所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽のジャンルは、流行り廃りがあります。そのきっかけは、世界的な思想の潮流だったり、機器・楽器の進歩だったり、新しい奏法や楽器の出現だったりしますが、一度流行ったジャンルが、それを聴いて育った世代によりリバイバルすることもあります。二十世紀後半に一大ブームを巻き起こしたジャンルの、ど真ん中を狙って出てきたグループの、デビューアルバムをご紹介します。
フュージョン。1970年代にジャズの拡張ジャンルとして生まれたジャンル。当初は、ジャズにラテン系音楽やクラシックのテイストを入れて「クロスオーバー」と呼ばれていたが、ロック調に熱量を加え、ポップさも加わったあたり=1980年前後に「フュージョン」としてジャンルが確立した。
ジャンル確立当時は、各プレイヤーのハイテクニックなアドリブ廻しや、凝ったコード進行や譜割りを持つ曲といったジャズ系アプローチや、当時出始めだったウインドシンセやショルダーキーボード等新しい音や奏法の楽器を取り入れた演奏と言った実験的な要素も強かったが、まだネット普及前で、直接世界の音楽潮流を識ることが難しい時代に、音楽的感度が高かった人たちがこぞって聴いて布教した結果、日本では一気にブーム化、つまり、良くも悪くも大衆化した。ちょうど日本企業のスポンサードも増え、日本人のレギュラードライバーも出始めて、人気絶頂だったF1選手権のフジテレビ中継のテーマソングに、フュージョングループTHE SQUAREの「TRUTH」というハードかつポップな曲が選ばれ、大ヒットしたこともあって、“ハイテクニックなプレイとジャズ系コード進行いうフレーバーを効かせた、ロック色が強いポップなインスト楽曲”という日本独自の「ジャパニーズフュージョン」として一世を風靡した。
その後、世界的には「ジャズにわかりやすさを加えたジャンル」が、より洗練されソフトなスムーズジャズに移行してからも、日本では最盛期当時のフュージョンプレイヤーたちが「ジャパニーズフュージョン」の方向性を進めた独自の道を歩いていたが(ある意味ガラパゴス化)、彼らも齢を重ね年を経るにつれて、徐々にその活動が終息していく。
1980年前後から活動するフュージョン第一世代と言えるT-SQUARE(以前のTHE SQUARE)は、リーダーで楽曲の多くを手掛けた中心人物=安藤正容が結成45年の節目で勇退、T-SQUARE alphaとして若手中心のグループになって、結成時から「通し」で在籍した人がいないバンドになったし、同世代のもう一方の雄CASIOPEAは、途中で一旦離脱も、後にサポートドラマーとして戻って永くバンドを支えていた黄金期メンバーの神保彰がついにサポートを終えし、今ではオリジナルメンバーは野呂一生一人と言う状態。両雄より少し遅れただけの西の大御所NANIWA EXPRESSは、いまだにメジャーデビュー時の5人で変わらず活動しているが、それゆえに最年少メンバーでも還暦を超えている状態で、今年はドラマーの怪獣=東原力哉がケガの回復が遅れ(リキヤ、最高齢だからな~)、恒例の春のライヴを欠場と言う状態で、次があるかもワカラン状態。
1990~2000年前後にルーツを持つジャパニーズフュージョン第二世代と言えるDIMENSIONは、上物3人組として、デビュー以来メンバーチェンジなしで活動してきたが、30周年も近いあたりでキーボードの小野塚晃が脱退、残る2人のユニットになって、その直前は作品リリースが絶えていたし(現在は復活)、活動自体は活発なTRIXもメンバーチェンジが絶えない(いや、ひょっとしてTRIXはコミックバンド??)。
そんな、どちらかと言えば最近は華々しい/もしくは/明るい話題に乏しかったフュージョン界隈に、突如現れたのが、完全に新世代のバンド、Muses。
特徴は、世代が若いという以外に、メンバー全員が女性と言うことか。そしてメンツ的には「フュージョンに直結しない(ジャズ~フュージョンのみをプレイしている人たちではない)感じ」がする。
ギターは、女性ハードロック~ヘヴィメタルギタリストとして名を上げているRie a.k.a.Suzaku。キーボードは、そのRie a.k.a.Suzakuのソロ活動をサポートすることもある深井麻梨恵。ベースは、元CASIOPEAの櫻井哲夫に師事し、後に一時アメリカで活動していた芹田ジュナ(珠奈)。ドラムスは、幼少時に同じく元CASIOPEAの向谷実との共演を経験し、中学時代からプロドラマーとして活動する佐藤奏。
自分は奏ちゃんからこのバンドを識ったのだが、リズム隊のふたりはそれまでの活動では方向性が結構違っていて、ジュナはTOKYO GROOVE JYOSHIでのファンキィかつイケイケなノリ、奏ちゃんはEar Candy Jazz Factory
