所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽ジャンルには流行り廃りがあります。かつて一生を風靡したテクノやハウス、プログレも最近はほとんど新規リリースがありません。ただ、そんな以前流行したジャンルでも、まだ同様の路線で活動しているアーティスト達もいて、流行りを過ぎたジャンルを愛好する人たちへの新曲の供給源となっています。しかし、それらはかつてのブーム時のメンバーが関わっていることが多く、全くの新世代のアーティストが創り出していることは多くありません。そんななか、半世紀近く前に生まれたジャンルを、その半分しか生きていないような新世代のミュージシャンが再現した作品をご紹介します。
Muses。この令和の世に現れた「ジャパニーズフュージョンバンド」。
Fusionは、もともと米国で生まれたジャンルで、1960年代にジャズとロックの融合から生まれたJazz Rockをベースに、ラテン系音楽を加えて1970年頃にCrossoverと呼ばれるようになった音楽が、さらにクラシック等他ジャンルのテイストも融合・吸収して生まれたジャンル。日本では、Crossoverのあたりで音楽の流行に敏感な人がジャンルを輸入し始め、1980年代が一番フュージョンブームと呼ばれるムーブメントがあった時代(ネットで全世界が同時的に繋がっている現在からは信じられないかも知れないが、当時はレコード会社担当者がセレクトして日本でもプレス・販売することになった国外盤レコード以外は、数少ない輸入レコード屋や、国外と行き来する職業の方が持ち帰った音楽情報で、新たな音楽流行が興っていたのでタイムラグや地域偏在が大きかった)。当時音楽に高感度な都会の大学生などを中心に、「ブーム」となった「フュージョン」は、よりわかりやすくポップス系の血を入れ、ビートが効いて明瞭になり、本国ではよりソフィスティケートされた聴き心地のよいSmooth jazzにジャンルが遷移する中、別方向に発展して(もしくはガラパゴス化して)日本独自の「ジャパニーズフュージョン」となった。
1980年代当時に、国内フュージョンバンド界で人気を二分したバンドの一つT-SQUAREが、国内メーカーや日本人ドライバーの参戦や、複数のカリスマ的ドライバーの存在で人気絶頂だったF1グランプリのテーマソングの「TRUTH」を手がけ、それが20世紀末ごろまで繰り返しテレビで流された結果、「ジャパニーズフュージョン」は
・ヴォーカルレスのインストで
・J-POP調のA(B)メロ、サビ、ブリッジ(Cメロ)などの起承転結がある構成で
・ビートが明確で、覚えやすいメロディを持つ
と、もともとヴォーカルやコーラス入りの曲も結構あり、verseとchorusだけの単純な構成にアドリブを入れまくるだけの曲も多く、環境音楽的にビートやテーマが不明瞭なタイプもあった本家Fusionとは、かなり違ったジャンルになっている。
それから時が経ち、T-SQUAREはT-SQUARE alphaとして2024年現在も現存するが、「TRUTH」を創った当時のリーダー安藤正容はすでに退団し、ブーム時人気を二分したCASIOPEAは逆にリーダー野呂一生のみがCASIOPEA-P4に残っている形。PRISMやParachute、サディスティックスは主要メンバーのひとり以上が鬼籍に入り、NANIWA EXPRESSもメンバーの体調問題でここ2年以上全員で活動できていない。
ただ、かつてのブームほどではないとはいうものの、そういったジャパニーズフュージョン第1世代を聴いて育った世代のバンドが以前からいくつか出てきてはいた。
しかし、最近それらの第2、第3世代も、Dimensionのように結成以来不動だったメンバーが抜けたり、TRIXのようにリーダーの療養で活動ペースが落ちたりして、かつてほどの活動量がない。そんなヤローどものバンドが元気ないここ最近、なぜか二つの女性オンリーのフュージョン系バンドが目立つのが面白い。
ひとつが、あの手数王、故菅沼孝三の愛弟子=川口千里のイベント企画バンドを核として誕生したTHE JAZZ AVENGERS。
もう一つが、やはり女性ドラマー佐藤奏と、奏ちゃんが以前よりバンドを組んでいるヘヴィメタルギタリストRie a.k.a.Suzakuを核としたMuses。
THE JAZZ AVENGERSが、(全員が作曲をするため方向性が絞り込まれてはいないものの)どちらかと言えばジャズ系だったり変拍子系だったりと、若干「頭」寄りの楽曲が多いのに対して、Musesは第1世代フュージョンを直接浴びた奏ちゃんの父=佐藤正則氏が、プロデュースと楽曲提供やプログラミングを担当しているのもあってか、「TRUTH」系のハードで体育会系の楽曲が多い。
そんなMusesの2ndアルバムが本作、“Goddess of Victory”。
前作同様、ジャパニーズフュージョン王道の、ロック調ポップインストソングが収められている。
