レビューメディア「ジグソー」

リズム3人の怒濤の攻勢を迎え撃つ?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。グループ構成の妙。複数人数で音楽を演奏する際、特に少人数グループではその構成というのは重要です。ただ「王道」というのはやはりあり、コンテンポラリーミュージックでの4人ユニットの場合は、リードが採れる楽器2+リズム楽器2という構成が大多数です。そんな中、技巧派のリード楽器プレイヤー1人が「いわゆる」リズムパートを3人従えて創った作品をご紹介します。

渡辺香津美。非常に若いころからプロで活動しているので芸歴は長いが、2016年現在まだ還暦を多少超えた程度で活動も活発なギタリスト。ナベサダ(渡辺貞夫)や鈴木勲などジャズ界隈のトッププレイヤーのグループで腕を磨き、自身のグループKYLYNやYMOのツアー参加のあたりで知られはじめ、“TO CHI KA”

 

でブレイク、その後もMarcus Miller+Robbie Shakespere+Omar Hakim+Sly Dunbarという豪華絢爛なツインベース&ツインドラムの“mobo”や、ギター神Allan Holdsworthと組んでいたBill BrufordとJeff Berlinを従えた“THE SPICE OF LIFE”

 

などで、当時隆盛だったジャパニーズフュージョンとは一線を画した活動をしていたが、そんな彼が1990年代初頭に組んでいたバンドがRESONANCE VOX

メンツは、ベースがバカボン鈴木でドラムスが東原力哉、パーカッション八尋知洋(ヤヒロトモヒロ)という布陣。すなわち香津美以外はすべてリズム楽器

しかし、通常のベースのみならずアップライト・ベースやスティック(Chapman Stick)まで使いこなす饒舌なプレイで識られるバカボンと、ゴリゴリドラムスのわれらが怪獣力哉、空間を埋めつくす多彩なプレイの八尋と「ウルサイ」メンツがそろっており、メロディ楽器がただ一つとは思えないゴージャスなサウンドで強くアピールしたのが彼らの1stアルバム、“Pando:ra”。

 

続くこの2ndはキモチほんのキモチ「引く」ところもあり、その間がハッとする出来。彼らの3作のオリジナルアルバム、1枚のライヴアルバムという作品の中ではベストに推す人も多い。

まず「Unlucky Heaven」の7拍子で最初っからヘン(褒め言葉)。時にユニゾンでキメフレーズをやり、パート分けした複雑なリズムをやりとかなりスリリングな構成。力哉のドラムスだけでも充分饒舌なのだが、八尋のガムラン的音色のパーカッションで彩られるとさらに印象的。バカボンはスラップを交えながらの多彩な音でメロディ・コード楽器が1種しかない事を補ってる(とは言ってもギターのダビングはあるのだが)。途中ギターのカッティングだけになって、ブレイクの絡んだソロ回しで戻ってくるところが緊張感あるなぁ。

Wise Up」ではバカボンはスティックを操ってる。King CrimsonのTony Levinが使い手だったこの楽器は、10弦ほどの弦がフレット打った幅広のネックに張られている楽器でピックアップ付。タッピングで音を出すという部分ではかなりギター的奏法。ネックの幅広さとその奏法上の問題からメロディ・ソロ楽器として使うよりベース楽器として使う人が多いが、実はかなり上の音まで出る音域の広い楽器。そのスティックの日本での第一人者バカボンが奏でるゆったりとしたグルーヴに乗って不思議なオリエンタルな薫り。

何処か東洋的な「O-X-O」がタイトルチューンに選ばれているのが前作とのコンセプトの違い?(前作のキャッチフレーズは「胆はロック、精神はジャズ、ファンクな心に頭ブラジル」でどちらかというとブラジリアン)軽やかな香津美のカッティングに八尋のパーカッションが切り込み、ステディなバカボンのベースと爆裂怪獣のヘヴィめリズムが支える...のだがどんどん展開し、ポリリズム系に行ったりファンキィな展開に行ったりで楽しい!リズム系楽器が過半を占めるグループの良さが出ている。

前作“Pando:ra”では「混然一体」という感じが強かったが、やや整理されて見通しが良くなった。でもまだカオスな魅力にあふれていて楽しい。すでに芸歴45年を数える(2016年現在)香津美のまだ前半、さまざまなプレイヤーとの格闘で自己を表現していた時代の、これは「名盤」です。

この2nd、「こなれ方」と緊張感のバランスがちょうど良い
この2nd、「こなれ方」と緊張感のバランスがちょうど良い


【収録曲】
1. Unlucky Heaven
2. Dream Invader
3. Wise Up
4. Renu
5. Saicoro
6. O-X-O
7. Amapola Negra
8. Ya tokot Ya
9. Cyber Pipeline
10. 牡丹の花

「O-X-O」(LIVE)

更新: 2021/06/15
必聴度

怪獣とバカボンとヤヒロの闘い。ゴジラとモスラとキングギドラ?

リズム馬鹿必聴。ごりごり。

  • 購入金額

    3,000円

  • 購入日

    1992年頃

  • 購入場所

24人がこのレビューをCOOLしました!

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