レビューメディア「ジグソー」

古典ジャズの新解釈?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。過去の曲を切り貼りし、コラージュする手法で創られる楽曲。以前からこのアイデアは存在しましたが、遙か昔は、レコーディングテープを(ダビングはするのだろうが)切り貼りし、つなぎ合わせる加工をしていましたが、デジタル技術の進歩で、自由にピッチを変えずにスピードを変えたり、ループのスタートポイントとエンドポイントの再設定などが容易になり、そういったジャンルの楽曲製作の敷居が大幅に下がりました。ジャズ黎明期から続く膨大な楽曲のサンプルを許されたアーティストの作品をご紹介します。

 

US3。ジャズの名門、Blue Note レーベルに所属するラップグループ。1990年代から2022年の現在まで活動を続けているグループだが、最盛期は20世紀末。彼らは、膨大なBlue Note Recordsのジャズ音源を自由にサンプリングすることを認められているので、歴史的名盤・名曲をサンプリングして新たな命を吹き込んでいる。

 

彼らの最大のヒットアルバムは、1993年のデビューアルバム“Hand On The Torch”

なのだが、それをひっさげて来日したときの記念盤が本作、“CANTALOOP / TUKKA YOOT'S RIDDIM / I GOT IT GOIN' ON”。

 

その名の通り、彼らの出世作「Cantaloop」と、ヒット曲「Tukka Yoot's Riddim」に、新曲「I Got It Goin' On」を加えたリミックスアルバムで、各曲オリジナルに近い「Radio Edit」に加えて、2~3の別アレンジ/リミックスを加えた作品。

 

ヒット曲のいろいろな切り口が見えて楽しい。

 

当時新曲の「I Got It Goin' On」は、Reuben Wilsonの「Ronnies Bonnie」をループ化し、新規ブラスを加えた上にラップを載せた曲だが、リミックスの中ではリズムコンシャスな「I Got It Goin' On (Bud's Got It)」が楽しい。Blue Note ジャズには珍しく、典型的な8ビート楽曲だった元ネタをオリジナルではなぞっているが、このミックスでは大部分ドラムスレスで、アフリカンな感じに多くのパーカッションによる複合リズムになっていて、さらに特徴的だったブラスも絞り、パーカッション+ピアノにラップが乗るという珍しいパターン。それでいて、ブリッジ部分だけ数小節、4ビート+フルートによる間奏となる意外性があるミックス。

 

最大のミックス数、4曲が収録された彼らの出世作「Cantaloop」は、「Cantaloop (Groovy Mix)」がイケイケ(死語)。オリジナルは、Herbie Hancockの「Cantaloupe Island」を多少速くしながらも、粘りのあるねちっこいリズムで、その上にいろいろな素材から切り取った♪Ladies and Gentlemen♪や♪Funky,funky♪といったワードのサンプルをちりばめていたが、このミックスは、ぐいぐい引っ張るランニングベースに、さらにスピードアップされた曲が乗り、ワードの「再生」は大部分省かれ、残ったワードもサンプリングスクラッチされ、US3によって加えられたラップと合わさり、スピード感溢れるチューンとなっている。最後の方のなが~いペットソロはかっこいいな。

 

Tukka Yoot's Riddim」は、GRANT GREENの「Sookie Sookie」が元ネタだが、オリジナルは結構元ネタ色が強い。少し速めにしたほかは、切れ目なくお経のようなラップを入れただけという感じだったのだが、ミックスは結構違う。リミックスは、2曲ともにラップにかなりエコーやディレイなど残響系のエフェクターがかけられていてソリッド感がないが、より違う感じがするのは「Tukka Yoot's Riddim (Manasseh Vibe Tribe Dub)」。ラップやヴォイスが最小限しか入らず、リズム強調ミックス。リズム強調と言っても最近のダンスミュージックのように、キック(バスドラム)とスネアの音で、バックビートが強調されていると言うよりは、ループされているライドシンバルのカップ部分のパターンだったり、ボンゴの音がひときわ大きかったりしてちょっとポリリズム系。

 

当時、ジャズをクラブシーンに持ってくるのが流行りだったが、ジャズ自体を小粋にダンサブルにしたアシッドジャズとは違って、古典ジャズを再利用してリビルドした音楽。これで当時フロアは大いに沸いた。

 

古典ジャズの新しい解釈で、ジャズの敷居を大幅に下げた音楽たちです。

伝統のレーベルが、古くて新しい
伝統のBlue Note レーベルが、古くて新しい

 

【収録曲】

1. I Got It Goin' On (Radio Edit)
2. I Got It Goin' On (Blue's Got It)
3. I Got It Goin' On (Bud's Got It)
4. Cantaloop (Radio Edit)
5. Cantaloop (Slain Pass Mix)
6. Cantaloop (Groovy Mix)
7. Cantaloop (Nellee Hooper Mix)
8. Tukka Yoot's Riddim (Radio Edit)
9. Tukka Yoot's Riddim (Manasseh Vibe Tribe Mix)
10. Tukka Yoot's Riddim (Manasseh Vibe Tribe Dub)

 

「Cantaloop (Groovy Mix)」

更新: 2022/02/16
必聴度

もともとリミックスみたいな曲なので、他の解釈があるのは是

元曲自体が、古典ジャズを切り貼りしてラップ曲に加工したものなので、イロイロ換えてもどれも「コレじゃない」感がなくて、楽しめる。

  • 購入金額

    2,500円

  • 購入日

    1994年頃

  • 購入場所

11人がこのレビューをCOOLしました!

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