レビューメディア「ジグソー」

ブルースアルバムの底から覗く新感覚

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「有名な」アーティスト/プレイヤーというのは一体どういう定義なのだろう。CDやダウンロードで一番曲やアルバムを売り上げる人物?あるいは幅広い世代へのインタビューやアンケートで最も知名度が高い人物だろうか。そんな一般的な知名度や売上とはあまり結びつかないが、その道のひとならば誰でも識っている、というアーティスト/プレイヤーもいます。そんな知る人ぞ知るプレイヤーの作品をご紹介します。

Robben Ford。玄人受けするギタリスト。日本ではフュージョンブームの頃の海外ギタリストと言えば、Larry CarltonとLee Ritenourが双頭で、つづいてPat MethenyやAl Di Meola、Larry Coryell、Earl Klughと言ったあたりの名が挙がるだろうが、彼の名を挙げるのは結構ツウ。日本においての認識度はTom Scott & L.A. Express参加のギタリスト、あるいはThe Yellowjacketsの初期のギタリストという程度かも知れない。

というのも、最近でこそLarry Carltonもブルースアルバムなどを出しているが、Robbenは比較的早いうちから主戦場をブルース分野に乗り換えたため、

フュージョン~スムーズジャズ系ではあまり作品が残っていないから。

そんな彼だが、実はアメリカのギターシーンでは非常に高く評価されている。素人目から見ると(聴くと?)簡単に思えるブルースというジャンル、実はコンテンポラリーギターの基礎の一分野であり、ペンタトニックスケール(別名ブルーススケール)はギターソロを弾く際に押さえておかなければならないセオリーだし、スケールのいくつかの音(短3度、減5度、短7度)で用いられるクオーター・チョーキングは演奏に表情をつけるのに重要。楽曲の基本的な流れがスリーコードの「簡単な」構成を採るのがベーシックなので瞞されるが?奥深いジャンルでもある。

そんなジャンルだからこそ、テクニックよりも歌心が重視されるが、そこにRobbenは高いテクニックを兼ね備えて参入、新世代ブルースギタリストとして熱い支持を受けている。

そんな彼の1995年の作品、“Handful of Blues”。名義としては彼のバンド、The Blue Line(Robben Ford & The Blue Line)名義。基本RobbenとベーシストRoscoe Beck、ドラマーTom Brechtleinのトリオ構成に、Robbenの実弟Markがハーモニカ(マウスハープ)で数曲に加わる構成。サポート、ゲストとしては2ndギターにDanny Kortchmar、鍵盤系がThe Yellowjacketsでの盟友Russell Ferrante、ジャズ系からPrinceまで幅広い対応力のオルガニストRicky Peterson、歌う盲目のピアニストHenry Butlerと言ったところ。

気心の知れた仲間たちと演る安心感。でもその「仲間」が、速弾きの先駆者Eric Johnsonとの共演でも知られる凄腕ベーシストRoscoeに、Chick CoreaやWayne Shorterのところで腕を磨いたドラマーTomとなると...当然隠しても隠してもはみ出す「爪」がw さらにそれを彩るのがMarkの独特な音色とフレーズのハーモニカ。もはやディストーションギターの方に近いんでは?と思われるほどのキョーレツな個性あふれる音とプレイで兄の作品を盛り上げる。

「Rugged Road」。これぞ新世代ブルース!この疾走感。コード進行の核はブルース進行なのだけれど、それを喰い喰いのリズムで構成。バランス的にもヴォーカルよりギターの方が大きく太い、という、ね。まさにギターを聴かせるための曲。頭打ちのスネアに細かい裏裏のバスドラムを絡めるTomのビートと複雑なリズムで細かく刻むRoscoeのベースフレーズに乗って気持ちよく弾き倒すRobbenのギターが気持ちよい。フレーズといい採る音といいアイデアに溢れている。

ギターのリフが印象的な「Chevrolet」はEd & Ronny Youngの古典?ブルース。この曲の華はMark。兄Robbenのギターソロパートの間も隙間にオブリをぶっこみ、後半のソロではまるでディストーションギターの様なファズのような存在感のある独特の音で盛り上げる。ギターバトルに近いニュアンス。

RussellのピアノとRickyのオルガンに包まれてRobbenの泣きのギターが気持ちよいのはThe Animalsのヴァージョンが有名な「悲しき願い」こと「Don't Let Me Be Misunderstood」。曲そのものはスタンダードナンバーで、ヴォーカルパートはさほどに「いじって」ないンだけれど、間を生かしたRobbenのプレイ、太い音から切り裂くような鋭い音、優しく丸い音まで多彩な音色で聴かせる。もっともアウトロのソロは音程の選び方もか~な~りブっとンでるが。

ブルースというと特にそれが盛んでない日本ではテンプレート的な古典ブルースしか思いつかない人も多く、テクニックがあるプレイヤーが多いというイメージのジャンルではないが、本国アメリカでは今でも「熱い」ジャンル。
左からTom、Roscoe、Robben。
左からTom、Roscoe、Robben。
そんな「古くて新しい」ジャンルでの快盤です。あなたのジャンルに対するイメージが変わる...かもしれませんw

【収録曲】
1. Rugged Road
2. Chevrolet
3. When I Leave Here
4. The Miller's Son
5. Don't Let Me Be Misunderstood
6. Top Of The Hill
7. Running Out On Me
8. Tired Of Talkin
9. Good Thing
10. Think Twice
11. I Just Wanna To Make Love To You
12. Strong Will To Live

「Rugged Road」

  • 購入金額

    2,500円

  • 購入日

    1995年頃

  • 購入場所

21人がこのレビューをCOOLしました!

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