レビューメディア「ジグソー」

CDで新しい展開と新しい切り口を示しつつ、DVDで旧来のファンを納得させる

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストにとって、活動休止後の再開時はなかなかむずかしいものです。永く活動しているアーティストは、行き詰まり解消や、新たな「引き出し」を増やすべく、休止期間をおくことがありますが、休止時に流れた「時」は、アーティストとファンでは速度が異なることが多く、ある程度休止前と同じ物、あるいはその直接の延長線を求めるファンと、新たに積み上げたものを表現したがるアーティストとの間にズレが生じてしまうことが多々あります。そのギャップを埋めるべく?2枚組の作品で面白い取り組みをしたアーティストの作品をご紹介します。

 

CASIOPEA。現時点から過去に俯瞰すると、1980年頃がジャンルとしての「フュージョン」の最盛期だったと思われるが、その頃から活動する日本を代表するフュージョンバンド。当時は本当にたくさんフュージョンバンドがあったが、「五本の指」とか「十傑」というと、そこに入れるバンドを何にするか緒論あると思うし、ブームの当時はこれとはまた別の選択もあったかも知れないが、現地点から過去を見通して「双頭」を選ぶとすれば、人気と言い、技術の高さと言い、国外までの影響度と言い、活動の長さと濃さと言い、このCASIOPEAT-SQUARE(THE SQUARE)で確定として良いと思われる。

 

ともに1970年代末から続くバンドで、休止期間はあっても2024年現在まだアクティヴなバンド。これだけ永い歴史を持つバンドが「メンバー不動」ということはなかなか難しく、両バンドとも数多くのメンバーチェンジを経ているのだが、所帯が大きかった(時期もあった)事により、T-SQUARE(THE SQUARE)の方のメンバーチェンジは頻度が高く、複数のメンバーが一度に替わったことも複数回あるし、メンバー数も最低2名のユニット構成から、ギターもキーボードもツインの8人構成まで時代によって構成が違っているので、「流動性が高い」という印象(なにせ2024年現在のT-SQUARE alphaにはTHE SQUAREの創始者でリーダーだった安藤正容の姿すらない)。対するCASIOPEAは、振り返ってみると何度も変わっているのはドラマーだけで、キーボードとベースはそれぞれ1度しかメンバー変更されていないと比較的安定的に運営されている。

 

CASIOPEAは、活動を2024年現在4つに区分しているが、その全期間通しで在籍するのが、リーダーでオリジナルメンバーのギター野呂一生。デビュー後ベースが櫻井哲夫から鳴瀬喜博に変わったタイミングが第1期から第2期への区切り。次はキーボーディストが向谷実から大高清美になったところで第3期に。そして第1期の後半は正メンバーとして、第2期の後半と第3期はサポートとして、累積の参加期間としては野呂に続く長さだったドラマーの神保彰が2022年に卒業し、今井義頼が引き継いでからを第4期としている。

 

ドラマーが数作ごとに変わって落ち着かない時期があったり、6年間にわたる完全休止時期があったりするので、メンバーチェンジが少なくない印象があったが、振り返ってみると関わった人はさほどに多くなかった。

 

ただ、第2期の終わり~第3期への移行に関しては、間に6年もの休止期間をおいたのもあって「大きい」変化と感じられた。第2期の終わりは、神保がサポートとして出戻っていたため、第1期中盤以降のいわゆる「黄金期」とはベーシストが変わっただけで、一番露出が多かった時代と同じ印象の構成だった。それが、6年間の休止期間を終えて活動再開すると、ライヴでは「司会屋」の異名を取っていたライヴの「顔」向谷が抜け、音色的にもYAMAHAのデジタルシンセサイザーDX-7を効果的に使って「Mukaiya EP(向谷エレピ)」などCASIOPEAを代表する煌びやかな音色を形作っていた「キーボーディスト」向谷から、「オルガンの使い手」大高に変わっていたので、変化が大きいと心配された。

 

その第3期は、CASIOPEA 3rdと「第3期であることを明確にしたネーミング」で活動したのだが、そのイントロデュースはライヴアルバムだった。

 

まだ3rdとしての曲はほとんどなく、黄金期の曲を中心に「新しいメンバーのテクと音はこうだ!」とお披露目した作品だった。

※そういえば、第1期の途中、ドラマーが佐々木隆から神保に変わる時もライヴアルバムが先だったな。

 

そこで大高を紹介した後、満を持してリリースしたのが、CASIOPEA 3rdとしての初のオリジナルアルバム、本作“TA・MA・TE・BOX”。

 

このアルバムも、前作同様6年間の休止期間の進化・変化や、メンバーチェンジの新しさを主張するとともに、旧来のファンの「期待」を繋ぐ構成となっている。

 

