昭和40年代から50年代にかけて、日本のカートリッジメーカーの製品は世界中の有名ブランドにOEMされ、世界の一流ブランドと目されているメーカーの製品が何故か「MADE IN JAPAN」であることも多くありました。
日本企業の中でOEM供給元として活躍したのは、audio-technica、GLANZ、NAGAOKA、そしてEXCEL SOUND辺りでしょうか。
audio-technicaは現在では自社ブランドを中心としつつ幅広いラインナップを維持しています。GLANZは現在カートリッジの製造は手がけておらず、トーンアームやヘッドシェルといった製品に特化して活動しています。NAGAOKAは交換針メーカーとして世界の最大手となっていますが、現在でもMPシリーズ、JTシリーズといった自社ブランドカートリッジを手がけているほか、名門GoldringのボトムラインのMMカートリッジを供給していたりもしました。
一方でOEM供給量はかなり多かったにもかかわらず、市場での存在感があまり感じられなかったのはEXCEL SOUNDでしょう。一時期はいかにもEXCEL SOUND製という外観の同じようなカートリッジが、多くのブランドで同時に売られているということもあったほどです。会社自体は現在も事業を継続していますが、自社ブランドのカートリッジは長らく(日本市場では)出回っていません。実は海外市場向けには高級MCカートリッジを製造し続けているほか、米国のブランド「SUMIKO」のカートリッジは基本的に今でもEXCEL SOUNDが製造していたりします。
EXCEL SOUNDは廉価品のMMカートリッジから高級MCカートリッジまで幅広くラインナップを揃えていましたが、長期にわたって主力製品となっていたのはMMカートリッジES-70シリーズでしょう。昭和40年代に発売された製品ですが、平成に入って同一仕様で再発されたほど息が長い製品でした。
一方でES-70から派生した改良モデルもいくつか発売されていて、今回取り上げるES-75QHもその一つといえるものです。
本来ES-75QH/SSというヘッドシェルセットモデルだったのですが、この個体はカートリッジ単体で販売されています。千葉県のオーディオショップ、サウンドハイツに未使用品が多数入荷していて、音出しチェックのみ行った上で販売されています。基本的には12,000円で販売されているのですが、本体前面の「EXCEL」の銘板が欠品しているものが多くあり、その個体に関しては2,000円安く売られているということで、私は銘板無しを買ってきたわけです。
私もこの製品の詳細はあまり知らないのですが、一応販売ページから仕様を書き出しておきましょう。
発電方式:MM型
出力電圧:4mV
針圧:0.75~1.5g
周波数帯域:10~35,000Hz
直流抵抗:600Ω
針先:PMFダイヤモンド針
自重:6g
PMFダイヤモンド針というものが何かは正直判りませんが、特殊楕円針に分類されるものではないかと予想されます。
低域寄りの分厚い音だが、繊細さもそこそこ出る
最初はヘッドシェルとして余っていたaudio-technica AT-LT13を使うつもりだったのですが、カートリッジを精一杯前方に取り付けてもオーバーハング長が48mm程度しか確保できません。私が使っているTechnics SL-1200Gは52mm指定ですから、さすがに4mm以上の誤差は大きすぎます。
他にもいくつかヘッドシェルを試した結果、最も52mmに近い(誤差1mm未満)オーバーハング長を確保できたのはMy Sonic Lab SH-1Rhだったため、仕方なくこれを組み合わせました。
シェルリード線はここ最近試聴時の基準として使っているKS-Remasta KS-LW-1500EVO.IIを使います。
この状態で「FLASH DANCE / Original Sound Track」や「TOTO IV / TOTO」「TRUTH / The Square」「as close as possible / Off Cource」辺りを適当に鳴らしてみました。
AT-OC9/IIIやFR-1mkIII辺りと比較すると、ES-75QHはかなり低域寄りのバランスです。ヘッドシェルもシェルリードもどちらかというとハイ寄りの傾向を持つはずなのですが、ES-75QHの低域の存在感がそれを圧倒してしまいます。
単に低域寄りのMMというとDJカートリッジのような荒っぽいパワー型を想像しがちですが、ES-75QHの音はそこそこ緻密さもあります。さすがに前述のMCカートリッジ2機種ほどの繊細さはありませんが、SHURE M44-7辺りと比べれば緻密といえる程度に微細な表現もしてみせます。
強いて言えばOff Courceを聴いた際に小田和正のヴォーカルでやや張りが弱く感じられる感はあります。ヴォーカル帯域よりも低域が充実している以上、そうなるのも当然ではありますが…。
実は私自身EXCEL SOUND製のカートリッジを使うのはこれが初めてで、これがこのメーカーの傾向なのか、この製品だけの個性なのかは判断できません。SUMIKOの低価格カートリッジは低域方向が充実しているという評を見かけますから、メーカートーンが低域寄りなのかも知れませんが。
audio-technicaのようなバランスの取れた優等生サウンドとは全く違う、個性的ながら質の高い音というのがこのカートリッジの持ち味といえるのかも知れません。
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購入金額
10,000円
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購入日
2023年08月12日
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購入場所
サウンドハイツ
タコシーさん
2023/09/01
カートリッジも最近は人気が有ったり高値が維持されているのでなかなか入手は困難です
エクセルカートリッジは単品販売もされていたようですが市場には数は意外に少ないのかも
しれないですね。
jive9821さん
2023/09/01
例えば以下のサウンドハイツさんの中古ページですが…。
https://www.soundheights.jp/SHOP/169312/174780/t01/list2.html
後の方に掲載されているカートリッジはブランドに関係なく
殆どEXCEL SOUND製と思われますし、今でも名機といわれる
SAEC C-3というMCカートリッジもEXCEL SOUND製の筈で、
製品自体はよく知られているのですが、とにかく自社ブランドが
日本国内で弱かったようです。
私は世代的にEXCELブランドのカートリッジが売られている
場面を見ることはほぼ無かったのですが、OEM製品の評判から
して実力はかなり高いメーカーなのではないかと思っています。
タコシーさん
2023/09/01
価格も適正だし良いですね。(ヤフオクが高すぎますね)
jive9821さん
2023/09/01
実は最近アナログ関連の小物は結構ここで買っています。
あまり知れ渡っている店ではないので、他で売り切れたものが
意外と残っていたりして助かることもあるのです。
中古の価格も常識的な値段なので、気になる品が案外安価に
買えたりもしてお薦めです。