レビューメディア「ジグソー」

幻の名機が新品で

近年、材料費の高騰や生産量確保の困難さから、価格が上昇する一方のアナログ用品、特に製造技術が要求されるカートリッジは昔を知っていると想像もつかないほどに高くなってしまいました。

 

かつては2万円を割っていた国産の定番MCカートリッジ、DENON DL-103ですら現在は41,600円という標準価格がつけられていますし、初期モデルは3万円台だったaudio-technica AT33シリーズは、現行の標準モデルAT33PTG/IIで72,000円ですからね。昭和末期頃の3万円クラスは、今の価値観では7~10万円クラスに相当するという感覚です。

 

 

一部オーディオ店で話題になっていて、私は割合最近になって存在を知ったMCカートリッジに、ADC MC1.5という製品があります。1981年発売で、当時の価格は29,000円という製品でした。以前取り上げたこのあたりと競合する位置づけですね。

 

 

 

 

 

 

これらのカートリッジは今使ってみてもそれなりに魅力のある音は出してくれます。音色の好みという問題はありますが、現行モデルの5~10万円程度のカートリッジと比べても大きく見劣りすることはない程度です。

 

ADCはカートリッジの分野ではIM型カートリッジを主に展開していて、私自身MC型が存在していたことはこの製品の情報を見て初めて知りました。IM型については昔QLM35というローエンドモデルを使っていたことがあり、これがなかなか好印象でした。処分はしていないはずなのですが、現時点では行方不明でここでは紹介できませんが…。

 

 

ADC MC1.5は1981年発売で1986年頃に生産完了となったそうですが、話を聞いたところ、数十個単位で在庫を抱えていた人(業者か個人かは不明)が手持ち分をまとめて放出して、それが一部のオーディオ店に入荷しているため、30年以上前の品物ながら完全に未使用品だというのです。販売価格は販売店により結構幅はありますが、発売当時の価格より安く売られているという点は各店とも同様です。

 

私もこの製品に興味を持ってから、在庫を持っている数社をチェックしていたのですが、その中で最も安かったオーディオユニオン アクセサリー館で、OTOTENで東京に行ったついでに購入してきたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外箱等は特に用意されておらず、この状態で販売されています。当時からそうだったのか、この放出品だけなのかはわかりません。

 

 

 

 

 

 

 

添付の印刷物です。出力が0.9Vと大きめであり、カッティングレベルの高いレコードではフォノイコライザーをMMポジションにセットした方がしっくりくることもあります。針先はかなりの超楕円針であり、ラインコンタクトに近いものなのかもしれません。

 

仕様面で最大の特徴といえるのは、複合構造のチタンパイプをカンチレバーとして採用していることです。今となっては手頃な価格でチタンをカンチレバーに使えるカートリッジなどまず無いでしょう。この一点だけを見ても現在では得がたい製品であることがうかがえます。

 

 

 

 

 

 

カートリッジ本体です。率直に言って決して高級感があるデザインではありません。当時の29,000円ですから、中級機としてもやや高めという価格帯なのですが、それに見合った外観ではありません。むしろ、外観が良ければ当時から売れていたのかもしれませんが…。

 

 

 

 

 

 

 

ヘッドシェルには、定番のaudio-technica AT-LH18/OCCを仕入れて組み合わせました。リード線も換えたかったのですが、KS-Remastaさんのヤフオク出品が出ていないので、とりあえずヘッドシェル添付品のAT6101相当品を組み合わせています。

 

 

 

 

 

更新: 2019/08/02
総評

予想以上に高水準で躍動感に優れる

それでは実際に音を聴いてみましょう。ターンテーブルはTechnics SL-1200G、フォノイコライザーはPhasemation EA-200といういつも通りの組み合わせとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴らし始めは全くぱっとしない音だったのですが、アルバム数枚をならしたあたりから徐々に実力を発揮し始めます。

 

割合表現が淡泊なAT6101相当品との組み合わせながら、ヴォーカルやアコースティックギターの生々しさは特筆するべきものがあります。私が現時点でリファレンスとして使っているaudio-technica AT-OC9/IIIと比較しても、特にヴォーカルものの説得力は上回っています。

 

解像度や高域の微細な表現はさすがにAT-OC9/IIIに一歩及びませんが、当時のカートリッジとしてはかなり優秀な部類だったのではないかという水準です。少なくとも手持ちのDENON DL-103RやOrtofon MC-10Wと比べればこちらの方が緻密です。

 

 

 

 

 

 

低域方向は力感に優れていますし密度も濃いもので、これもAT-OC9/III以上の魅力といえるかもしれません。少なくとも実売2~3万円程度でこの音を出せるカートリッジは他にまず無いでしょう。一部で今でも熱狂的に支持する人がいるのも理解できます。

 

なによりも驚くべきは製造から35年前後経過しているはずであるにもかかわらず、コンディションが新品といって全く差し支えない水準を保っているということです。トレース能力にも音質にもとても経年変化の跡は見られません。

 

 

 

 

 

 

 

出力がやや中途半端に大きく、若干使いこなしが難しい可能性はあるものの、現時点で新品または未使用品を入手できるカートリッジの中でこれを超えるコストパフォーマンスの製品は存在しないと断言できるほど見事な出来であり、当時なぜこれが全く話題にならなかったのかわかりません。当時同じ値段でYAMAHA MC-4やDENON DL-103Dと並べてあっても、私ならADC MC1.5を選択していたと思います。

 

まだ一部販売店での取り扱いは続いているようですので、MCカートリッジをとりあえず1つ使ってみたいという方には自信を持ってお勧めできる逸品です。

  • 購入金額

    16,200円

  • 購入日

    2019年06月29日

  • 購入場所

    オーディオユニオン アクセサリー館

12人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (5)

  • jive9821さん

    2019/08/03

    > 北のラブリエ さん

    初めて使った人の殆どが「こんなに良いとは思わなかった」と言うほど評判が良いそうです。今となっては先日生産完了となったaudio-technica AT-F2ですらこの値段では買えませんし、この価格でこの実力というのは驚くばかりです。
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