PCケースというのは直接演算性能やストレージ容量に関係しているものではないが、使い勝手とそのPCの使用用途(方向性)を決める重要なパーツである。
大きさは設置場所と内部に組み込めるパーツの大きさや数を決めるし、用意されるベイの数やポートの位置は搭載するアクセサリやボードに要求される機能を制限する。
大きければいろんなアクセサリやボードを積めるがその分スペースは取る。省スペースなPCは拡張性もさることながら、冷却と騒音の面でも厳しい(省スペースPCにはファンの設置スペースが限られていて、小径ファンが使われることが多く、高回転で運転されることが多い)。
また最近では魅せる(見せる)PCというのも勢力を持っており、内部のパーツの色を統一したり、LED付きのファンやメモリを使用したりして美しく飾るというニーズもある。その風潮を反映してか、高級グラフィックボードやCPUファンの一部には、設置状態で読める位置にデザインされた製品名称を記したり、カラフルな化粧版を採用しているものもある。
今までcybercatのPCケースと言えば、ほとんどがフルアルミ。ヘアライン加工のアルミならではのCOOLな質感と、アルマイト処理ならではの「塗装っぽくない」重厚さ、金属製とは思えない軽さは今でも十分通用するが、取扱いメーカーが少ないため、あまり多くのバリエーションは生まれづらい。また、所持するほとんどのケースの製造が古いこともあって、外部ポートの規格の問題や近年多く必要になってきた2.5インチシャドウベイへの非対応、という問題もある。さらに「内部を見せる」構造ではなく、前面ファンにLEDファンを仕込む程度しか加飾の方策がなかった。
今回、近年組みやすいケースを多数発表しているCORSAIRのAir 540を用いて、冷却性能に優れ見た目にも訴えるPCを制作する。
同社のPCケースには拡張性を重視した“Obsidian”シリーズ、人目を惹く色や形を持った“Graphite”シリーズ、ゲーマーに向けた“Vengeance”シリーズ、拡張性と冷却性能を追求した“Carbide”シリーズがあるが(2014年10月現在)、本品はCarbideシリーズに属する。後述する特異な構造を採ることにより、冷却性と拡張性の両立、および視覚に訴えるPCが組むことができる“Air”。このシリーズにはMicro-ATXまでの対応の「Air 240」もあるが、今回はExtended-ATXまで対応可能な大型機だ。
ではまずこのケースの構造上の工夫を見て行こう。
大きさ的には幅が33cmと標準的なPCケース(19~24cm程度がほとんど)に比べて1.5倍ほどある。高さは46cmと一般的なミドルタワー(43~50cmのあたりが最も多い)とほぼ変わらない一方、奥行きは41.5cmで45~55cmが多いATXケースでは短い部類に入る。
つまり、よくあるミドルタワーケースと比べて「幅が広く奥行きが短い」ことになり、一般的に一番長いことが多い奥行きがつめられ、一番狭い幅が広げられたことにより、幅:奥行:高さの比率はおよそ2:2.5:2.8となって、より直方体に近づいた。
こういった縦横比のPCケースには、「キューブ型」と呼ばれるカテゴリーがあるが、それらはM/Bが正方形に近いMicro-ATXやMini-ITX用のものがほとんどで、本品のようにフルサイズのATX-M/Bが入るものはほとんどない。巷では「ビッグキューブ」とか「スーパーキューブ」とか呼ばれているようだ。
この特徴的なフォルムは、本品の特異な構造にある。
リアから見ると良く判る特異な構造。一般的なPCケースは隔壁の右側の幅
一般的なPCケースは一方のケース内側側面(通常向かって右側)にM/Bが固定され、PCケースのほぼ幅いっぱい使う2つのパーツ、すなわちATX電源がM/Bの上方もしくは下方に固定され、光学ドライブなどが搭載される5インチベイがM/Bの手前側に固定される構造を採る。また長大なビデオボードなどの搭載と3.5(2.5)インチベイの数を両立しようとすると奥行きはどうしても長くなる。
いわゆる「表側(左)」にはM/Bと3.5インチシャドウベイしかない
それを本品はケースの幅を増やすことで解決した。つまりケースを縦に2つに区切った様な構造として、片側(向かって左側)にはほぼM/Bのみ(実際には3.5シャドウベイが2つある)、片側に電源と5インチベイという「規格上幅をとるパーツ」を「縦に積む」ことで倍の幅ではなく1.5倍の幅に抑えたレイアウトを採る。
