本の蟲。
実は結構読書家で、学生時代を中心に相当数乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中から、新旧織り交ぜて、トピックをご紹介していきます。
「かがみの孤城」。2022年末に當真あみ主演でアニメ映画化される、2018年本屋大賞を受賞した辻村深月のベストセラー小説。
分類としてはSF、もしくは現代ファンタジー....なのかも知れないが、舞台設定が「そう」なのであって、描いているのは青春小説...だと思う。
鏡が入り口になっているお城の中で、7人の中学生が織りなす1年間の物語が綴られる。
安西こころ(こころ)は中学一年生。ただし、不登校。通っていた南東京市の雪科第五中学校は、多数の小学校から生徒が集まる大きな学校。一番生徒数が多い小学校から来た真田美織が付き合うことになった池田仲太が、小学校の頃こころのことを好きだったというのが伝わり、美織の取り巻きから無視され、陰口を言われ、笑われるようになった。極めつけは美織とその友人達が徒党を組んで、こころの家まで押し寄せ、出てこい!と騒がれたこと。共働きのこころの家には、こころ一人しかおらず、ズカズカと庭まで回り込んで、美織がかわいそうだ、対話しろと一方的に騒がれ、こころは応えることも、外にでる事も出来ず、電気もつけない部屋の中で震えながら息を殺すしかなかった。
帰宅した母親にそのことを告げることが出来なかったこころは、それ以来学校に行けなくなった。
学校に行こうとすると、おなかが痛くなってしまう。
担任の伊田先生は時々尋ねてきてくれるけど、ハキハキしていてクラスの中心人物である美織と「合わない」だけだとしか思ってもらえていない。この間見学に行った、不登校の子供達が通う“スクール”「心の教室」の喜多嶋先生は、こころと同じ雪科第五中出身の綺麗な若い先生だった。優しそうで、好意を持ったけど、スクールに通うはずの初日、やっぱりこころはおなかが痛くなった。
近くに住む級友が、学校からの連絡をポストに入れる音を聴きながら、ベッドにうつ伏せていたこころが顔を上げると、自分の部屋にある大きな姿見が光っているのを発見する。
鏡に手を伸ばしたこころは...鏡の中に吸い込まれた!
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そこには、狼のお面をつけた小さな女の子がいた。後ろにはお城。女の子はこころの名前を知っていて、迫ってくる。「逃げるな!」「願いをなんでも一つ叶えてやる」という女の子を振り切って、こころは、そこにもあった鏡に夢中で手を伸ばした。
また吸い込まれて、自分の部屋に戻ったこころ。鏡を見ると、姿見は今度は光っていなかった。そして夜になっても。夜、こころは眠りに落ちながら、もし願いが叶うと言うのなら、もう一度鏡が光ったら行ってみても良いな、と思ったが、朝が来てもやっぱり鏡は光っていなかった。
再び鏡が光ったのは、両親が仕事に行った後の午前9時頃。
もう一度鏡に手を伸ばすと、前日同様鏡に吸い込まれた。
吸い込まれた先には、昨日と同じ狼のお面を被った少女。彼女は自分のことを「オオカミさまと呼べ」と言った。
そしてお城には、こころと同じ年頃の子供が6人。男の子が4人と、女の子がこころの他に2人。
このお城は「願いが叶う城」らしい。
ここでの決まりやルールは次のようなもの。
・7人は3月(3/30)まで、この城の中で、「願いの部屋」に入るための鍵を探す。
・鍵を見つけ、「願いの部屋」に入ることが出来た一人だけが願いを叶えられる。
・「願いの部屋」が開いた時点で、3月を待たずにこの城は閉じられる。
・城に来られるのは日本時間の午前9時から、午後5時まで。
・午後5時を過ぎて城に残っていると、ペナルティでオオカミに喰われてしまう。
・ペナルティは連帯責任で、一人が門限を破ると、その日城に来ていた全員が喰われる。
そういったルールを「オオカミさま」は7人に伝え、中空に消えた....
