所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。時代の変遷、機材の進歩などにもよって息の長いアーティストはその音楽性を変えていきます。そしてグループとして活動するアーティストにとっては、メンバーチェンジも音楽性の変遷の大きなポイントです。現在も活動を続けるグループの方向性が、最も昏くヘヴィだった時代の作品をご紹介します。
PRISM。ギタリスト和田アキラを中心とするグループ。しかし、どの時点で彼らを識ったかで、彼らに抱く印象は大きく違うかもしれない。クロスオーバー、フュージョン、インストロック、プログレッシヴロック、環境音楽....どれもが彼らであり、そしてどのジャンルも彼らの全てを表していない。
PRISMは「原則として」インストルメンタルのロック基調の楽曲を核とするが、ジャズ系に飛び出したり、プログレに寄ったり、実験的な音作りだったりとなかなか曲調としては安定していなかった。テクニシャンの和田と、結成時から20世紀末まで永くバンドの顔であった饒舌なプレイとヴォーカルが取れるベーシスト渡辺建がサウンドの中核を成していたが、周りを埋めるプレイヤーからの影響も受けて音楽性が徐々に変化していくグループであった。
PRISMは、CASIOPEAのように、芸歴?を自らは区分していないが、cybercat的には次の区分に分けられると思う。
・第1期(1975~1979):和田と渡辺の他は、キーボードを伊藤幸毅、ドラムスを鈴木"リカ"徹が担当した。最初期はツインギター構成で、四人囃子の森園勝敏も在籍していた。この頃はクロスオーバー~ライトフュージョンの路線。
・第2期(1980~1983):和田と渡辺以外は総替えで、ドラムスはAlexこと故青山純。キーボード担当は前半がジャズ系ピアニストの佐山雅弘、後半がサックス兼任でプログレ方面にも造詣の深かった中村哲。この時期が最もロック色、とくにプログレ色が強く、音もヘヴィ。
・第3期(1985~2000):バンド形態から和田と渡辺のユニット形態に。第3期当初からサポートしていたドラマーの木村万作が、途中から正式メンバーになる。この時期が、最もいろいろなアプローチを試している。疾走感のあるロック~難解なプログレ、環境音楽っぽいものまで。キーボーディストはサポートメンバー形態だったり、打ち込みなども用いて和田と渡辺でまかなったりという状態だったのが音楽性に影響か。
・第4期(2001~):バンド設立時から在籍していたベーシスト、渡辺が抜け、オリジナルメンバーは和田一人に。ドラムスは引き続き木村で、ベーシストは岡田治郎。当初キーボードレスだったが、10年ほどして渡部チェルが加わり、現在に至る。曲調としてはヘヴィさを減じた2期、という感じ。
「日本最初のフュージョンバンド」を名乗るわりには、いわゆるアメリカ系ロック~ポップ基調の「ジャパニーズフュージョン」とは一線を画し、かなりプログレ色が強かったPRISM。その中でもこの「∞(無限機関)」が最もプログレ色が強い。もともと和田がブルース~ロック系、渡辺がプログレ系をベースに持っていたが、ヘヴィなリズムの青山が加わったことで、第2期は音に重さが出た(音造り的にも、この時代のロック系録音はヘヴィなサウンドがトレンドだった)。特にキーボーディストが中村哲に変わったアルファ・ムーンレコード時代の2枚が、一番プログレ色が強い。
そして本作“∞”が前作“VISIONS”
と大きく違うのは作曲比率。前作は、和田が2曲(と言ってもラストの曲はもう1曲のrepriseなので実質1曲)、渡辺が4曲、中村が3曲という作曲陣。それに対してこちらは、和田が1曲、渡辺が2曲で、中村単独作曲が3曲、中村と他メンバーとの共作が2曲と、「中村比率」が高い。つまり、和田・渡辺色が薄いと言うことで、それまでのPRISMとは少し違う、プログレ色が強い曲とちょっと実験的な曲が並ぶ。
その中村の曲である「VIEW IN YOUR EYES」でアルバムは始まる。渡辺が紡ぐ、グリスとヴィヴラートを織り込んだ印象的なベースラインの上で、中村のダーティな感じの音色のサックスで奏でられるイントロに続いて、意外に覚えやすいメロディが始まる。リズムはスネアの位置とパターンの区切りで変拍子感を出しているが、破綻が全くないのはさすがのAlex。どことなくヴォーカルレスのTAO