これはエアーフロー上も理にかなっている。PC(特に高性能PC)での熱源といえばCPUとビデオカードだが、これらを冷却するためのエアーフローは通常PCケース前面下側の3.5インチシャドウベイのあたりから入り、ビデオカードなどの障害物を斜めに横切って、CPU付近に到達する。そのため風量の確保と特に空冷CPUクーラーにおいてはすでに3.5インチベイのHDDや拡張カード類冷却で「使われた(=温度の上がった)」空気しか来ないということが問題になっていた。
フロントから3.5インチシャドウベイや拡張カードエリアを通ってきた風はフレッシュではない
それが本機の「デュアルチャンバ設計」では、向かって左のエリア(チャンバ)には5インチオープンベイや3.5インチシャドウベイがないため、
・前面の空気取り入れ口を大きく開口できる
・直線的に前面から後方に空気を流すことができるため、長いボードを積んでも空気の流れが妨げられない
という利点が生まれた(3.5インチシャドウベイもこのエリアに平置きされるため、高回転HDDを積んだ際も熱処理の恩恵を得ることができる)。
一番熱を出すCPUやビデオカードに直線的にフレッシュエアーが当たる
残る熱発生の大物=電源は右側のエリア(チャンバ)に隔離し、直接外部に開口した空気取り入れ口を設けることで熱対策を実施している。
また、M/Bを固定する中央の仕切りには穴あきゴムで目隠しされた多くの穴が開いており、裏側配線により、さらなるエアフローの向上と、M/B側に大きく空いたウインドウからの「見栄え」をよくすることもできる。
一方、幅を抑えるため5インチベイが縦方向になったことは、光学ドライブ搭載の場合は縦置き可能な構造のものを要求すること、ファンコントローラーなどで文字表示がされるものは表示が90°傾いてしまう、ということになるのは搭載デバイスを選ぶことになる。
また、右チャンバに用意されるシャドウベイは2.5インチのみ対応で、3.5インチサイズではない。SSD化が進んだ現在において、ほとんどがHDDに使われる3.5インチシャドウベイは多くは必要ない、との判断かもしれないが、大きな躯体を活かして、大容量HDDを複数台積んだストレージマシンを組む...といった用途には制約が入る。
また3.5インチオープンベイがないため、USB3.0が2ポートのみと多くはない前面外部接続ポートを補うべく、USBやeSATA、SDカードスロットなどを備える3.5インチサイズのベイアクセサリを仕込もうにも3.5⇒5インチベイのサイズ変換アダプタ―が別途必要だ(本ケースには付属しない)。
なお、小さな事だが、フロントUSB3.0ポートは180度回した方がよりよかったと思う。このケースは左側面がアクリル窓なので、そちらを自分側に向けるようケースを右に置く配置にする事が多いと思うが、そうすると片面にのみ動作確認LEDがあるUSBメモリの多くはそれが逆側となって確認しづらいからだ。約1年発売があとのほぼ同じコンセプトのMicro-ATXまでの対応の小型版、「Air 240」では改善されているので、ユーザーからのフィードバックが反映されたのかもしれない。
このあたりが外観からわかるこのケースの特徴だ。
では実際にPCを組んでみよう。
このケースは広い。そのため、小型ケースのように「これをほかの部分より先に組まないと組みあがらない」とか「このパーツを先に固定してしまうと別のパーツのネジが締められない」というようなことはない。電源、ベイ、マザーボードのいずれから手を付けても大きく操作性は変わらない。ただし、マザーボードとそれ以外はチャンバが異なるため、パーツの固定や結線のために比較的頻繁にケースを裏返す必要がある(M/Bの固定以外は立てたままでも可能だが、取付は側面が上になる方がやりやすい)。その際両サイドの化粧パネルは除去するだろうが、フロントの化粧パネルは取らないため、傷をつけてしまうのを防止する目的で帯電しない布などを置いておいた方が良いかもしれない。というのも本機のフロント部分はメッシュの部分以外はプラスチックだからだ。マットな加工でチリの合いもよいため、安っぽい感じはしないが、スレやすい面もあるため、ケアは必要だ。
まず側面および(今回上方排気口を利用した簡易水冷冷却とするので)天板の化粧版を外し、左側面にM/Bを固定する。左側のチャンバには、M/Bと底面に並んでおかれる2つの3.5インチシャドウベイしかないので、M/Bはケースの中央、(リアパネルに接するように)後ろ寄りに設置される。電源が隔離されているので上にも下にも構造材などがなく、非常に組みやすい。
