中森明菜。1980年代に松田聖子と人気を二分したアイドル。聖子が(最近はずいぶん歌が上手くなってきたけれども!!)「歌唱力<<容姿」だったけれど、明菜は歌も優れ、アイドルではない単なる歌手としても通用する歌唱力だった。
そんな彼女がデビュー4年を経過して初のセルフプロデュース作として出されたアルバムが“不思議”。これは「ボーカルも楽器のひとつとして表現する」というコンセプトでプログレグループEUROX
が全面バックアップした意欲作だった。しかしボーカルが楽器の音に埋もれて音像の壁を創り出すようなミックスは、「アイドルのオリジナルアルバム」の目線で見ると異端で、明菜の人気でオリコン1位になりはしたが、一般受けはイマイチで、人気絶頂期の明菜にしては珍しくレコ大の優秀アルバム賞などの賞には恵まれなかった。
この作品はその“不思議”から5曲と、新曲(つかアルバムに収められなかった未収録曲)「不思議」(アルバムタイトルに使われた曲が未収録、というのもおもしろいが)が収められているミニアルバム。しかし“NEW VOCAL WITH RE-MIXED VERSION”と書かれているように、「ボーカルを録り直し、ミックスダウンで(普通の楽曲のように)“ボーカルと伴奏”の関係にした」もの。結果メロディーを明確に判って明菜の歌が引き立つミックスになっている。
「Labyrinth」。アルバム“不思議”では半数(10曲中5曲)の曲の作曲と過半の曲(おなじく7曲)の編曲を手がけていたプログレグループEUROXだが、本作品では影響度を大幅に低め、唯一の作編曲という立ち位置。プログレなのにスラップしたベースが入り、左右に散らされたクリーンな音のギターのカッティング、あまり上下に動かない不思議な旋律はそのままだが、「声も楽器のひとつ」とかなり他楽器に溶けこむようなミックスだったアルバムと比べると、きちんと明菜の声は前に出ている。そうなると抑揚のない難しいラインでの明菜の確かな歌唱力が感じられる。
「不思議」。初期のLarry Carlton
かと思うようなフュージョンタッチのスローナンバー。流麗なピアノ伴奏に乗せて年齢とともに深みを増してきた明菜の声で上下の振幅の少ない難しいラインが歌われる。キラキラとしたピアノは(クレジットはないが)編曲者の井上鑑か?
最後の「Teen-age blue」は吉田美奈子の作詞作曲で、椎名和夫のアレンジ。アルバム“不思議”バージョンに比べると、もっともボーカルラインが明瞭になった曲で、これなら少しチャレンジングなアイドル曲としても通る。(アルバムと同じ旋律なので)数原晋と思われるトランペットソロがちょっと異国なラインだが。それともここはキーボードで参加(しているはず)のプログレフュージョンバンド、PRISM
の中村哲の趣味か?
ザッパに言ってしまうとアルバム“不思議”のプログレ色を弱め、歌謡曲風に仕立て直した作品。そのためなのだか、それともこの盤も24金蒸着仕様という特装盤だからか、再発は一度通常仕様のCDでされただけ。アイドルの衣を脱ぎ捨て、アーティストに脱皮しようとした作品が受け入れられず、「売れる」形態で出した作品。明菜的には(EUROXのファンであるcybercat的にもw)「妥協の作品」なのかも、知れません。
【収録曲】
1. Labyrinth
2. 燠火
3. 不思議
4. ガラスの心
5. マリオネット
6. Teen-age blue
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購入金額
4,300円
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購入日
1988年頃
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購入場所
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