と言った風情もあるオリエンタルな雰囲気が印象的な曲。
「◯×△□※’ S COMING SOON!」は、微シャッフルのリズムと、カラっとしたギターの響きがTOTOっぽい雰囲気を醸し出しているノリの良い曲。ピッキングハーモニクスを多用した和田のメロディラインが金属的で心地よい。この曲は和田と中村の共作。アウトロのギターソロにサックスが絡んでいれば、もっとアメリカンテイスト出たかも。
コンコンコンコンという機械的なパーカッションがフェードインしてきて、でも実はリズムインしてみると「ウラ」だった(ンコンコンコンコ)というリズム的トラップで始まるのが、和田の書いた「SHADOW OF THE JUNGLE GYM」。「リードベース」とも呼ばれる渡辺の饒舌なベースラインとフレットレスベースを使った特徴的な音色、哀愁のある和田のギターのフレーズで、この曲はPRISM王道。ただ、中間部に中村のサックスソロがあるのが、他の時期ではない要素だが、ここでは中村も「ソロブレイヤー」に徹しており、曲全体を壊してはいない。
この“∞”というアルバム、実はデビュー時から彼らを追いかけていたような、旧来からのファンからのウケはあまり良くない。前作“VISIONS”とサウンドの方向性としては大差ないのだが、中村の存在感が増したことで、よりプログレ色を強め、難解になった曲が増えたことに加えて、前作にはあった「Wind」や「The First Sky And The Last Sea」のように、時代を超えて演奏される彼らの代表曲と言われることになるようなインパクトのある楽曲に恵まれなかったからか...中村の存在感が増した本作品だが、結局そちらの方向性は突き詰めず、PRISMはこのあと中村と青山が離脱し、和田と渡辺のユニット状態にまで縮小する。そして中村がいた時代からさらにデビュー時の音楽性とは離れた環境音楽的なアプローチにも挑むことになったので、この盤の音楽性の偏向が中村のせい、というワケではなかったのだけれど。
ただ、この次の作品から現在までPRISMを支えることになるドラマーの木村は、テクニック的には決して青山に劣るわけではないが、音の「重さ」はなく、最近はこの頃ほどのヘヴィさはない。また一時期キーボードレスだったこともあり、和田や渡辺が多重で弾いていたことから、「バンド」形態から遠ざかり、この頃のヘヴィでメタルなバンドノリ、というのはあとから俯瞰すると貴重だった。
自分としてはPRISMに傾倒したのが、青山が加わった“SURPRISE ”~“VISIONS”の頃だったこともあり、その流れのラストを飾る作品としても思い入れがある作品です。
【収録曲】
1. VIEW IN YOUR EYES
2. MIDDLE OF THE CIRCLE
3. TALKIN’ TO YOUR EYES
4. ◯×△□※’ S COMING SOON!
5. SHADOW OF THE JUNGLE GYM
6. FIRST TIME I SAW YOU ~ AFTERIMAGE
7. A MUTTER OF A BOY [EXIT OF ENTRANCE]
8. LIVING IN THE MOOD [DANCING FOR YOU]
「VIEW IN YOUR EYES」
サウンドやノリはまさに集大成
ただ前作が「WIND」という傑作曲が収められた“VISIONS”だったので、販売的にはワリを喰ったか...
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購入金額
2,200円
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購入日
1991年頃
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購入場所
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