M/B側底面に置かれる3.5インチシャドウベイはコネクタ固定。
また、工夫として中央のM/B固定用六角スペーサーひとつが他のように袋ナット状ではなく、逆に突起になっている(通常の形状のものもパーツとして付属するので付け替えることは可能)。そのためここはねじ止めができないわけだが、ATX系のM/Bは一般に9穴以上の固定ネジ穴が開いているので、固定自体が緩む、ということはない。逆にこの突起でほぼ定位置にM/Bが保持されるため、バックパネルに押しつけながらM/Bを固定する必要がなく、今回使用したM/B(ASUS X99-A)のように、バックパネル裏にクッションがついているようなタイプ(普通ならその弾力のため、バックパネル側に強く押し付けないとM/B固定穴が合わない)でも楽に固定ができた。
今回12cmファン2個を並列配置する巨大なラジエーターを持つ簡易水冷、CORSAIR H100iを使うが、電源を右チャンバに隔離してあるため、M/B上方は大きく空いており、簡単に取り付けることができる。なお、空冷のCPUクーラーを使う場合は、この上方換気口には14cmのファン2機を搭載することもできる。
左チャンバには遮るものもないため、冷却ホースが硬いことも多い簡易水冷であっても、そのホースの取り回しを気にしなくてよいのは非常に組みやすい。
次に右側チャンバに移って電源の固定だ。右側チャンバの幅を狭くするため電源は横倒しに置かれる。右サイドに吸気用のホールが開いているのでそちらに吸気ファンが位置するようにユニットを立てて設置するが、先にケース底面にあるユニット固定用のスライド金具を外さないと電源が入らないので注意が必要だ。またかなり精緻に考えられているこのケースの唯一の問題点ともいえるのが逆側(M/B側)チャンバ底面に置かれる3.5インチドライブ用の接続線の処理。これは右側(電源側)チャンバに貫通して線が出てくるのだが、このうちのケース奥側のケーブルが電源と当たるのだ。電源の向こう側(左右仕切り板側)で曲げるとかなり急角度だし、電源の下側を通して迂回させるとかなり引き回しがうるさい。しかもかなりこのケーブルが硬く、思うように曲げることもできない。このライン取り回しは再考が必要かもしれない。
これだけよく考えられているのになぜ?電源奥から出るケーブルは硬く取り回ししづらい。
電源を固定すると、今度は左右チャンバを貫通するケーブル類の処理だ。M/Bを囲むように9個も穴が開いており(そのうち8つは黒いゴムの目隠し付き)、右側チャンバが広大で余剰線の処理も容易なので、裏側配線をするにはまさにうってつけのケースだ。M/Bのコネクタの位置に合わせて一番近い穴からケーブルを出し、接続後最低限の長さを残して余剰分を右チャンバ側に押し戻せば、左チャンバにはほとんどケーブルらしいケーブルが走らないすっきりとした仕上がりになる。これは見た目もさることながら、冷却の面からみても空気の流れを遮るものがないことから高い冷却効率を得ることができると思われる。
見える方(左側)の完成形。エアーは前(写真では下)から後ろに直線的に抜ける。
最後に右チャンバにある2.5インチシャドウベイに起動用SSDを積んで接続し、化粧版を戻せば基本的な組み立ては終了する。
右チャンバはあまり熱源になるものがないため、電源自身のファンしかない状態だが、整備性を考えてケーブルの引き回しを工夫すると、より美しく、またすっきりと仕上がるので、放熱の観点から考えてもその行為は無駄ではないだろう。今回は電源線をケーブル整理用アイテム「ケーブルまとめタイ」で包み、信号線と分けるようにした。
まず圧倒的な冷却性能が上げられる。12cmファン2枚を横に並べた大きさの巨大なラジエーターを持つ大型簡易水冷「CORSAIR H100i」でも余裕で設置できる。さらに一番の熱源となるCPUとビデオカードを隔離し、大量のフレッシュエアーを確保したことで、CPUクーラーやビデオカードクーラーのより小径の冷却ファンの回転を抑えられ、静音化にも貢献できる(どころか、今回50℃未満ではファンが回らないASUS STRIX-GTX750TI-OC-2GD5をビデオカードに使っているため、PCMark8やOCCTの実行ではファンが回りすらしなかった)。
一般的用途でのCorsair Link Quiet Modeでのファンの回転数は900回転前後
