レビューメディア「ジグソー」

スクエアでは最も尖っている作品

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。フュージョンという、大雑把に言えば、ジャズ理論を入れてロック/ポップス調の曲を演るという「テクニックを魅せる」方向に行きがちのジャンルにおいて、常に「わかりやすい」方向を選び、万人にアピールしているグループの、最もテクニックに比重を置いた時期の作品をご紹介します。

 

T-SQUARE(以下スクエア)。改名前のTHE SQUAREの時代から高い人気を誇るフュージョングループ。初期はライトでお洒落な楽曲に加えて、ジャニーズ出身の甘いマスクを持つメンバーが在籍したこともあり、「女子大生も聴くインストバンド」だったし、中期は当時ホンダパワーとセナ・プロ人気、日本人ドライバーの挑戦などで盛り上がっていたF-1のテーマを手がけて、「一番識られたフュージョングループ」だった。近年でも、年1回は必ず作品が届けられ、他のフュージョンバンドより明らかに活動量が多い日本を代表するフュージョンバンド。

 

元々「フュージョン」という、基礎テクニックレベルに高いものを求められるジャンルのグループなのに、彼らの真骨頂は、親しみやすいテーマでのわかりやすい楽曲。高度なことを簡単そうに演る、というのが彼らのスタンスの基本。

 

そんな彼らでも、長い活動歴の中では、メンバー変遷とともに音楽性に明快⇔難解の間のブレはあり、彼らの歴史の中でも最も技巧派に寄ったのがこの時期。世間的に一番有名なF-1テーマの「TRUTH」時代とはほとんどメンバーは替わっていない。しかし重大な違いが一点ある。リーダーのギタリスト安藤正容、スクエア史上最高にリリカルなピアノを弾いたキーボーディスト和泉宏隆、それまでの「明快なリズム」を引き継ぎながらも数段違うテクニックと正確なビートで楽曲を支えたドラマー則竹裕之、スラップの魅せ方が上手く、リードも取れるベーシスト須藤満とテクニック的にも粒が揃っていたメンツはそのままだが、スクエアの歴史上大部分の期間リードマンを務め、現在も復帰して在籍するサックスプレイヤー伊東たけしが抜けていた時期で、ハイパーサキソフォニストの異名を持つテクニシャン本田雅人が加入していたこと。

 

実はこの構成はスクエア史上2番目の長さの安定期だったのだが、この作品“夏の惑星”はそのちょうど真ん中、7年で7枚アルバムを制作したこのメンバー構成での4枚目。最初の頃ほど前の作品との変化が大きくなくて混沌とはしておらず、かといって終末期の、いろいろな方向性に手を出し、迷い/もしくは/求心力低下が感じられた時機でもなく、という一番このメンバー構成でしっくり来ていた時期で、各人のカラーが出ていながら、テクニック的にも「出し切った」楽曲が多い。

 

安藤の作曲の「COPACABANA」。彼の路線は、「TRUTH」のようなわかりやすいメロディのロック調路線とは別に、「小粋で爽やかな系統」があるが、その系統で一二を争うほどの名曲。スライドを交えながらのカッティングと、本田のEWIのメロディラインに寄り添いながら、コードでメロディを追うギターが美しい。ソロもギターだが、ハネるリズムの上で粋にキメる。

 

生ギターがメロを取る、静かでリリカルな、でも実はリズムがかなり複雑でプレイしようとすると超ムズというのが、ドラマーの則竹が作曲した「NO MORE TEARS」。則竹の曲はロマンチックな曲が多いがこれもそうで、安藤のギターのメロが切ない。ソロも須藤のフレットレスベースソロと、続く和泉のピアノソロ、ともにラインが「歌って」おり、とても情緒的。

 

そしてこの作品の目玉、本田作の「BAD MOON」。テクニック抜群で、ビッグバンドの経験もあってブラスアレンジに秀でた本田は、彼にとってのスクエアデビュー作となった“NEW-S”のオープニングチューン「MEGALITH」

でも、その圧倒的なテクニックとブラスアレンジセンスを見せつけ、伊東とは違った新しい風を感じさせたが、この曲はそれ以上のハイパーテクニカルチューン。多分歴代スクエアの曲で「最も難しい」楽曲。クッソ難しいゴリゴリのスラップベースパターンに、はじけるようなドラムスが形作る変拍子風符割りの複合リズム、それに載るギターやキーボードもキメに継ぐキメの嵐。それに生ブラス隊がかぶせて、本田が縦横無尽に吹きまくる、というパターン。ソロもベース⇒+ドラムスのオンビートソロ⇒本田のサックスソロになだれ込むという造りで、とてもアガる曲。

 

ちょうどこの頃はリズム隊のふたりが29歳、他のメンツも最年長の安藤でも39歳と、全員一番音楽家としてテクニックが磨かれ、かつ、前面に出やすい(ほぼ)30歳代。どちらかというとテクニックは表現のために使い、あまり表に出さないスクエアとしては珍しく、「誰が聴いても難しそう」な楽曲がいくつも収められている作品。テクニックをここまで前面にゴリゴリに出した作品はスクエアにはあまりない。

 

自分も含めた「若さ」を懐かしく感じる、「アツい」作品です。

この月本田が持ってきた「BAD MOON」の対曲「good moon」は難しすぎて没になったという...(^^ゞ
このとき本田が持ってきた「BAD MOON」の対曲「good moon」は難しすぎて没..(^^ゞ

 

【収録曲】

1. 夜明けのビーナス
2. COPACABANA
3. 夏の蜃気楼
4. NO MORE TEARS
5. SEASON
6. BAD MOON
7. SENTIMENTAL REASON
8. SWEET SORROW

 

「BAD MOON」

更新: 2020/10/12
必聴度

T(HE)-SQUAREのテクニックを見たいなら、この盤を聴け!

BAD MOON」は、本田のスクエアデビュー作として衝撃的だった「MEGALITH」をも超える難曲。本田の、他のメンバーの渾身のプレイを浴びろ!

  • 購入金額

    2,800円

  • 購入日

    1994年頃

  • 購入場所

12人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • 北のラブリエさん

    2020/10/15

    このアルバムやばいです。
    ハードなHeavyWeatherみたいな。

    んで聞こうと思って検索したらTIDALにあるんですね。
    Yeah!
  • cybercatさん

    2020/10/15

    このアルバム、T-SQUAREの中では1、2を争うほど好きですねー。
    ゴリゴリのテクニック前面出しが。

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