レビューメディア「ジグソー」

AORの仮面をかぶったブルース??Robbenのアルバムでは一、二を争う「粋な」作品。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。永い芸歴を持つアーティストは時間の経過と共に作風が変わることがあります。作風は、自分の嗜好や、世の流行りによっても変わりますが、レーベルや出版社など制作側のカラーが出ることもあります。20世紀はフュージョンギタリスト、今世紀はブルースギタリストとして活動する通好みのアーティストの、世紀の狭間に産み落とされた粋な作品をご紹介します。


Robben Ford。日本ではフュージョンブーム華やかなりしころに出てきたうえ、後にはフュージョンギタリストの代表格でもあるLarry Carltonとの共演もあるため、「フュージョンギタリスト」と思っている人も多いが、スタジオミュージシャンとして多くの作品に関わっているためロック~ポップス系でもプレイしているし、自身がリーダーを務めたバンドでは、結構オールディーズなロックンロールも演っていた。しかし彼の一番コアにあるのはブルース。そのブルースを様々な表現系で表に出している...というのが正しいところかも。

 

アメリカは自由な国のようでいて、ジャンル分けにキビシイので、ジャズ~フュージョン~ロック~ポップス~ブルースまでいろいろな表現系があるRobbenは、なかなか受け入れられないのか、「知る人ぞ知る」プレイヤーとなっている。

 

そんな彼なので、レーベルカラーの束縛を受けたくないのか、あるいはレーベル側が扱いに困っているのか、ひとつのレーベルでは2~3作しか作品を残さず、いろいろなレーベルを渡り歩いている(ざっと数えたところ半世紀にもなる芸歴?のなかで、20近いレーベルを経験している)。

 

本作“Supernatural”はそんな彼の芸歴の中央あたり、20世紀末にリリースされた作品で、レーベルはこれ一作しか残さなかったGRP。

 

GRPは、ジャズ~フュージョンピアニストのDave Grusinと、音楽プロデューサーの故Larry Rosenとで設立されたレーベルで、一時期はLarry CarltonやLee Ritenour、Russ FreemanとThe Rippingtons、George BensonやTom Scott、YellowjacketsにSpyro Gyraといった、フュージョン~スムーズジャズ系では「超」有名どころを揃えたレーベルだった。特に1990年代の「スター」たちのきらめきはものすごかった。

 

そんなGRPからリリースされたアルバムは、すでにブルースへの傾倒を隠そうともしていなかったRobbenのブルージィなプレイを、きれいにお化粧して聴きやすくしてあり、フュージョン畑から彼を識った人にもとっつきやすく、AOR系テイストを入れてコマーシャリズムも兼ね備えた作品になっている。

 

オープニング「Let Me In」は、Robben流AOR解釈かも。アルバムトップに持ってくるには、「インパクト」という意味では強くないが、ブラス隊も入ってAOR風方程式をとりながらも、左右で鳴るリズムギターが結構主張していて、「ギタリストの曲」になっている。粋な感じのブルースという感じの楽曲で、Robbenとしては決して主体的に関わったわけではない「AOR企画アルバム」

で彼と出会い、気に入った自分としては結構ストライク。

 

Nothing To Nobody」。Michael McDonaldとの共作となるこの曲は、アツいRobbenのプレイと、MichaelのCOOLなセンスが同居する面白い作風。Michaelは、わりに直線的なウエストコーストロックグループだったThe Doobie Brothersに途中から加わり、ブルーアイドソウル系のクロい風を入れた。その路線の「What a Fool Believes」の大ヒットによって、メインヴォーカリストTom Johnstonの療養休業で勢いを失っていたDoobiesを、再び高みに押し上げた原動力となった人物。どちらかと言えば泥臭い感じのロックバンドだったDoobiesに、色気や粋を取り入れた人物ともいえる。この曲ではMichaelはコーラスのみでプレイはしていないのだが、王道ブルースと見えて、Aメロ終わりのあたりの粋なコード進行や、ギターソロ前のブリッジのあたりの複雑な構成は多分Michaelのセンス。弾きまくり....というか弾き倒しのRobbenのギタープレイはそれはそれで聴き所だが、この曲ではパーカッシヴで切れの良いオルガンと、タイトでRobbenの「語る間」を充分に創っているリズム隊がキモ。Hammond B-3は、David Sanbornのところで永くプレイし、20世紀末のPrinceの音を支えたRicky Peterson。ベースはこの頃良くRobbenと組んでいたライヴバンドメンバーのJimmy Earl、そしてドラムスは名手Vinnie Colaiuta。彼らのパーカッシヴで「間」・「空間」があるプレイに、Robbenがゴリゴリに音を入れてくる。曲はハイスピード系ではないのに、満腹感高い濃密なプレイ。

 

If」は、導入が弦楽四重奏+Robbenの生ギターという異色曲。途中でリズム隊も入り、オルガンも加わるが、激しはせず、弦楽メインでリリカル。でも、静かなだけの曲ではなく、ダイナミックに演奏される。Robbenはギターではあまり「語らず」、ヴォーカルで切々と歌う。中間部ソロとアウトロソロをとるLee Thornburgの弱音器をつけたペットの音色が夜を強く感じさせる。

 

この作品、Robbenにとっては、ちょうどリーダーバンドThe Blue Lineを解消し、ソロに戻ったあたりの作品で、方向性を探っていた感じの時期のもの。制作側のGRPの事情としては、タイミング的に多く在籍したトップフュージョン系アーティストとの契約の終了を迎えつつあり、次の核・路線を模索していたあたりの作品とも言える。

 

ちょっと彼の指向性の「センター」とはやや違うけれど、ちょうど自らのバンドを解散していたというタイミングと、レーベルの抱えていたアーティストの関係で、 とびきり「粋に」仕上がった作品です。

今となっては貴重な「正規国内盤」。なので12曲目が入っている。
今となっては貴重な「国内正規盤」。なので12曲目が入っている。

 

【収録曲】

1. Let Me In
2. Supernatural
3. Nothing To Nobody
4. Water For The Wicked
5. Don't Lose Your Faith In Me
6. Hey, Brother
7. Dead, Dumb And Blind (For O.T.)
8. If
9. When I Cry Today
10. You Got Me Knockin'
11. Lovin' Cup
12. Jimi's Dream <Bonus Track>

 

「Nothing To Nobody」

更新: 2022/04/24
必聴度

どの時代から入った人でもある程度許容できる

Robbenの芸歴が永く、スタジオミュージシャン時代もあるので、ブルース、フュージョンといった彼の主戦場の他にも、AOR、ロックンロール、イージーリスニング、ジャズ、ポップスなど幅広いプレイスタイルを持つが、どこから「入った」ひとも受け入れられる部分がある。

  • 購入金額

    2,541円

  • 購入日

    2000年頃

  • 購入場所

16人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • cybercatさん

    2022/04/27

    bealさん、コメントありがとうございます。
    Robben Fordはかなり気に入って聴き込みましたので、ソロデビュー前の家族バンド、ともいえるCharles Ford Band時代のものから、ほぼ全網羅状態で持っていたりします。
    実家には、こいつもあったような.....

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