ここ数日、シェルリード工房KS-Remastaさんから次に購入するリード線の購入候補を試聴するために、いろいろと試聴機を貸していただいて、それらを試聴しています。
貸していただく機種を決めるためのやりとりで、先方から「是非ついでに試してもらいたいものがある」ということで一緒に送られてきたのが、これまでにシェルリード線の製作で培ったノウハウで仕上げたというRCAインターコネクトケーブルです。
実は以前から、一部オーディオ評論家諸氏や販売店スタッフから、KS-Remastaのノウハウを投入したインターコネクトケーブルを作って欲しいという要望は上がっていました。その声が高まったことから製作に乗り出し、昨年いよいよRCA-RCAケーブル4種、DIN5pin-RCAケーブル4種が商品化されたということです。
それだけであれば何ということはないのですが、KS-Remastaは個人運営の工房であり、ケーブルそのものを独自設計することは出来ません。これまでのシェルリード線と同様に既存の線材を活用して、ハンダや仕上げによって独自化を図った製品となっています。
今回送っていただいたRCA-RCAケーブルでは、線材としてはBELDEN 88760という割合ありふれた製品を採用しています。当然音質面での実力や品質に定評があることが第一なのでしょうが、ロングセラーで供給が安定しているということも選ばれた理由となっているようです。
BELDEN 88760はいわゆるMILスペックの錫メッキ銅線であり、絶縁体はテフロン、シールドはアルミ薄膜という、安価ながらスペック的には非常に優れたケーブルです。とはいえ、線材としては1m当たり6~700円前後で販売されているものであり、それが
・KS-RCA-001/MR.II (30,000円)
・KS-RCA-001/STD (50,000円)
・KS-RCA-001/EVO.I (100,000円)
・KS-RCA-001/SR-NVK (200,000円)
(いずれも2mで価格は税別)
とかなり高価なケーブルに仕上がっている訳です。こう言っては何ですが、Amazon辺りで出店している業者にBELDEN 88760を2mのRCAケーブルに仕上げてもらってもせいぜい5千円程度です。
シェルリード線では疑う余地のない仕上がりを見せているKS-Remasta製品ですが、果たしてこのRCAケーブルはその価格に見合った価値を発揮してくれるのか、実際に使ってみたいと思います。
見た目はBELDEN 88760で仕上げたDIY品とほぼ変わりません。今回はこのKS-RCA-001/STDの他に上位のKS-RCA-001/EVO.Iも送っていただいていますが、そちらとも見た目ではほぼ差が付きません。
一応型番はこのような形で表示されています。
今回はTechnics SL-1200Gの出力ケーブルとして使います。一緒に写っているのは普段この用途で利用しているaudioquest Cheetah(128,000円/1.0m)であり、比較対象の方が結構上のグレードとなってしまいます。これは予めお伝えしていたのですが、それでも構わないということでしたので忖度なしで評価させていただくことにします。
それにしても、この両者の値段を知らないとしても外観上の差は大きいですね…。
ただ、実際に接続してみるとKS-RCA-001/STDのプラグはとてもスムーズに挿さる感覚があり好印象でした。audioquest Cheetahの銀メッキプラグと比べても装着感は劣っていません。
Technics SL-1200Gの端子は奥まっていてかなり挿しにくいのですが、KS-RCA-001/STDのプラグはその割には挿しやすかったですね。
こちらはフォノイコライザーPhasemation EA-200の背面です。こちらもスムーズに着脱出来ます。
Cheetahにはさすがに敵わないが、素性の良い銅線の良さ
それでは実際に音を聴き比べてみましょう。
Technics SL-1200G+Phasemation EA-200+audio-technica AT-OC9/IIIという普段のメイン環境で聴き比べます。比較対象も当然普段使っているaudioquest Cheetahです。
また、今回は試聴ソースは以下の4曲を使います。
・「L-O-V-E / Diana Krall」(LP「Turn Up The Quiet」収録)
・「New Frontier / Donald Fagen」(LP「The Nightfly」収録)
・「Luka / Suzanne Vega」(LP「Solitude Standing」収録)
・「Moonlight Serenade / Chicago」(LP「Night And Day ~Big Band」)
まずは「L-O-V-E」から聴きます。
KS-RCA-001/STDはベースの力感の良さが目立ちますが、ダイアナ・クラールのヴォーカルが少し遠く感じられます。ピアノは響きより直接音が強めで、全体的に楽器は押し出しよくまとまっていますが、前後というか奥行きがやや狭いように感じられます。
一方のCheetahは音場が一回り広がり、響き成分が豊かに描かれます。この辺りはさすがに2倍以上高価なだけはあるという印象です。ただ、ベースはやや締まりが悪く膨らんでしまう印象があり、この辺りは良く出来た銅のケーブルの方が質が良いように思います。
ダイアナ・クラールのヴォーカルはしっかりと前に出てきて、演奏を従えている感が出てきます。小さめで奥行きのあるステージをかぶりつきで見ているのがCheetahだとすれば、前に何人も座っていて狭くヴォーカルと演奏陣が横並びのようなステージを遠目の位置に座って聴いているのがKS-RCA-001/STDの空間です。奥行きが出ていれば説得力が増すのですが、やや前後が狭い音場なので単純に前の席に行きたいなという印象が生まれてしまいます。
