レビューメディア「ジグソー」

個々の収録曲は良いが...迷いが感じられる

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「フュージョン」。もともとジャズにロックやポップス、ラテンやクラシックなど他の分野を「混ぜ合わせた」ジャンルのため、間口は広く、その中にはヴォーカル曲もあります。ただ、当初からヴォーカル曲をフィーチャーしていたアーティスト・グループはともかく、途中で新境地開拓...とばかりにヴォーカルを追加したグループはあまり成功したとは言いがたいジャンルでもあります。若干後発のフュージョングループで、R&Bテイストをベースで持つため、ヴォーカル曲との相性が良いと思いきや...と感じたグループの作品をご紹介します。

 

ChickenShack。サキソフォーンの土岐英史、ギターの山岸潤史、キーボードの続木徹を中心としたフュージョングループ。リズム隊はメンバーチェンジが多く、機械も使用するので、そういう意味では同じ構成の上物トリオを中心としたフュージョングループDIMENSIONと似ている部分がある。ただ、DIMENSIONがリズム隊として比較的固定のメンバーを使いながらも、つい先日(2020年2月)キーボーディストが脱退するまで、「グループ」としてはデビュー以来上物3人のみで活動したのに対して、ChickenShackは都度都度「メンバーチェンジ」という形で、リズム隊のメンツを中に入れてきたところが異なる(余談だが、後にはドラマーとして、“日本一忙しいドラマー”沼澤尚も参加していた)。

 

本作は「」の数字が示すとおり、彼らの5枚目のオリジナルアルバム。ただ、このときはドラマーが不安定な時だったようで、メンバークレジットには「Ⅲ」から参加していたMarvin Bakerの名があるものの、打ち込みの曲も多く、打ち込みでない曲でも2曲はR&B系セッションドラマーのJames Gadsonが叩いている(歌詞カードの集合写真にもベーシストのBobby Watson-元Rufus & Chaka Khan-の姿は見えるが、Marvinの姿はない)。

他のページに一人ずつのアップの写真にはあるが、集合写真にMarvinの姿はない
他のページに一人ずつのアップの写真にはあるが、集合写真にMarvinの姿はない

 

そんな事もあってか、曲によって(とくに作曲者によって)かなり印象が異なってしまっている。

 

オープニングナンバーの「From Tokyo with Love」は、デジタルでテクニック指向のフュージョンで、DIMENSIONに近い感じのイメージ。土岐のサックスがCOOLで不安定な進行のメロディを奏で、山岸のキレの鋭いカッティングが切り込む。ドラムスは打ち込みだが、ベースはスラップで魅せる。ラストがバッサリと断ち切られるような感じで終わるのも曲調に合っている。この曲はキーボーディストの続木の曲。

 

このアルバムには2曲ヴォーカル曲が入っている。ともに山岸の曲で、別のヴォーカリストを迎えているが、どちらもブラコン風。そのうちの一曲「lt's You」。Stevie Wonderのバックで歌っていたMichael Wycoffがリードを取り、女声コーラスも入ってノリの良いブラックテイストのポップスになっている。ハッピーな感じの途中の土岐のサックスソロも軽やかかつメロウで粋。

 

Noon Crew」は、ベーシストのBobbyが書いたとは思えないほど、リズムが「前に出ない」ファンキィチューン。いや、リズムが凝っていないわけではなく、音量も決して小さくない。ドラムスはおそらく打ち込みだが、所々でバックビートに入るスネアを抜いてスカしたり、ベースもシンベとスラップを混ぜたりしていて造りは凝っているのだが、リズム隊側の魅せ場は少ない。一方、ブルージィでジャズっぽさもある、ピアノとサックスは印象的。

 

R&B系のバッキングの名手、ギタリストのDavid T. Walkerに捧げられた形になっている「Brother Sunshine」は、オープニングトラックを書いた続木と同一人物かよ、と言いたくなるほどのR&B系のブラックでヒューマンな感じの曲で、機械臭さは微塵もない。聴き所は中間部の山岸の泣きのギターソロか。土岐のアウトロソロは若干物足りなそうだが...

 

デジタルビートフュージョン~ファンク~ブラコン~R&Bとよりどりみどりで、cybercatの守備範囲としては、全部ばっち来いのオールストライクなのだが、一般的に見ると(聴くと)ちょっと間口が広すぎる感じ。

 

前作の「Ⅳ」

の時は浮いている感じはしなかったのに、この「Ⅴ」では特にヴォーカル曲が、他の曲との「浮き幅」が大きく、リリース当時の世間の評価は「迷走している」...という感じだったかも。

 

インストグループがヴォーカルを入れたくなるときというのは多くの場合、「テコ入れ」なのだが、その「入れ方」を間違うとリスナーの期待しているものではなくなる。彼らの場合も、若干そんな感じが...メンバーチェンジの影響もあったのかもしれないけど...

 

元々R&B系のテイストは持っていたグループなので、それをウリにするのは全然良いのだけれど、もう少し「まとまった感じ」に出来なかったのかな...と、個々の楽曲は良作なだけに、残念に思う作品です。

 

【収録曲】

1. From Tokyo with Love     
2. l Remember You     
3. lt's You     
4. Godzilla On My Pillow
5. ChicKen Report     
6. l Don't wanna Be Alone     
7. Noon Crew     
8. Now Or Never     
9. Brother Sunshine -dedicated to Mr. David T. Walker-
10. Still At Temps

 

「Brother Sunshine」

更新: 2020/07/13
必聴度

通しで聴くと、収録各曲の曲調がバラエティに富みすぎで、「これ、1枚のアルバムである必要がある?」という感じ

最近は1曲ずつのダウンロード販売あるけれど、この作品こそ、そういう形態がお似合い??

  • 購入金額

    3,008円

  • 購入日

    1989年頃

  • 購入場所

17人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • baelさん

    2020/07/16

    Chicken Shackと間違って購入した Chickenshack VIが唯一の収蔵品。
    夜、郊外を流すときに最適な音だったす。
  • cybercatさん

    2020/07/16

    Ⅵというとコレ(↓)ですね。

    バンド名のChickenShack、標記が一定でなくて悩ましいですよね。
    こちらのフュージョンバンドの方は「離さない(スペースなし)」が本来だと思います。
    そしてshackのSは大文字⇒まりChickenShack。ただ自分たちの作品でも、全部大文字表記だったり、Chickenshackだったりと表記が一定しません。
    一番正しいのは「チキンシャック」だったりして(^^ゞ
  • baelさん

    2020/07/16

    「ジャケットデザインがいつもと方向がちがうなー、でもきれいだからいいや」って買った記憶が W

    > 一番正しいのは「チキンシャック」だったりして(^^ゞ

    御意!
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