レビューメディア「ジグソー」

カスタムIEM...その細密な世界

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いつも音楽を切らさない...
そういう生活をしている。

さすがに仕事中は聴かない(聴けない)が、家でも車の中でもそして通勤時も。
家では帰宅が遅いため大型アンプ

につながるシステムこそ滅多に起動させなくなっているが、帰れば早速PCつけてDAC込みのスピーカー

で常に音が鳴っている。
車でも3回ほどに分けてチピチピ施工をし、納得いく状態になったのでそれで聴いてる。また自分でスピーカー交換も2回ほどした。

でも通勤時(電車)に関しては周りの雑音も多いし、ソースがケータイの音楽機能かiPod shuffleだったので、どちらかと言えば聞こえればいいや的な状態だった。それが複数のイヤホンを比較試聴できる機会があり、好みのものがあったので購入したのが5月

それまでのと違い、納得して購入したのでかなりお気に入り。毎日の通勤が楽しくなった。

...ただ、一度良いモノを識るとさらにその先の扉を開けてしまいたくなるのが人の性(サガ)。

以前プレミアムレビューさせていただいたP8

のように、ハイサンプリングレートで可逆圧縮のflacや非可逆圧縮形式では比較的高音質なoggなどのファイル形式が再生可能なプレイヤーを使っていると、もう少し曲の艶を、シンガーの息吹を、プレイヤーのタッチを聴きたくなる。

.          ~扉を開いた先には、新鮮で細密な世界が待っていた~

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イヤホンの分類にはダイナミック型とかバランスド・アーマチュア型といった駆動方式の差もあるが、もう一つ形状の差もある。一般的には次の通りか。
●オンイヤー型:耳かけ型も呼ばれる。イヤホンとヘッドホンの中間に位置する。ヘッドホンからヘッドバンド部分を取り去り、直接耳につけるようにしたタイプ。耳には密着しておらず、スピーカーを至近で聴いている形になる。耳の中まで入れないので骨を伝わる低音増強効果などはない代わりにユニット口径を大きくできるので、それで低音を補う。ヘッドバンドやネックバンドで左右から挟まないので音漏れもある。分類上イヤホンに分類しないこともある。
●インナーイヤー型:耳殻から外耳道の境目に、軟骨に引っかけて密着させて置く。口径は1cm程度以上には大きくできず、厚さも限られるが、骨をある程度伝わり低音が感じられるので、コンパクトなわりには低音まで伸びる。どんな耳の形でも選ばず許容範囲が広いので携帯音楽プレイヤーの標準添付品としての採用が多い。原理上音漏れも多い。
●カナル型:外耳道をふさぐ形に(耳栓をするように)ユニットを押し込むタイプ。密着度を稼ぐためにイヤーパッドには、シリコンなどの素材を使ったり、松笠のようにひれのような形状があるなど工夫されていて外界の音を遮断する。その遮音効果と耳への密着度から音域広く聞き取れる。最近の高級イヤホンでは採用例が多い。
一般市販のものだと以上の形式がほとんどだが、オンイヤー型<インナーイヤー型<カナル型の順に密着度が高く、耳の奥に押し込む形となる。その分ユニット口径への制約は大きくなるが、密着度が上がるので低音の伝達性も出る。雑音も遮るので高音も減衰せず聞こえる。そのため最近高級イヤホンの多くはカナル型を採る。

ただ世の中にはさらにその密着度を推し進めたイヤホンがある。

TVやDVD映像などでシンガーや楽器のプレイヤーが耳殻の半ばをふさぐような形でプラスチックの器具をはめ込んでいるのを見たことがないだろうか。
あれが、そう。

耳殻と外耳道の一部にゴムやシリコンの緩衝材なく密着し、かつ比較的大きなハウジングサイズも確保できる形式。各個人により異なる耳殻や外耳道の形に合わせる必要がある。このため、各個人の耳の形に合わせて作る。すなわち全てフルオーダー。

