レビューメディア「ジグソー」

ジャズには、人の「うねり」が必要??

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ボカロジャズ。一時期かなり取り沙汰されたジャンルですが、ジャズというジャンルの即興性や他者のプレイに即発されてドンドン転がる方向がかわっていく相互作用などが、あらかじめプログラミングして、聴きやすいように調整してという、段取りを先にやってしまう必要があるボカロというツールに合わなかったのか、大きな精力になることなく終わりました。しかし、その中で、VOCALOIDを使いながらも、バックを全て手弾きとすることで、ジャズのエッセンスを込めることに成功した作品があります。そんなボカロジャズ界隈の「弾ける」Pたちが集った作品をご紹介します。

 

2010年あたりにニコ動を中心に活動していたジャズテイストを持つ楽曲を創作するPたちが、曲を持ち寄りリリースしたコンピレーションアルバム“the VOCAJAZZシリーズ”。

 

2011年6月のボーマス16ことTHE VOC@LOiD M@STER 16で“the VOCAJAZZ Vol.1”

が、2012年2月のボーマス19ことTHE VOC@LOiD M@STER 19で同“Vol.2”

が、そして2012年2月のボーマス19ことTHE VOC@LOiD M@STER 19で同“Vol.3”

がリリースされた。

 

ボカロPである喜兵衛を中心に、GYARI、れるりり、西島ソーンダイク、なきゃむりゃなど様々なPが、シリーズ3作では17名も関わって創られた作品は、「ジャズ」でおおぐくりはされているものの、トリオの4ビートあり、ビッグバンドスタイルあり、変拍子フュージョンあり、ジャズテイストポップスありと、各Pたちの「ボカロジャズ」の解釈の幅と、メインでガッツリ歌わせるのはもちろん、全編スキャットで楽器とユニゾンさせたり、英語ライブラリのないVOCALOIDに英詞を歌わせ、国籍不明な感じにしたりと、VOCALOIDの使い方のアプローチも各Pの工夫もあって、とても面白かった。

 

その“the VOCAJAZZシリーズ”の最後を飾るのが、2014年4月に行われた、「超ボーマス28」こと「THE VOC@LOiD 超 M@STER28」で頒布された本作“THE VOCAJAZZ LIVE SESSIONS”。

 

「LIVE SESSIONS」の名の通り、いままで“the VOCAJAZZシリーズ”に関わったPがバンド形態で、打ち込みなしで演奏するという企画(ボカロパートは打ち込みだと思うが)。そして、この作品のために全曲書き下ろしの楽曲が用意された。

 

演奏したメンバーは、

ギター:なきゃむりゃ

ピアノ:GYARI

サックス:oz_hiro

トランペット&フリューゲルホルン:Man_boo

ベース:いち

といった、ほとんど“the VOCAJAZZシリーズ”では複数回登場の「おなじみ」のメンメンに、

ドラマー:デブマスク

とGYARIやなきゃむりゃのバンドで叩いているテクニシャンドラマー。さらに楽曲のみ提供で、西島ソーンダイクこと西島尊大が参加している。

 

このボカロ界でも、実演奏のレベルが高いPたちが集まって創った「ボカロジャズ」、どんなできばえだったのだろうか。

 

おとなのじかん」は、このシリーズでは、ディストーションギターによるリフが印象的なヘヴィな変拍子曲や、ハイスピードなヴォーカルフュージョン曲を担当し、「一番ハード側に尖った」Pだったなきゃむりゃの作。16ビートが時々入る、スピード感溢れる高速4ビートが気持ちよい。所々スキャットを交えつつ結構滑舌良く歌うは、サンリオ×VOCALOIDコラボで創られたVOCALOID=猫村いろは。ギタリストなきゃむりゃの曲だが、ソロはピアノ(GYARI)⇒ドラム(デブマスク)で、ドラムソロ明けのヴォーカルへの復帰が本当にジャズっぽい。ラストのスキャットと全パートのフルユニゾンも聴きどころ!

 

GYARIの「missloss」は、彼としては珍しく鏡音レン一人しか使っていない(普段はリンと組で使う)。歌そのものはジャズテイストのポップスという感じだが、イントロや間奏は完全に4ビートジャズで、いち+デブマスクの盤石な4ビートリズムの上で、弱音器つけたMan_booのペット⇒oz_hiroのアルトサックス⇒なきゃむりゃの珍しくオーヴァードライヴ程度しか歪んでいないギター⇒GYARIのピアノとソロが回され、ジャジィ。もの悲しい曲調が胸に来る。

 

いちの「Tokyo Walker」は不思議な印象の曲。イントロやブリッジ部分は変拍子風だが、曲に入るとジャジィなリズムに、昭和歌謡のような日本語を主体とする初音ミクの歌が乗る。フリューゲルホルン⇒サックス⇒ギターと来て、管のふたりとドラムの掛け合いソロに持っていくところはかなりジャズっぽい。ただ歌に帰ると特に歌詞が歌謡曲っぽいと、つかみ所が無い曲。ジャズの枠に入らない曲が、自身で3ピースのジャズトリオを主宰するいちの曲、というのがおもしろい。

 

曲そのものは、今回参加していないPのものも含めて、過去作にも良い曲が多いが、楽曲の平均レベルとジャズの「濃さ」という意味では今回のが一番いい。

 

主旋律は基本VOCALOIDなので、多少無機質な感じはするものの、結構ジャズしてる。やはり、ジャズは人による「揺らぎ」や「うねり」が一番大切なのかな、と。

 

ザンネンながら、この“the VOCAJAZZシリーズ”は、このあと新作のリリースがなく、自然消滅したっぽい。

 

この方向性で行けば賛同者は多かったと思われだけに、惜しい。今からでも良いので、復活してくれないかなー...と思ったり。

このときのメンバーそのまま...とは言わんから、この方向性の作品もっと聴きたいなー
このときのメンバーそのまま...とは言わんから、この方向性の作品もっと聴きたいなー

 

【収録曲】

1. おとなのじかん / なきゃむりゃ feat. 猫村いろは
2. missloss / GYARI(ココアシガレットP) feat. 鏡音レン act2
3. me+usic / oz_hiro feat. 巡音ルカ
4. Tokyo Walker / いち feat. 初音ミク
5. さよならのリズム / Man_boo(マンボウ) feat. 結月ゆかり
6. 損なわれていく君の前で僕は / なきゃむりゃ feat. 初音ミク Append (Sweet)
7. 9 / 西島尊大(西島ソーンダイク) feat. 初音ミク

 

「おとなのじかん」

 

「THE VOCAJAZZ LIVE SESSIONS【クロスフェード】」

更新: 2022/06/05
必聴度

一番目立つパートがVOCALOIDで「人間臭く」ないのに...

バックのプレイで、曲全体として、「熱」とか「息吹」を感じる。

  • 購入金額

    2,080円

  • 購入日

    2021年08月22日

  • 購入場所

    駿河屋

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