所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽に限らず、永く続いているブランド(グループやレーベル)はその名を冠して活動を続けている人物・団体よりも、そこから派生した/そこを経験した人物(たち)・団体で構成された別ブランドの方が、むしろ元ブランドの源流に近い=「そのブランドらしい」ような逆転現象が起きることがあります。かつて、あるグループで一緒にプレイしたメンバーが、そのグループの外で集合し、結果として現在そのグループ名を冠して活動しているグループよりも、当時のグループに近いサウンドや楽曲をリリースした例をご紹介します。
日本のフュージョン黄金期を支えたバンドの一つ、CASIOPEA。現在もCASIOPEA-P4として活動している老舗パンドだが、複数のプレイヤーが集う「グループ」という形態故、デビュー後45年にもなる歴史の中でメンバーチェンジは「なし」とは言えず、現在のCASIOPEA-P4ではオリジナルメンバーはギタリストでリーダーの野呂一生しか残っていない。現在の名称の“P4”は第4期を示しているのだが、「大きく分けて」4セット目のメンバーということで、デビュー後3回しかメンバーチェンジがなかったわけではない。
そのCASIOPEAの永い歴史の中で、世のフュージョンブームと相まって、最も支持され、名曲も数多く擁するのが、第1期の後半。このときのメンツは野呂の他に、キーボード向谷実、ベース櫻井哲夫、ドラムス神保彰で、俗に「CASIOPEA黄金期メンバー」ともいう。このうち向谷は第2期の終わりまでCASIOPEAに在籍したが、活動休止明けの第3期には加わらず離脱し、その後は鉄道シミュレーションゲームの音楽や、駅でのチャイム音作成など鉄ヲタ趣味全開で異分野で活動していた。櫻井は最も早く、第1期の終わりとともにCASIOPEAと袂を分かち、一時期神保と活動した後は、セッション/ライヴベーシストとして数多くのミュージシャンと共演していた。神保が一番CASIOPEAとの関わりは永く、第1期の終わりに櫻井とともに脱退したものの、第2期にドラマーが相次いで交代した後、途中から正ドラマー不在となったCASIOPEAの第2期後半にはサポートメンバーとして戻り、第3期の終わりまでCASIOPEAを支えた。
異分野に行った向谷と、CASIOPEA系以外のメンツとのセッションが多かった櫻井は、一時期全く交流がなかったらしいが、双方とつながりを保っていた神保が仲立ちをした形で、「CASIOPEA黄金期-(マイナス)野呂一生」というグループが結成された。名前は、結成のきっかけとなった二人をゲストに呼んだ神保のソロライヴの会場、かつしかシンフォニーヒルズにちなんで、かつしかトリオ。
当初は3人で、自分たちが在籍していた頃のCASIOPEA楽曲を演奏していたようだが、好評だったため新曲をリリースすることにした。まず配信限定で3曲入りのミニアルバム“かつしかトリオ”をリリースしたが、その後その3曲も含むフルアルバムが物理CDとしてリリースされた。
それが本作、“M.R.I_ミライ”。40年以上振りにともに楽曲製作し、レコーディングした作品、どんな音が込められているのだろうか。
タイトルチューン「M.R.I_ミライ」。某自動車メーカーの燃料電池車のようなタイトルだが、かつての黄金期CASIOPEAの雰囲気と、その頃より遙かにクリアでライヴな音色で録られたサウンドで時代の流れを感じる作品。途中の神保のオンタイムドラムソロは圧巻。つづく流麗な向谷のソロの音色が、モロ「Mukaiya-EP」で、久しぶりすぎて懐かしくて泣けてくる。フルユニゾンに続く各パート音符持ち回りのリズム分解は名曲「Domino Line」を彷彿とさせるトリッキーなもので、キモは難しい音符分担の櫻井かな?トリッキーでハイテクニックを要求する曲だが、でもみんな楽しそう!
「Bright Life」はファンキィな6/8楽曲。ウラを採っていくベースパターンと、ファットなシンセ音で彩られ、ハッピーなメロディ構成は「あの頃」感が強い。途中のフルユニゾンの正確無比さは流石だが、その前にリズムを一瞬崩す形を入れているのが曲のアクセントとなっている。
ハイスピードでスリリングな「Katsushika De Ska」は、Ska(スカ)という感じはしないが、原則的に4分音符で刻み続けるベースと8ビート中心のドラムというシンプルリズムのキメ「以外」と、キメでは(特にドラムが)覚醒して、バシバシ難しいフィルを入れるリズムコンシャスな楽曲。このアルバムは全曲3人の共作らしいが、神保のカラーを強く感じる楽曲。
全体を通すと、CASIOPEA黄金期の向谷の楽曲と音色に、ソロコンサートを開くようになった後の音数が多い神保のドラムスと、川口千里や渡辺香津美、菰口雄矢や本多俊之といった巧者とのセッションが多く饒舌なプレイとなっている櫻井のベースが絡むという感じで、楽曲はあの頃路線ながら、野呂がいない穴をリズム隊が埋めるという状態で、懐かしくも新しい。
現在「あのころ」のフュージョンバンドは、CASIOPEAはキーボードがオルガン主体の大高清美となってかなりカラーが変わっているし、T(HE-)SQUAREはT-SQUARE alphaとなって、リーダーでメインコンポーザーだった安藤正容が退任したのでほぼ別のバンド、メンバー的には不動のラインアップのNANIWA EXPRESSは複数のメンバーの体調の問題で、2年連続で春先の年イチの恒例ライヴさえフルメンバーでは開催できていない。そういう意味ではこのかつしかバンド、メンツの体調も悪くなさそうだし、サウンド的にも「あのころ」のエッセンスが強く懐かしいのに加えて、プレイ内容やサウンドなどはアップデートされていて非常に高品位。
今年も複数回のライヴが計画されているようなので、このまま活動を続けていく感じ?
フュージョンバンドが少なくなっている現在、貴重な“王道を征く”バンドの作品です。
【収録曲】
1. M.R.I_ミライ
2. Red Express
3. Bright Life
4. a la moda
5. Shining Blue
6. 柴又トワイライト
7. Katsushika De Ska
8. Moon Town
9. Route K3
10. MAJESTIC
「M.R.I_ミライ」
黄金期CASIOPEAの楽曲は野呂作曲のものが多いので、「野呂抜き」がどう出るかと思ったが...
歌なしの曲では耳に残るサウンド的には、向谷のカラーが強かったんだと改めてわかる。
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購入金額
3,300円
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購入日
2023年11月24日
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購入場所
Amazon
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