所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽アーティストの「(収入を得るための)仕事」としては、作品リリース、他者へのレコーディング参加や楽曲提供、場合によっては後進への指導など多岐にわたりますが、ライヴ活動というのもプロモーションの一面もある大きな「仕事」の一つです。ただ、知名度が上がるにつれ、全国、さらに全世界を股にかけたライヴ活動をすることになり、自分の時間が少なくなってしまう面もあります。音楽制作の時間が取れないのは本末転倒という主張で、ライヴ・コンサート活動を抑えるアーティストもいますが、長年活躍するアーティストの中には、プライベートの問題や体調などの問題で、そのライヴ活動を縮小していく場合もあります。永く活動し、特に日本においては高い人気を誇ったギタリストの、「最後のツアー」として開催されたライヴで演奏された楽曲を含む作品をご紹介します。
Larry Carlton。1970年代から活躍する、フュージョン~スムーズジャズギター界のレジェンド。
彼のトレードマークともなっている、GibsonのセミアコースティックギターES-335の名を冠した名曲「Room 335」で一世を風靡し、Lee Ritenourと並んでフュージョンギター界の双璧とされる。その後、「セミアコ使いのフュージョンギタリスト」という確立した世界からあえて飛び出し、アコースティックギター作品をリリースするため別レコード会社と契約。
本作“Discovery”は、そのレコード会社での3作目の作品。それまでのジャズ臭が強い方向性から、少しポップな方向性に振って、親しみやすさを出した感じの作品。次の“On Solid Ground”
が、その製作途中にLarryが暴漢に襲われてしまい、生死の境目を彷徨った後、一命を取り留めるも、左手に障害が出て、そこからリハビリ復帰しての作品ということで、かなり取り組み方が異なる作品となったため、Larryのアコギアルバムでポップス~ニューエイジ系の風味が強い本作は、振り返ってみると結構特異な立ち位置。
耳馴染みがよい曲が多いので、BGM風に流して聴くと、意識を通り過ぎてしまう感じだが、きちんと聴くと随所にLarryの歌心あふれるプレイが聴かれ、通?にもアピールできる作品となっている。
オープニングソングの「Hello Tomorrow」は、BPM=62くらいの超スロー16ビートの曲で、優しく口ずさむように“歌う”Kirk Whalumのテナーサックスと、リリカルかつダイナミックに奏でるLarryのアコギが絡んで非常に美しい曲。爽やかに吹き抜ける風のように耳馴染みがよく、スッと入ってくる曲だが、途中にリズムオフで散発的にLarryとKirkのフリーソロが絡むブリッジ部分があるのが、単なるニューエイジ風インスト楽曲とは一線を画している。ただ、このブリッジ部、この遅~いテンポで20小節以上あって結構長いので、全体のバランス的にはもう少し早く曲に復帰した方が、ポップス感は増したかも。
このアルバムには2曲のカバー曲が収められているが、そのうちの一つが「Knock On Wood」。ソウル界のレジェンド、Eddie Floydの1966年のヒット曲だが、実にブルージィにLarryが弾きこなしている。他の曲に比べてR&Bの薫り高い粘るプレイで、音も他の曲で使っている爽やかに抜ける音色ではなく、やや中域が盛り上がった独特の音。これを盛り上げるのが、Jerry Hey率いるブラスセクション「ジェリー・ヘイ部隊」(今回はDan Higgins抜きの、Larry Williams、Gary GrantにJerryの3人)で、かなりぶっ飛んだラインを採るLarryのソロを、賑やかにそしてハッピーに盛り上げる。
そしてもう一曲のカバー曲が、今回のツアーの(少なくとも5/3東京公演の1ステージ目の)オープニング曲となった「Minute By Minute」。この曲のオリジナルはThe Doobie Brothers
で、Michael McDonald時代のDoobiesの代表曲の一つ...というか、AORというジャンルそのものを代表する名曲の一つ。Larryの本作収録版では、作曲者でオリジナルシンガーのMichael自身がキーボードで参加、コーラスを取るのもDavid Pack
などAORの黄金期のメンツが協力しており、とても「らしい」。Larryのギターもとても表情豊かで、まるでMichaelのオリジナルヴォーカルのようにソウルフル。
今年(2024年)のLarryのツアーは、“Larry Carlton Salute Japan Tour ~The Crusaders – Steely Dan – Fourplay~”と題され、御年76歳の彼の最後の(海外)ツアーであることが示唆されていた(Salute=お辞儀、敬礼)とともに、ソロアルバム曲以外にThe CrusadersやSteely Dan、Fourplayといった、かつてLarryが在籍した/もしくは/客演したグループでの曲も演奏されることが予告されていたが、スタート曲が(自分のアルバムで取り上げているとは言え)他者の曲でスタート...とは意外だった。
ただ、今回メンツにはサックスとトロンボーンも入っており(Mark DouthitとBarry Green)、そういう意味では「Minute By Minute」向けの布陣とも言えたけど。
ただ深読みすると、恋人に別れを切り出す(勧める)人物を歌ったこの曲を、インストとしてのプレイとはいえ、最終ツアーのライヴ最初の曲に持ってきたことに、Larryのメッセージが込められているの...かもね?
♪You should spend your life with someone / You could spend your life with someone / But minute by minute by minute by minute / I keep holding on♪
自分の持つのはUniversalに買収される前のMCAの日本盤なので、日本語ライナーノートつき。
【収録曲】
1. Hello Tomorrow
2. Those Eyes
3. Knock On Wood
4. Discovery
5. My Home Away From Home
6. March Of The Jazz Angels
7. Minute By Minute
8. A Place For Skipper
9. Her Favorite Song
「Minute By Minute」
一連のLarryのアコースティックギターアルバムの中では一番ポップだが...
その分「耳に優しく」、ちゃんと聴いてないと好プレイを聴き逃してしまう
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購入金額
2,500円
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購入日
1992年頃
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購入場所
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