そののち自分のバンドThe Blue Line(ベースRoscoe Beck、ドラムスTom Brechtleinのトリオバンド)を組んでフュージョンの薫り漂うブルース、という新世代ブルースの担い手として活躍した後、さらにブルースのコアな部分に深入りしていき、そこで自分の世界を築いていく。近年では再びLarry Carlton
とコラボレーションしたりと、「ど」ブルース一辺倒ではない幅広さを魅せるが、そんな彼の幅広いキャリアの中でもこれは異色盤。
彼はTom Scottとの活動の後、George Harrisonとの活動を挟んで、アメリカのスタジオシーンで大活躍をする。時はAOR全盛の1980年代前半。Barbra Streisand、Barry Manilow、Kenny Loggins、Michael McDonald、Little Featらの名盤には必ず彼のプレイがあるというほどの売れっ子だった。
ただ本人的にはこの頃のプレイは「あまり自分自身では良い出来とは思ってない」「まだ若くてギタリストとしては経験が浅く未熟だった」ということで評価が高くないようだ。しかし日本のリスナーにとってはこの当時の音こそRobbenの日本へのイントロデュース、「彼の原点」と感じられる音でありプレイであって非常に好まれている。
..ちょうどその頃L.A.で名を馳せている日本人音楽プロデューサーがいた。松居和、むしろKazu Matsuiとして有名な尺八奏者にして映像作家、そしてジャズピアニスト松居慶子の夫君であるというつかみどころがないw人物(さらにいうなら大学教授にして後の埼玉県教育委員会委員長w)。彼が当時“The Kazu Matsui Project”として制作した作品群。一部には彼の尺八も加わる、これらの作品はフュージョン~ジャズ~ファンクをベースとしたもので当時の腕っこきミュージシャンをちりばめて作り上げた作品。このThe Kazu Matsui Projectはそんな楽曲中心の作品がほとんどだったが、いくつかの作品ではCarl Anderson
やCarlos Riosといった後に西海岸音楽シーンを支えるアーティストをフィーチャリングした作品も出した。
ここに位置するのが本作、“Standing On The Outside(邦題:ホイールズ・オブ・ラブ(なぜかジャケットには「Love's A Heartache」と別の曲名が(^^ゞ))。というかこの盤、日本ではRobben Fordの“ホイールズ・オブ・ラブ”として出されたが、本国アメリカでは(版権の関係などもあり)The Kazu Matsui Project Featuring Robben Ford名義の“Standing On The Outside”として出された。つまり日本ではより名の売れている「Robben Ford」名義で、ちょうどタイヤメーカーのCMソングだった「ホイールズ・オブ・ラブ」を表に出して売り出されたが、本国ではあくまでThe Kazu Matsui Project名義で、Robben本人も「あれば自分のアルバムではない」とあくまで「参加ミュージシャン」スタンス。彼のディスコグラフィーにもその名はない。
でもそんな継子扱いのアルバムながらこの作品の価値は色あせない。参加ミュージシャンはRobben Fordに加えて、RobbenにとってはYellowjacketsの盟友キーボードのRussell Ferranteを筆頭に、ベースはNathan EastとAbraham Laboriel、Neil StubenhausにFreddie Washington Jr.という超腕利きたち、ドラムスは「あの」Vinnie Colaiuta
が全曲で叩き、キーボードはRusselの他にDerek NakamotoにRandy Waldman、Bill Meyersといった面々。ブラスはDavid Boruff、Ralf Rickert、Doug WintzにLarry Klimas、サポートギタリストにはCarlos Rios、パーカッションMichael Fisher、コーラスはMaxi Anderson、Marlena Jeter、Darryl Phinnesee、リードボーカルにはPhillip Ingram(!)、Robert Jason、ClaudiaにHoward Smithというそうそうたる布陣。
結果できあがった作品は「ザ・AOR」といえる至高の作品となっている。「Standing On The Outside」。なんと美しいAOR。まるでMichael McDonaldのようなブルーアイドソウル系の粋な曲。David Boruffのサックスソロと、その間のパーカッション、サビにかけて入る女声コーラス。柔らかく入るブラスのオブリ、フェイクのPhillip Ingramの静かな?シャウト。すべてがセオリー通り。Robbenはというと、AメロのアルペジオとBメロ~サビにかけての綺麗なカッティングあたりでセンスを感じるものの、いわゆる「見せ場」はない。むしろフェイドアウト消え去り際のリズム隊(ドラムスは当然Vinceでベースはこの曲はNathan)のフィルインがもの凄いのが印象に残るくらい。
「Wheels Of Love」は日本では有名?Robbenの今につながるチョイブルージィな音色のギターが聞かれるウエストコーストロック。シャッフルビートでノれるこの曲では、イントロやソロの歪んだ音からAメロのカッティングのクリーンなトーンなど色々な音が聴かれる。ダブリングされたギターソロは流れる様なスライド含め、このテの曲とは素晴らしいマッチング。エンディングのRobert Jasonのフェイクしまくりのファルセット気味のボーカルと絡み合うサックスがカッコイイ!