集められた7人は、こころの他に
ポニーテールの中三の女子、自己紹介の口火を切ったアキ
趣味と特技がサッカーの中学一年生、イケメンなリオン(理音)
声優声の眼鏡をかけた女の子、中二のフウカ
持っていたゲーム機をいじりながら自己紹介した中ニ(厨二?)男子マサムネ
ハリーポッターのロン似の背の高い男子、中三のスバル
おどおどとした小太りの男の子、中一のウレシノ(嬉野)
自己紹介の後、どこからともなくオオカミさまが現れて、「覚悟はできたか」と問う。
鍵は一つ、願いの叶うのも一人だけ。
7人は共通目的を持ち、この城に入ることが出来るよう選ばれた人で、でも、昼間しか開かない城に来ている時点で、きっとみんな学校に行っていない。そして、探し出した鍵で願いを叶えられるのは、ただひとり。
そんな似たような境遇にあり、ライバル関係にもある7人の、奇妙な共同生活が始まった。
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昼間に、7人全員がいつもお城にいるわけではなく、また一日ずっといるわけでもない。そしてやってくる時間もバラバラ。
比較的長くお城にいるのはマサムネとスバル。マサムネが持ち込んだゲームを、朝から晩まで二人でやっている。マサムネの家の倉庫で眠っていたという、古いブラウン管TVをモニターに、それに接続できたプレステ2を、飽きもせずやっている。でも鍵を探していないわけではなく、特にマサムネはいろいろと活動しているらしい。
アキはお姉さん、という感じで、男子とも話すコミュニケーション能力が高い子だが、学校の話をするのを避けているみたい。もうひとりの女の子、フウカは城で各人に与えられた個室に籠もりがち。
ウレシノは、午後になってからやってくることがほとんどで、リオンは夕方にジャージ姿で現れることが多い。
「鏡の向こう」では、それぞれ自分の生活がありながら、昼間にこちらのお城にやってくる。
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ウレシノは恋愛体質で、ちょっと優しくされたり、話が合った女子に、次々にアプローチをかける。そんなウレシノの願いを訊いたマサムネがこころに教えてくれる。
「アキとつきあいたいんだって」
それを聴いたこころは考える。もし、ウレシノが鍵を見つけて、願いを叶えた場合、アキの想いはどうなるのだろう....もしウレシノがこころにターゲットを変えた場合、鍵を見つけたウレシノが願ってしまったら自分の気持ちはねじ曲がってしまうのか...
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そんなこころの願いは....
「真田美織を消すこと」
実世界で、美織と仲太の交際に巻き込まれて、謂われない嘲笑を受けたことを想い出す。地区の一番大きな小学校から来て、グループの中心で、自ら学級委員にも立候補する積極性を持ち、伊田先生の覚えも良い美織。こころは仲太と同じ小学校だっただけで、なんとも思っていなかったのに、美織とつきあいだした仲太に「お前みたいなブス、大嫌いだから」とわざわざ言われ、美織の取り巻きには「他人の彼氏に色目を使って」と責められ、押しかけた美織には話し合いに出てこないと泣かれる。こころが唯一仲良くなりかけた近所に住む新しい級友も、美織グループに取り込まれ、交流が尽きた。そしてそのあと起こった自宅包囲。その級友が住所を教えたのかと、誰も信じられなくなった。
母親にも言えなかったそのことを、こころはお城でアキとフウカに話した。最後までせかさずに聴いてくれた二人。最後にアキが訊いた。「それは、今も続いている、進行形の問題なの?」そうだと頷いたこころの頭をぐしゃぐしゃに撫でながら、アキは言った。「偉い。よく、耐えた」やっと想いを吐き出せて、こころの目からこぼれた涙に、黙ってフウカはハンカチを差し出すのだった。
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そうして徐々に互いの事を知っていった7人。季節は巡り、鏡の向こうのお城にも夏休みがやってきた。アキ⇒こころ⇒フウカと恋愛ターゲットが替わったウレシノが、フウカに差し出した花束で、フウカの誕生日を知ったこころは、自分も何かプレゼントしたくて、あの自宅包囲事件以来、初めてひとりで外出する事を決意する。大きなショッピングモールで、素敵なプレゼントを買って渡したくて、夏の日ひとりで外出したこころ。でも、夏休みであたりにいる中学生が、みんな自分を嗤っている気がする。気分が悪くなって駆け込んだコンビニで、でも明るい店内にドキドキして、夢中で掴んだチョコレートひとつだけを買って、やっとの思いで家に戻るこころ。それを家にあった英字新聞で包んだものの、なんだかとてもみすぼらしく思えた。お城でフウカにも逢えず、渡せなかったプレゼントを見たリオンが声をかける。「残念だったな」「せっかく持ってきたのに、渡せなくて」特別な言葉ではなかったが、こころの胸が温かくなる。