さらに多く開けられたホールによって裏面配線が容易で、裏面側にもケーブルを纏める充分なスペースがあるため、整備性も非常によい。ただ、その裏に関してはCPU裏に大きく空いたサービスホールでバックプレートが必要なCPUクーラーでも簡単に交換できるのはよいのだが、M/B裏もまたむき出しになるので、SATA電源線などの余剰端子を触れさせたくないし、どうせならナナメにサービスホールを横切るのではなく、縁に沿わせたいと思うが、固定するところがなく、ちょっとケーブルが遊びがちなのはやや減点。また、コチラ面のシャドウベイは2.5インチドライブ専用なので、複数の大容量HDDを積んでRAID5や10構成のストレージマシンを造る...という様な用途には向かない。コチラの面にはスペースは充分あるのに惜しいところだ。
近年PCケースの分野でも組みやすさとアピアランスで定評があるCORSAIRの「スーパーキューブ」、デュアルチャンバ形式のAir 540を使用してPCを組んだ。用いたパーツが、8コア16スレッドの高性能CPU、Core i7-5960Xを中心としたもので、それを冷却するため12cmファン2つを並べた大きさの巨大ラジエーターを持つCORSAIR Hydro Series H100iを使用したが、全くストレスない構築ができた。
このケースは一般的なATXケースの1.5倍幅を取ることでそのデメリットを補ってあまりあるギミックを持つケースとなっている。
デュアルチャンバ構造と呼ばれる中央隔壁で熱の最大の発生源のCPUが載るM/Bとビデオカードを隔離し、電源や5インチベイの様に規格上幅を取るアイテムをもう一つのチャンバに縦置きにすることで幅を抑えたことが、エアフローと見た目の良さを成し遂げている。またM/B裏も縦置きした電源ユニットの幅はあるため、裏配線のしやすさやメンテナンス性の良さを産んでいる。
M/B側はほぼ全面(約33✕38cm)という大きさのアクリルウインドウなので、光るCPU/GPU/ケースファンや、イルミネーションを仕込んでも見栄えがして面白そうだ。
ただ細かいところだが、
・前面USB3.0ポートの向き
・3.5インチシャドウベイ裏の配線処理
・裏面配線を容易にするフックやホールの装備
・裏側のシャドウベイが3.5インチドライブ非対応
と言ったあたりが惜しいところか。
ただ、それらを覆い隠すほどの性能とアピアランスで、本品は強烈な存在感を放っている。
スペースが許すならば是非一度経験していただきたいPCケースである。
【Carbide Air 540(CC-9011030-WW)仕様】
カラー:ブラック
サイズ(幅×奥行×高さ):330×415×460mm
各種ベイ数:5.25インチベイ=2、3.5インチシャドウベイ= 2、2.5インチシャドウベイ=6※
※うち2つは3.5インチシャドウベイと排他的利用
拡張スロット:8
搭載電源:なし( ATX規格電源対応)
対応マザーボード:E-ATX、ATX、Micro ATX、Mini ITX
ファン:フロント=2×140mmファン(3×120mmファンに変更可能)
リア=1×140mmファン(1×120mmファンに変更可能)
トップ=なし( 2×140mmファンもしくは2×120mmファンを追加可能)
フロントポート: 2×USB 3.0、1×Audio in/out
重量 :約7.5kg
保証期間:2年間
付属品:ネジセット、取扱説明書
輸入元(株式会社リンクスインターナショナル)製品紹介ページ
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購入金額
0円
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購入日
2014年10月20日
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購入場所
5 Reviews ICE Tower秘宝
bibirikotetuさん
2014/12/02
フル水冷環境で使ってみたいw
cybercatさん
2014/12/02
若干ケース外装の表面処理がプラスチッキーですが、それを補って余りある大きなアクリルウインドウから覗くメカメカしい感じと(5インチベイの横っ面が見えないのもいいのかも)、それに反してうるさくならない配線処理が可能なこと。
見栄えの良い発光ファンや存在感ある複数のビデオカードを積んだりすれば、魅せるPCが構築できます。
ただ、これだけでかいのに3.5インチドライブは2つ。
ストレージリッチマシンにはちょいキツイか?(6TB×2のミラーリングならあるいは...)