所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ある程度ポピュラーなジャンルにおいて、とても実力はありながら若干のタイミングのズレと王道とは少し異なる方向性で、アーティストやグループが「知る人ぞ知る」となってしまう場合があります。1990年前後に主に活動したインストルメンタルバンドをご紹介します。
ChickenShack(チキンシャック)。主に1986年から1990年にかけて活動したインストルメンタルバンド。この頃は80年代前半のフュージョンブームがやや下火になって、でもまだT-SQUAREの代表曲となった「TRUTH」がF1のTV中継のテーマソングになって認知度を上げていた時期。その中にあってChickenShackはオトナの雰囲気を持って出てきたやや毛色の違うインストバンド。アルバムジャケットには自分たちの写真を使わず、シンプルにバンド名と通し番号のみの文字。そしてバックには女性の艶めかしい下着(下着姿、ではなく)を散らした装丁。
そして音楽性もT-SQUAREのようにポップロック系ではなく(当時の)カシオペアのように頭脳的なクロスオーバー系でもない、オトナの薫り。ブルージィで、ファンキィで、粘るインスト(とはいっても打ち込みっぽい硬いビートの曲もないわけではない)。この傾向はこのバンドのメンツによる。
なんと言ってもブルージィで泣けるギターの山岸潤史がこのバンドのカラー。歌うサックスは山下達郎との仕事でも有名な土岐英史。ジャジィでバップなピアニスト続木徹。この3人の不動のフロントマンにリズム隊がメンバーにいるが、このバンドの特徴となっているのが、ベーシストが黒人であること。1stから3rdまでがDarek Jackson、それ以降がBobby Watson。ドラマーも一時期黒人だったことがある(3rdと4th、5thの一部がMarvin Baker)。これによって粘るリズムの上にブルースだったりカントリーだったりソウル、ファンクの風合いを持つ曲が載るという風合い。
本作は彼等の20世紀の活動での最終作。ドラマーはメンバーでなくサポート扱いになっているがどんな音楽も自分のモノにする名手沼澤尚。ファンキィだったり、ブルージィだったり、ちょっと他の「ジャパニーズフュージョン」とは違う薫りの名曲が並ぶ。
「Loretta」。1曲目にこれっていうのがChickenShackだな。メロウでリリカル。泣きの山岸潤二のギターソロの前半はヴォコーダー調の人(たぶん山岸)の声とユニゾンした面白いもの。ジャズにおいてはソロやメロをプレイヤーが口ずさみながら弾く、というのは珍しいことではないので意外ではないけど、モジュレーションのような加工が入っているのが面白いかな。
「Night Of Jason」は一時期(本田雅人時代くらい)のT-SQUAREを彷彿とさせるような、デジタルでハードなハイパージャズ。ただ続木徹のピアノソロはアグレッシヴで、リリカルな和泉宏隆(当時のT-SQUAREのキーボーディスト)というよりは、塩谷哲のような塩梅。...というか前後関係的にはこちらの方が早くて、塩谷のピアノが続木みたい、が正しいが。
土岐のサックスが歌う「Gonna Be Alright」は、コーラス入りのライトな曲。これはなんと言ってもBobbyのベース。曲としてはミディアムテンポのノリノリ!というテンポではないのだが、絶妙にハネるベースラインで躍動感がスゴイ。途中のベースソロでは一転して歌心あるライン。つづく山岸の弱く歪んだギターソロのブル-ジィなラインが泣かせる。
テクよし、曲よしで良盤なんだけれど、ちょっと方向性的には王道ではなく、オトナのわかってる人が聴く、という感じで爆発的なヒット、とまではいかなかった彼等は本作を持って解散し、山岸はニューオリンズに渡り、さらにブルースに傾倒する。土岐と続木はジャズシーンのみならず音楽界で広く活動していき様々な名盤に参加することになる。
このバンドは良いモノを識る人には一目置かれていたけれど、なにかのテーマソングになる事もなく、一般的な知名度はさほどに高くない。また、テクニックを魅せることに衒いがないあまたのフュージョングループとは一線を画し、あくまで曲を/歌を(ヴォーカル/コーラス入りの曲が多いのも彼等の特徴といえる)聴かせるスタンスはバンド小僧のコピー対象となる事も少なかった。
もう少しインターネット動画の興隆が早ければ違ったかもしれないが、20世紀に活動を停止したグループの音源は多くは残っておらず...と不遇だった彼等。先日23年ぶり!というアルバム“ChickenShack Ⅶ”を出したとのことで、再評価の気運が高まっている。
ニコ動ではないが「タグ:もっと評価されるべき」な、バンドです。
【収録曲】
1. Loretta (Dedicated to Loretta Heywood)
2. Do What You Like
3. Avocado Salad
4. Fill It Out
5. Night Of Jason
6. Sensation
7. Gonna Be Alright
8. Funk In The Box (Dedicated to Mr.Robert Johnson, Mr.Jimi Hendrix, Graham Central Station & Isley Brothers. This is dedicated to spirit of Stevie Ray Baughn.)
9. Dreams After Dreams (Dedicated to Bud Powell)
10. After The Flight
「Gonna Be Alright」
いわゆる「フュージョン」ではない「なにか」
ジャズのテイストも薫るロック・ポップス系をベースとするインスト...なんだけれど、何か違う。
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購入金額
3,000円
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購入日
1990年頃
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購入場所
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