本書は「人工知能に哲学を教えたら」というタイトルから、哲学をなんらかの形で機械学習させてみると何が起こるか・・・というような単純な話ではなく、人間にしかできない、もしくは人工物にはできないと思われているいくつかの事象(正義・倫理、脳・認知、芸術、恋愛、労働、宗教、遺伝子)について思考実験を行います。この思考実験通して、人間とはなにか、哲学とは何の役に立つのかを問うてます。
子供に言葉を教えるとき、近所の犬を指差して「ワンワンだよ」などど言うことあります。そのうち子供は近所を通るたびにそこに住む犬を指差し「ワンワン」と覚えるようになると。しかし、その近所の犬の先にはプロパンガスのボンベがあり、子供はそのボンベを「ワンワン」としまうかもしれない。犬を知らない人工知能に犬を教えるということは、このように、単純でないと本書は思考実験を通して明らかにしています。いわゆる、メタ認知、フレーム問題ですね。
現在の bot はそこまで賢くもないので、この域にさえ達していないかと思います。しかし、だからといって人工知能にできないわけではなく、全ての事象につき「できない理由がない」ので、今後技術が発展していく場合にどのように発展させるのか、というのが本書の論旨です。
例えば、自動運転。トロッコ問題、新トロッコ問題、etc。自動運転人工知能は「何を正解」として運転技術を学習すればいいのか?この問題は、突き詰めれば、法治国家となった近代社会でも、何を基準に人を裁くのかが実は時代背景や社会情勢によって変わりうるほど、社会は許容範囲が広く、ある意味脆弱であることを突き詰めてる気がしました。
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購入金額
996円
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購入日
2018年10月29日
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購入場所
むーすんさん
2018/11/19
これ、ウィトゲンシュタインの『哲学探究』を思い出しました。
いわゆる直示定義の課題というか、指さしでものを教えることを可能ならしめる為の認知はどのようなものか、というやつですね。
『哲学探究』の中では「ワンワンだよ」といって指さしたとき、なぜ腕から指先の方向に注意を促すことになるのか、その逆の方向を意味しないのはなぜか、といったことが取り上げられていました。人工知能を研究するにつれ、人間そのものがまた研究対象になるというアプローチもありそうで面白そうですね。
jirさん
2018/11/20
これはまさに、哲学探求の思考実験です。本書から抜粋して、さらに短く改変してますが。
確かに指差しがその方向を指す理解すると言うのもメタ認知ですね。
人工知能というか、脳を模したディープラーニングの研究が進み脳科学の研究にも影響が出てきているという論文が Nature に出ていました。その記事を探してこようかと思ったけど見つからなかった orz。ディープラーニングの技術は、脳科学などの最先端科学から、哲学、そしてもっと身近な倫理学に対して世の中が向き合うきっかけとなってる気がします。
この世的には、シミュレーション仮説+受動意識仮説でまるっと説明できちゃう気もしますが。