レビューメディア「ジグソー」

ルカサー主導の限界か

2006年発表の「FALLING IN BETWEEN」を最後に活動を終了していたTOTO。その後元メンバーで、バンドの核となっていたポーカロ兄弟の一人であるマイク・ポーカロがALSを患ったことにより、その資金援助を目的とするワールドツアーを行い、その模様をライブBD/DVDとして発売するなど、ライブバンドとしては現役復帰に近い状態となっていました。

 

それでも彼ら自身は新作を制作するつもりはなかったということでしたが、前述のライブ盤を発売する際にレーベル側とマネージャーの間で、オリジナルアルバムを制作することが契約条件となっていたことが発覚。昨年には2代目ドラマーのサイモン・フィリップスが脱退していたということもあり、新たな体制を整え昨年から10カ月かけて制作したのが本作ということです。

 

本作の話題となる部分はいくつかあるのですが、「THE SEVENTH ONE」発表前に脱退していた(但しそれ以降もアルバム制作には毎回参加していた)ポーカロ兄弟の三男であるスティーブ・ポーカロが久々にTOTOに正式復帰を果たしたこと、「THE SEVENTH ONE」を最後に脱退(というよりは解雇)していたヴォーカリスト、ジョセフ・ウイリアムスがやはり正式復帰したこと、さらに大ヒット作「TOTO IV」を最後に脱退してそれ以降TOTOとの接点がなかった初代ベーシストであるデヴィッド・ハンゲイトが数曲レコーディングに参加していることなどが挙げられます。

 

 

個人的にはTOTOのヴォーカリストとして最適なのはジョセフ・ウイリアムスだと言い続けてきましたし、TOTOのサウンドの方向性を大きく左右するキーボード・ワークをみせていたのはスティーブ・ポーカロだと思っていますので、この復帰はいずれも大歓迎です。

 

今回は海外でLP盤が発売されていますので、そちらを購入してみました。

 

 

私も実際に手元に届いて初めて知ったのですが、CDとLPとでは曲順が若干異なるようです。まず、CD盤では以下の曲順となっているそうです。

 

01. Running Out of Time
02. Burn
03. Holy War
04. 21st Century Blues
05. Orphan
06. Unknown Soldier (For Jeffrey)
07. The Little Things
08. Chinatown
09. All the Tears That Shine
10. Fortune
11. Great Expectations

 

一方、私の手元にあるLPの曲順は次の通りです。

 

 

具体的には、「Chinatown」と「Unknown Soldier (for Jeffrey)」が入れ替わっているというわけです。LPでは1面当たり2~3曲しか収録されていませんのでつながりを考えた結果なのかも知れませんが、詳細は不明です。

更新: 2015/04/04
総評

セールスを狙いにくい楽曲たち

以前「THE SEVENTH ONE」について触れた際にも書いたのですが、TOTOの良さは卓越した演奏技術と幅広い音楽性を持ちつつも、売れ線狙いの楽曲を意識して作ることが出来る点だと思っています。

 

しかし、その特徴は個人的に「THE SEVENTH ONE」を最後に失われ、「TAMBU」で一瞬だけ復活の兆しを見せたもののそれっきり、というとらえ方をしています。

 

今回はかつてのセールス好調時のメンバーが多く集まったということで、その路線の復活を期待して聴いてみました。しかし、結論から言えば「KINGDOM OF DESIRE」以降常につきまとう取っつきにくさが解消されていないままです。

 

元々TOTOはデヴィッド・ペイチとジェフ・ポーカロが音楽性を主導していたバンドですが、「KINGDOM OF DESIRE」以降はスティーブ・ルカサーが主導権を握るようになり、売れ線の音からはどんどん外れていくようになりました。その流れが本作にもそのまま感じられるのです。

 

今回は曲作りにデヴィッド・ペイチやジョセフ・ウイリアムスも多く関与しているのですが、残念ながら彼らも本作においては良曲を生み出すには至っていません。スティーブ・ポーカロが彼らしい柔らかな曲調の「The Little Things」を提供しているのが救いでしょうか。シングルカットされた「Orphan」も個人的にはしっくりきませんし、ファンからの評判が良いという「Chinatown」も初期の名曲「Georgy Porgy」を思わせるテイストはあるものの、曲自体はあまり良いとは思えませんでした。

 

(注.公式にビデオやオーディオが公開されていましたので紹介しておきます)

 

 

 

 

演奏技術は相変わらず素晴らしいままですし、アレンジにも一撚りがありさすがと思わせます。ジョセフ・ウイリアムスのヴォーカルも全盛期に近いところまで戻ってきていてるのですが、決定的に駄目なのは楽曲自体の出来です。ストレートに曲調で勝負している「The Little Things」を除き、どの曲もメロディーに全く親しめません。

 

決定的なキラーチューンがないという点はシカゴの昨年のアルバム「CHICAGO XXXVI "NOW"」も同様なのですが、シカゴの方は平均的にクオリティの高い曲が並んでいるのに対して、こちらは凡作をアレンジと演奏で無理矢理聴ける水準に引っ張り上げているという印象を受けるのです。

 

そして初代のジェフ・ポーカロ、2代目のサイモン・フィリップスという、いずれもロック界に名を残す名ドラマーの後継者となった新加入のキース・カーロックですが、確かに上手いとは思います。ただ、前任の名手2人と比べてしまうと彼ならではという個性はまだ見えてきません。

 

これでもスティーブ・ルカサーは自分自身の趣向を抑えめに作った方なのではないかと思いますが、それでもかつてのTOTOの輝きは見られないままです。次のアルバムがあるとして、ルカサー主導が続くようであればあまり期待出来ないような気がしています。ルカサーが好むメタル系のサウンドと、TOTOの持ち味が合うとは、どうしても思えないのです。本作でも所々「かつてのTOTO」は顔を覗かせるのですが、無駄にヘヴィな世界観に埋もれてしまっていますから。

  • 購入金額

    4,156円

  • 購入日

    2015年04月02日

  • 購入場所

    HMV

7人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • cybercatさん

    2015/04/04

    これはまだ聴いていないんですよねー。
    David Hungateの復帰は知っていましたが、そうか、Simonももういないんですね。
    昔愛したTOTOとは別モノなんだろーなー。

    ま、今度じっくり聴いてみます。
  • jive9821さん

    2015/04/04

    >cybercat さん

    デヴィッド・ハンゲイトは厳密にはメンバーとしての復帰というよりは部分参加という形のようです。とはいえ、約30年ぶりなのでよく戻ってきてくれたなと思いますが。

    キース・カーロックが悪いというわけではないのですが、TOTOらしさはどうしても薄くなっていますね。ジェフのグルーブ感もサイモンの圧倒的手数もありませんし…。

    実はTOTO信者(特にルークのファン)は本作を熱烈に歓迎しているようなのですが、私にはどうしてもそこまで魅力的には感じられないんですよね…。

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