それでも、Cheetahの前に使っていたSUNSHINE SRC-Reference 1.0と比べると空間の上下はきちんと構築されていますし、ヴォーカルの質感もむしろ上です。SRC-Reference 1.0はSpiral Exciterと組み合わせていてそれなりに良かったのですが、その時代の音には全く劣っていないどころか立体感や生楽器の質感で上回っている印象です。
続いて「Luka」を聴いてみると、意外なことに銅線のKS-RCA-001/STDの方がスザンヌ・ヴェガの声がややハスキーに感じられます。Cheetahのヴォーカルにはしなやかさがあるのですが、KS-RCA-001/STDの声はちょっと硬めです。
バックのドラムはKS-RCA-001/STDの方が勢いよく鳴るのですが、スザンヌ・ヴェガの音作りを考えたときにもう少し控え目でも良いのではと感じる程に主張します。ギターの音色はKS-RCA-001/STDが硬質で明るめ、Cheetahの方がソフトでおとなしい印象です。
「Moonlight Serenade」ではKS-RCA-001/STDの銅線らしさが活きて、ブラスがきらびやかに表現されます。シカゴのホーンはどうしても銀線だとややソフトになりすぎる傾向がありますので、KS-RCA-001/STDの表現の方が自然に感じられるのです。ただ、音場の広さやジェイソン・シェフやロバート・ラムのヴォーカルの質感はさすがにCheetahが優位に立ちます。
そして最後に「New Frontier」ですが、この曲というか「The Nightfly」という作品自体がオーディオ的に計算され尽くしたような音作りですので、客観的に音質評価するときには最もごまかしが利かない音源です。
この曲を聴くとやはりクラスの違いがはっきりとしました。音場の広さや空間の密度、間接音の豊かさなど、多くの要素でCheetahがはっきりと優位に立ちます。KS-RCA-001/STDはベースラインの明瞭さなどの良さはあるのですが、ハイハットの帯域辺りにピークがあるのか、ヴォーカルのサ行の表現がややきつさを伴っているように感じます。明るめで明快な音というのは一つの特徴であり、この傾向が好みであればかなり満足度は高いと思いますが。
という訳で、概ね大体のソースでCheetahがより高価な製品らしい貫禄を見せました。Cheetahの音が抱える弱点は多くの銀線が抱える弱点だと思いますので、銅線の音の方がしっくりとくる場面でKS-RCA-001/STDが健闘したという印象です。
ただ、BELDEN製の汎用線材を使ったケーブルがここまで善戦するとは予想していなかったのも事実です。少し前まで使っていたSRC-Reference 1.0であればKS-RCA-001/STDの音が明確に上回っていると思いますので。
こうなるとより上位のKS-RCA-001/EVO.Iはどうなるのか面白くなってきました。こちらも後日取り上げたいと思います。
実は接続方向指示があった模様…
このレビューを公開後、ご覧になったKS-Remasta 柄沢さんからご連絡をいただき、実はこのケーブルには接続方向の指定があるということを教えていただきました。
私が試聴した際にはSL-1200Gの側に黒い型番ラベルが来ています(上掲の写真参照)が、このラベルは正しくは下流側の機器の方に接続するのだそうです。すなわち今回の使い方であればEA-200の方に来るように接続するということです。
そこで改めて方向を確認の上試聴しました。ソースは先に使った4曲そのままです。
まずはっきりと変化が感じ取れたのは「Luka」です。逆方向の時にはドラムが主張しすぎるという印象だったのですが、順方向に接続し直すと音場の密度が少し濃くなる分、ドラムが突出しているという印象が弱まりました。スザンヌ・ヴェガの声のハスキーさも少し緩和します。
「New Frontier」でもやはり音場の密度が少し濃くなり、ドナルド・フェイゲンの声に少し深みが出てくるようになりました。スザンヌ・ヴェガの声ほどの変化ではありませんが…。
「Moonlight Serenade」では音場がほんの少し左右に広がった感が出てきます。まだバスドラムの最低域や、ギターの胴鳴りは少し不足していますが、逆方向の時よりは明らかに全体のバランスが取れるようになりました。
「L-O-V-E」では冒頭のピアノで、左手方向の厚みが出てくるようになりました。順方向に接続することで、妙に少なかったエコーなどもある程度出てくるようになりました。さすがにCheetah程の豊かさではありませんが、逆方向に接続した時のような不自然なまでの少なさではなくなりました。
一つ一つの音のタッチが強く、最低域や最高域がストンと落ちているような印象という、基本的な音の方向性は変わらないのですが、正しく接続することで上で書いた弱点の部分がいくらか緩和されると考えると良いでしょう。
なお再試聴に伴い、評価も少し変更しています。
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購入金額
55,000円
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購入日
2021年04月04日
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購入場所
KS-Remasta
kaerkiさん
2021/04/09
jive9821さん
2021/04/09
実際、私もそう思います。SL-1200G-EA-200間だけは奮発してCheetah(の中古)
を買いましたが、普段は頑張っても1万円台までです。
とはいえ、今時2万円程度のケーブルは入門機扱いされてしまう訳ですが…。
kaerkiさん
2021/04/10
ヒィィィイイー!
jive9821さん
2021/04/10
以前ケーブルのレビューを読んでいて「3万円以下の入門クラス」という
表記が出てきたときには、割と絶望感がありましたね…。