...究極のカナル型とも言えるこのイヤホンをカスタムインイヤーモニター=カスタムIEMという。

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このイヤホン=カスタムIEMは「カスタム」の名の通り各個人の耳の形に合わせて作られる。そのため完全なオーダー、一点もの。まず「耳の型を採る」ところから始める。そしてその耳型をメーカーに送り作成してもらう。そのメーカーは多々あるがほとんど海外。Jerry Harvey AudioやUltimate Ears、EARSONICS、Westone....。最近でこそ取り次ぎサービスなどを手がけている会社もあるが以前は個人輸入。英語力も要求されるし、完成品が見えないので、不安。しかも結構なお値段。なかなかに敷居が高いものだった。今でも取り次ぎサービスを使ったとしても完成品が見えなかったり、調整の時に上手くやりとりできるかの不安は残る。

では日本のメーカーないのかというと、先駆者として須山補聴器の手がける“FitEar”シリーズがある。そう、この耳型を採る、という技術は補聴器から発展した技術。プロのカスタムメイドも多く手がける須山補聴器は実績もあるが比較的高価。10万円前後のクラスが中心。最初のカスタムIEMとしてはポンとは出せない額でもある。

他には...実はもう一つある。それがカナルワークス(canal works)。2010年4月設立の比較的新しい会社だ。オーディオメーカーに努めておられた社長の林さんが独立して始めた小さな工房。でもその小回りの効く立ち位置を生かして?とても細かいオーダーができる。須山補聴器では数色しかないカラーが、なんと21色!さらにシェル(ボディ)とフェイスプレート(外側に見える部分)を別の色にもできるので(一部モデルはボディがクリア限定/ボディとフェイスプレートの色を変えるのはオプション)21×21色の組み合わせが可能!フェイスプレートに入れるメーカーロゴも、なし、ブラス製(ゴールドカラー)、アルミ製(シルバーカラー)が選択可能。さらに有料とはなるが装飾として、スワロフスキー社製ラインストーンやアルミプレート(ミラー、ヘアライン)やブラスプレート、ゴールドやシルバーのグリッターを散らすことも出来、組み合わせはほぼ∞。もちろん外見だけでなく、ケーブル長やコネクタ形状(ステレオミニプラグストレート型、同L型、バランスHR型、バランスKC型)といった機能面でも細かいオーダーが入れられる。

それでいて価格は約5万~8万5千円と比較的取っつきやすい。

.             .          ~心が、動いた。~

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都心であればいくつかの提携店で試聴ができる(他に大阪や福岡にもある)。..が、普段都心にほぼ縁のない生活をしているcybercatには腰が重かった...でもここには試聴器貸し出しサービスというものがある。送料の負担のみで無料貸し出し。購入、という運びになった時にはその送料負担分は割引してもらえるサービスである。

試用機はボックスに入って届く。タッパーには数種の太さ・長さのシリコンチップ(チューブ)が
試用機はボックスに入って届く。タッパーには数種の太さ・長さのシリコンチップ(チューブ)が

取り寄せてみた。2種類のモデルを一度にお貸しいただけるので、当時3種あったラインアップのうち、シングルドライバーのCW-L01と、初号機で“原器”とも言える2ウェイ3ドライバーのCW-L11を選択。

シリコンチップ(チューブ)の方向で判るようにcybercatの外耳道はかなり下向き
シリコンチップ(チューブ)の方向で判るようにcybercatの外耳道はかなり下向き

届いたので聴いてみる。音が、近い。中域~中高域の密度が違う。特にパーカッションが良い。ボーカルもブレスが感じられる。もともとcybercatはドンシャリ傾向の音より、中域が充実している人声やサックスが美しい音作りが好み。ちょうど方向性はいい。この美点はCW-L01とCW-L11共通のことだったが、CW-L01はフルレンジのシングルドライバー、若干低域の「ブリッ」と感?が不足しているような気がしたこととインピーダンスが大きい=再生機に高い出力を要求するので、CW-L11を購入することとした(注:試聴機は万人にフィットするようにチューブ形状のシリコンチップをユニットと耳の間に挟む⇒これが密着感をスポイルするので実は製品機の方が低音は遙かに出ていた⇒したがってCW-L01でも製品機なら十分かもしれない)。

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耳型は採れるところで採取して送っても良いが(採取の際にノウハウがあるので、打ち合わせ後にした方がいいと思う)、経験豊かな提携店で採ることもできる。cybercatは珍しく都心に出張があったので、そのついでに採取することに(要予約)。品川にある東京ヒアリングケアセンター 品川大井町店にお願いし、社長の菅野さん自ら採取していただいた。耳の中に耳栓を入れシリコンを流し込み型を採る。左右2個ずつ採取したが、30分程度のことだった。もちろん無痛だし、汚れることもない。