「Sunset Memory」。Robbenのギターによるイントロは、コンプレッサーの効いたクリアな「ピッキングが立った」プレイで、まるでCarltonのよう。曲に入るとフュージョンコーラス曲に絡むDerek Nakamotoのシンセのラインが美しい。Robbenは曲中はミュートカッティングで抑えていて、これからソロが始まる...と見せてシンセとの掛け合い。そんなに弾きまくってはいない。しかし曲としては大変高品位。
まぁ、Robbenのボーカルも聴ける曲もあるけれど全体としては「AORコンセプトアルバム」であってRobbenの「作品」ではない。しかし、その抑えた中にツボを押さえたRobbenのプレイと他のミュージシャンの神プレイ、高品位な楽曲が合わさって素晴らしい名盤。
ただし。
そういう数奇な運命のアルバムのため、入手性は決して良くない。
LP時代はそれでもまだちょうどAORの興隆とタイミングが合っていたので、大きなレコードショップ(CDショップじゃなく、ね)に行けば入手できたが、CD化されたのが、AORとかフュージョンというような路線が下火になってきた1990年代。日本ポリドール発売だったが、その後レーベルの統廃合などあり、権利関係が曖昧で日本盤の再発はなし。その後2000年代に入って、インディーズレーベルから「アメリカ盤に」日本語解説をつけた形、という形態で再発。そしてその再発?盤は原盤がアメリカ盤だったため微妙に内容が異なる。まず前述の通り、アーティスト名がRobben Ford⇒The Kazu Matsui Project Featuring Robben Ford、タイトル名が“Wheels Of Love”⇒“Standing On The Outside”と本国仕様になったのに加え、各曲のリミックスが異なり、ほとんどの曲で数秒~30秒ほど曲の長さが違う。ほとんどはフェードアウトのタイミングのみの違いだが、唯一アメリカのタイトルチューン「Standing On The Outside」に関しては音像処理の差に加えブラスのラインが入っていることが大きく異なる。日本盤はリバーブが深すぎてオブラートに包まれているような感じだが、ここが適度にソリッドに。そしてまた加えられたブラスのラインはTom Scottによるもの、というのがイカしてる(←死語。特にこの再発盤は非常に高値で取引されており、自分も気がついたのが遅かったため、若干プレミア価格での入手となった(登録の価格は日本盤CDと再発盤CDの合計額/購入日は日本盤CDの購入)。
ま、コレクターはLPも持っていますが!Σ( ̄ロ ̄lll)その生い立ちと権利関係の狭間で、時に埋もれてしまった至高の名盤です。
【収録曲】
1. Standing On The Outside
2. Time Flies
3. Save Your Nights For Me
4. Me On The One Side
5. Wheels Of Love
6. Tell That Girl
7. Illusions
8. Sunset Memory
9. Love's A Heartache
10. Sun Lake
「Standing On The Outside(日本盤)」
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購入金額
11,500円
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購入日
1991年頃
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購入場所
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