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もちさん
2008/01/29
で、「人斬り以蔵」と呼ばれた男の感想など。
舞台が強烈な印象だったんで、短編集の一つとして読むと物足りない感じがします。
下品で、貧相で、野蛮で、愚かな狂犬………。
これだけ読むと、以蔵のイメージがそんな風になりますね。(舞台もwikiも大ざっぱに言うと、この小説と同じ内容になるけど)
以蔵に関しては、実際、残っている資料が少ないみたいで、彼が何を思い、何を感じ、何を望んでいたのかは推測の範疇を超えないのですが、私は以蔵という男が何となく理解できる気がします。
多少、舞台のイメージで善良なフィルターがかかっていると思いますが。。
彼は、「武市の犬」でいることに不満はなかったと思います。
むしろ、喜んで「武市の犬」でありたかったんじゃないでしょうか。
人間は上に立つ側と、それに仕える側と二通りになります。(人権の問題じゃなく、組織的な意味で)
誰かの役に立って、必要とされることは一種の快感を生みます。
武市に必要とされたい。
武市に認められたい。
武市に褒められたい。
その一心で、以蔵は喜んで「天誅」をくり返す。
けれど、以蔵が努力すればするほど。必死になればなるほど、武市は以蔵が疎ましくなってくる。
なぜ、わかってくれない?
なぜ、認めてくれない?
なぜ、非難される?
自分はまちがっていないはずだった。佐幕派と呼ばれる人間を「天の命に従って斬る」のである。
足軽として蔑まれた自分が、初めて生きる場所を見つけたのだ。剣の腕では誰にも負けないはずだ。自分を見下し、差別してきた武士を斬る。これほどの快感もない。
だが、武市は「尊皇攘夷」という理想を掲げている。日本の未来を考えての「天誅」であって、ただの「人殺し」ではない。(現代人からすれば、理想があろうがなかろうが、テロリストとしか見えないが)
それを以蔵に諭そうとしても、以蔵には理解できない。
武市は潔癖な性格であり、恐ろしくマジメで、プライドが高い。郷士だったせいで、土佐では上士にバカにされることも多々あった。
だからこそ、同じ藩出身の頭が悪く貧相な以蔵が憎くなっていくのだろう。
しかも、自分の飼い犬だと思っていた以蔵が、己と思想を反する勝海舟の護衛をしたものだから、裏切られた気持ちも強い。
金のために人を殺す男に、己の尊い思想を穢されたくないと思ったのかも知れない。
だが、私には二人は対照的でありながら、鏡のような存在に見える。
武市の理想主義は、少々尋常じゃない気がする。己の汚点を消し去ろうとさえしているようだ。それでいて、以蔵をかわいがっていた時期もある。共に剣の修行に各地を回っているのだ。
武市の闇を以蔵は体現していたのではないだろうか。(無自覚の同族嫌悪)
以蔵は武市の闇を引き受けることに満足していた。
「犬」であることに満足していた。
だが、飼い主は「犬」を見捨てた。
「犬」は行き場を失い、道を失う。
舞台で以蔵(森田剛)が、「なんちゃない! 本当になんちゃぁないっ!」と叫ぶ声が悲しい。
「何もないっ! 本当に何もなくなってしまった!!」
武市に出会って、以蔵は道を見つけた。
考えることは武市がする。
生きるべき道も武市が指示してくれる。
以蔵は、黙ってそれに付いていけば良かったはずだった。
武市が捕まり、新撰組が台頭し、倒幕を掲げていた志士たちは逆に追われる側となる。
自分の存在価値でもあった剣さえ売り払い、乞食のような生活をする以蔵。
やがて、以蔵も捕まり、拷問の果てにすべての罪を白状する。(拷問に耐えられず、簡単に口を割るだろう以蔵を武市は毒をもって殺させようとしたという説があるらしく、小説にも舞台にも描かれている)
武市の言葉を理解できなかった。
それでも、同じ夢を見ていると思っていた。
同じ道を歩いていると思っていた。
けれど、すべては幻。
wikiにあった辞世の句である。
「君が為 尽くす心は 水の泡 消えにし後ぞ 澄み渡るべき」
squareさん
2008/02/02
もちさん
2008/02/08
「言い触らし団右衛門」は、ご指摘の通り、塙直之の話です。
おもしろいと言うか、滑稽というか。
でも、こういう侍(?)は嫌いじゃないですね〜。
いわゆるハッタリ野郎というか。。。決して、利口な生き方とは言い難いですが、傍観者でいられるなら「こういう生き方も悪くない」と思えます。
世話になった商人との会話が、互いの立場の差を上手に表していて、「武士」とは悲しい生き物だなぁと思いました。
だからこそ、カッコいいんでしょうね。(笑)