まずCDのトップは7分の大曲、「DAYS OF FUTURE」。パーカッシヴなオルガンとガッチガチのスラップベースの、正確無比なシーケンスパターンのような導入に続いて、以前と変わらない野呂の伸びやかなギター、そしてイントロのあともずっと続けているシーケンスパターン調の演奏(当然打ち込みではなく大高の手弾き)が、実は“裏”始まりだったというのが神保のリズムインで判明するというCASIOPEAらしいトリッキーな始まり方で、すでにオッと思わせる。ただAメロは黄金期後期(“HALLE”以降)の伸びやかな感じのメロディーで、王道パターンか...と思ったらBメロはハード!大高がまるでロックオルガンのようなハードなプレイで新しい局面を魅せる。その後サビに行くと、オルガンからシンセに替え、新曲でもシンセをつかうという事をアピール。ソロはナルチョ(鳴瀬)の代名詞のスラップソロにつづいて、大高のオルガンソロで新しさを出す。途中ギターとオルガンのフルユニゾン+リズム隊のキメフレーズを挟んで、野呂のソロで盛り上げ、ラストはBメロのハードな部分の進行を使って神保の怒涛のオンビートソロで〆、と、全員に魅せ場を用意し、曲としても今までの延長線の部分と新たな「オルガン」という楽器をフィーチャリングした部分とを合わせもっていて、「旧来」の延長線を希望するファンも、6年間の「進化」を期待するファンも取り込む構成。

 

このアルバムには「2013 ver.」として、以前の曲のリメイクが収められているが、その中で6枚目の“Photographs”に収められている名曲のリメイク「MISTY LADY 2013 ver.」。アレンジ的にはオリジナルスタジオ録音のものではなく、ライヴヴァージョンが元で、最初にフルユニゾンのキメフレーズが追加されているイントロがつくタイプ。この曲は元もキーボードメインの曲なのだが、今回はさらにオルガンを前に押し出していて、Aメロのキーボードフレーズのすき間に入っていたギターカッティングの音量も控えめになっている。一方、サビの部分はギターとキーボードのユニゾンだが、オルガンの中域に芯がある音でギターとの分離が良くなって、より迫力を増している。この曲は、元曲より好きかも知れない。

 

同梱されるDVDは2012年12月29日に東京国際フォーラムにて行われた「LIVE IN TOKYO CROSSOVER NIGHT」からの収録だが、今度はCASIOPEA 3rdの新曲は最低限に抑え、いわゆる「定番曲」をちりばめてある(このライヴで定番曲しか演奏していないわけではないのは、所属レーベルHATS UNLIMITEDのYouTubeチャンネルで、同じ日に録画された本作品収録のDAYS OF FUTURE」の映像もあるので、あえてこのDVDでは懐かしめの曲多めにセレクトしている)。

 

その中ではやはりCASIOPEAの一番名の通った曲「ASAYAKE」。この曲はギターのカッティングパターンが教本レベルで有名な曲だが、ギターがメロディやソロに移ったときに、向谷がクラビのようにアタックの強いエレピ音色で同様のコード弾きを繰り返していて、曲全体の印象の比率としてはその部分が実は大きい。また装飾音的に入る「ザ・デジタルシンセブラス」という感じの合成音臭い?ブラスの音もオリジナルテイクや一番有名な“Mint Jams”テイク

の表情付けには重要だった。そこを大高はシンセブラスは最小限にして、ほぼすべてをオルガンで押し通すが、これが実によい。オルガンはシンセのように基本となる音色を激変させることはできないが、ドローバーの引き方によってずいぶん多彩な倍音を付加できる。もともと、オルガンにはぶしつけなほどの?アタックはある音なので、上手く調整すればかなりパーカッシヴにも、メロウにも弾ける。それを大高は自在に操って、「馴染みの曲」を大きく崩すことなく、でも確実に変えて提示した。

 

2024年現在は、正メンバーとして活動した後一時離脱も、その後「サポート」として出戻り、永くバンドを支えた神保が卒業し、CASIOPEA 3rdは第4期のCASIOPEA-P4へと移行したが、大高はそのままオルガン中心にキーボードを担当している。

 

そういう意味では、現在のCASIOPEAの「起点」ともいえる作品。こういったDVD同梱のCDでは、DVDはオマケ扱いで初回限定などにされがちだが、BONUS DVD扱いではあるものの現在でも変わらずCD+DVDの形式で販売されているのは、彼らを待っていたファンの「希望通りで、そして期待を超える」楽曲を届けるという意思を感じさせる作品となっています。

「玉手箱」のように
「玉手箱」のように、過ぎた「時」も感じるが、「今に引き戻して」もくれる作品

 

【収録曲】

<CD>
1. DAYS OF FUTURE
2. 太陽風 2013 ver.
3. LIVE IT UP
4. AUTOBUHN

5. ONCE IN THE LIFE
6. VORTEX OF EMOTION
7. SE・TSU・NA
8. BRAND NEW SOUL
9. U・TA・KA・TA
10. MISTY LADY 2013 ver.
11. EVERY MOMENT


<DVD : LIVE IN TOKYO CROSSOVER NIGHT>
1. DOMINO LINE
2. TAKE ME
3. BLACK JOKE
4. ARROW OF TIME
5. SET SAIL
6. THE SKY
7. ASAYAKE
8. TOKIMEKI

 

「ASAYAKE:LIVE IN TOKYO CROSSOVER NIGHT」

更新: 2024/11/16
必聴度

新しさと変わらなさの上手い混合

大高も、オルガン中心にプレイしているので音色は「変え」ながらも、かつての名曲のプレイでは向谷が弾いていたフレーズほぼそのもの、もしくはそこからインスパイヤされたとわかるプレイが多く、「壊し」てはいないのが、新鮮さと安心感とを与えている。

  • 購入金額

    3,700円

  • 購入日

    2014年頃

  • 購入場所

11人がこのレビューをCOOLしました!

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