でのカチッとしたノリで、グルーヴ合うのかな?と思ったし、Rie a.k.a.Suzakuはヘヴィでハードな速弾きヘヴィメタねーちゃんという印象、深井はそれまでの活動を追っていなかったので、果たしてどんなものが出来上がるか...と、実は期待もさほどに大きく持たなかったのだが、作品を聴いてみるとよい意味で期待が裏切られ、ジャパニーズフュージョン最盛期の、ど真ん中の曲調の楽曲を、高い演奏力で奏でたプレイが収められていた。それが自らのグループ名を冠した1stアルバム“Muses”。
「Blow Away!!」。キーボードのリードがEWIでよく使われた系統の音で導入され、ギターのハード且つ覚えやすいメロがサビ、一番盛り上がる部分でディストーションギターとEWI音色がハモるという、まさに「TRUTH」直系の楽曲。元々は奏ちゃんの持ち曲で、お父上(佐藤正則さん)作の曲。お父上の好きな音楽を聴いて育ったので、奏ちゃんは若いのにフュージョンにも造詣が深いのかな。奏ちゃんヴァージョンは、打ち込みがメインで硬い感じが前面に出ていたが、このアルバムに収められたバンドヴァージョンは、ジュナのゴリゴリしたベースの前進力と、ラストのギターとキーボードのソロバトルが熱量高く、フュージョンが熱かった「あの頃」を想い出させる。
このアルバム、半数の曲をRie a.k.a.Suzakuが、後は正則さんが2曲、ジュナと深井が1曲ずつ提供という形だが、深井の唯一の提供曲「Rush Around」が、CASIOPEAの初期のような、曲調が何度も変わる緻密な構成と、DIMENSIONのようなカチッとしたリズム的引っかけがある曲でCOOL。この曲は奏ちゃんの正確無比に細かく刻むキックと、間を埋めるようにグルーヴを出していくジュナのコンビネーションが気持ちいい。Rie a.k.a.Suzakuのらしい速弾きソロも、つかみ所がないこの曲の良いスパイス。
このアルバム、いくつかの販売店では独自の特典が付属していたのだが、購入した店舗では未発表音源のCD-Rが付属していた(本当のこと言うと、MVとライヴ2曲が収録されたDVDがつくタワレコ特典の方がよかったが、すでに完売....)。そのオリジナル曲が「Galactic Gypsy」。ギターによる比較的明快なメロを持つ、ちょっと哀愁が漂う曲調のミディアムテンポの曲だが、聴き所は短いながらも複数回ある深井のソロ。特に最初のオルガンソロがいい感じ。そして4人フルユニゾンのキメが気持ちよい。クレジットはないが、おそらく曲はRie a.k.a.Suzakuによるもの。
識っていたメンバーの印象が、ヘヴィメタのRie a.k.a.Suzaku、ファンキィお姉様芹田ジュナ、オシャレジャズの奏ちゃんで、フュージョンと言うフィールドで重なり合う部分あるのかいな、と思っていたが、見事に王道ど真ん中のジャパニーズフュージョンの再現をしてくれた。また、それまで識らなかった深井のプレイが、良い意味で「かっちり」していて、構成が緻密になるフュージョンの曲調に合っていた。
今回、女性オンリーのフュージョンバンド、という企画的一面も持っているのかも知れないが、相当に内容がよかったので、是非次作も期待したいところ。
黄金期へのリスペクトを強く持ちつつも、それぞれ今の自分達を表現しているのが、すごく「イイナ」と感じた作品でした。
ステッカー2枚(右上)とポストカード(右下)、未発表曲CD-R(下)が購入店舗特典
【収録曲】
1. Muses
2. 遊星少女 -Planetary girl-
3. Blow Away!!
4. Scramble to Space
5. Rush Around
6. Feminist
7. Marine Blue Surf
8. Splash
9. Joyful day
<購入店特典CD-R>
1. Galactic Gypsy
「Blow Away!!」「Scramble to Space」(演奏の再現性を観て欲しいので、あえてライヴ)
「あの頃」が好きなら、必聴・必携
フュージョン超初期の理論優先の「クロスオーバー」ではなく、前世紀末あたりに興隆したオシャレな「スムーズジャズ」でもない。
各パートテクニック魅せ魅せの、体育会系「ジャパニーズフュージョン」王道。
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購入金額
3,300円
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購入日
2022年12月02日
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購入場所
disk union
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