このでんでん虫のようなものがcybercatの耳型(左右各2個)
このでんでん虫のようなものがcybercatの耳型(左右各2個)
こういった器具を使って採取する
こういった器具を使って採取する

このときcybercatは自分の耳は
・外耳道の奥がかなり細い
・外耳道の開口方向がかなり下向きでやや後ろ側に向けて開いている
であることが判った。

採取中はこんな感じ。ちょっとくすぐったいが、熱くも痛くもない。
採取中はこんな感じ。ちょっとくすぐったいが、熱くも痛くもない。

この耳型は提携店からカナルワークスに直送され、制作にかかることとなった。

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この耳型採取以前に仕様詳細を詰める必要がある。
cybercatが選んだのは、結局2ウェイ3ドライバーのCW-L11。
これはカナルワークスにとっては“原器”とも呼べるモデルで、最初の半年はこれ1モデルだった。
低域用2ドライバ、高域用1ドライバの2ウェイ3ドライバ構成。駆動方式はバランスドアーマチュア方式。
このモデルではシェル(ボディ)にも色がつけられたが、内部構造が見える方が楽しいかとクリアを選択。フェイスプレートには林さんとメールで見え方を確認して透ける色の「マリンブルー」を選択。これにカナルワークスのエンブレムをシルバー(アルミ製)で入れ、シルバーグリッター(キラキラ)を散らしてもらうことにした。散らし方も細かく「ロゴの上にのみ」とお願いした。後はコード(ケーブル)が比較的太かったので、鞄などに引っかかってしまわないよう、クリップを二つ、お願いした。

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ちょうど制作スケジュールの一番悪い時にお願いすることになったので、耳型採取後約8週間を要したが、できあがってきた。ものは趣味の良いポーチに入って届く。

商品が入っているポーチ
商品が入っているポーチ

それを開けるとハードケースと説明書、クリーニングツールと他人に試聴させるためのシリコンチップ(チューブ)がある。

ケースはしっかりしたペリカンケース
ケースはしっかりしたペリカンケース

ケースを開けると、さらにソフトケースが。

ちなみにこのソフトケースの色も3色からえらべる
ちなみにこのソフトケースの色も3色からえらべる

そしてついに製品と対面。

こういうたたずまい
こういうたたずまい

見た目的には

ロゴにはグリッターを乗せてある
ロゴにはグリッターを乗せてある

少し、サイトで見て考えていたより青みが薄いが、中が透けて見える美しい仕上がり(これはメールでの打ち合わせ通り)。印象としては、大きい!今までのものよりハウジング容量が遙かに稼げている。

CW-L11(右)とHA-FXT90の右ユニット(ほぼ同じ方向に向けてみた)
CW-L11(右)とHA-FXT90の右ユニット(ほぼ同じ方向に向けてみた)

コード(ケーブル)も太い。HA-FXT90の倍以上ある。ノイズ対策や音質への影響、強度を考えればあまりに細いのも頼りないが、ゴツイ感じ。ただしなやかなので取り回しに苦労することはない。ファッションスタイル的に、イヤホン装着をあまり目立たせたくない場合にはちょっと“重い”かもしれない。

CW-L11(右)とHA-FXT90のプラグとコード
CW-L11(右)とHA-FXT90のプラグとコード

耳に掛けるかけ方は耳の上側を通して背中側に逃がすいわゆる“SHURE掛け”だが、ユニットにつながる部分のコードの硬さと形状保持のバランスがとれており掛けやすい。

調整時に林さんからより密着度が上がる装着の仕方を教わったので図で解説する。まずユニットを前に倒して耳の穴に滑り込ませるようにまわしながらシェルをねじ込む。

90度くらい回転させながらねじ込むのがポイント
90度くらい回転させながらねじ込むのがポイント

さらに耳たぶを上に下に逆側の手で引っ張って、より耳との密着性を高める。

逆の手で耳を引っ張ってさらに中に密着させる
逆の手で耳を引っ張ってさらに中に密着させる

耳元で軽く指をこすり合わせて“カサカサ”という擦過音が聞こえなくなればOKだ。

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肝心な音だが、エージングは必要だ。現在50時間ほど経過しているが徐々に下が出てきた。ただ最初から中域~中高域の一番大切なところは出ている。