上手くラッピングできない、ヘタなプレゼント。
中身は、どこででも買える、コンビニのもの。
コンビニでとっさに掴んだ、チョコレート菓子。
「うん。-すごく、渡したかった」
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夏休みになり、みんな変わっていく。スバルは「アニキにやられた」と髪を脱色し、ピアスの穴を開けてきた。つづいてアキも髪を染めてきた。どうやら年上の彼氏がいるらしい。そんななか、ウレシノがみんなに宣言する。「僕、二学期から学校行くから」「気を遣って、これまで言わなかったけどさ」「ここにいるみんな、学校行ってないんだよね。行けてない、んだよね」恋愛体質をみんなにバカにされていると感じたウレシノが言う。なだめに入ったリオンにも「お前はどうして学校行けなくなったんだよ。言えよ!」と訊く。それに応えたリオンの言葉は、こころたちには意外だった。「オレは学校、行ってるよ」「ハワイにある、寄宿舎つきの学校に、通ってる」「ここには学校が終わってから来てる」...リオンは、戻れる場所がある子なんだ。
それぞれの立場や、状況がわかるとともに、7人のすれ違いが出てきた夏休み。
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そうして始まった2学期、しばらく来なかったウレシノが、再び城にやってきた。...傷だらけになって。顔にガーゼを当て、腕に包帯を巻き、顔を腫らして。そのことには触れず、TVゲームを指してマサムネが訊く「・・・・遊ぶか?」「うん」一筋、重さに耐えられなくなったような涙が頬を流れたけれど、その日は誰も、ウレシノに怪我のことは何も尋ねなかった。
翌日、ウレシノが学校での事を話した。ウレシノは級友と遊ぶとき、奢ってあげると喜ばれたので、ジュースやお菓子などを渡していた。それはウレシノにとっては自然なことだったけれど、大人達に知られて、すごく怒られた。それから学校に行くのもだるくなって行かなくなった。自分たちのせいで、ウレシノが学校に来なくなったのを反省しているから、と先生から聞いたので、久しぶりに学校に行ったら、彼らに「奢ってもらえないならお前に用はない」と、にやにや笑いながら言われたらしい。流石にキレて彼らを殴ったら、こうなった、と。
それを聴いたマサムネが、いつになく真剣な顔で声をかけた。
「お疲れ」
ウレシノの話を聞いたその日、みんなで鏡の間で別れるときに「じゃあ、また明日ね」「うん、また」と挨拶し合った。もう、そうすることが当然みたいだった。
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外の世界でも時間は流れている。一度昼間に帰ってきて、こころが不在だったのを知った母親は、こころを責めるでもなく、学校や、スクールとの話し合いを続けてくれているようだ。それにはスクールの喜多嶋先生が言ってくれた言葉が大きかったようだ。
-こころちゃんが学校に行けないのは、絶対にこころちゃんのせいじゃないです
こころは久しぶりに家に来た喜多嶋先生に訊いてみた。「-どうして」
「だって、こころちゃんは毎日、闘ってるでしょう?」
こころは、自分が喜多嶋先生に、妙に親しみを覚えていることに気づいた。
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10月になって、アキとマサムネが、みんなを集めて訊いた。
「どの程度“願いの鍵”探し、真剣にやってる?」
そして提案する。「協力してやらないか」と。
ふたりは結構真剣に探したらしい。あと半年というのに見つからず、このまま誰の願いも叶わぬままかと思ったら、先ず協力して探し出して、その後誰の願いを叶えるか決めても良いのではないかと。皆も一人の時は探してみたりしていたが、見つけるどころか、手がかりすらも見つからないので、協力することに反対はなかった。ただ、リオンからは、条件が出された。
「全員でやる以上、たとえ鍵を見つけたとしても、それは三月まで使わない」
オオカミさまから言われた「『願いの部屋』が開いた時点で、3月を待たずにこの城は閉じられる」というルール。つまり、使ってしまうとお城が閉じられてしまうので、最後まで使わずにおいて3月いっぱいまでこの城を使えるようにしておこう、というのだ。
そこにオオカミさまが現れて言った。協力結構、ただひとつルールを伝え忘れていた、と。
・願いが聞き届けられた時点で、7人はお城での記憶を失う
・一方、3月30日まで誰の願いも叶えなかった場合は、城は閉じるが、記憶は継続
それを聞いて、春になってこの城で会えなくなっても、外では連絡が取れるのではないかと漠然と考えていたみんなは、ショックを受けたが、ひとりアキだけが、どうせお城に来られないなら、記憶が消えてもイイんじゃない?と言い放つ。せっかく願いを叶える方法があるのに、使わないのはもったいないと....
