レビューメディア「ジグソー」

この時期になると、聴く...聴いて想い出さなければならない曲

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。クリエイターが曲等の作品を創るとき、何かを表したいという衝動が原動力と言うことが多いようです。クリエイターにとって、プライベートでも強く強く心を揺さぶられた事象を起点とする作品をご紹介します。

 

GYARI、ことココアシガレットP(ココシガP)。2008年より継続的に同人系で活動するアーティスト。最近はVTuberプロデュース、その前は人工歌声ソフトウェアのVOCALOID(もしくは同分野ソフト)ではなく、人工音声ソフトウェアであるVOICEROIDを「歌わせる」と言った活動をしていたが、彼の原点は、ココアシガレットを咥えたピアニスト鏡音リンがジャズトリオ(後にカルテット)を率いてジャズ系楽曲を演奏する...というていで創った作品群。

 

彼が創るのはジャズ系楽曲のため、ヴォーカルレスの曲も多いが、リンが歌う曲も少なくない。

 

そんな初期の鏡音リンバンドで採用していた構成(ピアノ+ベース+ドラムスのジャズトリオのバックに、リンのヴォーカル)での演奏となっているが、公開当時GYARI師から「今までの作品とは全く異なる別のお話しになります。」とアナウンスされていたように、「月光ステージで殿堂入りして願いを叶えようとしているリン」を起点とするストーリーとは一切関係が無い作品がある。

 

本作“星巡りのワルツ”は、「星巡りのワルツ-漫画版-」

で描かれた想いを曲に昇華させた作品。2012年7月8日のTHE VOC@LOiD M@STER21で初出。

 

2011年3月11日のあの日起こったことが描かれた「星巡りのワルツ」。作詞をした人物の家族が犠牲になっており、その人物自身も津波に巻き込まれたこと、その後家族のご遺体が発見されたことなどが♪回る/回る/私は黒く染まって/大事な光を/あの日見失った♪♪崩れ落ちてゆく世界/全て喰らう黒の渦/絶望の闇から君を/見つけた/飛んで/飛んで/遥か/遠く/君に/会えた/さよなら言えたんだ♪と歌われている。

 

当時ニコニコ動画で公開されていた「星巡りのワルツ」の動画は、黒地に白い線画で描かれた建物がつづく背景の前をリンがひたすら歩き、歩き、途中から走り出し、躓いて転び、また歩き出して...♪君に/会えた/さよなら言えたんだ♪のところで白バックに変わり、墓標のようなモノを見つめ、佇むリンというシーンだった(現在は非公開にされている)。

 

曲は、途中にジャジィな長いピアノソロが入る曲で、バックの構成はピアノ+ベース+ドラムスのジャズトリオ。そこにいわゆるVOCALOIDらしい、リンの無機質な声が乗るのが、この曲には合っている。

 

続く「ニジイロ」は、結構激しめの曲で、ランニングベースとドラムスのタムを使ったリズムでグングン引っ張る曲。1st Chorusのあとかなり長いベースソロ(ウッドベース)が入った後、ピアノソロに繋ぎ、ソロの当初はハイハットで4ビートのリズムを刻んでいただけのドラムスも、ソロ後半はリズムも激しくなり盛り上がっていく。

 

歌は♪世界は/なぜ薄暗い色をしているの?/「誰か」教えてよ/「誰か」助けてよ♪と昏く始まり、ブリッジでは♪お前じゃ無理に決まっていると/言われ続けたあの日々を/お前じゃなければよかったと/吐き捨てられたあの夜を♪とつらい記憶を語るが、その後♪今に見ててよ/自分で/立って/自分で/進んで/自分で/泣いて/自分で/笑って/自分で/歌って/自分で/生きて/それが/私の/存在証明♪と未来に向く。

 

この2曲は、ジャズ系ボカロ曲コンピレーションアルバム

にも収められているので、他でも聴くことができるが、本作のみに収められているのが、この2曲の「piano ver」。

 

本作、曲としては「星巡りのワルツ」と「ニジイロ」の2曲しか収録されていないのだが、リンの歌ありのものに加えて2曲の「off vocal」版と「piano ver」が収められている。

 

off vocal」はいわゆる「マイナスワントラック」というヤツで、歌ありのモノからヴォーカルパートをオフっているだけのトラックだが、「piano ver」はGYARIのソロピアノアレンジで、これが良い。

 

星巡りのワルツ piano ver」は、オフリズムでポツリポツリと始まり、テーマが始まるあたりでダイナミックに。右手でメロディラインをコードでなぞりながら、左手が力強く下を支え、クライマックスに向かって激しく盛り上げて行く。ラストの数フレーズだけ、力を抜いてシーケンスパターンのような感じで終わるのが、終止感を出している。

 

ニジイロ piano ver」の方は、同様にベースとドラムスはないピアノアレンジなのだが、元々激しめの曲だからか、リズム的揺れはあまりなく、原曲イメージが濃い。こちらは、ジャズアレンジ系J-POPという感じ。そのためか、原曲では長く入っていたベースソロもないのに、結構元曲の印象が近い。ピアノソロの部分はさらに激しくジャジイでステキ。

 

現在(一部他者による転載版を除き←だからこのレビューには載せない)「星巡りのワルツ」 の動画は非公開にされているため、今はその曲に簡単に触れることは出来ないけれど、「あの日」の事を描いた作品として、忘れることが出来ない楽曲です。

昏い「星巡りのワルツ(左)」と、希望のある「ニジイロ」の歌詞カードの装丁の差が大きい
昏い「星巡りのワルツ(左)」と、希望のある「ニジイロ」の歌詞カードの装丁の差が大きい

 

【収録曲】

1. 星巡りのワルツ
2. ニジイロ
3. 星巡りのワルツ off vocal
4. ニジイロ off vocal
5. 星巡りのワルツ piano ver
6. ニジイロ piano ver

更新: 2024/03/11
必聴度

バックボーンを識らなくても良曲だが....

歌詞を読みながら聴くと、沁みる。

漫画版を読みながらだと、泣ける。

 

特に「星巡りのワルツ」の昏さと、「ニジイロ」で向かう希望の差が....

  • 購入金額

    420円

  • 購入日

    2017年06月24日

  • 購入場所

    駿河屋

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