レビューメディア「ジグソー」

シンプルなリズムが心地よい

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。テクニックとセンス。プロミュージシャンにはいずれも必要な才能ですが、ジャンルの要求として高いテクニックを要求する分野もあります。テクニック系のミュージシャンはプレイの端々にそれが顕れ、聴いていて楽しいものですが、テクニックを要求するジャンルではその要求に限りがありません。そういったジャンルに別方向から挑みハッピーなグルーヴを形作っていたドラマーが参加した作品をご紹介します。

「ジャパニーズフュージョン」の代名詞、T-SQUARE。同時代のフュージョンバンドCASIOPEA

ほどテクニックを前面に出した曲調ではないが、ジャンル的にジャズテイストを入れたインストルメンタルなので、プレイヤーに対するテクニックの要求度合いは高い。デビュー35周年(2013年現在)を数える彼等は何度かメンバーチェンジをしているが、ドラマーとしては近年は現メンバーの坂東慧は手数王菅沼孝三に師事したテクニシャンだし、その前の則竹裕之も対バン?CASIOPEAドラマー神保彰とドラム2台だけのユニットSynchronized DNA

で「曲」を構成することができるほどの凄腕ドラマーとテクニック系のプレイヤーが参加していた。この二人の在籍期間が長いので(則竹のサポート時代も入れると25年近い)、T-SQUAREのドラム=明確でタイトなリズムを持ちながらも高難易度のテクニックが顔を出す、という公式ができているが、則竹が参加するまでの10年ほどは2年と保たずドラマーが変わるような状態だったため、かなりアルバムによってカラーが異なる。

その2人のドラマーによる後期の安定期に入る直前、現在まで続くロック色の強いT-SQUAREのカラーを形成したのが、本作から参加するドラマー長谷部徹。わずか3年の在籍ながら、ビート感が強く華があるスラップベースを弾く田中豊雪とコンビを組んで5作に参加し、“ADVENTURES”

という彼等の初のオリコン総合ベスト10入りアルバムでもプレイ、現在まで続くT(HE)-SQUAREサウンドの基礎を創った。

元々彼はジャニーズ出身でダンサーなどを経験後、ジャニーズ事務所のANKH(アンク)というバンドで活動していた(ちなみにANKHのベーシスト松原秀樹は、今でも数多くのスタジオワークをこなす名プレイヤーで、このANKHは結構実力派のミュージシャン揃いだった)。前作“MAGIC”のあとドラムスの清水永二が離脱し、オーディションを受けて入ってきた。後の則竹⇒坂東路線に比べるとテクニックは表に出ない。「おぉぉぉぉ!すげぇぇ!」ではなく「イイネ!(ニヤリ」という感じでプレイはシンプル。でも強いビート感でロック~ポップ調というT(HE)-SQUAREのリズムの基礎は彼が創ったし、歌ものへのチャレンジなどもしていたバンドカラーにも合っていた。

アルバムはLyriconの音色も爽やかな「HAWAII E IKITAI (ハワイへ行きたい)」で幕を開ける。長谷部のタイトなリズムが歌をつければそのままポップスとして通用しそうなキャッチーな曲にあっている。途中のベースとドラムスの掛け合いのオンビートソロ(というより長めフィルイン程度だが)が見せ場?だが、ここもテクニック披露というよりはビート感が途切れないようなリズミカルな構成。サビの間中、拍の裏々に入るハイハットオープンはやってみると意外につぶを揃えるのが難しいんだけれど。

KYAKUSENBI NO YUHWAKU (脚線美の誘惑)」はTVのBGMにも使われたポップなライトフュージョンだが、実はシンバルミュートやハイハットオープンを使ったリズムブレイクも多く、ノリを出すには結構難しいリズム。硬めではあるが前ノリの引っぱるリズムで、田中+長谷部コンピの良さが出ている。

そして、現在でもT(HE)-SQUAREの最高のバラードとして挙げる人が多い名曲「HEARTS」。深い残響音と音像効果で湖に広がる波紋のように左右の端々まで広がるドーンという効果音、かき鳴らされるハープの調べに曲を下支えする生のストリングス、歌う伊東たけしのサックスという曲調には、ドラマチックでダイナミックなロックバラード風のリズムが心地よい。同じくこのアルバムから参加し、2013年現在においても「最長在籍キーボーディスト」となっている和泉宏隆のロマンチックなピアノソロと安藤正容の壮大な泣きのエンディングソロにはテクニックで飾らないドラムスがよく合う。

既にT(HE)-SQUAREとしては初期の作品という状態だが、彼等がクロスオーバーと呼ばれた「ジャズ>ロック・ポップス」のカテゴリーから(ジャパニーズ)フュージョン=「ジャズ<ロック・ポップス」に明確に舵を切った作品として起点の作品。

シンプルなリズムによる歌なしポップスという彼等の現在まで続くカラーの基礎にはジャニーズの血が入っていた!というのが意外な事実です。

廉価版の「CD選書」シリーズを入手
廉価版の「CD選書」シリーズを入手
 

※所持するのは簡易包装の廉価版として発売された「CD選書」シリーズですが、Amazonは試聴ファイルがある同内容のCDに繋いでいます。

【収録曲】
1. HAWAII E IKITAI (ハワイへ行きたい)
2. THE REST OF ROMANCE
3. KYAKUSENBI NO YUHWAKU (脚線美の誘惑)
4. HEARTS
5. LOVE’S STILL BURNIN’
6. CHANGE YOUR MIND
7. BETWEEN
8. FULL CIRCLE
9. MEMORIES OF ALICE

「ハワイへ行きたい」

更新: 2021/05/01
必聴度

ジャパニーズフュージョンのひとつの極み

シンプルでわかりやすいインストを世に広めた功績は大きい

  • 購入金額

    1,500円

  • 購入日

    1990年頃

  • 購入場所

19人がこのレビューをCOOLしました!

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