レビューメディア「ジグソー」

機能過多だが音質はまさに「Hi-Fi」

Walkman史上最高の音質というテーマで作られた製品ですが、単なる音質重視モデルというわけでは無く、無線LANを内蔵してWebブラウジングやYouTube再生、Podcast再生などを単体で実現するという多機能モデルです。ただ、スマートフォンがこれ程普及していなかった時期の製品なので仕方ない面はあるのですが、音楽等の再生機能以外はスマートフォンを使った方がより早く便利という状況になってしまった今、実装されている機能の多くは活用されることが無くなってしまっているのではないでしょうか。

明らかにコンセプトとしては時代の流れから外れてしまっている製品ではありますが、それでもこの製品には音質という音楽プレイヤーとして最も大事な特徴があるため、今なお存在意義のある製品ということが出来ます。

通常は携帯オーディオプレイヤーの試聴の場合、インナーイヤーフォンのオーディオテクニカ ATH-CM7Tiを使うのですが、今回は比較の相手を同じソニーの旧製品であるNW-A829だけに絞って、オープンエアーヘッドフォンのオーディオテクニカ ATH-AD10で行っています。

NW-A829の音質はいつものウォークマンサウンドです。低域・高域の目立つ部分を少し持ち上げ、やや派手で音楽をはっきり聴かせる傾向があります。ただ、カセット時代のウォークマンからの特徴なのですが、常に力感に乏しく野性味のある音は出てきません。この辺りはソニー製品の燃費の良さに関係しているのでは無いかと思っていますが。

一方、このNW-X1060の音はそのウォークマンの音とは全く違っています。これといった強調感も無く、概ねどの帯域でもフラットに音が出てきています。解像度や緻密さではNW-A829を大きく上回りますが、この強調感のなさから地味でつまらない音と思われてしまうきらいはあるかもしれません。一言で言うとオーディオ的には非常に優秀です。

ただ、だからといって手放しに素晴らしい音と絶賛できるのかといえば、それは少々難しいといわざるを得ません。相変わらず力感に乏しいというウォークマン歴代の特徴は残っていますし、Hi-Fiを追求した結果とトレードオフなのかもしれませんが、音楽の表情が乏しいのです。淡々と演奏している楽曲でも、一流ミュージシャンの熱気あふれる演奏でも、同じ次元でしか表現してくれないような印象があります。この辺り何がおかしいのかは、例えばPCオーディオインターフェースであれば、CardDeluxe辺りと聴き比べていただければすぐに判るのでは無いかと思うのです。CardDeluxeもいわゆるHi-Fiサウンドではありますが、楽曲の表情はむしろ豊かに描き出してくれます。



本機はこれまでで最も真剣に「高音質」と向き合った結果生まれたウォークマンなのでしょう。そしてそれはかなりの水準で達成されています。ただ、オーディオを突き詰めた結果音楽を忘れてしまったという印象がどこかに残ります。それでも、これまでのウォークマンの中では最高水準の音質を持っているという点に間違いは無いでしょう。
  • 購入金額

    12,800円

  • 購入日

    2012年04月21日

  • 購入場所

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