所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。シンガーは良質な歌を世に届けるプロであるとともに、自己の心情や曲に込められた想いを形にする表現者でもあります。録音当時のアーティストのキモチがうかがえる作品をご紹介します。
中森明菜。1980年代の代表的アイドル。女性アイドルというと歌唱力<<容姿というそれまでの常識に反し、確かな歌唱力・表現力を持っていた。ほぼ同世代で人気を二分したライバルに松田聖子がいるが、聖子が清純・正統派アイドルとして押したのに対して、声質もやや低く容姿も含めてオトナっぽかった彼女は、背伸びしている危うい少女でやや影のあるキャラクターとして売られた。
そんな彼女も成人し、真のオトナの曲を歌える年齢になった頃にこの作品はある。リリース時24歳。彼女は進学していないが、4年生大学卒ならストレートで計算すると社会人2年目で恋愛などが「本気度」を増してくる時期。そんなアイドルからアーティストへの脱皮は20歳になったアタリから始まっていて、プログレバンドとともに創った作品、全編女性アーティストから提供を受けた曲で埋められたアルバム、全曲英詞の作品などアルバム毎にコンセプトを換えて自分を表現してきた。
その見方をするとこの作品はやや弱い。激しい曲もキャッチーな曲もない。シングルカットも一枚きり。でもきちんと正対して聴くと彼女の心の炎が視える、そんな作品。
「URAGIRI」はアルバムトップに持ってくるのは彼女だからできる、という感じの昏い曲。スローでやや重いリズム、ふわっとしたキーボードの音色と女声コーラスを使って、重いビートのふわっとした独特の肌触りの曲に仕上げているのはプロフェッショナル武部聡志。明菜はそのゆったりとしたグルーヴに乗り歌う。最後の心の叫びのようなロングトーンがさすが。
「LIAR」。唯一のシングル。Aメロのウィスパー唱法からBメロで少し張ってサビのロングトーンに持っていくのが上手い。♪Ah/霧のように/行方も残さず/貴方が消えてた/ただ泣けばいいと/思う女と/貴方には/見られたくないわ♪A~Bメロの2小節1パターンのリズムが緩やかで、溜めた情念を感じる。
いきなりサックスで始まる「SINGER」は小粋。Osny S. Meloという稲垣潤一や中西保志、Winkなどにも曲を提供している人物の曲だが、すごく小粋。ちょっとSADE
っぽい暗さがあって、コンプレッサーが効いたギターのバッキングと左右いっぱいに広げられたパーカッションが夜っぽい。サビの部分から少しアレンジがJ-POPのような感じになるが、それでも結構無国籍感。
この作品の前後明菜は公私とも結構ごたついてた。デビューから所属していたレコード会社との決別、所属プロダクションからの独立、そして自殺未遂事件...アイドルからアーティストへの脱皮、プロデュースされる側からプロデュースしていく方への転換、そして少女から大人の女性へ...そんな全てがめまぐるしく変わった彼女の周囲のそして彼女自身の変化を受けてかとても声が切ない。
声を張り上げるのではなく、叫ぶのでもなく。熾火のように燃えているようなそんな彼女の心が見える様な作品です。
【収録曲】
1. URAGIRI
2. 赤い不思議
3. さよならじゃ終わらない
4. LIAR
5. 乱火
6. Close Your Eyes
7. Standing In Blue
8. 風は空の彼方
9. SINGER
10. 雨が降ってた…
“CRUISE”full
アイドル⇒アーティストへの脱皮の過程
どちらつかずの部分が評価としては...
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購入金額
3,600円
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購入日
1989年頃
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購入場所
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