中森明菜。昭和の歌姫。当時松田聖子と人気を二分する女性トップアイドルで、爆発的な人気を誇った。当初はアイドル然とした「スローモーション」という歌でデビューしたが、次の「少女A」でアイドルとしては異端の陰のあるキャラクターを出し、陽水の「飾りじゃないのよ涙は」の蓮っ葉な歌い方でアーティストへ脱皮していく。聖子が比較的永く「アイドル王道」に留まったのに対して、彼女はその歌唱力・表現力が活かせる方に速めに動いた感じだった。
そんな彼女も20代半ばの自殺未遂事件のあとの芸能活動自粛などを経て複数回のレーベルの移籍など身辺が慌ただしかったのが、1990年代。その中でも比較的永く在籍したMCAビクターでの作品。ここでは全ての作品のプロデュースを明菜自身が手がけるが、以前在籍したワーナー時代からのアイドル系/歌謡曲系からかなり急激に舵を切っており、「アイドルの延長線上の女性シンガー」を期待する向きには厳しかったかもしれない。
本作“VAMP”はMCAビクターでの後期に手がけた4曲入りのミニアルバム。ただ4曲が全て作者も編曲者もミュージシャンも一人として重ならない、という形で、各々の曲はかなり作風・風合いが異なる。しかし、そこを退廃的な感じのけだるげな、でも「流れない」明菜の歌が繋いで、イメージとしては纏めているのはさすが。
トップの「PRIDE AND JOY」は岡田陽助のワウがバリバリかかったサイドギター以外は作編曲の朝本浩文の打ち込みだが、刺激的な金属音を伴ったティンバレスのような音と、刻々と音色を変えるスネア音が印象的な曲。♪Kiss/してよ/ソコ/Kiss/してよ/ココ/きっと/してよ♪とけだるげに歌う明菜が誘っている。
アナログレコードのスクラッチノイズで始まる「EGOIST」はファンキィな造りだが、橋詰敦のドラムループの音が前曲のドラムの音に似ているのと、小倉昌浩のギターもワウがバッチリ効いているので、曲調としては似ていないのにもかかわらず、明菜のけだるげなヴォーカルとあわせて驚くほど共通の香りがある。
当時の久保田利伸のブレーン、柿崎洋一郎が手がけた「METROPOLITAN BLUE」は、Aメロのオセンチなコードの付け方から意外性のBメロを経て、淡々と明るいサビへ向かうのが印象的。深い明菜の声に所々で絡むテナーサックスのYUKARIEの泣きのソロがステキ。
今の感性、そして「アイドル時代の中森明菜」に全く思い入れが消えた現在から振り返ってみるとこの作品、結構いい。全体を通して暗く退廃的なイメージで、曲調には幅がある4曲を明菜のけだるげな弱ハスキーヴォイスがよく纏めている。
でも当時は「なんかチガウ」と思っちゃったんだよねー。そう思ったのはcybercatだけではなかったようで、売り上げは芳しくなかった。明菜はこの後1枚のフルアルバムを残してMCAビクターを離れ、レーベルを転々としたり、所属が決まらない時代を経験したりと「谷」の時代に入る。人が変わるのは難しい、それは自分が変わること以上に他人から見られる商売の場合、周りが期待するところという「慣性」を越えて変わることが難しいのだ、と年を経て聴き直すことで気付かされた作品です。
【収録曲】
1. PRIDE AND JOY
2. EGOIST
3. CRESCENT FISH
4. METROPOLITAN BLUE
「METROPOLITAN BLUE」
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購入金額
1,500円
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購入日
1996年頃
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購入場所
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