音が、近い。そして広い。

特にパーカッションのキレ、その余韻、皮の厚さなどは手に取るようだ。
シンガーのブレス、サキソフォニストの手癖、ギターの巻き弦でのピックのアタリ、全てが新鮮。
そして音響処理が良く判る。

ただこれらは完璧なフィッティングにより完成度を増す。カナルワークスでは購入後一定期間のフィッティング調整は送料の負担のみで何度でも無料だ。ただ、予約の上直接カナルワークス社を訪れ、調整していただく方法もある。1日で複数回に渡る調整もできるので(30分~1時間)、可能であればこの方法を勧めたい。cybercatも林さんに直接耳とのフィッティングを見ていただき、これによりさらに低音が増した。

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今後さらにエージングが進んで行き、本来の力を発揮するのが楽しみな、“育てる”イヤホンとの出会いだった。
林さん、菅野さん、ありがとうございました!

【仕様】
型番:CW-L11
商品名:2way/3driver Custom In-Ear Monitor
ドライバー:バランスドアーマチュア方式(高域×1.低域×2)
インピーダンス:34Ω
感度: 110dB

【代金内訳】
本体:69,800円※(税、耳型採取費用込)
  ※2012年1月現在商品リサーチや品質向上の情報収集のためモニター販売価格
オプション:
・フェイスプレート(シェルと異なる標準色):500円
・グリッター:500円
・クリップ(2個):2,000円
送料:740円
試聴器送料割引:-1,480円
合計:72,060円

【今回購入時のタイムチャート】
2011/09/20 Websiteより最初の問い合わせ
2011/10/01 試聴機到着
2011/10/12 購入申し込み
2011/10/13 カラー/グリッターなど複数回のメールで調整の上最終仕様決定
2011/10/18 耳型採取(東京ヒアリングケアセンター 品川大井町店
2011/11/04 商品代金決定の案内
2011/11/08 代金振込
2011/12/16 商品到着
2011/12/26 フィッティング調整

カナルワークス 高解像度カスタムイヤーモニター CW-L11製品詳細ページ
社長の林さんのブログ「カナルワークス イヤホン工房だより」

BARKS : 実はすぐそこまで来ていた、カスタムIEMの世界(CW-L11の紹介記事あり)

オーディオなんちゃってマニア道

更新: 2014/12/27
高音

クリアかつ繊細。透き通った明晰な音。

このIEMの最大の美点。透き通っていて、クリスピーで、繊細。ただソースによってはやや過剰になることも。

更新: 2014/12/27
中域

やや線が細いがブレスなどがよくわかる。やや高音寄りのチューン。

女性ヴォーカル、特に上手いヴォーカリストは最高。のどから上だけで歌っているような歌い手だと底の浅さがバレる。

更新: 2014/12/27
低音

モニターはできるが薄い。

ベースは弦をはじくときの倍音、ドラムはピーターのアタック中心。ただ耳の中の湿度が高い季節はもう少し出る。から耳(耳の中が湿っていないひと)はちょいとキツイか?

更新: 2014/12/27
音像

耳のそばで鳴っているのに広い。遠くまで見晴らしが良い。

ミュージシャンが一度使うと手放せないのはわかる。分析的に聴くにはサイコー!!

  • 購入金額

    72,060円

  • 購入日

    2011年12月15日

  • 購入場所

    カナルワークス株式会社

コメント (20)

  • cybercatさん

    2012/01/09

    はにゃさん、どうもです!
    >いいもの買いましたね!
    お気に入りですw
    もうちっょと調整と熟成が必要ですが、とりあえずご紹介、と。
  • とっぷりんさん

    2012/01/09

    これはすごい。
    コストもすごい!と思いましたが、得られるものが違いますからね!
    自分は耳が弱い?(外耳炎・中耳炎・内耳炎・こまく破れすべて経験w)ためか
    音楽を聴けるセンス?みたいなものは無いんですよね…

    でも、こういうものがあるということが判ったことが(・∀・)イイ!!です。
    機会があれば、そういう製品を一度試してみたいとも思いました。
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