表題曲で、まるで以前のEWFを想い出させるような大上段の邦題がついた「Goddess of Victory -勝利の女神-」。曲はRie a.k.a.Suzakuの筆。若干荘厳な感じで始まるイントロだが、ギンギンに歪んだエレキギターのアームアップとともに曲が本格的に始まると、ヘヴィでポップな王道ジャパニーズフュージョン。ピッキングノイズが強めのRie a.k.a.Suzakuのテーマと、続くキーボードの深井麻梨恵オルガン音色でのソロ、短いがバリバリスラップの芹田ジュナのベースフレーズと奏ちゃんのリズムが絡んだキメ、そしてヘヴィな音色で速弾きをかますギターソロと続いていて、全プレイヤーに魅せ場がある曲。ラストが、半ドラムソロのような長くトリッキーなキメで終わるのもフュージョンならでは。
「Just The Four Of Us」は...某名曲をバk..リスペクトしたような題名だが、内容的にも、その雰囲気のある、もの悲しいミドルテンポチューン。ディストーション..というよりオーヴァードライヴの範疇の軽く歪んだギターのコード弾きが、「Just The Two Of Us進行(丸サ進行)」に近いコード進行の小粋な楽曲をリードする。キーボードソロはエレピ音、ベースはファンキィなスラップソロというのが、ブラックテイストがあるこの曲に合っている。これは佐藤正則氏の曲。
ジュナも参加しているTHE JAZZ AVENGERSのサックス中園亜美がゲストに加わったのが、「Ko・Mo・Re・Bi」。この曲はヘヴィ...という程ではなく(Rie a.k.a.Suzakuのソロ部分除くw)、中園のソプラノサックスの濁りのない音が、T-SQUAREの故和泉宏隆楽曲のような希望に満ちた爽やかさを醸し出していて、とても耳馴染みが良い。深井のピアノソロも広がりがあって、「これこれ、これぞフュージョン」という感じ。
1stでは手配が間に合わず逃したが(当時の未発表曲入りCD-Rの特典に購入店を切り換えた)、本作では3曲入りDVD-Rを購入店特典としてゲットした。
このメニューが手作りのDVD-R(notプレスDVD)と言う感じ。
1曲はYouTubeでも公開されている表題曲「Goddess of Victory -勝利の女神-」のMVだが、あと2曲は、2023年9月10日に築地のライヴハウスBLUE MOODで開催されたMusesの「New Songsお披露目 Live」から2曲がセレクト。ひとつは本作収録の「Jet Stream」で、もう一曲が1st収録の「Feminist」。
で、このDVD、たった3曲しかないのに、再生を始めたら20分超もある。実は「Jet Stream」がメンバー全員の長いソロまわしが入っていて、1曲10分超。ここまでソロが長いのはライヴでしか観られないので、収録曲としては良いチョイス。
ヘヴィメタが主戦場のRie a.k.a.Suzakuのソロは「もちろん」激しい
全体的に「あのころのフュージョン世代」には、懐かしさとともに、老舗バンドの消滅・活動縮小・メンバー変更などで、そもそも数が減り、リリースされても内容も当時とは変化したものも少なくないと渇水気味の「ジャパニーズフュージョン」の新たな供給源として大変オイシイ。
ただ、あまりにも王道ど真ん中の楽曲たちであるゆえに、かつてのフュージョンファンが、音楽への興味を失う/もしくは/購買力が衰える前に、このジャンルが新たなファン層を捕まえることが出来るか否かが、このジャンルの将来を決めるかも、と感じた作品でもあった。
飢えてた往年ファンにとっては大感謝だったけれど。
販売店特典のDVD-Rはモロ、手作りという感じのホワイトレーベル
【収録曲】
1. Goddess of Victory -勝利の女神-
2. Dreamy Summer Nights
3. Just The Four Of Us
4. Galactic Gypsy
5. Run Up!
6. Warrior Women
7. Jet Stream
8. Twilight of Rio
9. Ko・Mo・Re・Bi
10. Sense Of Purpose
<購入店特典DVD-R>
1. Goddess of Victory -勝利の女神- (Music Video)
2. Jet Stream (2023.9.10.Live)
3. Feminist (2023.9.10.Live)
「Goddess of Victory -勝利の女神-」
かつての供給元が枯れ始めたジャンルにとっては、恵みの泉
しかし(そういう音楽を欲しているので、ある意味仕方ないが)、1990年代ジャパニーズフュージョンの枠からは大きくはみ出しておらず、「新規性」は薄い。
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購入金額
3,300円
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購入日
2023年10月23日
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購入場所
TOWER RECORDS ONLINE
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