以前自宅で余っているヘッドシェルを探していて、何故か針が折れてしまっているカートリッジ、GRACE F-8を見つけました。
私自身ではこのカートリッジを買った記憶がありませんので、貰ったりしたターンテーブルに付いてきたものかも知れません。もっとも、GRACEのカートリッジは針交換が可能なMMカートリッジであっても、振動系までがセットになっている特殊構造であるため、JICOやNAGAOKAといった互換針メーカーでは交換針が用意されていません。GRACEブランドを展開していた品川無線はまだ会社としては存続していて、近年まで登録ユーザー限定ながら交換針の販売を行っていたりしたそうですが、私自身は登録ユーザーではないのでその辺りは判りません。一つだけいえるのは、入手経路不明のこの個体では交換針を入手するのは困難ということです。
そのため、音を出すのは半ば諦めつつも、交換針が売られていないかは時々チェックしていました。すると先日、HARD OFFの通販で交換針セットが販売されているものを見つけたのです。普段はF-8シリーズの交換針はプレミア価格であることが多いのですが、今回は純正針3本セットとしてはごく普通といえる金額であったため即注文してしまったわけです。
GRACE F-8シリーズは針を交換することでシリーズモデルの相当品に変身させることが出来るという特徴があったため、この交換針はF-8L用のRS-8L、F-8C用のRS-8C、F-8M用のRS-8Mの3点セットです。いや、そのはずでした。しかし、このセットをよくみるとF-8L用のRS-8Lが入っておらず、F-8C用のRS-8Cが2本入っていたのです。RS-8Lはカンチレバーが途中で折れたものが元々ありましたので、外観の違いが一目でわかってしまいます。
出来ればF-8L本来の音も聴いてみたかったのですが、今時きちんと使える針を入手するのもなかなか難しい製品ですので贅沢は言えません。RS-8Cの2本は、片方がそこそこ使用感があり、もう片方はほぼ未使用という状態でした。
聴き比べてみた限りでは、RS-8MよりもRS-8Cを組み合わせた音の方がしっくりきましたので、これ以降の試聴はRS-8C(使用感が少ない方)で聴いてみたいと思います。
針カバーは若干形状が合っていませんが、何とか流用は出来るようです。
50年前の製品とは思えないほど"普通"の音
F-8L自体は1966年発売の製品ですが、F-8Cおよび交換針RS-8Cが発売されたのは1969年ですので、この交換針セットは1969年以降に製造されているのは間違いないでしょう。もっとも、それでも50年以上は経過しているわけで、コンディションを確認する必要があったため、予備のレコードがあった「The Dream of the Blue Turtles / Sting」の国内盤LPを使って試聴しました。
試聴環境はいつも通りのTechnics SL-1200G+Phasemation EA-200、F-8に組み合わせるヘッドシェルはOrtofon LH-2000、シェルリードはaudio-technica AT6108となります。
第一印象としては、ボロボロの外観や経過年数からは想像が付かない程"普通"の音でした。MMとしては高域方向までそこそこ解像感がありますし、低域方向も押出しは少し弱いものの深さは表現できています。「Children's Crusades」の空間表現などはなかなか優秀ですが、「聴かせる」という要素が弱い辺りは少しだけ気になるでしょうか。「Shadows in the Rain」のドラムのキレはなかなかのものと思います。
NHK総合技術研究所との共同開発により生み出された製品というだけあり、フラット基調で真面目な音といえます。NHKとの共同開発といえば、現在まで製造され続けているMCカートリッジ、DENON DL-103がありますが、DL-103と比べても強調感は少ないのではないかと思います。
発売時期が割合近いSHURE V15 typeIIIと比べても、解像度はずっと高く空間も明瞭で、比較試聴すればF-8Lが割合最近の製品だと言われても信じられてしまいそうです。
ただ、中低域があっさり風味ですし、低域も馬力がやや足りないため、アナログらしい良さという要素はあまり感じられない製品かも知れません。むしろMM系としてはかなり現代的な音を持つ、audio-technica AT-ML180/170辺りと比較した方がしっくりきそうなほどです。
恐らくF-8L本来の交換針であるRS-8Lを装着していれば、もう少し時代なりの雰囲気を出してくれたのではないかと思うのですが、当時のラインナップで最もHi-Fi基調となるRS-8Cを組み合わせたことで妙に現代的なテイストに仕上がってしまったのでは無いかと思います。もっとも「より音楽的」と説明されているRS-8Mを組み合わせると、演出過剰な感じがあってあまり好ましくは思えませんでしたが。
交換針さえ普通に流通していれば今でも十分実用レベルの実力は備えている製品だと思いますが、何しろ交換針メーカーが手を出せない構造であり、実質的に入手不能となってしまっているのが難しいところです。
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購入金額
0円
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購入日
不明
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購入場所
不明(自宅で発掘)
フェレンギさん
2022/03/26
なつかし〜です
うろ覚えなんですが、シェルとの配線が普通とは違ってストレート配置だったような気がしてます
どうでしたか?
コイツと組み合わせて使っておりました
jive9821さん
2022/03/26
GRACEはカートリッジ側では無く、トーンアームが逆配列だったため、
純正の組み合わせではストレート結線、他社製トーンアームでは
クロス結線となるようです。
https://www.audio-sp.com/?p=13295
なので、GRACEのトーンアームで使っていたカートリッジをそのまま
他社のトーンアームで使うと出てくる音が左右逆になってしまうという
問題があったのだとか…。
カートリッジではZYXなど一部メーカーは通常のトーンアームで
ストレート結線になるなど、意外と統一性が無い世界なんですよね…。
更にいえば、ターミナルピンの太さもカートリッジ、ヘッドシェルの
いずれも統一規格では無く、実際F-8のターミナルピンは他社と比較
すると異様な細さでした…。
フェレンギさん
2022/03/26
シェルリード線を交換して 楽しんでいた頃を思い出します。
私の環境下では、RCAケーブルより、シェルリード線の方が 大きな変化を楽しめた記憶がありますが、今あらためて思うと、ピンとの嵌合のきつさ、ゆるさも影響していたかもしれないな〜
とかぼんやり考えております。
現状、シェルとアームが一体型なんで、そこを楽しみづらいことを残念に思っております。
jive9821さん
2022/03/26
理論的にどうなのかはわかりませんが、私の感覚ではシェルリード
やフォノケーブルなど、微細な信号を通すケーブルはあらゆる要素で
音がすぐに変わるような気がしています。
以前KS-Remasta製品を中心にシェルリードのレビューを多く掲載
しましたが、誇張でも何でも無く、レビューに書いただけの差が
きちんと体感出来るわけです。それこそハンダの違いや研磨の
滑らかさで劇的に変わるというのは、そこそこ長くオーディオを
触っていても新鮮な驚きでした。