ここしばらく、アナログ環境でカートリッジを新たに導入したり、掘り起こしてきて使ったりする際には、シェルリード線にはKS-Remasta製のものを使い続けています。今年に入ってから導入したものだけでも以下の通りです。
しかし、たまには他のメーカーの製品を使って、一般の製品とのバランスを把握しておく必要があると思い、発売されたばかりの新製品、Zonotone Grandio LW-1を試してみようと思ったのです。
先月時点で購入済みではあったのですが、後述する事情がありようやく落ち着いて聴ける状況となりましたので、今回取り上げることにしました。
立派なケースに入っていて、普段買うシェルリード線とは格が違う雰囲気を漂わせています。
リード線本体はKS-Remasta製品よりも少しだけ短いようです。ちなみにZonotone公式Twitterの情報によると、リードチップ込みで37mm程度だそうです。KS-Remastaの公称値が43.5mmですから、結構差がありますね…。
リードチップの径はヘッドシェル側1.0mm、カートリッジ側1.2mmという標準的な仕様ですが、径の調整用にプッシュピンが添付されているのですが…。
まあ、ごく普通の画鋲ですね、これ。
結果的にこのプッシュピンに苦しめられることになります。
当初の予定では、リード線試聴時のリファレンスカートリッジである、ZYX R50 Bloomを組み合わせる予定でした。
しかし、ターミナルピンが比較的太いZYXのカートリッジには、リードチップの先端すら入っていきません。そのためプッシュピンで何とか広げようとしたのですが、リードチップが硬すぎることに加え、皮膜できつく覆われているためか、殆ど拡がってくれないのです。結局、少し広げてピンへの取り付けにトライという手順を繰り返しているうちに、Lch+(白い皮膜の線)のピンが折れてしまい、R50 Bloomへの取り付けは断念せざるを得ませんでした。
幸い某大手ブランドとは異なり、保守部品扱いで1本だけの販売に対応していただけるということでしたので、それを購入して以下の試聴に入っています。
音場もレンジも広くHi-Fi基調だが、ややきつさがある
本来の試聴用カートリッジであるR50 Bloomが使えなかったため、急遽かつてのメインカートリッジであるaudio-technica AT33Rを引っ張り出してきて使うことにしました。
また、比較試聴用に同価格のKS-Remasta KS-LW-4000EVO.Iを使っています。
ZonotoneとKS-Remastaは、リード線に対する高音質化のアプローチが正反対といえます。
Zonotoneは通常のケーブルと同様に、オーディオ用の高価な導体を複数組み合わせる、独自の配合比率によって音質を高めます。リードチップと導体の間のハンダは不純物という考えで、圧着にこだわっています。
一方のKS-Remastaは、導体は通常のオーディオ用ケーブルで使われて定評のあるものをそのまま使い、リードチップと導体のとの間のハンダにこだわることで音質を高めます。圧着では伝導性能が十分に保てないという考えです。
というわけで、早速聴き比べてみましょう。試聴環境はいつも通りTechnics SL-1200G+Phasemation EA-200、AT33Rは添付のヘッドシェルではなくaudio-technica AT-LH15/OCCに取り付けています。また、Grandio LW-1は取り付けて3日ほどエージングを行った上で聴いています。
まずは「10 Miles / Champlin Williams Friestedt」(LP「CWF 2」収録)から聴いてみます。
第一印象としては地味で密度の濃いKS-LW-4000EVO.Iと、派手で音場が広いGrandio LW-1という関係になりました。冒頭のハイハットの金属感はGrandio LW-1が明らかに上回ってきますし、音場が左右方向により広いのもGrandio LW-1でした。
しかし、ジョセフ・ウィリアムズのヴォーカルはKS-LW-4000EVO.Iの方が実在感が濃く、アナログらしい中低域の厚みもKS-LW-4000EVO.Iの方に分がありました。トーンバランスとして、Grandio LW-1は高域方向に少しアクセントがあるようで、音色によって妙に強調されて聞こえる音があります。
続いて「Dangerous / David Garrett」(LP「Explosive」収録)聴きます。
この曲では、前述のGrandio LW-1の高域方向のアクセントが悪い方向に作用しました。ヴァイオリンの弦の音が荒く、とげとげしく引っかかっている印象を受けてしまうのです。名器ストラディヴァリウスにしては、音に芳醇さがありません。音場の左右方向は十分に広く、レンジも十分に出ているのですが、メインとなるヴァイオリンの音がどうしてもしっくりときません。
これをKS-LW-4000EVO.Iにすると、ヴァイオリンの音の引っかかりが消え、響きがきちんと出て芳醇な音になります。中低域の密度も十分に濃く、アナログらしい音をきちんと出しています。ただ、音場の見通しはGrandio LW-1ほどクリアではありません。
さらに、オーディオ試聴の定番である「The Nightrfly / Donald Fagen」から「New Frontier」を聴いてみましょう。
この曲では、Grandio LW-1の高域方向の緻密さはプラスに作用します。ハイハットの質感は間違いなくKS-LW-4000EVO.Iよりも上ですし、見通しの良い音場もこの曲には合っています。ただ、ドナルド・フェイゲンのヴォーカルがどうしても薄く表現されるのは気になります。
KS-LW-4000EVO.Iではベースラインに厚みが出て、ヴォーカルの実在感が一気に濃くなります。ただ、ハイハットの金属感があまり出ておらず、この曲に関しては悪い意味でアナログ的な部分も感じられます。
ここまで一通り聴いた限りでは、Grandio LW-1の音はポータブルオーディオでハイレゾのソースと高級イヤフォンを楽しんでいる人が喜びそうな高音質という印象を受けました。細かい音が良く出て、特に高域方向の緻密さと解像度は素晴らしいので、高級イヤフォンユーザーが好む「良い音」に近い気がするのです。
ただ、敢えてアナログで聴くということを考えると、中低域~中域の密度感や質感はもう少し頑張って欲しいかなという印象も受けます。
取り付けの難易度が高すぎる
前述の通り、この製品の最大の問題点といえるのは、リードチップです。
特に今回のセットでは、カートリッジ側のリードチップが明らかに狭すぎます。付属のプッシュピンでは全く適切に拡がってくれないのも問題でしょう。
私の場合は、このままでは埒があかないと思い、リードチップ拡張用のツールを新たに用意しました。
百均ショップで売っている木工用のキリです。これの先端を少し丸めて使うことで、リードチップを多少強引に押し広げることが出来るようになります。
ちなみに、この丸めるために使ったツールも百均ショップで調達したもので、手持ちタイプの金属ヤスリです。
これで何とか先端を広げて取り付けましたが、audio-technica製のカートリッジでも、以下のようにターミナルピンの半分くらいまで挿入するのが限界でした。
個人的には、出荷時にはむしろ少し仕様よりも広めに作っておいて、緩かったら自分で軽く締めるくらいの方がユーザーフレンドリーではないかと思うのですが…。なお、定番のDENON DL-103シリーズなどはターミナルピンがやや細めに出来ていますので、Zonotoneの径でも何とかなるのではないかと思います。
ちなみにKS-Remasta製のシェルリード線では、出荷時点での公称の径はZonotoneと同じなのですが、テーパーをつけて入りやすくするという工夫がされています。可能であればこのような工夫も検討していただきたいところです。
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購入金額
8,800円
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購入日
2021年04月25日
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購入場所
ヨドバシカメラ
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