものの「最新の高級超低誘電素材(比誘電率:1.22 @20GHz)採用」という記載もあります。つまりCINQBESの性能を活かすべく高性能素材で固めたのが、この【閃-Sen-】ということらしいです。ちなみにUPOCCは「Ultra-Pure Ohno Cast Copper」の略であり、かつて日本の古河電気工業が製造していたPCOCC(Pure Copper by Ohno Continuous Casting process)と近似の素材です。
この4.4mm5極バランスプラグが、この製品最大の肝となるCINQBESプラグです。確かに色が純銅のものですね。
こちらのCIEM 2pin端子も純銅の色です。つまり信号経路の全てが銅製ということで、一般的な構造のケーブルとは導電率が全く違うということが出来ます。
現時点ではUnique Melody MAVERICKと組み合わせて使っています。MAVERICKにはこれまでBrise Audio製のASUHAを組み合わせていましたが、比較検討の結果こちらが組み合わされることになりました。
これ以降は音質について述べていきますが、試聴用DAPはCayin N6ii/R01となります。
試聴ソースはいつも通りLPから起こした音源となります。
まず率直に言ってしまうと、Bispaのノウハウでは必ずしもこの素材の良さを生かし切れている感じではなく、音楽として聴かせるという要素ではASUHAや他のこれまで使ってきたケーブルの方が勝っている部分も多いと思います。
しかしこのケーブルの最大の魅力は、アタックの鋭さなどというものとは別次元の応答性の良さです。楽器の音の頭の部分が鮮明であるため、本来ややおっとりした音調にも思えるMAVERICKから小気味よく全ての音が立ち上がってくるのです。
そのためバスドラムの実在感などは他のどのケーブルでも出し得なかった水準ですし、全体的な分解能も恐ろしく高いといえます。銀コートの線材など、6N UPOCCと同等以上の素材を使ったケーブルと比較しても、全ての帯域で素晴らしいレスポンスが得られています。そのためMAVERICK、特に初代機の特徴だったある種のルーズさが感じられなくなるのでしょう。2万円そこそこのケーブルでMAVERICKがここまでの底力を感じさせたことはありませんでした。ある種のカルチャーショックが得られます。
CINQBESは他のブランドではWAGNUS.でオーダー時に選択可能(更に上位の銀メッキCINQBESも選択可能)ですが、他の高級ケーブルメーカーで採用している例はあまり多くないようです。しかし、線材は他でも見られる程度のこのケーブルでこれだけ明らかな実力の高さを見せつけられてしまうと、ケーブル部分に自信があるブランドであればこのプラグを是非使ってみて欲しいと思ってしまいます。
そのうちWAGNUS.でケーブルを注文することがあれば、今度はCINQBESを選択しようと思ってしまうほど、圧巻という印象しかありません。
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購入金額
22,000円
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購入日
2023年01月11日
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購入場所
Web Shop Bispa
harmankardonさん
2023/02/13
jive9821さん
2023/02/13
もちろんピュアオーディオ用のケーブルも本質は同じですね。
ただ、ユーザー側が頭でっかちというか、素材やスペックを
見て頭で判断してしまう傾向はポータブル系の方がより顕著
な気がします。まあ、どのみちアクセサリーは音を聴いて確認
出来る機会が限られる以上仕方ないのかも知れません。
後は、大きさや重量に制約があまり無い据え置き用と比べると
ポータブル向けは投入できる物量に限りがあるためか、僅かな
違いが音に及ぼす部分がより大きい印象もあります。