所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。いわゆるボカロ曲を「歌ってみた」などで人が歌うとき、感情を込め過ぎてしまうと、元曲のイメージから離れてしまうことがあります(それが一概に悪いとは言えませんが)。しかし、VOCALOIDの歌唱をなぞりすぎると、人ならではの良さがでない面もあります。絶妙に原曲のVOCALOIDの雰囲気を残しながら、人ならではの力強いメッセージを感じた作品をご紹介します。
GYARI、もしくはココアシガレットP(ココシガP)。初期はVOCALOID鏡音リンが歌いながらピアノを弾くというストーリーのジャズ系楽曲をリリースしていたが、その後その「リンバンド」にどんどんメンバー?が増える形で、一時期1曲20分クラスの長編楽曲を連続投稿していた。つづいて、本来「しゃべらせるソフト」であるVOICEROIDを「歌わせる」試みに傾倒し、いくつか(何人か?)のVOICEROIDを順に使って、ストーリー性のある曲を発表。さらにここ数年は、VTuberのデザイン・プロデュースを手がけたりもしている。
そんな彼の活動の初期、2015年の作品“ハジマリノヒ”。
※なお、彩音P(〜xi-on〜)の初音ミクを使ったボカロ曲「ハジマリノヒ」とはなんの関係もない。
GYARIが当時活動を共にしていた、作詞・ヴォーカル担当のrinaとのユニット=Margaretとしての作品。
この作品では表題曲以外は既出の曲が取り上げられていて、形態もプレスではない手焼きのCD-R。
初出は2015年の夏コミケ、Comic Market 88。
rinaは作品“星巡りのワルツ”
の作詞者でもあり、この作品でも全曲の作詞とヴォーカルを担当。GYARIの伴奏はピアノ連弾となっている(rinaにはピアノのクレジットがないので、GYARIの重ね弾きだと思う)。
歌うrinaの声は、声量豊か/もしくは/抑揚が強いタイプではなく、比較的淡々とした声質なのだが、それが我々にとっての初出がVOCALOIDだった曲達の印象をあまり崩さず、受け入れやすい。しかし、やはり人の声ならでは、作詞者ならではの表現力があり、曲としての完成度が高い。
収録曲は、“星巡りのワルツ”収録の2曲、VOCALOIDを使用した作品を発表している作曲家集団「VOCALOMAKETS」が企画したVOCALOIDVOCALOID™3のコンピレーションアルバム“月の詩 II - ツキノウタ -”
に収められていたGYARIの作品「月旅」、新曲として表題曲「ハジマリノヒ」の4曲と、そのオフボーカル版が収められている。
「星巡りのワルツ」は、あの震災と続いて起きた津波・洪水で亡くなった作詞者の家族のことを歌った歌だが、地震発生から4年を経た時点での歌は、落ち着いているのか、それとも抑えているのか、連弾でさらにゴージャスになった伴奏に、思ったより淡々としたヴォーカルが乗り、「あの日」の事を歌う。VOCALOID歌唱が元曲(先行)のためか、それに「寄せた」ような温度感が低い歌が続くが、ラスト、お姉様と「会えた」ことを表しているかのような♪君に/会えた/さよなら言えたんだ♪の後に続くブレイクの長さがVOCALOID版より遙かに永く、胸に迫る。
「月旅」は、元曲はジャズピアノトリオ(ピアノ+ベース+ドラムス)に、イントロでは和笛を想起させるような笛系の音、中間部のソロパートではサックス風の音色、サビの部分ではブラス風の音、とシンセ系とわかる音色ながら管系の音が入って、ゴージャスで粋な感じだったが、この作品ではややゆっくりめにピアノだけの伴奏。ただ、連弾アレンジなので、低音弦でグイグイ引っ張るパートがあり、地味な感じはしない。歌はやはり歌い方を「寄せて」いるのか、違和感がないが、数年前のリンを使った「星巡りのワルツ」や「ニジイロ」の元曲に比べると、新時代のVOCALOID3エンジンを使っているゆかりの声は自然で、より落差が少ない。
もう一曲ミニアルバム“星巡りのワルツ”からの楽曲として「ニジイロ」。あの日からの再起と、今まで(姉と比べて)低く評価されてきた自分が「前を向く」心根が歌われているが、♪今に見ててよ/自分で/立って/自分で/進んで/自分で/泣いて/自分で/笑って/自分で/歌って/自分で/生きて♪の部分は意外にもあまり「強く」なく、「我」を入れていないようだが、つづく♪それが/私の/存在証明♪の力強さに、意志が表れている。そしてラストの♪どうかこの声が届きますように♪に万感の想いが....
ラストの新曲「ハジマリノヒ」は、暗めの曲が3曲続いた中、唯一の明るい曲。若干バッキングリズムがラテン調のGYARIの力強いピアノに載せて、rinaが♪さあ、飛び込んで、世界に♪、♪変わり続けたい、大事なものは残して、暗闇の中で、幸せの花を掴んでみせる♪、そして♪ここから歩き始める、星達とともに、曇った空はいらない、未来が変わって感じたこの夢、どこでも、いつでも、輝き出す♪と力強く歌う(この「ハジマリノヒ」はCDにもネットにも歌詞情報がないので、歌詞はcybercatの聴き取り、使用漢字や読点位置も同様で、作者の意図を必ずしも反映していない可能性あり)。それまでの3曲が、曲調からなのか、初出ヴァージョンがVOCALOID使用だったせいか若干抑えめにしていた歌が、この曲では弾けた感じ。
このCD、プレスCDで長尺3部作のスタートを飾った“abgm”
と同じコミケで、どちらかというとひっそりと頒布された手焼きCD-Rで、枚数も多くは出なかったようだけれども、ボカロ曲を人の声で歌い直すことに意味を感じる作品です。
【収録曲】
1. 星巡りのワルツ
2. 月旅
3. ニジイロ
4. ハジマリノヒ
5. 星巡りのワルツ-オフボーカル-
6. 月旅-オフボーカル-
7. ニジイロ-オフボーカル-
8. ハジマリノヒ-オフボーカル-
ワンフレーズの「重さ」を感じる
VOCALOIDに「寄せて」いるのか、演出なのか、元々そうなのかは不明だが、歌い方が比較的フラットで感情があまり入りすぎない塩梅で推移している中、「ここ一点」というかたちでワンフレーズに想いを乗せてくる歌い方はさすがの人声。
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購入金額
450円
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購入日
2020年11月23日
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購入場所
駿河屋
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