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一人違う意見を言ったことで、アキにはどうしても叶えたいことがあるのだと、みんなが知る。ただそれ以来、アキは城に来なくなった。そんなアキが再び城に来たのは11月の初め。泣きそうな目をして膝を抱いてうずくまっていたアキを見つけたのは、こころだった。制服のまま城に来たアキを見て、こころは言った。
「アキちゃん、雪科第五中学の、子なの?」
他の人にも確かめると、ハワイにいるリオン以外、全員雪科第五中。リオンもサッカー留学させられなければ、雪科第五中に通うはずだったらしい。ここに集められたのは、雪科第五中学校に通いたかったのに通えていない子たち。突然明らかになった7人の共通点....
その後、親に三学期から転校させられそうになったマサムネが、同じ学校と識ったみんなに頼んだ。その転校を阻止して3月末までお城に通えるようにするため、三学期に登校できれば、学期末まで雪科第五中に在学できるよう親を説得した、ついては1月最初の登校日に登校して三学期の実績を作りたいが、一人では心細いので、保健室登校でも良いから、みんなその日に登校してくれないか、と。
同意したみんなは、その日に学校に行くことにした...
私たちは、助け合える。
一緒に、闘える。
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三学期最初の登校日、約束通りこころは登校した。
でも、なぜか他の5人には逢えなかった。
そして、その日から城に来なくなったマサムネ...
お城で他の子に訊くと、みんな「学校に行った」と言う。
しかし、学校に行ったみんなは、お互いがその学年、そのクラスに在籍していなかったことを識る。
「助け合えないってこと?」
7人は願いを叶えられるのか?そして、みんなは出逢うことが出来るのか?
...という感じの作品。
7人をはじめとした登場人物の「立たせ方」と、舞台設定の上手さ、そして二転三転するストーリーと、複雑に張り巡らされた伏線がとても緻密に考えられている(伏線の中には、必ずしも回収必須ではなく、気づくとニヤリパターンもあり)。
小説の「書式」としては、SFというか、現代ファンタジー、あるいはミステリ調なのだが、描いている中心テーマとしては青春小説。
こころの成長や、みんなとの絆が描かれていて、とても読後感が良い。
そして、最終章「閉城」の後に付け加えられているエピローグ、ここで一気に納得させられる。
非常に緻密に設計されている小説で、読み切った後は3000ピースの全白紙のジグソーパズルを解いたような爽快感と、青春小説としてのほんわかと胸が熱くなる読後感が同時に味わえる作品。
表紙カバー絵以外では、上記がほぼ唯一に近い挿絵なのが、逆に想像力をかき立てる
今年(2022年)末に劇場アニメ化されるけれど、そこがどのように表現されるか、とても楽しみな作品です。
【目次】
《上巻》
第一部◇様子見の一学期
五月
六月
七月
八月
第二部◇気づきの二学期
九月
十月
十一月
十二月
《下巻》
第三部◇おわかれの三学期
一月
二月
三月
閉城
エピローグ
何重にも張り巡らされた伏線の緻密な構成が素晴らしい
主軸の伏線の他にも、あとから考えて、ああ!とわかる伏線や登場人物のつながりがあり、読み返すと「そういうこと」と、ニヤリとする場面がいくつもある。
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購入金額
1,716円
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購入日
2022年09月13日
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購入場所
TSUTAYA
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